婚約破棄られ令嬢がカフェ経営を始めたらなぜか王宮から求婚状が届きました!?

江原里奈

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43 焼き菓子で勝負だ!(1)

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 農家のマグレダさんに当面、仕入れを減らしてほしいと連絡し快諾してもらってから、私はこれからの作戦を練り始めた。
 とにかく、「カフェ・ベルトラ」のオープン当日の売上は散々だ。
 それでも、ドリンクチケットを購入している常連のお客さんは来てくれて、パニーニを頼んでくれたりした。
 普段、人気のパンナコッタはすぐに売り切れてしまうが、その日はやはり残っていたので、常連の方々にはサービスでお出しすることにした。
 焼き菓子の賞味期限は大丈夫だけれど、しばらく生菓子類は調整せざるを得ない。
 ただ、ありがたいことに、ホテルのフランチャイズ店舗の客足はさほど減っていないらしい。
 要は、「カフェ・ベルトラ」の影響をもろに受けているのは、こちらの店舗だけということだ。たしかに、同じようなラインナップのメニューを半額で出すカフェが近隣にオープンすれば、そちらにお客さんが行きたがるのは理解できる。
 貴族たちは新規オープンの店という物珍しさであちらに目を向けるし、それ以外の人たちもコストパフォーマンスでうちより「カフェ・ベルトラ」を選ぶだろう。
 ただ、立地が離れたホテル内なら話は別だ。
 客層もホテルの中にいる人々だから、ある意味で固定客と言っても過言ではない。
(うーん……ホテルみたいな立地で、一週間でも二週間でも営業させてもらえないものかしらねぇ)
 店のテーブルで悩んでいると、二階から降りてきたマドレーヌが話しかけてきた。
「お嬢様、二階の掃除も終わりましたよ」
「ありがとう。じゃあ、そろそろ帰りましょうか?」
 そう答えると、マドレーヌは私が書き殴っていたメモを覗き見する。
「うーん、何々? 期間限定……、ホテルみたいな立地で営業したいぞ……?」
「あっ、そうなの。ベルトラ子爵のカフェが一週間、メニューを半額にしているようだから、その間の売上をどうしようかと思って」
 そう答えると、マドレーヌは人差し指を顎につけて、視線をくゆらせた。
「……そう言えば、焼き菓子のマドレーヌって何か逸話がありましたよね」
「逸話?」
「お嬢様の夢の中では、もともと田舎の駅で売られていて、それが汽車に乗って大都市に運ばれて大ヒットしたとか……」
 前世の書物で読んだ知識は、だいたい『夢に出てきた話』としてマドレーヌに話していた。
 レシピやそれにまつわる逸話もそう。
 夢というのは、前世の記憶がある私にとっては便利に利用できるのがいい……たしかに夢と言われれば夢だろうし、完全な嘘というわけでもないからだ。
 私が知っている、焼き菓子・マドレーヌの歴史――。
 あのお菓子は、18世紀にフランスのロレーヌ公爵に仕えていたマドレーヌという召使いが、貝殻を使ってありあわせの材料で作った焼き菓子がもとになっている。
 名物となったマドレーヌはコメルシー駅のプラットフォームで売られるようになり、鉄道によってパリに運ばれ、パリから全世界に広がっていく……というものだ。
(……マドレーヌ、鉄道の駅……んっ!?)
 私の中に、不意に閃くものがあった。
「ありがとう、マドレーヌ! お陰でヒントになったわ」
「え……? 何のことですか?」
「いいの、いいの。明日から生菓子の代わりに、マドレーヌとか焼き菓子類を増産するわよ」
 途端に意気込む私に、マドレーヌはにやりと笑った。
「何だかよくわからないですけど、それはいいですね! なんせ、あの焼き菓子が売れれば私のお小遣いが増えますから」
 そのやる気を煽るのも、私の策略のひとつである。
 マドレーヌはマドレーヌ大作戦の主要メンバーだから。
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