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32 路面店の出店計画(2)

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(でも……それだと、私のレシピが勝手に使われてしまうかもしれないわ。情報の流出はよくないわよね)
 その危険性を考えると、完全に売ってしまうのは考え物だ。
 考えあぐねる私の頭に浮かんできたのは、前世の街でよく見かけていたコーヒーチェーン店やコンビニ。
 あれは、たしか直営じゃなくてフランチャイズ形式だったのでは……?
 フランチャイズなら、ノウハウを保持しながらメニューを提供することが可能なはず。
 その対価として、加入費用はもちろんその後も継続的にロイヤリティーを受け取ることができ、マドレーヌや古参の従業員の負担も減る。
 店舗の経営に口出しもできるので、一石二鳥じゃないだろうか?
 実はテラスカフェの成功を知った近隣のレストランオーナーたちが、パニーニや菓子のレシピを欲しいと言っていたから、需要はあるはずだ。
 今後、路面店を出したらそういう要望もさらに高まるに違いない。
「マドレーヌ、いいこと考えたわ!」
 私がそう言うと、マドレーヌは首を傾げた。
「どんなことでしょう?」
「売らずに口出しだけできる方法。それには、あなたにまた手伝ってもらわないといけないことが多くなるわ」
 彼女は両手を胸の辺りで組み、天を仰いだ。
「あぁ、神様……カタリナお嬢様がまたもや私をこき使おうとしていらっしゃいます! どうか、天のお恵みを与えてくださいますよう……」
「わかった、わかった! ギャラアップね。了解!」
「さっすがお嬢様! 神様よりもお嬢様でございます!」
 まったく、守銭奴侍女は調子がいい。
 この前、クズ男に私の五分間を売った恨みはまだあるが、いつもこき使いすぎているのもあるから、今のところはおあいこにしてあげよう。
 ――というわけで、二店舗経営するという激務を短期間に済ますべく、フランチャイズ方式を取り入れる。
 路面店が軌道に乗った暁には、テラスカフェを運営を任せられるよう計画を変更することになった。


 調理や接客、店舗のマネジメントなら前世のバイトで散々経験してきた。しかし、経営者がやる諸々のことは、実際のところふんわりとしかわからない。
 たとえ私が、前世で経営について熟知していたとしても、ベルクロン王国の法律関係を学んでいないから、いきなり実務を単独でできるわけもない。
 そんな時に頼りになるのは、リオネル様だ。アカデミーで学んだ知識と、ご自身で事業をされている経験との両方があるのだから。
 というわけで、私はリオネル様にコンサルティングをお願いした。
 天使のように優しい彼はご自分の事業も忙しいのに快諾してくれた。
『ちょうどよかった! うちの母も、カタリナお嬢様にご挨拶したいそうで……ぜひ、我が家で夕食を一緒にとりましょう』
 ありがたくも、そう言ってもらえたのだ。
 いつかはこういうこともあるかと思っていたけれど、こんなに早く親公認の彼女になるなんて驚きだ。
 だって、相手は美形で優しくてお金持ちの青年……婚約破棄されて半年も経っていない私がこんな幸せになっていいのだろうか?
(……お母様に気に入ってもらえるといいんだけど)
 多めに作ったフィナンシェを手土産に、リオネル様が住んでいるご自宅に向かった。

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