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34 ドキドキのご自宅訪問(2)
しおりを挟む「いえ、うれしいです! おいしそうなお肉もあるし……リオネル様がお料理上手だなんてびっくり!」
「いえ、全然。なんの男の適当な料理だし、肉に塩を振って焼くくらいですよ。野菜の皮を剥くとか切る、とかが苦手で……ちなみに、スープは今朝、叔母さんが持ってきてくれたものを温めているだけです」
謙遜しているけれど、この国の身分がある男性で厨房に入って自分で料理する人なんてすごく珍しい。
私にとって、それはすごく好ましいことだ……エプロン姿で、肉の焼き加減をチェックする後ろ姿が何だかセクシーに思えてくる。
ハッと我に返って、私は尋ねた。
「あの、お手伝いすることはありますか?」
「あ……いえ、お客様にお手伝いさせるなんて……」
「いえ、仕事でも飲食業やっているのでお気軽に!」
「すみません。だったら、皿をテーブルに並べていただけたらありがたいです。適当に選んでいただいて構いませんので」
「はい! やっておきます!」
そう意気込んで、オーク材の食器棚から白い皿を取り出してテーブルに置いた。
この家は、商家の作りなので厨房とダイニングルームが一緒になっている。
エルフィネス伯爵邸やウルジニア侯爵邸と違い、高価な調度や凝った装飾品などは置いていないが、オイルランプの黄色い光や小花柄の壁紙、味のある木材の家具が部屋にぬくもりを与えていて、とても居心地がいい。
前世の庶民的な生活に馴染んでいる私は、貴族の邸宅よりも商家のほうが落ち着く気がした。
(いいなぁ、こういうの!)
ちらちらと、暖炉から肉の塊を取り出しているリオネル様を盗み見しながら、籠に入っているバケットの周りに、皿やシルバーを並べていく。
いつか……リオネル様と結婚したら、こんな風にここで食事の支度を二人でできるのかしら?
そんなことを妄想しているだけで、空腹感がどこかにいってしまう。
胸がいっぱいになると、お腹がいっぱいになるのかもしれない。
でも、リオネル様がテーブルに上げたローストビーフの肉塊とスープ鍋を見ると、途端にグーッと腹の虫が鳴った。
「あー、恥ずかしい……!」
思わず赤面してしまう私に、彼はうれしそうに微笑んだ。
「ふふ……恥ずかしがることありませんよ。私もお腹ぺこぺこなんで……母を呼んでくるので、冷めないうちに食事にしましょう」
「じゃあ、スープは盛りつけしておきますね」
「助かります!」
そう言って、彼は階下に行った。
鍋の中のスープは、具材は大きめに切ったジャガイモと人参、玉葱に塩漬け肉……ポトフである。
この国では一番ポピュラーなスープだが、この家では香草や香辛料を多めに入れているのが香り高い秘訣かもしれない。
香辛料は高価だが、リオネル様が貿易をされている関係でふんだんに使うことができるのだろう。塩だけで味つけをしても肉と野菜から旨味が出て美味しいのだが、やはりスパイス類が入ると味わいや風味が違ってくる。
盛りつけが終わった頃に、リオネル様とお母様が二階に上がってきた。
「あら、お手伝いさせてしまってごめんなさいね。さっそく食べましょうか」
「はい!」
おいしい食事と葡萄酒、リオネル様とお母様とのおしゃべり……そして、食後のデザートには自慢のフィナンシェ!
ありがたいことに、お母様は私の焼き菓子を大層気に入ってくれた様子で、今度お店に買いに行きたいとまで言ってくれた。
気さくで家庭的な雰囲気の中で楽しむユーレック家での夕食は、予想以上に心温まるものとなった。
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