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16 黒髪の美青年、優良顧客になる(2)
しおりを挟む(……あっ、ユーレック様だわ!)
なぜか、私の胸は彼を見るとドキドキしてしまう。
なんだろう……このよくわからない感15覚は?
何て言ったって美青年だし、危険なところを助けられたから、私の心臓がユーレック氏を見ると喜んでしまうのかもしれない。
今日の彼も、とても素敵な装いだった。
白いドレスシャツに体の線をぴったりと出すダークグレーのベスト、黒地に白の細いストライプのトラウザーズ、足元の黒の革靴はぴかぴかに磨き上げられている。
今日は、オフィシャルな用事でここに来たわけではなさそうだ。
ネクタイをしていないため胸元が少し覗いており、また心臓がドキドキとうるさいほどに騒ぎ始める。
微風が彼の黒髪を揺らしている様子をぼんやりと眺めていると、不躾な視線に先方も気づいた様子だ。
「あっ……、カタリナお嬢様! こんにちは」
午後の太陽にも負けないほどの美貌で、ユーレック氏は微笑みかけてくる。
あまりに神々しくて目が眩んでしまうほどだ。
しかし、ひるんではいけない! 私はテスト店舗であれ、このテラスカフェの経営者なのだ。
つまり、有望顧客に対しては営業スマイルをしなければ! それが輝くばかりのイケメンだろうが何だろうが関係ない。
「ごきげんよう、ユーレック様。先日はありがとうございました!」
にっこり笑う私に、彼のほうも満面の笑顔を向けてくれる。
「今日はお会いできてよかったです」
「え……?」
「いえ、昨日もここに来たのですが、あいにくカタリナお嬢様は支配人とお話をされていたようなので……パニーニをテイクアウトして、ランチにいただきましたよ」
「まあ、ありがとうございます! お口に合いましたでしょうか?」
「ええ。生地のカリカリした触感とチーズのなめらかさが、何とも言えませんでした。今日も食べたいな、と思って来たんですよ」
有望顧客になってくれるかもって思っていたら、本当になってくれた!
顔と心が綺麗なだけではない。ユーレック氏は、私にとって天使様のような人だ。
「うれしいです! ユーレック様のようなビジネスマンの方を想定して、このお店のメニューを作っているので、いいご意見を聞いてほっとしました!」
ほっとしてそう言うと、ユーレック氏は私の手元のお盆を見た。
「……もしかして、これからお食事ですか?」
「ええ。さっきまでけっこうお客さんがいらっしゃったので……ようやく、交代で休憩に入るところなんです」
「実は、私も食べそびれてしまって……いま買ってくるので、よかったらご一緒しませんか?」
「えっ……!?」
その申し出に、私の心臓はドキドキを通り越してそれこそ飛び出してしまいそうだった。
ランチ時間だとしても、イケメンとデート?
それは、なかなか貴重すぎる体験だった。
断ったらもったいない、というより……お断りする理由は何もない。相手は、私の危機を救ってくれた恩人なのだから。
「わ、わかりました! では、ここでお待ちしております!」
「……よかった! すぐに戻りますね」
そう言って、ユーレック氏はだいぶ人が少なくなってきたカフェのカウンターに行って、注文をした。
すっと姿勢がいい長身の後ろ姿に、思わず見惚れてしまっている。
彼に魅了されているのは、私だけではない。
カウンターで接客している侯爵家のメイドたちも、驚くほどの美青年と話をしているとあって顔を赤らめている。
(あぁ……やっぱり、私の審美眼は正しいんだわ)
つくづく、そう思った。
本当に王都に来てよかった。もし、南部地方にずっといたとしたら、あのクズ男のフィリップが史上最強のイケメンだと思い込んでいたのだ。
それを思えば、エレオノール嬢にも感謝してしかるべきだろう。
彼女はとてつもない女豹だが、彼女がいたお陰で私は婚約破棄からのカフェ経営の夢を見ることができた。感謝してもしきれない。
災い転じて福となす、とはこのことを言うのだろうか。
(今頃、あの二人はどうしているのかしらぁー?)
上機嫌で他人の心配をしてみた。
私はこれから、ウキウキワクワクのデートをするので、南部地方のクズカップルもせいぜい楽しくやっていればいいと思った。
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<<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>
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