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15 黒髪の美青年、優良顧客になる(1)

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 ありがたいことに、カフェのテスト店舗は大盛況!
 最初の三日だけで、当初予想していた七日間分の利益を稼ぎ出した。すなわち、軽く二倍の収益を上げたということ。
 ホテルの支配人も、これには大喜びだ。引き続いてテラスでよければ続けてほしい、というありがたい申し出をしてくれた。
 これまでの一週間のように無償でテラスや機材を借り続けるのは問題なので、支配人と話してカフェの収入の一割を賃料として払うことにした。
 厨房の人たちも足りなくなったら材料を融通してくれたり、困っていたら手を貸してくれたり、とよくしてくれるから本当はもっと払わねばならないと思う。
 しかし、支配人は私が出資者の一人であるウルジニア侯爵の姪だということで、気持ち程度で構わないと言われた。
 コネも実力のうち……私はありがたく、その申し出を受け入れることにした。
「これもあなたのお陰よ、マドレーヌ」
 ランチのお客さんの波が過ぎ去った後で、自分たちの賄いのパニーニを作っているマドレーヌに私はさっそくお礼を言った。
「いえいえ。私はカタリナお嬢様について行っているだけですよ。お嬢様がいるからこそ、このカフェが成り立っているんですから」
 やけに殊勝なことを言うものだ。
 これも、彼女なりの計算なんだろうと思う。
 ただ、計算高さをマイナスしても余りあるプラスポイントをマドレーヌは稼ぎ出してくれた。
 ポスターも水彩画で色塗りをして仕上げてくれたお陰で、カフェの集客につながった。
 いつもは外の気軽なレストランにランチを食べに行く宿泊客も、カフェでパニーニをテイクアウトしてくれるようになった。天気がいい日はテラス席で食べ、そうでない日は部屋に持ち帰って食べているようだ。
 パニーニというホットサンドは、この国では存在しない。
 しかし、前世で言うところのピザに似ている郷土料理があるので、それに似ているパニーニも受け入れてもらえたのだろう。
 評判を聞きつけて、ホテルの宿泊客以外のお客さんも来てくれた。
 ふつうだったら、この街の住民はホテルに足を踏み入れることはほぼない。
 基本的にはホテルは街の外から来訪する者の宿泊施設。元が王宮の所有物だったということもあり、この王都では最も宿泊代は高額だ。付属するメインダイニングも、なかなか庶民が利用できない高級な料理を出す場所である。
 それが、カフェができたお陰で建物内に入る機会が生まれ、次回、何らかのお祝い事があるときはカフェではなく、メインダイニングで食事をしたいと思うかもしれない。
 そういう縁とか口コミというのは、意外に侮れないと私は思っている。
 なぜなら、この時代にはテレビもパソコンもインターネットもない。新聞が最大のメディアであり、それに準じるのがポスター、そして、人々の口コミなのだから。
「いえいえ、マドレーヌのお陰よ。約束は忘れていないから、いっしょにがんばりましょう!」
「わかりました、がんばります!」
 ほくほくとした出来立てのパニーニの香りは食欲を誘ってくる。
 中身はこの国で食べられているピザとほぼ同じ。トマトソースとチーズ、スライスしたソーセージを入れている。お客さんに出しているメニューと基本的に同じだが、賄いなので具は少なめでソーセージは端の小さい切れ目の部分を使っている。
 侯爵家のメイドとカウンター業務を代わって、カフェオレとパニーニを載せたお盆を持ってテラス席に座ったところに、長身の人影が現れた。
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