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7 甘い夢と残された記憶

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 ――甘い夢を見ていた。
 ラミエル様がわたくしを抱きしめて、キスをしてくる。
 愛しそうにわたくしを見下ろす視線に、艶っぽい熱を感じてしまうのは気のせい……?
 いつもの彼は、冷静沈着。どんなにわたくしが美しくても、熱っぽく口説いたとしても、俗っぽい感情には揺らがないと思っていた。
 それなのに、今の彼はまるで別人。わたくしへの欲をありのままに見せてくる。
 誰かからまっすぐに求められるのは、こんなにもうれしいものだったのね……?
 思えば、貴族の娘に生まれて一度も純粋な愛を向けられたことがなかった。もちろん、純粋な欲も。
 両親はわたくしのことを王家の外戚になるための持ち駒としか見ていなかった。
 婚約者のカーライル殿下は優しくしてくれていたけれど、それは高位貴族の後ろ盾を得るためだけ。
 結局、誰からも愛されないまま、孤独のうちに死ぬところだった……。
 死の淵にいたわたくしを救ったのは、ラミエル様だった。
 初対面で、いきなりわたくしが求婚をしたのは、彼の庇護が生きる上で必要だったから。
 でも、そんな真似をせずとも、わたくしを大事にしてくださった。
 欲得ずくで口に出した結婚という言葉が、今ではとてつもなく恥ずかしい。
 ――旅の途中、共に過ごす時間の中で、ラミエル様がどういう経緯で大天使になったかを聞くことができた。
 もともと、ネルシオンの建国前に起こった神と悪魔の聖戦――その戦いの最中に命を失った聖騎士だったらしい。
 人間だった頃も、修道院に所属していた彼は色恋に興味がなかっただろうし、大天使という人ならぬ存在になった今は絶対に女に惑わされないはず。
 それでも……いま、たしかにわたくしに触れている。
 彼を動かしたのが自分だという事実が何より誇らしく、胸のドキドキが止まらない。
 きっと、これは本当の恋――。
 婚約者にも感じなかったときめきは、わたくしの心を打ち震わせていた。
 これが、夢じゃなく本当だったらいいのに……。
「もっと、キスして……」
 離れようとしている彼に、思わず手を差し伸べる。
 彼の背を抱き寄せ、指先に触れたのは生々しいぬくもり。それを感じた瞬間、これが本当に夢かどうかさえわからなくなる。
「相変わらず、大胆だな」
 耳朶に霞める声が、ゾクッとするほど色っぽい。
「そんなことを言うと、本当に俺のものにしてしまうぞ。そうしたら、困るのはお前のほうだろう……?」
 それは、どういう意味……?
 尋ねようとしても、声が出ない。
 ああ……やっぱり、これは夢の中なのかしら?
 彼の低い問いかけの余韻は、恋に昂った精神をゆっくりと深い闇に導いていった。
 
 
 雨乞いの儀式の後、力を使い果たして死に瀕していたわたくしは、離宮の一室に運ばれて十日ほど寝込んでいたらしい。
 ようやく意識を取り戻し窓の外を見ると、まだ雨が降り続いていた。
 宮廷の侍女にラミエル様のことを尋ねたが、わたくしを宮廷医に任せたあと北の領地に戻ったとのこと。
 でも、わかっていた……今回も、ラミエル様がわたくしを救ってくれたって。
 そう確信しているのは、枕元に白い羽が一枚落ちていたから。オーラの気配を感じ取れるそれを見れば、彼がここに来たことがわかる。
 仮にわたくしがただのパシリだとしても、ラミエル様が見捨てるわけがない……職務放棄しているリアナを、ご自身の手で罰することができないくらい寛大な方だから。
 あっ……そう言えば、リアナをどうにかしなきゃ。
 病める人々を放置する職務怠慢な聖女なんて、税金で遊びまくるこの世のゴミじゃない!
 ラミエル様の代わりに、わたくしが成敗してさしあげるわ!

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