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11 黒髪の美青年との出会い(3)

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「なんだ、いったい何だよ? 割り込んでくるなよ」
「そうだ。このお嬢さんと話していたのは俺たちだぞ。邪魔しようっていうなら、名を名乗れ」
 男の一人が忌々しそうにそう言うと、黒髪の青年は肩を竦めた。
「そう言うあなたたちこそ、何者だとおっしゃるんですか? 人に名前を尋ねる時は、自分から名乗るのが筋でしょう?」
 あまりの正論に、男たちは悔しそうだったが渋々名乗り始める。
「くそっ……俺はジュリアン・マルニアックだ」
「ルブラン・ベルジーニだ」
 マルニアックとベルジーニを見比べて、黒髪の青年はふわりと微笑んだ。
「ああ、鉄道駅に納入する資材の入札にいらっしゃった方々ですね? たしか、ルドニック合同会社だったかな」
「うっ……そういうお前は……?」
 図星をつかれたのだろうか。呆然とする二人に、青年は優雅に礼をする。
「申し遅れました。私はリオネル・ユーレック……ユーレック商会の会長です」
「えっ……!」
 二人は驚愕して、途端にかしこまった表情に変わる。
「……会長でしたか! お若い方だとは聞いておりましたが……大変失礼をいたしました……!」
「会長、申し訳ございませんでした!」
 ユーレック氏は、二人ににっこりと微笑んだ。
「あなた方は、私の大事な友人を困らせていたのです。今更、謝られても困りますね……入札については、他の業者に声をかけることにさせていただきます」
 冷酷に切り捨てようとしているユーレック氏に、二人の男はぶるぶると震えている。
「ひっ……そんな馬鹿な!」
「そうです! その女性と仕事は別問題ではありませんか!」
 男たちはあろうことか、私を睨みつけてくる。
 とんだとばっちりだ……あっちから勝手にナンパしてきたのに、仕事がダメになりそうになった途端、私を犯人扱いしてくるなんて!
 その二人とは正反対で、ユーレック氏は常識的な人間のようだ。
「資材入札の業務は、ベルクロン王国の王室からの依頼で請け負っているものです。ですから、ベルクロンの国民に害を成そうとするような方に機会を与えるわけにはいきません」
「そんな……」
「もし、私の友人に真っ先に謝罪したなら、さすがに考え直したと思います。しかし、それさえもしないとはビジネスパートナーの前に、そもそも人として問題があるでしょう……そんな倫理観がない相手と商売をしたいだなんて、少なくとも私は思いませんね」
「そ、そんな……! 入札で負けるならともかく、それにさえ参加できなかったと知られたら、私たちは会社を解雇されてしまいます!」
 必死で喰らいついてくるマルニアックを、ユーレック氏は嘲笑した。
「あなた方のご事情は存じ上げません。この紳士淑女が集まるホテルの建物内で、破廉恥な真似をしようとした自分たちを深く反省しなさい」
 呆然とする二人の男を残して、ユーレック氏は私に手を差し出した。
「さあ、お嬢さん。待たせましたね。ご一緒させていただきましょう」
 さっそうと現れたユーレック氏に手を取られ、胸が早鐘を打ち始める。
 彼の手は指が長く、綺麗な形をしていた。私より高い体温が、触れ合った肌を通じて心地のよさを伝えてくる。
 転生してから美形の男性はたくさん見てきた私だが、ユーレック氏はこれまで見た中で一番美しい顔立ちをしていた。
 見上げれば、美しい横顔――艶やかな黒髪、すっと通った形のよい鼻筋、高い頬骨、少し薄い唇。
 ひとつひとつのパーツが完璧で、そのバランスも整った完璧な造形に、私の視線は釘付けになっていた。
(や、やだ……かっこいい……!)
 男性不信のくせに、一気に私の脳内はお花畑になる。
 最初に断っておくけど、ルックスもかっこいいとは思う。
 そうは思うけど、どちらかと言えばこういう顔かたちの人が私をならず者たちから助けてくれた行動が素晴らしい。
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