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番外編
1.可愛くて当然! sideハーラル
しおりを挟む僕の存在価値は「可愛くある事」
可愛いが僕の全てを肯定する。
最初に可愛いを肯定してくれたのは家族以外でアルが初めてだった。
「君、かわいいね。おなまえなんていうの?」
「ハーラル…」
真っ赤なバラのお庭に埋もれた真っ白の王子がつまらなそうにお空を見上げてて
それが僕とアルの出会いだった。
つまんなそうにたくさんの大人に囲まれていた真っ白な王子様は
僕の存在に気付くと
蕩けんばかりの笑顔を向けて手を広げてくれたのが印象的で未だにその光景が忘れられない。
「ぼくはアル。いっしょに遊ぼう」
「…うん」
それからお母様に連れられて何度もアルのところへ遊びに行くようになって
アルともっと仲良くなった。
手を繋いで迷路みたいな庭を駆け回って
辿り着いた広場はアルみたいに真っ白なお花がたくさん咲いていて
そこに座ったアルが自分の隣に座るよう手招きしてきた。
ちょこん、と隣に膝を抱えて座り込んでアルを見ていたら、白い花を摘んで小さな手で器用に編み上げ花冠を作ってみせれば、それを僕の頭の上に乗せてくれた。
「うん、やっぱりハーラルに一番にあう。すごくかわいい!」
「ほんと??…これもらってもいい?」
「うん!ハーラルあげたくて母上におしえてもらったんだ」
「ありがとう…うれしい」
「あとね、ゆびわもあるんだよ!」
いたずらっこみたいな笑顔を見せてポケットに隠していた花の指輪を取り出して、僕の手を取ると左手の薬指に何の躊躇もなくはめる。
「はなよめさんみたいだね」
「おっきくなったら本物の指輪あげるね!」
なんて無邪気に笑ってたあの時の約束なんて
もうとっくに反故にされてたんだと思ってたんだよね。
僕の6歳の誕生会で初めてズボンを履いた時
アル、泣きそうな顔してたもんなぁ。
「ハーラル…男の子だったの?」
「知らなかったの?」
「うん…ごめんね、気付かなくて」
父の祖国はこの国ではないので少し習慣が異なっていて、6歳までは神様に連れていかれないように男児は女の子の服を着なくちゃいけなかった。
迷信だという声もあったのだけれど、もともと僕の身体が弱かった事もあって、それをとても心配した母が父の国の習わしをきっちり守った結果であると聞かされて育っていたので特に違和感はあまり感じていなかったのだけど、他の人は違うんだな、と思った瞬間でもあった。
「でもハーラルはハーラルだよ。その格好もかわいい!…実はね、誕生日プレゼントを髪飾りにしちゃったんだ。もういらないよね…」
「ううん!ありがとう!!つけてくる!」
その時もらったものは僕の瞳と同じ色したピンクサファイアで作った花の髪飾り。
アルの髪の色と同じ銀色のリボンが付いていてとても可愛らしいものだった。
今でも大切に保管してる。アルから貰ったものが多すぎて今ではあまり使う機会がなくなってじまったけれど。
それからもアルは会うたびに"かわいいね"って褒めてくれるから、いつの間にかかわいいって言われる事が当たり前になって行った。
アルが僕に可愛いねって言うおかげで周りの貴族も僕のことは『そういうもの』なんだと理解したみたいで、他の者からも『可愛い』のだと言われる事も多くなって、それ以外、誇れるものなんてなかったから
僕自身、かわいい事こそが自分のアイデンティティになってしまっていたんだと思う。
そんな時だった。
彼女が現れたのは。
水色の妖精みたいな薄い布を何重にも重ねたドレスを纏った彼女は
見た事もないような繊細な柄の刺繍のリボンをヒラヒラさせながら
突然現れて、その天真爛漫さにみんなが口々に可愛いと口にした。
彼女は隣の王女でアルと並ぶその姿は、まるでおとぎ話の王子様とお姫様そのもの。
彼女の綻ぶような笑顔はその場にいた誰しもを魅了させるには十分すぎるくらいだった。
アルですら目を細めて彼女を見て嬉しそうに笑っていた。
そういう僕だって魅了的な彼女から目を離せなかったはずなのに
アルが同じように彼女に囚われているのが
なんだか面白くなくて、それ以上のアルの顔を見ないようにしてたから、よくは思い出せない。
そこから僕は一層可愛さにこだわるようなっていったんだと思う。
僕にとっての唯一のアイデンティティが崩れてしまうのが怖くて…
「ハーラル、可愛いね」
いつの日だったろうか…
アルの可愛いが変化してきた事に気付いたのは。
「なーに?僕が可愛いのは当然でしょ?」
…努力してんだから。
と最後まで言う前に蕩けた顔して微笑んで
まるで愛おしいみたいな甘い声で可愛いを口にする。
努力してる事なんて知ってる、みたいな顔してるのが
不思議と嫌じゃなかった。
「ハーラルは存在してるだけで可愛い」
と頬に触れてくる。
全てを肯定するような顔して
まったくどういうつもりなのか…。
髪を撫でてじっと見つめてくるから、その空色の瞳に自分が映る。
顔が熱い気がするけど
瞳の中の自分じゃよくわからない。
髪を撫でて、頬に移動して
首元に滑る指。
指が動く度にドキドキ脈打つ心臓が煩くなる。
どうしたらいいのかわからなくて耐えていると、今まで蕩けてた顔してたくせに困ったように目尻を下げてやっと手が止まった。
「…気が済んだ?」
「全然足りないけど今日はこれくらいにしておかないとハーラルに嫌われちゃうかなと思って」
「別にこれくらいじゃ嫌わないけど」
「じゃ、もっと触ってもいい?」
「………ダメ」
「えー?」
「何かが減る。ほら、起きて。ルイが書類の山作って待ってるよっ」
ぺしっと軽く頭を叩いてアルから少し距離を取る。
このままだと起きてくれないし、今日のアルが着る服でも選ぶとしよう。
銀色の髪に合わせて襟元に銀糸の刺繍がある水色のジャケットにしようか…
それともシックに黒のジャケットでも似合いそう。
「ふふっ、奥さんみたいだね?」
後ろから覗き込むようにして僕の方に顔を乗せる。
………すごく顔近いんだけど。
「はぁ?メイドの間違いでしょ。どこの世界に夫の服を選ぶご婦人がいると思ってんの…」
「…そうなんだ?俺は選んで貰いたいなぁ」
「そもそもアルがメイドに頼まないからやってるんだけど?それなら、そんな人を早く見つけて!」
「えー…ハーラルに選んで欲しいなぁ」
ドキンと胸が弾む。
無自覚に人タラシな発言するのはやめてほしい。
「さっき奥さんに選んで欲しいって言ったじゃん。もー!バカな事ばっか言ってないで早くバスルーム行ってきてよ」
すぐ横にある顔を押し退けて、黒い方のジャケットを準備する。
後は小物かな?
「…おんなじ事なんだけどなぁ」
どれにしようか悩みながら引き出しを覗いているとアルが何か言った気して
「…なに?」
「なんでもないよ」
と手をフリフリとさせながらバスルームに消えていく。
もう!なんなんだよ!
…アルの行動がよくわからない。
可愛いって言われるのは嬉しいけど
それ以外の反応なんてわからないよ。
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