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ワインと魔法の世界へ

「運命の一杯:転生の始まり」

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⭐️異世界に誘うワイン⭐️

銀座の小路に面した、小さなワインバー「ヴィネティーク」。その店の照明は落とされ、ジャズが柔らかく流れていた。時折、猫の足跡のようなピアノの音が、宙を舞う。何組かのカップルが囁く様に会話を楽しんでいる。

「次はどんなワインがいいかな?」優しい目元の亜里沙が、静かに祐介に問いかける。彼女の声は、夜の街の中で特別な響きを持っていた。

祐介は返事の前に、セラーから取り出した特別なボトルをテーブルの上に静かに置いた。「実は、これを見つけたんだ。僕も初めて見るだけど、何となく君に合いそうだと思って。」佇まいからオールドヴィンテージなのはわかるが、エチケットはすっかりかすれてしまい、どの生産地なのかもわからないほどだった。

亜里沙の目が、興味津々でボトルのエチケットを追った。彼女は何かを感じ取ったのか、瞳をきょとんとさせて祐介を見た。

祐介はソムリエナイフ を手にとり、静かにボトルのコルクを抜き始める。亜里沙はその丁寧な手捌きに見惚れているようだった。音を立てずにスムーズにコルクが抜けると、微かに香るワインの香りが室内に広がった。

注がれたグラスを手に取り、祐介はまずその色を確かめる。深いルビー色に、、、軽くグラスを振ると、ワインが美しい脚を引く。次に、彼は鼻をグラスに近づけて、深く香りを吸い込む。ブラックベリーやプラム、そして何とも言えないハーブの香りが感じられる。

「これは…すごい。」祐介がつぶやく。

亜里沙もグラスを口元に運ぶ。初めての味に、彼女の瞳は驚きと感動で輝いた。「これは一体、どこのワインなの?」

祐介は少し考えてから言った。「正直、僕もはっきりとはわからない。ただ、この香りと味、そしてこの感触…これは間違いなく、特別なワインだ。」

そして、そのワインを飲んだ瞬間、二人の周りの世界が、少しずつ変わり始めた。まるで、時計の針が過去へと逆戻りするような、そんな感覚だった。

彼らが再び目を開けた時、二人はもう、この世界にはいなかった。

二人が目を覚ますと、そこは広大な森の中だった。銀座のワインバーの暖かな灯りとジャズの音は、どこか遠くへと消えてしまっていた。亜里沙は不安げに周囲を見渡し、祐介の手を握りしめた。

⭐️異世界ライフの始まり⭐️

「祐介、ここはどこ?」

祐介は深く息を吸い込みながら、頭の中を整理しようとした。思い出すのは、彼が選んだそのワインと、二人でその香りに浸りながらグラスを傾けた瞬間だけだった。

「亜里沙、君も覚えてるよね? あのワインを飲んだ後のことは…」

彼女は頷いた。「何も。ただ、不思議な感覚に包まれて、そして、ここにいる。」

二人はしばらく無言で森の中を歩き始めた。道を知らない彼らは、ただ直感に従って進んでいた。足元には落ち葉が敷き詰められており、その上を歩く度に穏やかな音が響く。

突然、亜里沙が止まった。彼女は耳をすませて、何かを感じ取ろうとしている様子だった。「祐介、聞こえる?」

祐介は耳を澄ました。遠くから、水の流れる音が聞こえてきた。彼らはその音の方向へと進んでいった。

「水の音…川かな?」亜里沙が尋ねる。

祐介は頷いた。「川の近くには人の住む場所があるかもしれない。」

しばらく歩くと、彼らの前に小さな沢が広がっていた。水は透明で、底には石や小魚が見える。

亜里沙は手を水に浸け、それを顔につけた。「この水、綺麗…」

祐介もそうした後、彼女の方を見て微笑んだ。「亜里沙、何があっても、二人で乗り越えよう。」

亜里沙は涙ぐみながら、彼の手を握り返した。「うん、約束。」

沢の水面は、太陽の光を受けてきらきらと輝いていた。二人がその場所を後にすると、森の中には薄暗い影が舞っているように感じた。祐介はちょっと前傾になりながら、この森の中には何かのメッセージが隠されているような気がしていた。

「この森、何か特別なことを感じる?」亜里沙が低く呟くように祐介に問いかけた。

「そうだね。まるでこの森が、私たちに何かを伝えようとしているような気がする。」

彼らの足音は、静かに続いていった。時折、遠くから鳥のさえずりや風の音が耳に届く。祐介は、亜里沙の手を引きながら、森の中をさまよっていた。しかし、彼らの行く先には、未だ明確な目的地は見えてこなかった。

それから数時間後、彼らは小さな木の家を発見する。その家は、老木に囲まれ、古びた屋根と壁が微かな時間の流れを感じさせていた。

「ここに誰か住んでるのかな?」亜里沙が困惑しながら家の方を指さした。

祐介はゆっくりと家の前に立ち止まり、深呼吸をした。「少なくとも、ここには私たちと同じ時間を感じている何かがあるようだ。」

ドアをノックすると、その音が空しく森の中に響いた。しばらくすると、中から小柄な老人が出てきた。彼の顔には時間の風合いが刻まれていた。

「おや、珍しい客人だな。」老人は驚いたように二人を見つめた。

祐介は礼儀正しく頭を下げた。「失礼します。我々は迷子になった旅人です。」

老人はしばらく考え込み、ゆっくりと頷いた。「ああ、君たちはあのワインを飲んだのだろう。」

老人は二人を屋内に招き入れ、古びたソファに座らせた。部屋の中は質素で、壁には木の絵や風景画がかけられていた。暖炉には小さな火が灯り、その火の揺らぎが部屋に柔らかな光を投げかけている。

⭐️不思議な老人との出会い⭐️

「まずは、何か温かい飲み物でもいかがかな?」老人はゆっくりと立ち上がり、小さなキッチンへと向かった。

祐介は老人の背中を見つめながら言った。「あの、先ほどのワインのことですが…」

老人はキッチンから声をかけた。「ああ、あのワインには特別な力がある。この世界とあなたたちの世界を繋げる力だ。」

亜里沙の目がきらりと光った。「でも、なぜ私たちがここに?」

老人が紅茶を持ってきて、テーブルに置くと、深いため息をついた。「この世界は、ワインの魔法が生きている場所。あのボトルは、特別な場所から持ち出されたもの。飲む者をこの世界へと導く力がある。」

祐介が考え込んだ。「でも、なぜ僕たち?」

老人はにっこりと微笑みながら、亜里沙と祐介を交互に見つめた。「ワインは選ばれた者をこの世界に連れてくる。あなたたち二人は何らかの運命を持っているのだろう。」

亜里沙はしばらくの沈黙の後、静かに言った。「運命…私たちに何が待っているのでしょうか?」

老人は目を閉じ、深く考えた。「この世界は、ワインの力によって繁栄を得ている。しかし、そのバランスが崩れようとしている。ナパール王国とイダリア共和国の間で争いが起こるかもしれない。」

祐介の眉がひそめられた。「私たちにできることは?」

老人は深く頷いた。「あなたたちの持つ特別な能力。それがこの世界を救う鍵かもしれない。」

老人はこの世界の歴史について話始めた。。。この神々に選ばれた特別な地の話。

⭐️神々の時代⭐️

「昔々、この世界は何もない宇宙の空間だけで始まった。だが、その虚空を埋めるため、神々が生まれ、彼らの手によって星や惑星、そして命が生まれたんだ。各々の神は、自らの領域や要素を守り、この世界は彼らの和をもって繁栄していたんだよ。」

老人は少し生き生きとした語り口で神々を紹介した。まずは、天空の神アエリオス「アエリオス、、彼は空と風を統べる神さ。彼の手によって鳥たちは空を舞い、そして風はこの大地に吹き渡ったんだ。」。

海の女神マリエナ「マリエナ、、彼女は深く神秘的な海を統べていた。彼女の涙は雨となり、彼女が笑うと、海は穏やかになる。」

大地の神ガイオス「ガイオス、、彼は我々の足の下にある大地を守る神さ。彼が微笑むところに、命が芽吹いたんだよ。」

星の女神ステリア「夜空を美しく飾るステリアは、彼女の子供たちが流れ星として、我々のもとに希望を運んでくるんだ。」

動物の神フェラ「彼女が生み出した動物たちは、彼女から受け取った知恵と力で、大地上で生き抜いていく。」

そして、祐介、亜里沙に関わる神とこの世界の話に移っていくのを二人は固唾をので聞き入っていた。女神ヴィティの話。。。

「ヴィティは、他の神々とは一線を画す存在だった。彼女は古く、力強く、そして人々との絆を深く持つ神であり、人々の情熱や欲望、楽しみや悲しみ、すべての感情を理解していた。彼女の領域は、喜びと豊穣、そして魔力そのものだったんだよ。」

「ヴィティは葡萄畑の中を歩き、太陽の下で熟れる葡萄を手で触れることで、自らの魔力をその中に注ぎ込んでいた。それは、ワインとして人々に与えられる喜びと魔力を増幅させるためだった。」

「魔力が宿るワインは、特別なもの。それを飲む者は、身体だけでなく、心と魂まで浄化され、強化される。そして、ヴィティのワインは、これを極めたものだった。邪神が現れる前の平和な時代に、彼女の作ったワインは人々に喜びと安らぎをもたらしていた。」

老人は深く息を吸い込み、その後起きた邪神と神々の戦いについて話した。「長い間、神々の秩序と調和がこの世界を包んでいた。しかし、ある日、闇の奥から邪神が突如として姿を現わし、神々の秩序を一変させたのだ。」祐介と亜里沙はその言葉に耳を傾け、目を細めて老人を見つめた。

「この邪神は、彼の手によって生み出された魔物たちを引き連れ、神々の世界に混沌をもたらした。」老人の声は震え、その時の恐ろしさを今でも感じているかのようだった。

「神々も、彼らの力を結集して邪神に立ち向かった。しかし、魔物たちの数と力には勝てず、次第に劣勢に追い込まれていった。」老人の言葉に、祐介は額に手を当て、亜里沙は胸を押さえた。

「その中で、神々は知恵を絞り、人々に目を向けた。彼ら人族に、特別な魔力を与えて協力を求めたのだ。」老人が続けると、亜里沙は「人々が戦ったのですか?」と小さな声で問いかけた。

「そう、そのとおり。しかし、魔力を持つことができる人は少なかった。そこで、魔力を司る女神ヴィティが葡萄に自らの力を融合させ、ワインを通して人々の魔力を増幅させたのだ。」老人の話を聞きながら、祐介は先ほどの特別なワインを思い出した。

「そして、ヴィティの犠牲によって新たな力を得た人々は、神々と力を合わせて邪神を打ち倒し、深く封印した。」祐介と亜里沙は互いに目を合わせ、頷き合った。

「しかし、戦の結果、多くの神々が力を使い果たし、長い眠りにつくこととなった。」老人の声は静かになり、しばらくの沈黙が流れた。

「それが、この世界の歴史なのだ。」老人は言葉を終えると、深く頭を下げた。祐介と亜里沙も、その重みを感じながら、頷いた。

祐介は老人の目をしっかりと見つめ、「その後の人々はどうなったのですか? 邪神を倒したあとの彼らの生活や、この世界の現状が気になります。」と尋ねた。

老人はしばらく考え込んだ後、深く息を吸って話し始めた。「邪神を倒したあと、人々は一時的な平和を享受した。しかし、時が経つにつれ、人々の中に欲望や野心が芽生え始め、争い事が再び起こり始めたのだ。」

亜里沙は少し驚いた顔をして、「邪神を倒すために団結した人々が、なぜ再び争いを始めたのですか?」と疑問を投げかけた。

老人は苦しそうに目を閉じながら答えた。「人々は神々から授けられた魔力を手に入れ、それがもたらす力に酔いしれてしまった。そして、魔力を持つ者と持たざる者の間に隔たりが生まれ、その差異から争いが生まれた。また、魔力をめぐる欲望も無限で、人々はその力を巡って争いを繰り広げたのだ。」

祐介は首を傾げ、「人々は邪神の教訓から何も学ばなかったのですか?」と問い詰めた。

老人は深くため息をついて言った。「残念ながら、人々は繁栄の時代には忘れやすいもの。彼らは一時的な平和と魔力の誘惑に目を奪われ、再び争いの渦に巻き込まれていった。それが、現在のこの世界の状態なのだ。」

祐介と亜里沙は老人の言葉に心を痛め、互いに目を見つめ、この世界の歴史と人々の過ちに思いを馳せた。

祐介が老人の知識に驚きながら、疑問を投げかけた。「貴方はなぜこんなにも詳しくこの世界の過去のことを知っているのですか?」

老人は一瞬、瞳の奥に深い哀しみが浮かんだが、すぐに表情を整えて答えた。「私はこの森で長い間、古の伝承を継承してきた者の一人だ。祖父から父、そして私へと受け継がれてきた物語と知識を、今は若者たちに伝える役目を持っているのだ。」

亜里沙は老人の答えに納得したように頷きながらも、その目にはまだ少し疑問が残っている様子だった。「それにしても、語りはまるで実際にその場面を見てきたかのよう。非常に生き生きとしていますね。」

老人は微笑んで答えた。「物語を語る者として、それが最大の賛辞だ。ありがとう。」と言って、再び紅茶を口に運んだ。だが老人は言えなかった。本当は力を失った神の一人であるこのを。

⭐️能力の目覚め⭐️

祐介と亜里沙はさらに数日老人の元に泊まり、この世界について多くの事をまなんだ。

4日ほど過ぎた後、老人は祐介と亜里沙の前に2つの古びた酒杯を置いた。「祐介、亜里沙、君たちはこの世界に特別な理由でやってきた。そして、特別な能力を持っているはずだ。」老人は言った。

祐介は酒杯に注がれたワインを一口飲んだ。その瞬間、彼の身体は明らかに変化を遂げた。彼の瞳は鮮やかな輝きを放ち、その身体からは強大な力が感じられた。祐介はワインを飲むことで、この世界の人々を軽く凌駕するような身体能力と魔力を得ることができた。

一方、亜里沙の前の酒杯には何も入っていなかった。しかし、彼女は手をかざすと、空中に透明なタブレットのようなものが現れ、その上にはオンラインショップのページのようなものが表示された。彼女はそこで、元いた世界のワインを選び、指でタップすると、実際にそのワインが彼女の前に現れた。亜里沙はこの世界のどこにいても、元の世界のワインをオンラインショップの要領で召喚する能力を持っていた。

老人は祐介にはワインを制限せず飲むことの重要性、そして亜里沙にはこの特別な召喚能力を正しく使うことの重要性を教えた。特に亜里沙の能力は、この世界でワインが重要な役割を果たしていることから、大変価値があるものであった。

二人は新たな能力を得ることで、この世界での役割が少しずつ見えてきた。彼らは老人のアドバイスを受け入れ、能力を活かして新たな冒険を始めることに決意した。

「明日にはここを経ち、王都に向かうとよいだろう。この世界を目で見て感じる事ができる。数日の旅にはなるが、二人なら大丈夫だろう。」老人は続ける「そうだ、二人にプレゼントがある。祐介よ、そなたには剣と盾を授けよう。これで災を切り裂き、人々をまもるんだ。亜里沙にはこの何でも収納できるバッグを授ける。」

祐介と亜里沙は、老人の住む小屋の前に立ち、王都への旅の準備を整えた。太陽はやさしく森を照らしていて、鳥たちのさえずりが聞こえてきた。

祐介は老人の手を握り、目を見つめた。「あなたのおかげで、私たちにこの新しい世界の知識と武器を与えてくれた。感謝してもしきれません。」

老人はにっこりと笑った。「私はただ、道を示すことができただけだ。道を進むのは君たちだ。」

亜里沙は魔法のバッグを指さして、微笑んで言った。「このバッグ、本当に便利だと思う。大切に使います。」

老人は頷き、「君たちの旅が成功することを心から願っている。しかし、何か困ったことがあれば、この森に戻ってくることも忘れないで。私はいつでも君たちを待っている。」

祐介は「それは覚えておきます。」と言いながら、老人の肩を軽く叩いた。

亜里沙は老人に手を振り、「さようなら。」

老人も手を振り返し、「さようなら、若者たちよ。風が君たちの背中を押してくれることを願っている。」

そうして、祐介と亜里沙は老人の住む森を背にして、王都への道を歩み始めた。

⭐️異世界での冒険⭐️

森の中は祐介と亜里沙にとって未知の世界であった。しかし、新たに手に入れたアイテムの力を信じて、二人は自分たちの足で新しい地を探索していった。

太陽が真上に来た頃、二人の前に大きな緑色の魔物が現れた。鱗に覆われた体と、鋭い牙を持つその魔物は、二人を睨みつけてきた。しかし、祐介は迷わず剣を構え、一撃で魔物を討ち取った。驚くことに、その魔物は一瞬で輝く宝石や金貨といったドロップアイテムに変わってしまった。

「これは便利だね、あの人がくれた剣のおかげで。」祐介は驚きつつも、ドロップアイテムを魔法のバッグに収納した。

夕方になり、今度は大きな角を持った野獣が二人の前に現れた。しかし、祐介の剣の前には、その野獣もすぐに倒れ、その場で美味しそうな肉に変わった。

「これは驚きだね。こんなに簡単に料理が楽しめるなんて。」亜里沙は嬉しそうに言いながら、変化した肉を魔法のバッグに収納した。

夜になり、二人は森の中の開けた場所でキャンプファイヤーを灯し、その日獲得した肉を焼きながら、亜里沙が召喚したワインと共に楽しい時間を過ごした。星空の下で、美味しい料理とワインを楽しむ二人の姿は、まるで異世界の冒険者のようであった。

祐介と亜里沙は森の深い部分に足を踏み入れると、未知の魔物や奇妙な植物たちと出会いながら、新たな冒険の波に飲み込まれていった。森の中は美しく、鳥の鳴き声や風が樹木を通り抜ける音が心地よく響き渡っていたが、その美しさの裏には予測できない危険が待ち構えていることも事実であった。

祐介は剣を構えながら進む中で、時折、突然の魔物の襲撃に驚かされることが多く、彼の表情は日々の疲労と緊張でこわばっていた。一方、亜里沙は魔法のバッグから必要なものを取り出しながら、祐介のサポートをしていたが、彼女の瞳には隠せない疲れと不安が滲んでいた。

夜になると、二人はキャンプを設営し、火を囲みながら食事をとるのだが、その時の会話も以前の明るさは影を潜め、必要最低限のことしか話さなくなっていた。火の明かりが二人の疲れた顔を照らす中、時折、遠くから聞こえる魔物の唸り声や夜の生物の鳴き声が、二人の心を更に重くさせていた。

亜里沙は、キャンプファイヤーを見つめながら深くため息をついた。「こんなに美しい星空の下で過ごすのに、心から安らげることができないなんて…」彼女の心中には、疲労とともに安心して眠ることへの切なる願いが渦巻いていた。

祐介も同様に、背筋を伸ばして空を仰ぎ見た。「こんなに壮大な自然の中で冒険をしているのに、心のどこかで常に警戒していなければならないこの緊張感…」彼の心には、自分と亜里沙を守るための重圧と、二人が安全に過ごせる場所への願いを思いながら、気を失う様に眠りについた。。

⭐️安全空間の発見⭐️

朝の陽光が森を優しく照らし出す中、祐介と亜里沙は早起きしてキャンプの片付けを始めていた。昨晩の疲労が顔に見え隠れする中でも、新たな日の冒険に備えての準備は怠らなかった。

二人が朝食を取りながら次の目的地を確認していると、突如、地響きのような低い唸り声が聞こえてきた。その音は急速に近づいてきており、一瞬で二人の顔色が変わった。

「あれは…!」祐介が声を上げる前に、森の木々の間から巨大な魔物が姿を現した。体長10メートル以上の巨大な獣で、鋭い爪と牙、燃えるような赤い瞳を持っていた。その姿はまるで獰猛な熊と竜が合体したような、畏怖の対象だった。

「後ろ、後ろへ!」祐介が叫び、亜里沙を引き寄せて安全な場所へと導いた。彼の手にはすでに剣が握られていた。亜里沙も慌てず、魔法のバッグからワインの瓶を取り出し、その魔力を取り込む準備を始めた。

魔物は二人の存在に気づき、大きな声で唸りながら迫ってきた。その巨大な体を使って、木々を薙ぎ払いながら進んできた。

祐介は瞬時に剣を振り下ろし、魔物の腕を切りつけた。しかし、その切り傷は魔物にはほんの小傷に過ぎなかった。逆にその行動が魔物を怒らせ、一層激しく襲いかかってきた。

この時、亜里沙がワインの魔力を解放。彼女の周りには光の渦が形成され、それが一気に魔物の目の前に広がった。その光の中から繰り出される強力な魔法の一撃は、魔物の体を後ろへと吹き飛ばした。

祐介はその隙をついて、全力で魔物の首を狙って剣を振り下ろした。魔物の皮膚は厚く、一撃で仕留めるのは難しかったが、連続しての攻撃でとうとう魔物は息絶えた。

二人は息を切らせながら魔物の体を見つめた。「大変だった…」と祐介がつぶやき、亜里沙も頷きながら、「でも、私たちは無事だ。それが何より」と安堵の表情を浮かべた。

祐介と亜里沙が巨大な魔物を打ち倒した後、紫色の輝く魔石が地面に落ちていることに気づく。祐介は魔石を手に取り、眺めながら言った。「これは、今までにない色の魔石だね。」

亜里沙が興味津々に魔石を手に取る。「なんだか、温かさを感じるわ。魔物のドロップアイテムにしては、変わっている。」

祐介は、亜里沙の指摘に頷いた。「あれ?なんか文字が浮かんできたよ。」

亜里沙が覗き込むと、魔石の表面には「心の願いを込めて触れよ」という文字が浮かんでいた。

「心の願いって、今の僕たちには安全な場所で休むことだよね。」祐介が言った。

亜里沙が微笑みながら言った。「それに、普通のテントよりもっと快適な場所がいいわ。」

二人が魔石に願いを込めながら触れると、魔石は眩い光を放ち始め、その場所に小さな木造のコテージが現れた。

祐介は目を丸くして言った。「まさか、こんなにすごい魔石だったとは!」

亜里沙も驚きの声をあげた。「これは予想外だわ。こんなに素敵なコテージになるなんて。」

コテージには、二人がくつろげる椅子やテーブルまで置かれており、中にはベッドやキッチン、シャワーとトイレが完備されていた。

「これで、どんなに過酷な場所でも、僕たちは安全に休むことができるね。」祐介が嬉しそうに言った。

亜里沙も満面の笑みで言った。「この魔石、大切にしなくちゃ。これからの旅がもっと楽しみになったわ。」

⭐️マリアージュを愉しむ⭐️

夕日がゆっくりと森をオレンジに染めていく中、祐介と亜里沙はコテージの庭でテーブルをセッティングし始めた。今日の彼らの成果、魔物と狩った獣から手に入れた新鮮な肉を主とした料理が並んでいた。

亜里沙は魔法のバッグから取り出したシャンパンと赤ワインをテーブルに置き、「これは、特別な日にふさわしい一品よ。」と微笑んだ。

祐介は焼き上がったばかりのジューシーなステーキを取り分けながら、「すごいワインだ。モエ•エ•シャンドンのシャンパンとプリューレ・ロックのジュヴレ・シャンベルタン プルミエ・クリュって、元の世界ではとても高価なワインだよな。」

「ええ、それにこのワインたちは、この料理とのマリアージュが最高なの。こんなステキに日だから、飲んでみたくなって」亜里沙は目を輝かせて言った。

二人が食事を始める。まずはシャンパン。その繊細な泡立ちとフルーティな香りが口いっぱいに広がった。その後、ステーキとともに赤ワインを楽しむと、ワインの深い味わいが肉の旨味を更に際立たせた。

食事を進めるうちに、祐介と亜里沙は体の中で熱を感じ始めた。それはただの暖かさではなく、力が湧き上がってくるような感覚だった。特別なワインが、彼らの魔力を刺激し、これまで以上に能力値の上昇をもたらしていたのだ。

「これは…すごい。亜里沙、感じる?この力の上昇を。」

「うん、すごく。今まで味わったことのない感覚よ。このワイン、本当に特別なんだね。」

二人は互いに目を合わせ、この特別な日の成功を祝福するように乾杯した。暖炉に火を焚き、久々にリラックスした雰囲気になった。このところ気づかず疲れが溜まっていたし、気を張り詰めていたせいだったのは言うまでもない。

食事も終えて、暖炉の前に敷かれた毛皮の上で、二人はワイングラスを手にしている。

亜里沙:「このワイン、香りも良くて、本当に特別な味がするね。」

祐介:「うん、亜里沙が選んだからだろうね。君のセンス、本当にすごいよ。」

亜里沙は少し照れくさい笑顔を見せ、祐介にちょっとしたいたずら顔を向ける。

亜里沙:「祐介も、あの剣の使い方、すごかったよ。私、ちょっと…いや、かなり感動してた。」

祐介:「本当に? ありがとう。でも、それも君が隣にいたから、力が出たんだ。」

亜里沙の顔が少し赤くなり、目をそらしてしまう。祐介はそれに気づき、少し笑って言った。

祐介:「もっと、亜里沙とこんなリラックスした時間を過ごしたいな。」

亜里沙:「私も、祐介となら、どんな困難な状況でも大丈夫だと思える。」

祐介:「さっきの戦いで、一番印象に残ってる瞬間って、何かある?」

亜里沙:「うーん、やっぱり祐介があの巨大な魔物の一撃を避けて、反撃した瞬間かな。本当に息を呑んだよ。」

祐介:「ホント驚いたよ。でも、亜里沙がタイミング良くワインを召喚してくれたおかげで、エネルギーを回復できたからさ。それにしてもコンビニで売ってるミニボトルのワインでもズゴイ力がだせるなんて思わなかったよ」

亜里沙:「ふふ、私、けっこうアレ好きなの。手軽だし、たまに会社終わりに買って飲みながら帰ったこともある。」

祐介:「わかるー。たまに買っちゃうよね。。。この世界にきてまだまだわからない事ばかりだけど、亜里沙がいてくれるおかげで、なんだか気持ちが楽になるなぁ。」

亜里沙:「私も、最初は戸惑ったけど、今は祐介と一緒にいられることが嬉しい。」

祐介:「…それ、どういう意味だ?」

亜里沙:「あ、えと…つまり、一緒に冒険できるパートナーがいるって感じ?」

祐介:「ふふ、ありがとう。それにしても、今夜は星がきれいだね。」

亜里沙:「うん、このコテージのからは、星空を満喫できるから。一緒に見上げるのもいいかも。」

祐介:「それ、いいね。」

二人は夜空を眺めだすと急に照れ臭い思いがしてきた。お互いそれを察し、祐介は話題を変えた。

祐介:「コホン。さて、もう一本何か飲みたいなぁ。今度は俺に選ばせてくれる?」

亜里沙:「もちろん!祐介が選ぶワイン、楽しみにしてるよ。ただ、召喚できるワインにはちょっとした条件があって…」

祐介:「条件って?」

亜里沙:「私のこの能力、実は単純に好きなワインを召喚できるわけじゃなくて、私のレベルや、敵を倒した時に得られる経験値、あとまだよくわからないけど他にも要因がある気がする。。。そのポイントの合計に応じて召喚できるワインが決まるんだよ。」

祐介:「なるほど、それは面白い!じゃあ、強い敵を倒すほど、高級なワインを楽しめる可能性が高まると?」

亜里沙:「そう、まさにその通り!だから、どんなワインが呼び出せるかは、私たちの行動によって変わるの。」

祐介:「わかった。それなら、次の戦いも頑張って、いいワインを一緒に楽しもう!」

亜里沙:「楽しみだねー」

祐介:「でも、今どんなワインにしようかなぁ。そういえば、亜里沙は自然派ワインが好きだったよね?」

亜里沙:「うん、そうなんだ。自然派ワインの独特の風味や香りが好きなんだ。」

祐介:「じゃあ、僕が思っているのはピッタリかも。ブラインド・コーナー・ゴヴェルノっていうのを一度試してみたいんだけど、それ、召喚できるかな?」

亜里沙は少し考えるように目を閉じた。「ちょっと確認してみるね。」数秒の沈黙の後、彼女は目を開けて祐介に微笑んだ。「大丈夫、召喚できるわ!」

祐介:「じゃあ、それで決まりだね!楽しみだ!」


二人は少し照れくさい雰囲気になりながらも、お互いの目をしっかりと見つめ合う。その瞬間、二人の距離が一気に縮まり、真心を感じ取ることができるような、特別な時間になった。

祐介:「亜里沙、これからも一緒に冒険して、美味しいワインを楽しもうね。」

亜里沙:「うん、私もそれが楽しみ。祐介と一緒なら、どんなワインも特別な味になる気がする。」

その言葉に、二人の目が再び合った。この瞬間、何かが確定したような、そんな感覚に包まれる。そして、亜里沙の手がふわりと動き、指先で祐介の手を触れる。祐介もその手をしっかりと握り返す。

亜里沙は呪文を唱えると、空気に輝きが広がった。次の瞬間、テーブルには「ブラインド・コーナー・ゴヴェルノ」のボトルが現れる。

祐介:「すごい、これが召喚魔法か。」

亜里沙:「うん、ちゃんと召喚できたみたい。」

祐介はコルクを抜き、ワイングラスに注ぐ。そのワインの香りが広がると、二人の心もまた温まった。

祐介:「さあ、乾杯。これからも、美味しいワインと素晴らしい冒険を一緒に。」

亜里沙:「乾杯、祐介。これからもよろしくね。」

グラスが軽く触れ合い、その音が暖炉の火とともに響いた。この瞬間が、新たな冒険と新たなマリアージュの始まりを告げるようで、二人はしっかりとその瞬間を刻み込む。

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