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41 天敵は高らかに笑う(1)

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「悔しいけど、すごい人気ですよね……」
 私の隣で、マルコはそう呟いた。
 彼の言う通り、競合店にはひっきりなしに、お客さんが出入りしている。
 おそらく、店内も席に空きがないのだろう。外に出した椅子に客を座らせて待たせるほどの盛況ぶりである。
 一見して、客層は明らかに、「カフェ・カタリナ」と被っている。
(何てことかしら……! こんな店がオープンするなんて、聞いてなかったわよ)
 輝かしかった前途に、暗雲が立ち込めてくる。
 まだオープンして三ヶ月目だというのに、前世で聞いたカフェや喫茶店の廃業率のデータがにわかに現実味を帯びてくる。
 この前までは、確信していたのに……前世の知恵さえあれば、カフェを成功させられるって。何か問題が起こっても、何とかできるって。
 そんな自信がガラガラと崩れて、目の前が暗くなってくる。
 この店がここで営業を続ける限り、これまでのような収益はあげられないだろう。
(せっかく、リオネル様に店舗を貸してもらったのに……みんなにも、あんなに頑張ってもらったのに……)
 胸の中に、苦しい感情が渦巻いている。
「この店ができたから、今日は客足が悪かったのね……」
 悔しそうに呟く私に、マルコは頷いた。
「その通りです。ただ、もしかしたら今日だけじゃないかもしれません。開店から一週間は、全品半額っていうキャンペーンをやっているみたいなので」
「一週間……!」
 それを聞いて、愕然とした。
 一週間も、こんな状況が続いたらせっかく仕入れた材料が痛んでしまう。
 日持ちがする小麦粉や砂糖などはいいとしても、卵や牛乳はどうしても鮮度が落ちる。
 それに、「カフェ・カタリナ」で出すものは、周辺の店よりも材料に気をつけていた。
 南部と王都の飲食店で比較すると、同じメニューだと南部の店のほうがおいしい気がした。
 その理由は、おそらく南部のほうが農家と飲食店の物理的距離が近く、新鮮な原材料を使っているからだと思った。
 そのため、王都の郊外にある契約農家に頭を下げて、当日とれたものを持ってきてもらっている。そこまで厳密にすることはないが、自分で経営するうえでのこだわりのひとつだった。
 「カフェ・カタリナ」のお菓子類がおいしいのは、前世のレシピの力だけではなく、新鮮な原材料を使っているから……マドレーヌや製造スタッフたちのきめ細かな調理の賜物なのだ。
 それなのに、一週間もお客さんの入りが芳しくない状況だと収益はさておき、在庫をどうするかを考えなければならない。
 それは、短期的な問題である。そして、次に来るのは長期的な問題だ。
 すなわち、経営を続けていくべきか否かということ――。
 ひとまず、やるべきことは仕入れ農家との調整である。
「仕入れの量を調整しないといけないわ! 大変……!」
「マグレダさんのところですよね。馬車を呼んできましょうか? それとも、俺が伝言してきますか?」
「そうね……店に戻って在庫を確認してから、納品数変更についてマグレダさんに手紙を書くわ。あなたが直接、渡してきてもらっていいかしら?」
「かしこまりました」
 マルコと共にカフェに戻ろうとした瞬間、馬車から降り立った何者かが目の前に進み出た。

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