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39 ライバル店あらわる!?(1)

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 飲食店というのは、オープン当初は流行っていても段々客足が落ちるもの。
 「カフェ・カタリナ」も例外ではなく、オープンしてからひと月は連日満席が続いて、私たちスタッフも全員がフル稼働していた。
 しかし、目新しさがなくなった二ヵ月目からはランチやカフェの混雑時以外は、少し落ち着いていることが多くなる。
 それはそれでいいのだが、客足と収益はなるべく同じ程度に保っておきたい。
 私は顧客獲得のために、ドリンクの回数券を販売することにした。
 ポイントカードのように名刺サイズで、こちらのほうで使用した回数にスタンプを押していく形で考えた。
 カードの作成作業をしていると、通りかかったマドレーヌが感心したように聞いてきた。
「へぇー、先払いってことですか?」
「そうよ。そうすれば、顧客になってくれるでしょう? 一杯十リーブルのところを、回数券十二枚で百リーブル」
「ふーん。二杯、ただで飲めるわけですね! この辺りによく来るお客さんなら、お得ですね」
「そうよ。とってもオトク」
「でも、そうするとカフェ側の利益は減ることになりますけど、こっちにとってなんかメリットあるんですか?」
 訝しげなマドレーヌだが、まぁふつうはそう思うだろう。
 しかし、私は前世での経験から知っている。
 利益を最大化するのは、もちろん大事なことだ。
 ただ、それより大事なことがある。継続的な関係をより多くのお客さんと作ることだ。
 なぜかといえば、飲食店の寿命は思いのほか短いものだから。
 しかも、そんな飲食店の中でもカフェや喫茶店は出店しやすい分、競合も多いため一年で七割が廃業するらしい。
 だから、馴染みのお客さん……優良顧客ともお店のファンとも言える存在は、多いに越したことはない。
「ともかく、お店にお客様を呼ぶことが大事なのよ」
「なるほどですね」
「だって、お客さんがわざわざここまで来て、コーヒー一杯だけで帰ると思う? おいしそうなケーキを隣の席の誰かが食べていたら、自分も食べたくなるでしょう?」
「あー、ドリンク一杯の粗利は減っても、他の商品を売れる可能性があるわけですね。ホテルでやったコーヒーとビスコッティ―のセット売りみたいな」
「そうそう。それに、うちとしてもドリンクの利益を十杯分、先に確保できるのはメリットなのよ。仕入れをするうえでもありがたいし」
 かくして、この目論見は成功した。
 カフェが空いている時間を狙って、ドリンクチケットを使って店舗に置いてある新聞を読みに来る人々が増えたのだ。
 新聞目的の人たちは一人で来て時間を潰していくが、結局、口さみしくなるので焼き菓子を買ったり、パニーニを注文してくれたりする。
 それなりに長居はするけれど、ありがたい上客になった。
 回数券の百リーブルを一気に払えるのは、中流階級以上で生活に余裕がある人が多い。
 そういうお客さんには、積極的に顔と名前を覚えて声がけをした。時には、店舗で売れ残りそうな焼き菓子を小さく切ったものを、試食品として提供した。
 前世のように添加物を入れないので、タルト類は冷蔵しても翌日が限度だ。
 焼き菓子はもう少し日持ちがするけれど、なるべく早めに在庫をなくしたい。
 なぜなら、一度食中毒などが出ると店の評判に影響が出てしまう。それゆえ、販売促進の意味と在庫処分の意味で、顧客に試食をしてもらえば一挙両得だ。
 うまくすれば、試食したものに興味を持って購入してくれることもある。いわゆる、前世で試食販売の手法である。
 慣れないことに試行錯誤しつつも、「カフェ・カタリナ」は二ヶ月目も順調に利益を保っていた。

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