3 / 5
第二話
しおりを挟む
例の転校生と生徒会長が、生徒会副会長の「じゃない方」を取り合っているらしい。その噂は翌日には全校に知れ渡っていた。(ちなみに「じゃない方」じゃ無い方は、腹黒眼鏡こと楢橋才先輩のことだ。)会長はこれまで特定の相手を作って来なかっただけに、衝撃は凄まじかったようだ。休み時間も放課後もひっきりなしに人が訪れ、「何でお前なんだ」だの、「会長に失礼だ」だのとなじられる。たまに妙に悟った表情のファンからは、「応援しています」と安らかな表情で肩を叩かれる。ジュリの信者は過激派が多く、中には手が出るやつもいた。自室に帰っても休まらず、部屋の外から暴言を吐いたり、扉をドンドン叩かれたりする。備え付けの電話もひっきりなしに鳴り続けるものだから、コンセントを抜いてしまった。何より嫌なのが、ジュリと会長、どちらのファンでもない奴らからの好奇の目だ。今まで話したこともないクラスメイトに囲まれて、「どっちを選ぶんだ」なんて聞かれて。俺はどっちを選ぶ気もない。大体男同士でなんて、好きな奴らが勝手にやっていればいい。俺を巻き込まないでくれ。そう思うものの、俺も生徒会のはしくれ、仕事をしなければいけない。だが生徒会室には寄り付きたくない。というわけで、旧生徒会室(という名の物置)で作業をしようとやってきたわけだが。
「お邪魔するぞ~って、王子か!」
いきなり扉が開いたかと思えば、もじゃもじゃ頭が突進してきた。あまりの勢いに身体がぐらりとバランスを崩し、尻もちをつく。ジュリごと倒れかかってきたから、半ば押し倒されたような姿勢になる。
「わ~お。朱璃ってば、ダイタン」
無駄に色っぽい声で茶化してきたのは会計だ。後ろには生徒会の面々がずらりとそろっている。
「でも、だーめ。近すぎ」
朱璃の耳元で囁き、身体を抱き起こす。ぶ厚いメガネフレームの下、頬が染まっているのが見える。一体俺は何を見せられているのだろう。立ち上がり、ズボンについた埃を払う。
「えーと、皆さんはどうしてここに?」
「朱璃が掃除をしようと言い出してな」
「そんなメンドーそうな言い方!お前らが掃除しないから手伝ってやろうと思ったのに!」
「朱璃、やさしい……」
「お片付けが上手には見えませんけどねえ」
「もー!才のイジワル!」
いつの間にか場はジュリのペースに飲み込まれていた。ジュリはきっといいやつだ。明るくて、素直で、周りを笑顔にする、愛情深くて太陽のような人間。だけど。
「すみません、俺、用事あるんで先帰りますね」
俺はどうしても受け入れられない。足早にその場を去る俺を、ジュリが追いかけようとしては書記に止められていた。廊下に出てもやいのやいのと聞こえてくる。校舎を離れ、一人になれる場所を探して無心で歩いていると。何かにつまづいて、盛大にコケた。頭から、きれいに。
「~~~っ」
咄嗟に受身はとったものの、擦りむいた膝や手のひらが痛い。蹲る俺に、上から覗き込む影がさしかかる。
「あっれー噂の王子くんじゃん」
「怪我しちゃったー?」
「男前に磨きがかかったんじゃねえの」
下卑た笑みを浮かべる、いかにもガラの悪い連中だ。面識は無いが、バッチの色からすると同学年、おそらくCクラスだ。わざと足を引っ掛けたのだろう。こういう奴らには下手に関わらない方がいい。不良とはいえ、この学園に入れるほどの家柄と知力がある奴ばかりだ。その分無駄に頭もきれる。下手に刺激しないように、何事も無かったようにその場を去ろうとするが。
「おい、何シカトしてんだ」
腕を、ぐいと後ろに引かれる。
「お前、東西グループの養子なんだってな」
「……だから、何」
俺が実子でないことは誰でも知っている。それだけ噂の回るのが早い世界だ。
「お前みてぇな庶民があの“東西グループ”でやって行けるとは思えねぇからよぉ」
1度言葉を切る。嫌な予感がする。逃げなければ、と腕を瞬間的に振り払おうとして、骨がギリギリいうほどの強い力で掴まれる。
「俺らが教えてやるよ。この世界の厳しさってもんを」
囲まれた。明らかに自分より腕力が勝っている相手だ。俺はケンカなんてしたことないし、ぼこぼこにされる未来しか見えない。
「──いいのか。お前らがどこの家か知らないけど、“東西家”の俺に何かあったら……どうなるだろうな」
虚勢、口からでまかせである。それすらもバレているのか、相手の余裕な態度は揺るがない。
「どうなるんだろうなぁ、教えてくれよ、なぁッ!」
頬にキレイに一発入る。脳が揺れ、頭が危険信号を出している。俺が逃げないよう1人が後ろから羽交い締めにする。
「おーおー、真っ赤なほっぺが可愛いなぁ」
後ろの奴が、俺を掴む手が強まる。
「こっちも……オラよ!」
今度は左頬を狙い振りかぶる。もうダメだ、死ぬ、今日が命日だ。全てを諦め目をつぶる……が衝撃はいつまでたってもやってこない。後ろから締め付ける腕から開放された。支える力を失った身体はあっけなく地面に伏す。
「チッ、負け犬がしゃしゃりやがって」
捨て台詞を吐く不良。だがその言葉は先程までの威圧感はない。薄目を開けると、見慣れた、だけど一度も話したことのないクラスメイト・宮本柊がいた。宮本は、俺を殴った奴の腕を掴んでいる。
「Cクラスのお前に言われたくないんだけど」
それはCクラスの生徒を揶揄して言う言葉だ。正直助かったのは嬉しいが、どうしてこうなっているのかいまいち想像がつかない。
「ハァ、宮本の坊ちゃんも変わった趣味をお持ちですねェ。会長もそうだが、こんなやつのケツを好き好んで追いかけるなんて」
「あいつらと一緒にするな。俺は男には興味ない」
「フーン、ま、どーでもいいわ、あんたらの痴話喧嘩なんて」
醒めたわ、と言い捨て、不良は連れ立って去っていく。俺は状況を掴めず、しばらく呆然としていた。
「帰らないの?」
「帰るけど……」
「何?あ、念の為言っとくけど、俺はお前には興味ないから」
「そういう事じゃなくて!……ありがとう。助かった」
宮本が運良く通りかかったからいいものの、そうでなければどんな目にあっていたか。地面につく勢いで頭を下げる俺に、宮本がため息を着く。
「大袈裟だな。ま、これからが大変だろうから、頑張れよ」
そう言い残し、去っていった。口は良くないが、悪いやつでは無いらしい。
「……帰るか」
小さく呟き、腰をあげる。念の為辺りに注意しながら、なるたけ目立たないよう、寮に帰った。
その少し前。
東の森の木陰にて。C組の不良に囲まれる幾月を、特に何を思うでもなく、会長・瑞光は観察していた。一発、重たい拳が入る。二発目を振りかぶったところで、興味を失い、戻ろうとしたところで、視界の端を通り過ぎる影があった。ちらと振り向くと、2年の宮本柊が不良と相対していた。
「ふむ、あの宮本が、な」
小さく呟き、瑞光はその場を後にした。その口の端は、わずかに弧を描いていた。
「お邪魔するぞ~って、王子か!」
いきなり扉が開いたかと思えば、もじゃもじゃ頭が突進してきた。あまりの勢いに身体がぐらりとバランスを崩し、尻もちをつく。ジュリごと倒れかかってきたから、半ば押し倒されたような姿勢になる。
「わ~お。朱璃ってば、ダイタン」
無駄に色っぽい声で茶化してきたのは会計だ。後ろには生徒会の面々がずらりとそろっている。
「でも、だーめ。近すぎ」
朱璃の耳元で囁き、身体を抱き起こす。ぶ厚いメガネフレームの下、頬が染まっているのが見える。一体俺は何を見せられているのだろう。立ち上がり、ズボンについた埃を払う。
「えーと、皆さんはどうしてここに?」
「朱璃が掃除をしようと言い出してな」
「そんなメンドーそうな言い方!お前らが掃除しないから手伝ってやろうと思ったのに!」
「朱璃、やさしい……」
「お片付けが上手には見えませんけどねえ」
「もー!才のイジワル!」
いつの間にか場はジュリのペースに飲み込まれていた。ジュリはきっといいやつだ。明るくて、素直で、周りを笑顔にする、愛情深くて太陽のような人間。だけど。
「すみません、俺、用事あるんで先帰りますね」
俺はどうしても受け入れられない。足早にその場を去る俺を、ジュリが追いかけようとしては書記に止められていた。廊下に出てもやいのやいのと聞こえてくる。校舎を離れ、一人になれる場所を探して無心で歩いていると。何かにつまづいて、盛大にコケた。頭から、きれいに。
「~~~っ」
咄嗟に受身はとったものの、擦りむいた膝や手のひらが痛い。蹲る俺に、上から覗き込む影がさしかかる。
「あっれー噂の王子くんじゃん」
「怪我しちゃったー?」
「男前に磨きがかかったんじゃねえの」
下卑た笑みを浮かべる、いかにもガラの悪い連中だ。面識は無いが、バッチの色からすると同学年、おそらくCクラスだ。わざと足を引っ掛けたのだろう。こういう奴らには下手に関わらない方がいい。不良とはいえ、この学園に入れるほどの家柄と知力がある奴ばかりだ。その分無駄に頭もきれる。下手に刺激しないように、何事も無かったようにその場を去ろうとするが。
「おい、何シカトしてんだ」
腕を、ぐいと後ろに引かれる。
「お前、東西グループの養子なんだってな」
「……だから、何」
俺が実子でないことは誰でも知っている。それだけ噂の回るのが早い世界だ。
「お前みてぇな庶民があの“東西グループ”でやって行けるとは思えねぇからよぉ」
1度言葉を切る。嫌な予感がする。逃げなければ、と腕を瞬間的に振り払おうとして、骨がギリギリいうほどの強い力で掴まれる。
「俺らが教えてやるよ。この世界の厳しさってもんを」
囲まれた。明らかに自分より腕力が勝っている相手だ。俺はケンカなんてしたことないし、ぼこぼこにされる未来しか見えない。
「──いいのか。お前らがどこの家か知らないけど、“東西家”の俺に何かあったら……どうなるだろうな」
虚勢、口からでまかせである。それすらもバレているのか、相手の余裕な態度は揺るがない。
「どうなるんだろうなぁ、教えてくれよ、なぁッ!」
頬にキレイに一発入る。脳が揺れ、頭が危険信号を出している。俺が逃げないよう1人が後ろから羽交い締めにする。
「おーおー、真っ赤なほっぺが可愛いなぁ」
後ろの奴が、俺を掴む手が強まる。
「こっちも……オラよ!」
今度は左頬を狙い振りかぶる。もうダメだ、死ぬ、今日が命日だ。全てを諦め目をつぶる……が衝撃はいつまでたってもやってこない。後ろから締め付ける腕から開放された。支える力を失った身体はあっけなく地面に伏す。
「チッ、負け犬がしゃしゃりやがって」
捨て台詞を吐く不良。だがその言葉は先程までの威圧感はない。薄目を開けると、見慣れた、だけど一度も話したことのないクラスメイト・宮本柊がいた。宮本は、俺を殴った奴の腕を掴んでいる。
「Cクラスのお前に言われたくないんだけど」
それはCクラスの生徒を揶揄して言う言葉だ。正直助かったのは嬉しいが、どうしてこうなっているのかいまいち想像がつかない。
「ハァ、宮本の坊ちゃんも変わった趣味をお持ちですねェ。会長もそうだが、こんなやつのケツを好き好んで追いかけるなんて」
「あいつらと一緒にするな。俺は男には興味ない」
「フーン、ま、どーでもいいわ、あんたらの痴話喧嘩なんて」
醒めたわ、と言い捨て、不良は連れ立って去っていく。俺は状況を掴めず、しばらく呆然としていた。
「帰らないの?」
「帰るけど……」
「何?あ、念の為言っとくけど、俺はお前には興味ないから」
「そういう事じゃなくて!……ありがとう。助かった」
宮本が運良く通りかかったからいいものの、そうでなければどんな目にあっていたか。地面につく勢いで頭を下げる俺に、宮本がため息を着く。
「大袈裟だな。ま、これからが大変だろうから、頑張れよ」
そう言い残し、去っていった。口は良くないが、悪いやつでは無いらしい。
「……帰るか」
小さく呟き、腰をあげる。念の為辺りに注意しながら、なるたけ目立たないよう、寮に帰った。
その少し前。
東の森の木陰にて。C組の不良に囲まれる幾月を、特に何を思うでもなく、会長・瑞光は観察していた。一発、重たい拳が入る。二発目を振りかぶったところで、興味を失い、戻ろうとしたところで、視界の端を通り過ぎる影があった。ちらと振り向くと、2年の宮本柊が不良と相対していた。
「ふむ、あの宮本が、な」
小さく呟き、瑞光はその場を後にした。その口の端は、わずかに弧を描いていた。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
無自覚副会長総受け?呪文ですかそれ?
あぃちゃん!
BL
生徒会副会長の藤崎 望(フジサキ ノゾム)は王道学園で総受けに?!
雪「ンがわいいっっっ!望たんっっ!ぐ腐腐腐腐腐腐腐腐((ペシッ))痛いっっ!何このデジャブ感?!」
生徒会メンバーや保健医・親衛隊・一匹狼・爽やかくん・王道転校生まで?!
とにかく総受けです!!!!!!!!!望たん尊い!!!!!!!!!!!!!!!!!!
___________________________________________
作者うるさいです!すみません!
○| ̄|_=3ズザァァァァァァァァァァ
ワクワクドキドキ王道学園!〜なんで皆して俺んとこくんだよ…!鬱陶しいわ!〜
面倒くさがり自宅警備員
BL
気だるげ無自覚美人受け主人公(受け)×主要メンバーのハチャメチャ学園ラブコメディ(攻め)
さてさて、俺ことチアキは世間でいうところの王道学園に入学しました〜。初日から寝坊しちゃって教師陣から目をつけられかけたけど、楽しい毎日を送っています!(イエイ★)だけど〜、なんでかしらねけど、生徒会のイケメンどもに認知されているが、まあそんなことどうだっていいっか?(本人は自分の美貌に気づいていない) 卒業まで自由に楽しく過ごしていくんだ〜!お〜!...ってなんでこんなことになってんだよーーーーー!!(汗)
------------------
〇本作は全てフィクションです。
〇処女作だからあんまり強く当たんないでねーー!汗
可愛い男の子が実はタチだった件について。
桜子あんこ
BL
イケメンで女にモテる男、裕也(ゆうや)と可愛くて男にモテる、凛(りん)が付き合い始め、裕也は自分が抱く側かと思っていた。
可愛いS攻め×快楽に弱い男前受け
生徒会長親衛隊長を辞めたい!
佳奈
BL
私立黎明学園という全寮制男子校に通っている鮎川頼は幼なじみの生徒会長の親衛隊長をしている。
その役職により頼は全校生徒から嫌われていたがなんだかんだ平和に過ごしていた。
しかし季節外れの転校生の出現により大混乱発生
面倒事には関わりたくないけどいろんなことに巻き込まれてしまう嫌われ親衛隊長の総愛され物語!
嫌われ要素は少なめです。タイトル回収まで気持ち長いかもしれません。
一旦考えているところまで不定期更新です。ちょくちょく手直ししながら更新したいと思います。
*王道学園の設定を使用してるため設定や名称などが被りますが他作品などとは関係ありません。全てフィクションです。
素人の文のため暖かい目で見ていただけると幸いです。よろしくお願いします。
総受けなんか、なりたくない!!
はる
BL
ある日、王道学園に入学することになった柳瀬 晴人(主人公)。
イケメン達のホモ活を見守るべく、目立たないように専念するがー…?
どきどき!ハラハラ!!王道学園のBLが
今ここに!!
虚弱体質の俺が全寮制学園に入った結果
めがてん
BL
【第一部完結しました。
第二部開始までお待ちください。】
俺は二宮柊司(にのみやしゅうじ)。
生まれた時から体が弱く、普通の学校生活は諦めていたのだが、双子の弟である二宮祥吾(にのみやしょうご)に強引に話を進められて、弟と共に全寮制の男子校――北斗学園に入学することになった。
しかしこの北斗学園、色々特殊な上に、全校生徒の殆どがホモかバイとは知らずに入ってしまった俺は、この学校の特殊な環境に否が応でも巻き込まれていくことになる。
――そしてこの学園で出会った一人の男子生徒。
彼は学校内では多くの生徒から恐れられている不良で、いつも一人で居た。
でも、彼はいつも困ったときに俺を助けてくれる。
そんな彼との出会いが、俺の運命を変えていくのだった。
***
相変わらず病弱受けが性癖な作者が、病弱な子が所謂BL王道学園に入ったらどうなるかを妄想した結果の上の産物です。
カプは固定。双子の弟×兄要素ありますがあくまで添え物、メインは厄介な事情を抱えた不良×病弱です。
R18は保険で付けているのでそのシーンはほぼ出てきません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる