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35 ファーストキスはお菓子よりも甘く(1)
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今日の訪問は、夕食が主目的ではない。
そう……今後やるべきお仕事の一環で、リオネル様に色々と教えてもらわねばならない。
食事の片づけはお母様にお願いして、私たちはユーレック商会が使っている棟の二階にある、リオネル様の書斎で打ち合わせを始めた。
今、ベルクロン王国では南部地方で採れる鉱石と、魔法省の魔法師たちが作った魔法石を燃料とした鉄道事業が急ピッチで進められている。
その鉄道敷設工事に使う資材の受発注をユーレック商会が行っているとは前々から聞いていたが、リオネル様のデスク周りにも地図や資料が山積みにされていた。
きっと、私と夕食デートをした後も家に戻ってここで仕事をしているに違いない。
部屋の片隅には仮眠がとれそうな長椅子、そして、畳んだ毛布が置いてある。
(わぁ……忙しそう)
そんな多忙な人の好意に甘えて、色々とお話を伺う自分に罪悪感を覚えてしまう。
しかし、そんな私の心配をよそに、リオネル様は私が持ってきた事業計画書を熱心に読んでくれている。
一通り読み終わると、彼は驚いたようにこう言った。
「……これは、すごいですね。貴族のお嬢様が考えたとは思えない出来です。特にこのフランチャイズ方式?というのは、労力を最小限に留めて最大限の利益を得る方法として、すごく興味深かったです」
「ありがとうございます!」
事業を行っているプロの目線で、褒めてもらえてうれしかった。
たぶん、私は褒められて伸びる子。大好きなリオネル様に、もっと褒めてもらえたらもっと伸びる気がする!
「資金は当面は問題なさそうだし、求人も進めている状況……あとは、この店舗を出店する場所をどこにするかっていうところですかね。それによって、収益が変わってきますから」
「そうなんですよね……不動産屋に行っていくつか内覧したんですけど、空き物件が少ないうえに、どこもいまいちピンとこなくて……」
困り顔の私に、リオネル様も頷いた。
「たしかに、王都は物件探しには苦労しますよね。王室が土地を持っていて、売買や賃貸をするときには王宮に許可をもらいに行かなければいけない……私は母の伝手があったので何とかなりましたが、そうでない方々はむずかしいでしょうね」
「叔母や叔父からも、王都で事業を営むのはむずかしいと聞いております。羨ましいですわ、リオネル様もお母様も……こんな素敵な場所で、お店が出せるだなんて」
軽くそんなことを口走ってしまったが、お二人ともここまで成功するのにそれなりの努力をしてきたはず。
(あっ、まずいことを言ったかしら?)
そう思って内心慌てているが、リオネル様は思いがけないことを言い出した。
「ユーレック商会は、ここ以外にもう一軒、事務所兼倉庫を借りているのです。駅に近いほうが、物資のやり取りにも好都合ですから」
「そうなんですね」
「その倉庫がまだスペースが余っているし、ここの一階の奥と三階は、ほとんど輸入品の仮置き場になっています。倉庫の整理をしてから、一階を賃貸に出そうとしていたところなんですよ」
それを聞いて、私は彼が言おうとしていることがわかった。
たしかに、この棟の一階は商会の事務所として使っているようだけれど、店舗のように路面に面していなければ、客足が遠のくわけではない。
リオネル様が言うように、倉庫に荷物類は移動させて事務所を二階と三階に移し、一階のワンフロアは賃貸人を募集するのがいいだろう。
そう……今後やるべきお仕事の一環で、リオネル様に色々と教えてもらわねばならない。
食事の片づけはお母様にお願いして、私たちはユーレック商会が使っている棟の二階にある、リオネル様の書斎で打ち合わせを始めた。
今、ベルクロン王国では南部地方で採れる鉱石と、魔法省の魔法師たちが作った魔法石を燃料とした鉄道事業が急ピッチで進められている。
その鉄道敷設工事に使う資材の受発注をユーレック商会が行っているとは前々から聞いていたが、リオネル様のデスク周りにも地図や資料が山積みにされていた。
きっと、私と夕食デートをした後も家に戻ってここで仕事をしているに違いない。
部屋の片隅には仮眠がとれそうな長椅子、そして、畳んだ毛布が置いてある。
(わぁ……忙しそう)
そんな多忙な人の好意に甘えて、色々とお話を伺う自分に罪悪感を覚えてしまう。
しかし、そんな私の心配をよそに、リオネル様は私が持ってきた事業計画書を熱心に読んでくれている。
一通り読み終わると、彼は驚いたようにこう言った。
「……これは、すごいですね。貴族のお嬢様が考えたとは思えない出来です。特にこのフランチャイズ方式?というのは、労力を最小限に留めて最大限の利益を得る方法として、すごく興味深かったです」
「ありがとうございます!」
事業を行っているプロの目線で、褒めてもらえてうれしかった。
たぶん、私は褒められて伸びる子。大好きなリオネル様に、もっと褒めてもらえたらもっと伸びる気がする!
「資金は当面は問題なさそうだし、求人も進めている状況……あとは、この店舗を出店する場所をどこにするかっていうところですかね。それによって、収益が変わってきますから」
「そうなんですよね……不動産屋に行っていくつか内覧したんですけど、空き物件が少ないうえに、どこもいまいちピンとこなくて……」
困り顔の私に、リオネル様も頷いた。
「たしかに、王都は物件探しには苦労しますよね。王室が土地を持っていて、売買や賃貸をするときには王宮に許可をもらいに行かなければいけない……私は母の伝手があったので何とかなりましたが、そうでない方々はむずかしいでしょうね」
「叔母や叔父からも、王都で事業を営むのはむずかしいと聞いております。羨ましいですわ、リオネル様もお母様も……こんな素敵な場所で、お店が出せるだなんて」
軽くそんなことを口走ってしまったが、お二人ともここまで成功するのにそれなりの努力をしてきたはず。
(あっ、まずいことを言ったかしら?)
そう思って内心慌てているが、リオネル様は思いがけないことを言い出した。
「ユーレック商会は、ここ以外にもう一軒、事務所兼倉庫を借りているのです。駅に近いほうが、物資のやり取りにも好都合ですから」
「そうなんですね」
「その倉庫がまだスペースが余っているし、ここの一階の奥と三階は、ほとんど輸入品の仮置き場になっています。倉庫の整理をしてから、一階を賃貸に出そうとしていたところなんですよ」
それを聞いて、私は彼が言おうとしていることがわかった。
たしかに、この棟の一階は商会の事務所として使っているようだけれど、店舗のように路面に面していなければ、客足が遠のくわけではない。
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