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6 犯人はお前か!(2)

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「あら? エレオノールお嬢様は、わたくしのお菓子を褒めてくださっているのよ。何も問題はございませんわ」
 平然とお茶を飲む私を見て、なぜかエレオノールは悔しそうな表情をした。
「……そうですわ。カタリナお嬢様はとても才能がおありになるから、殿方に頼らなくても強く生きていけますわよ」
「……?」
 エレオノールが、何を意図してそんな発言をしてくるのかわからない。
 だって、私とフィリップが婚約解消したというニュースは、彼女たちだって知っているはず。
 その証拠に、度重なる彼女の失言に、他の令嬢たちの表情は凍りついている。
「そ……それ以上、おっしゃってはだめですわ。エレオノールお嬢様!」
「あら、なぜかしら?」
 慌てて制止してくる令嬢たちを、エレオノールは驚いたように見回した。
「わたくし、カタリナお嬢様がフィリップ様との件を引きずっていらっしゃらないようで、本当に感謝していますわ」
 それを聞いて、私は片眉を上げた。
 エレオノールはフィリップと顔見知りかもしれないが、彼を名前で呼ぶほど親しくはなかった気がする。
 ――しかし、それは一年前までの話。彼がベルンに行く前はそうだったとしても、その後に何があったのか私が知る由もない。
「……なぜだか、伺ってもよろしくて?」
 その問いに、エレオノールは勝ち誇ったように微笑んだ。
「しばらくの間、南部の社交界でお会いすることもないから、教えて差し上げるわ。わたくしとフィリップ様は……」
「あぁーっ! エレオノールお嬢様は、夢を見ていらっしゃるのよ!」
「そうよ、そうよ! 妄想の世界に行ってしまわれているから、わたくしたちがお嬢様の頭を冷やしてきますわ!」
 二人の令嬢に両脇をがっしりとかためられて、エレオノールは庭園のほうへ連れ去られていく。
 エルフィネス伯爵邸の庭は広大である。かくれんぼをするには格好の場所だ。
 しかし、私が王都にしばらく行ってしまうというのに、それ以外の三人でコソコソしているところを見ていい気分がするわけがない。
「……何なの? あれは……」
 ティーカップをソーサーに置いて、近くに控えていたマドレーヌの顔を問いかけるように見上げた。
「カタリナお嬢様、わたくしが偵察をして参りましょうか?」
「あら、気が利くのね」
 こちらの意図を察して、率先して動こうとしてくれる面は本当に助かる。
「その代わり、チップを……」
 手を出してくるマドレーヌに、私は苦笑いした。
「わかったわ、後でね! その代わり、いい情報持ってきてちょうだいよ!」
「はいっ、今すぐに」
 彼女の後姿を見送って、しばし私は穏やかなティータイムを楽しんだ。

 ――が、私が平常心でいられたのはマドレーヌの話を聞くまでのことだった。
「……お、お嬢様! 大変でございますっ!」
 息せき切って駆けてきたマドレーヌは、私の耳元で偵察結果を報告してきた。
「どうやら……エレオノール嬢が、犯人のようです」
「犯人? どういうこと?」
「……カタリナお嬢様とフィリップ様の婚約破棄の件でございます!」
 たしかに、さっきのエレオノールの雰囲気からして、それはありうるかも……とは思っていた。
 ただ、彼女と私は前々からの仲良しだったから、必死でその疑いを打ち消してきたのに。
(……もしかして、ネトラレってやつ?)
 だとしたら、たしかにエレオノールは犯人である。
「令嬢たちの話によると、エレオノール嬢のお腹の中にはフィリップ様のお子がいらっしゃるそうで……それを知ったベルトラ子爵がグラストン侯爵家に怒鳴り込んだそうですよ!」
「……それで、フィリップ様は私との婚約破棄をして、彼女と結婚を?」
 衝撃の事実を聞いても、私はそこまで動じることはなかった。
 色恋沙汰というのは、恋愛感情があるからこそ発生するもの。私にはフィリップへの執着はまるでない。
 むしろ、友人を裏切ってまで恋を取るエレオノールが羨ましい気がする。
「その方向で話が進んでいるようでございます。ただ、カタリナお嬢様が南部にいらっしゃるうちは、話を公にはできないようで……」
「うーん、その話はもう少し前に知りたかったわね」
「え?」
 マドレーヌの怪訝そうな表情を眺めながら、私はうっすらと微笑んだ。
「だって、それを先に聞いていたら、慰謝料をもっと請求できたでしょう?」

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