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48 天敵の妨害工作!(2)

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「……大変です、お嬢様っ!」
 ある日の朝、店に置く新聞を買ってきたマドレーヌが蒼褪めた顔でキッチンに入ってきた。
 その時、私は最近入ってきた子と一緒に仕込みの真っ最中。
 作業を懇切丁寧に教えながらやっているから、いつもより少し遅れ気味だ。
 慌てているマドレーヌに、あからさまに眉を顰めた。
「どうしたの、マドレーヌ? いま、忙しいのよ」
「申し訳ございません……ですが、本当に大変なんです!」
 そう言われて、彼女が差し出してきた新聞の紙面を覗き見た。
「えっ……、何よこれ!」
 見出しの文字だけでも、それはうろたえる内容だった。
『原料に病気の豚?人気カフェのメニューの闇』
 それを読んだ瞬間、背中に冷たい汗が流れ落ちる。
 記事で槍玉に上がっているのは、他でもない。パンナコッタに使っているゼラチンだ。
 たしかに、ゼラチンは牛や豚の骨や皮から抽出して作るものだが、病気の豚を使って製造したものなど使った覚えはない。
 昨年と一昨年にかけて、豚の病気が流行ったのは事実――その関係で、接着剤として使われるものには、病気の牛や豚の一部を使ったものも使用されているだろう。
 ただ、このベルクロン王国にも疫病には過敏になっているところだ。衛生局の指導で、そうした疫病関連の生産物は厳しく制限されている。
 しかも、今回は食用にするとあって、リオネル様にその辺りは確認してもらった。
 食用のゼラチンとして使うのは、一人分でほんの二グラム程度。
 一度仕入れをすればそれなりに持つので、一番高いものを安全なところから購入しているのだ。
「こんな悪意のあるでたらめ記事、誰が……」
 悔しそうに呟く私に、マドレーヌも項垂れた。
「ようやく、ライバル店からお客さんを取り戻せたのに、こんな記事が出てしまうと、また影響が出るんでしょうか……?」
 そう言われて、ピンときた。
 このカフェが貶められて、一番得をするのは誰なのか?
 間違いなく、エレオノール・ベルトラだ!
 ところが、疑わしくても証拠がない。
 記事の全文にすばやく目を走らせると、私の中にふつふつと違和感が込み上げてきた。
(そう言えば……なぜ、この記者は知っているの? ゼラチンをパンナコッタに使っているって)
 それは、カフェ・ベルトラにマルコを潜り込ませた時にも感じたものだ。
 彼には、メニューの何品かを食べてきてもらった。
 そのうちのひとつが、パンナコッタと似たような形状のクリームプディングというデザートだ。
 若干味つけは違うけれど、おそらくうちで出しているパンナコッタと同じようなものだ、とマルコは言っていた。
 それが本当なら、どうやってゼラチンを手に入れたのか? カフェ・カタリナのメニューのほとんどを、どうやって真似たのだろう……?
 頭の中で疑問符がぐるぐると回る。
 ……そして、ようやく思い当たった。
 私とマドレーヌ以外で、レシピを知ることができ、キッチンの材料を盗み出すことができる人物に。
 信じたくない気持ちが強く、これまであえて見て見ぬふりをしてきた。
 内部にエレオノールと通じている者がいるなんて、許しがたいことだったから……。
「……マドレーヌ、あなたの出番がきたようだわ」
「お嬢様……! 何なりとお申しつけください。お嬢様のためでしたら、このマドレーヌ、何でもやってみせます!」
 私は味方がいることに感謝し、手にしていた新聞をぐしゃっと握りしめた。
 エレオノール、今に見ていなさい。
 攻撃されているだけの私じゃないんだからね!

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