7 / 93
7 王都での生活(1)
しおりを挟む――王都は薔薇の都と言われているらしい。
所々に四季咲きの薔薇が植えられ、訪れる人々の目を楽しませる。
華やかなのは、もちろん植物が織りなす景観のみではない。この王都にある建物は赤みが強い煉瓦で作られている。赤薔薇に似た色味の赤土がこの地の特徴だからだ。
私が生まれ育った南部地方は白っぽいシンプルな建物が多かったが、ここは荘厳な煉瓦作り。
そこに集う人々も、それに負けぬほどに華やかでカラフルな衣装を身にまとっている。
汽車の駅に迎えに来てくれたイザベラ叔母さんと落ち合い、侯爵家の馬車の窓から見る景色に、私は思わずうっとりしていた。
「……すばらしい! 人の数もお店も、南部とは比較になりませんわ」
田舎者丸出しで、道行く人々や商店の数々を嘗めるようにチェックする。
「あらそう? わたくしは、南部のひなびたところが落ち着くと思っているわ。そのうち、エルフェネス伯爵にお願いして、しばらく静養させてもらおうかしら……おほほ」
「まぁ、それは楽しみですわ!」
イザベラ叔母さんに適当に話を合わせる。
私の頭の中では、この王都にカフェを出したらどれほどの集客が見込めるだろう、という計算が働いている。
カフェは南部で試しにやってみるのと、ここでやるのでは雲泥の差だろう。
なぜなら、確実に人口密度が違う。
この王都という場所は、前世の日本でいうところの東京や大阪のような大都市で、国内外の商業の中心である。
それに対して、南部地方はとっても田舎だ。たとえば地方の中の中心地ベルンであっても、県の中で一番大きな駅の周辺というイメージである。
大きな駅の周辺だってもちろん魅力的だが、それは住む人にとっての話。
初めて商売をやるなら、確実に大都市のほうが成功しやすいだろう。
しかも、これまでにないことをするなら勝機はある!
そんなことを考えているうちに、私たちを乗せた馬車は王宮やメインストリートに近い赤煉瓦で造られた瀟洒なタウンハウスへと辿り着いた。
ウルジニア侯爵の領地は、王都の郊外にある。なだらかな丘陵地帯に建てられた広大なカントリーハウスに、お母様……エルフィネス伯爵夫人とともにお邪魔したことがある。
しかし、こちらのタウンハウスは初めてだ。
都の中心地でも、中庭があって過ごしやすそうな屋敷だ。
田舎の広大な屋敷と比べたらコンパクトだが、前世の狭小住宅に慣れっこの私にとっては大豪邸である。
「領地に比べたら小さいけど、意外と住みやすいのよ。母屋も自分の家だと思って、ゆっくりしていってちょうだいね」
イザベラ叔母さんに案内されて、自分たちが滞在させてもらう離れに行った。
母屋と中庭を挟んだところにあるその建物は、二代前の老侯爵夫妻が過ごすために作られたとあって、比較的新しい作りのようだった。
建物が新しいということは、肝心の厨房も新しい。
母屋に比べたら規模は小さいが、竈があるのがケーキ作りやお菓子作りをしたい私にはとてもありがたい。ここなら、侯爵夫妻の使用人たちの邪魔をせずにレシピの研究もできそうだ。
裏門が近いというのも、メリットだ。
イザベラ叔母さんも私の行動には注意を払っていることだろう。未婚の令嬢を預かるのだから当然だけれど、それは要らぬ心配というものだ。
なぜなら、夜間にどんな人が出歩いているか、どんな店に人が集まっているか、というのもカフェの経営には大事な要素。
カフェバーのようにお酒も提供する形がいいのか、きっちりノンアルコールだけの店にするのか、など検討材料になる、
そんなわけで、時にはこっそり街に視察に出かけたりもしたいから、警備の目が厳しい表門よりも手薄な裏門が近いに越したことはない。
一応、伯爵家からは護衛が一人来てくれているし、侍女のマドレーヌもいるのだから、侯爵夫妻には心穏やかにしていてほしいものだ。
(まぁ、二人とも買収済みだけどね!)
私はイザベラ叔母さんが見ていない隙に、人が悪い笑みを浮かべた。
74
お気に入りに追加
341
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる