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45 寝取り令嬢とナンパ男(1)

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「……何ですって!? 売上がかえって増えている……ですって?」
「は、はい……新しい場所で売り始めた焼き菓子が、とても好調でして……」
 メアリーの報告に、わたくしは頭を抱えた。
 彼女と会っているということは「カフェ・カタリナ」の情報入手をしているところ。
 「カフェ・ベルトラ」をカタリナの店の近くにオープンしたのは、もちろんカタリナに対する嫌がらせ。
 店の外装と内装は、わざと似せてあげたわ。
 どうせやるなら、フリルとレースをたっぷり使ったカーテンや薔薇の刺繍が入ったテーブルクロス、香り高いブレンド紅茶を何十種類も用意した素敵なティーサロンがよかったのに、これも嫌がらせのためだって我慢したの。
 ふふ、偉いでしょう?
 まったく……緑地に白のロゴなんて、センスなさすぎだわ。庶民が出入りする酒場でもあるまいし、貧相なことこの上ないわ。
 それはさておき、極秘に『打倒カタリナプロジェクト』を遂行するのは、なかなかのスリルだった。
 だって、わたくし今はフィリップの婚約者としてグラストン侯爵家のタウンハウスに暮らしているんですからね。
 お父様の事業の手伝いをするって言っても、協力者を誰かに見られたらいけないわけだから、そりゃあ細心の注意を払わなくてはいけないわよね。
 えっ? その後、フィリップとはどうなったかって?
 ……うるさいわね、何もないわ。余計な詮索はしないでちょうだい!
 それはさておき、スパイとして潜り込ませているメアリーは優秀で、当初はカタリナが秘密にしていたレシピも盗める立場になった。
 そういう子がいると、本当に楽だわ。
 だって、内装・外装どころかメニューまで完全に模倣できてしまうんですもの。
 ただね、雇ったパティシエがゼラチンとかいう粉の使い方を知らなくて困ったわ。
 メアリーがコソコソ教えに来ていたけれど、あれはいったい何が原料になっているのかしら?
 わたくしたちは極秘裏に工事を進めて、一気にオープンした。目新しさと半額キャンペーンで、カタリナの店を潰しにかかったわけ。
 ただ、メニューを半額にすれば利益が少なくなる。早く打撃を受けさせて、カタリナに撤退してもらわないと困るのよね。
 ……なぜかって?
 それはね、お父様から持参金の前借りをしているからよ。
 フィリップと婚約しているわけだから、結婚すればわたくしの持参金はグラストン侯爵家の手に渡る。
 だから、それを増やせば何ひとつ問題ないわけ。
 「カフェ・カタリナ」を潰せば、彼女が稼いでいた収入を奪うことができるから、持参金はすぐにお父様にお返しすることができるの。
 ただ、そうでなかった場合は……。
 婚約式で締結した契約書。あの中に記載されている金額の持参金を、ベルトラ子爵家が払えないとなったら、先方からの婚約破棄の正当な理由になる。
 没落令嬢の婚約破棄の理由のほとんどが、持参金を払えなくなったからだ、というから恐ろしい世の中だわ。
 そのことを考えると、背筋がゾクゾクしてしまう。
 でも、きっと何とかなる……いえ、何とかしなくてはいけないのよ!
 なぜかって? わたくしは、カタリナに勝たないと気が済まないから。
 フィリップは、いまだにカタリナとの思い出の品を捨てていない。
 それどころか、私に見られないようにあの子の店の近くで、彼女を出待ちしていることもあるの。ちょっとしたホラーよね。
 まぁ、だいたいは護衛と侍女が一緒にいるし、仕事中はあのイケメン大家……ユーレック子爵っていう黒髪の男性がいるから、軽々しく声をかけられずにいるみたい。
 はぁ……まったく、フィリップったらあの子の何がそんなにいいのかしら?
 とりあえず、フードを被って顔を隠しているメアリーに金貨を握らせて、「カフェ・カタリナ」の連中が新しく焼き菓子を販売している場所に急ぐことにした。

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