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4 田舎脱出計画の第一歩!(2)
しおりを挟むそれもそのはず――貴族の結婚というのは、家門同士の絆を深める最も有効な手段である。
エルフィネス伯爵家には、息子は二人いるが娘は私しかいない。
伯爵としては、他の有力貴族との関係を強めるためにも、私をしかるべき家門に嫁に出したいはず。
フィリップと私が結婚すれば、グラストン侯爵家とのつながりが持てる。今後、上のお兄様が領地経営をするときにも、下のお兄様が官僚になる場合にも、実家ばかりではなく縁戚になった侯爵家の後ろ盾があるほうが優位に働く……そういう算段なんだと思う。
しばらくの間、私がめそめそしているだけならまだしも、修道女になってしまったら家長としての伯爵の影響の範囲外に私が行ってしまう。修道請願をするということは、私の身柄が伯爵家から教皇庁へと移るという意味だ。
絶対に、伯爵としてはそれだけは避けたいはず。
(ふふ、なかなかいい考えじゃない?)
私は心の中で、自画自賛した。
この時代の伯爵令嬢が考えそうなもので、一番強烈なものを言ったつもり。
もちろん、本気で修道女になって祈り働く生活を送るほど、私は早起きが得意でも信心深いわけでもない。
妥協案だって考えてある……しかも、すごくいい感じのものを。
「お父様……でも、ここにいるのはつらいですわ……」
ハンカチからぽろりと玉葱の欠片が落ちるが、それをマドレーヌが靴で隠した。
お菓子の名前を持つだけあって、さすがにすばらしいアシストをする侍女だこと!
「そうね、カタリナ。あなたの気持ちはよくわかるわ! わたくしも若い頃に恋をした殿方が知り合いと結婚してしまって、とてもつらい思いをしたわ……」
伯爵夫人は、心底同情してくれているようだ。
そんな善意の人を利用するのは申し訳ないけれど、私にも前世からの目的があるから仕方がない。
強い味方が現れたということで、さっそく用件を切り出そう。
「お母様……前に、イザベラ叔母様が王都のパーティーに誘ってくださったのを覚えていらっしゃる?」
「ああ、覚えているわ。でも、あなたは令息との婚約式を控えているから、と断ったのよね?」
「ええ……王都はどんなに素敵なところでしょうね。パーティーもきっと、南部地方のものよりも華やかでしょうし」
イザベラ叔母さんというのは、エルフェネス伯爵夫人の妹だ。
王宮で文官をやっているウルジニア侯爵に嫁いで、三人の男子をもうけたが女の子ができなかったため、私のことをとても可愛がってくれている。
「ええ。王都はとても美しいところよ。パーティーも華やかだわ」
元々、夫人は王都の貴族の出身なので、まるで夢見心地で私の話に頷いてくれる。
「……そう。あの時、お断りをしたことを今でも後悔しているの。イザベラ叔母様はどうしていらっしゃるかしら……?」
泣きそうな顔で、私はハンカチを握りしめた。
それを見たエルフェネス伯爵は、苦々しい顔つきで言った。
「……わかった、わかった! 王都に行けば、気分が晴れると言うんだな?」
「お父様!?」
「だったら、王都に行ってくればいいじゃないか。あの愚かな令息のせいで参加できなかったパーティーに参加して楽しんでくればいい」
「本当ですか? うれしいっ!」
あまりにあっさりと要求が通ってしまって、拍子抜けしてしまう。
しかし、伯爵としては娘が修道女になるより、王都にしばらく行くほうがましだと考えているのだろう。
あるいは王都に出れば、何かが変わるかもしれない、と――。
私が婚約破棄された令嬢でも、見初めてくれる誰かが現れるのでは……と、期待しているのかもしれない。
伯爵に王都行きの許しを得たとあって、伯爵夫人は私を羨ましそうに見つめた。
「あら、本当ですか? あなた……わたくしも一緒に行ったらダメかしら?」
ため息をついて伯爵は、首を横に振った。
「お前にはこれから帳簿の仕事を手伝ってもらわねばならん。カタリナの介添え役なら、侯爵夫人に頼めばよかろう?」
「……わかりましたわ。イザベラに手紙を書いてみます」
残念そうな夫人には申し訳ないが、計画がうまくいった私は内心ほくそ笑んでいた。
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