7 / 12
7.推しのために無双します!
しおりを挟む
彼女を連れて城に戻るなり、ひとまず暗部の3人を呼び出して隣国の戦況について把握する事にした。もちろんハーラルにも参加して貰う。
アリーシャの父、現在のラーゼス王とその王弟の権力争いが内乱の発端であるが、根本はどちらにも王家の証である聖魔法が継承されなかった事による正当性を危惧した貴族間の疑念が発端だと言う事はゲームと一致した展開に現状なっている事は理解した。
アリーシャの保護要請と謁見は先程ルイに頼んであるから良しとして
鍵となるアリーシャの覚醒が次なる優先課題なのだけど。
「なるほど。水面下で動いていた事が表立って動きを見せてきたって事だね」
「んで、アルはどーするの?」
「まずはアリーシャ王女はコンラートとニコルを連れて東の呪われた森へいっておいで。んで浄化してきて」
「ちょちょちょ!!!アル様、それはレベル的に無理!いきなり終盤ダンジョンとか鬼?!」
「え?レベル今どれくらい?」
「いちよーは32まで上げてるけど、あそこ50以上でしょ?」
「うーん…、じゃニコルとルイも連れて行っていいから」
「お前が行けば早いんじゃね?」
「…別に僕も行っていいんだけど?」
「俺は表立っては動かない。それにハーラルも貸出不可」
「「なんでだよ」」
「…一国の王子が1人の姫様に過度な干渉したら婚約だとか問題が多過ぎる。国としての支援は可能だけれど、そこら辺の線引きはしっかりしておきたいところかな?」
「じゃあ…僕は?」
「ハーラルが居ないと俺が寂しい…」
「……っ…留守番くらい一人で頑張りなよ」
「まぁまぁ!はーちゃん!アルくんははーちゃん居ないと何も出来ないから~」
ニコル、ナイスフォロー!
「俺の護衛が手薄になるのも状況として良くないしね」
念を押しのために一言加えると諦めたように仕方ないと笑ってくれたので良かった。
「アルフリート殿下を倒せる奴が居たら教えて欲しいくらいですけどね」
相変わらず辛辣な言葉を携えてルイが登場した。
「ルイ、早かったね。陛下への謁見はいつ可能に?」
「1時間後に謁見の前へ、とのこと」
「1時間か…。ハーラル、メイド長をここに」
「もう呼んでるよ、ラーニャお願い」
「彼女には背中の空いたドレスを用意するように」
畏まりました、とメイド長は何も分かっていないアリーシャを連れて部屋を出ていき、ハーラルへ視線を戻す。
「あの汚れた制服で謁見はさすがにかわいそうだから先に呼んでおいたんだけど、丁度良かったみたいだね。…そういえばカロリング伯爵家に使いは出したの?」
「ありがとう。そっちも終わってるので到着次第、謁見の広間へ案内するよう伝えてあるから大丈夫」
「アルも着替えた方がいいんじゃない?そのままで行くつもり?」
「…少しやっておきたい事があって。みんなにも手伝って貰えないかな?」
「それはいいのですが、彼女が王女である証拠と、さらに言えば聖魔法を覚醒出来る保証はあるんですか?」
剣呑そうに尋ねて来るルイが言う事もごもっともだ。
知らない人からすれば不確実な要素に国を動かすなどあり得ないのだから。
「王女である証拠は昔、彼女に会った事がある事と、彼女が持つネックレスに刻まれた王家の紋章で充分かと思うよ」
「ははーん、あの初恋のお嬢さんか」
得意げな笑みを浮かべて笑うカインに肯定も否定もせずに笑う。
…まぁそういう設定だけどね。
私はハーラルの女装姿が本当の初恋だった説を推したいっ
「あとは聖魔法の覚醒については彼女自身の努力が必要ではあるけど、兆候は見え始めている…らしい」
「…らしいって言うのは?」
こてん、と首を傾げてくるハーラルをぎゅーっと抱き締めたい!!
可愛いぃいいい!!!!!
はっ?!みんなが回答を待ってる。真面目な顔を崩さないようにしないと。
「背中の聖痕が現れ始めているらしい」
「だから背中の空いたドレス…」
「あぁ…。論より証拠。物証は揃っているから後は支援するだけのメリットを集めればいい」
「そんなに簡単に集まるの?」
「…当てはあるんだけどね。確証が欲しいからここに集まって貰った訳なんだけど…、ラーゼスの山岳地帯の情報と現在の通行税、輸出入に係る課税のデータを集めて欲しい」
「じゃ、ちょっと酒場に顔出して来るか」
「…30分以内に戻るように」
「へいへい」
手をひらひらさせながら窓の外へと消えていくカインを見送る。
「コンラッド、25分には迎えに行くように」
「チッ…、なんで俺が」
「カインはルーズだからね~」
「ニコルには言われたくないと思うよ」
呆れ顔のハーラルに言われて、ニコルが縋るような目でこちらを見ると救いを求めて駆け寄り
「アルくんだってルーズ仲間だよっ!」
「あのね、アルはギリギリまで駄々捏ねてるだけで時間にはきっちり間に合わせてるの!」
「ぷっ…駄々って子供かよ…」
珍しくルイが笑ってる…。
アル以外には心開いているってゆーか、なんとゆーか。
「それハーくんが管理してるだけじゃん」
「…別に何かしてる訳じゃないし、基本的に勝手に動いてるだけなんだよ、アルは」
和やかな会話の中、積まれてくる書類に目を通しながら、先日作ったばかりの付箋と色付きのインクでめぼしい箇所に印をつけて書類の山を確実に崩していく。
それをハーラルが箇条書きにして一つの資料をまとめてくれる。
ハーラルは参考文献がどれなのか、どこに記載されているかもしっかり記してくれるので本当に有能なのだ。
コンラッドに連れられて戻ってきたカインの情報と纏めた資料を手に立ち上がると、ちょうど良いタイミングで準備の整ったアリーシャを連れたカロリング伯爵が登場したのだった。
「アリーシャ王女、とても似合ってらっしゃいます(孫にも衣装やな)」
「アルフリート陛下、色々とご助力頂きありがとうございます(小声聞こえてますって!)」
降ろされた髪を掬い、肩甲骨の辺りに浮かぶダリアの花のカタチをした聖痕を確認すると、後ろで控えてた者たちも小さく頷くのを確認して謁見の間へと足を進めた。
謁見の間に、入室するのも実は初めてなので私自身、ちょっと緊張する。
普段、父とのやり取りや公務は別の場所で行われるし、改まって話をする事はそうそう無い。
不安を払拭するように少し後ろを歩くハーラルを見遣れば、視線に気付いて唇の動きだけで
"がんばれ"と伝えてくれる。
それだけで…
きっと無敵になれる。
意を決して王座に腰を掛ける父に向き合うと、アリーシャを保護した経緯。
彼女に国として支援して欲しい旨を伝え、当然のように婚姻も進められたが、支援する事で生まれる国益と、支援する見返りとして彼女の父に要求する国交間で発生する軽減税率についての案を説明した。
その場で承認は得られなかったが議会で議題に挙げてくれる事になった。
でも自ら説明するという事が条件だが賛同はして貰える言質は取れたので、まぁ結果は悪くない。
なんせ、うちからしたらメリットしかないのだから。
投資額の損益分岐点は計算できてるし、後は議会での承認のみなのでまぁ、賞賛はある。
そもそもラーゼスは現世で言うとバチカン市国みたいなもので、アリーシャの父は法王のような存在なのだ。
その為、聖魔法の有無が大変重要になってくるのだ。
聖都市としての機能があるため他国介入が難しい点と教会を通しての寄付金で成り立っている国のため資源が乏しい。
…と言われてる。
本当は資源の宝庫なのだが資金力の問題故に開発が進んでないのもある。
それを宗教的な理由を隠れ蓑に貧困さを露見させないようにしているからタチが悪いのだ。
そこら辺は共同開発に留めて、後の改革はアリーシャに頑張って貰うとして外堀だけは埋めておかないとなぁ。
などと考えを色々巡らせていると温かい眼差しを向けていた父と目が合う。
「…どうかされましたか?」
「アルフリートは後で私の執務室にくるように。他の者は戻ってよい」
皆が退室するのを見送り、護衛以外の2人だけになるのを確認して
「一旦、着替えに戻っても?」
「よい、食事はまだだっただろう?食べながら話そう」
「わかりました。では後ほど」
面倒ごとを増やされそうな予感しかない。
さてどうしたものかと考えを巡らせながら謁見の間を出ると扉の横でハーラルが待機しているのが見えた。
「ハーラル!帰ってなかったんだね」
「帰って欲しかったの?」
「ううん、居てくれて嬉しいよ。ありがとう」
抱きしめたいのを堪えて頭をそっと撫でる。
今日も超絶気持ち良い手触りに指を滑らせてると、その手を掴まれる。
「こんな事してる場合じゃないでしょ?」
「そうだった…。この後、着替えて父上と食事を取る予定だったんだ」
自室に向かいながら話を続ける事にしよう。
長い廊下を少々足速に足を進めながら、ちらりと横を向けば並んで歩く頭一つ分低い高さにある深海の色した肩まで伸びた髪がサラサラと揺れる。
その様子を見つめていたら、目線が不意に重なって、桜色の唇が開く。
「了解。湯浴みの準備はして貰ってるから部屋に戻ろう。服は準備しておくからそのままお風呂に向かっちゃっていいよ」
「いつも助かるよ」
「いつもの事だからね」
得意げに鼻を鳴らしてご機嫌な顔してる彼の顔を見るのがとても好きだ。
勝ち気な目がキラキラと輝くから、それがとても綺麗だと思う。
こうして他愛もない会話をしてる時間が1番楽しい。ハーラルとの時間を楽しむために、きっと今が踏ん張り時なのだろう。
自室にの扉をハーラルが開き、中に入る。最初は推しにこんな事させてる事も慣れなかったけど、人間わりと適応力があるようで慣れてしまうもんなんだな、と思う。
部屋に入り制服のジャケットとネクタイを外すとハーラルが当たり前のように受け取り
「あとアリーシャ王女は一度カロリング家に戻るって」
「そう。今はそれで問題ないかな。議会で話す前には城で保護しておいた方がいいかもしれないね。レベリングもしたいし」
「レベリング…?」
片付けの手を止めてハーラルはこちらを振り返る。
「うん、今はハイヒールが使えるくらいのレベルしかないから、王位継承の正当性をアピールするには聖女くらいの魔法使えた方がいい。こちらも支持しやすいし」
「ハイヒールでも凄いと思うけど?」
「エクストラヒールくらいは使えるようになって貰わないとね」
「あぁ、それで呪いの森…」
「あの3人がついてれば内乱の鎮圧も出来そうだけどね」
「…そうだね。でもそれは本末転倒かな。制圧に結果的になってしまいかねないから」
「介入は難しそうだもんね、あの国」
「そういうこと。婚姻とかでも無ければなかなかね」
「アリーシャ王女の事、気に入ってるなら娶ればいいだけの話じゃないの?」
何食わぬ顔して言われたその言葉にズキリ、と鈍く胸が痛んだ。
「………そう、なのかもね」
あまり推しの口から聞きたくないセリフだな。
それがアルフリートに向けたものでも。
自分に向けたものでも。
それ以上に返す言葉が見当たらなくて、そのまま浴室の扉を閉めた。
「………アル、なんて顔してんの」
ハーラルが呟いた言葉は扉に遮られて届く事なく空に消えていった。
アリーシャの父、現在のラーゼス王とその王弟の権力争いが内乱の発端であるが、根本はどちらにも王家の証である聖魔法が継承されなかった事による正当性を危惧した貴族間の疑念が発端だと言う事はゲームと一致した展開に現状なっている事は理解した。
アリーシャの保護要請と謁見は先程ルイに頼んであるから良しとして
鍵となるアリーシャの覚醒が次なる優先課題なのだけど。
「なるほど。水面下で動いていた事が表立って動きを見せてきたって事だね」
「んで、アルはどーするの?」
「まずはアリーシャ王女はコンラートとニコルを連れて東の呪われた森へいっておいで。んで浄化してきて」
「ちょちょちょ!!!アル様、それはレベル的に無理!いきなり終盤ダンジョンとか鬼?!」
「え?レベル今どれくらい?」
「いちよーは32まで上げてるけど、あそこ50以上でしょ?」
「うーん…、じゃニコルとルイも連れて行っていいから」
「お前が行けば早いんじゃね?」
「…別に僕も行っていいんだけど?」
「俺は表立っては動かない。それにハーラルも貸出不可」
「「なんでだよ」」
「…一国の王子が1人の姫様に過度な干渉したら婚約だとか問題が多過ぎる。国としての支援は可能だけれど、そこら辺の線引きはしっかりしておきたいところかな?」
「じゃあ…僕は?」
「ハーラルが居ないと俺が寂しい…」
「……っ…留守番くらい一人で頑張りなよ」
「まぁまぁ!はーちゃん!アルくんははーちゃん居ないと何も出来ないから~」
ニコル、ナイスフォロー!
「俺の護衛が手薄になるのも状況として良くないしね」
念を押しのために一言加えると諦めたように仕方ないと笑ってくれたので良かった。
「アルフリート殿下を倒せる奴が居たら教えて欲しいくらいですけどね」
相変わらず辛辣な言葉を携えてルイが登場した。
「ルイ、早かったね。陛下への謁見はいつ可能に?」
「1時間後に謁見の前へ、とのこと」
「1時間か…。ハーラル、メイド長をここに」
「もう呼んでるよ、ラーニャお願い」
「彼女には背中の空いたドレスを用意するように」
畏まりました、とメイド長は何も分かっていないアリーシャを連れて部屋を出ていき、ハーラルへ視線を戻す。
「あの汚れた制服で謁見はさすがにかわいそうだから先に呼んでおいたんだけど、丁度良かったみたいだね。…そういえばカロリング伯爵家に使いは出したの?」
「ありがとう。そっちも終わってるので到着次第、謁見の広間へ案内するよう伝えてあるから大丈夫」
「アルも着替えた方がいいんじゃない?そのままで行くつもり?」
「…少しやっておきたい事があって。みんなにも手伝って貰えないかな?」
「それはいいのですが、彼女が王女である証拠と、さらに言えば聖魔法を覚醒出来る保証はあるんですか?」
剣呑そうに尋ねて来るルイが言う事もごもっともだ。
知らない人からすれば不確実な要素に国を動かすなどあり得ないのだから。
「王女である証拠は昔、彼女に会った事がある事と、彼女が持つネックレスに刻まれた王家の紋章で充分かと思うよ」
「ははーん、あの初恋のお嬢さんか」
得意げな笑みを浮かべて笑うカインに肯定も否定もせずに笑う。
…まぁそういう設定だけどね。
私はハーラルの女装姿が本当の初恋だった説を推したいっ
「あとは聖魔法の覚醒については彼女自身の努力が必要ではあるけど、兆候は見え始めている…らしい」
「…らしいって言うのは?」
こてん、と首を傾げてくるハーラルをぎゅーっと抱き締めたい!!
可愛いぃいいい!!!!!
はっ?!みんなが回答を待ってる。真面目な顔を崩さないようにしないと。
「背中の聖痕が現れ始めているらしい」
「だから背中の空いたドレス…」
「あぁ…。論より証拠。物証は揃っているから後は支援するだけのメリットを集めればいい」
「そんなに簡単に集まるの?」
「…当てはあるんだけどね。確証が欲しいからここに集まって貰った訳なんだけど…、ラーゼスの山岳地帯の情報と現在の通行税、輸出入に係る課税のデータを集めて欲しい」
「じゃ、ちょっと酒場に顔出して来るか」
「…30分以内に戻るように」
「へいへい」
手をひらひらさせながら窓の外へと消えていくカインを見送る。
「コンラッド、25分には迎えに行くように」
「チッ…、なんで俺が」
「カインはルーズだからね~」
「ニコルには言われたくないと思うよ」
呆れ顔のハーラルに言われて、ニコルが縋るような目でこちらを見ると救いを求めて駆け寄り
「アルくんだってルーズ仲間だよっ!」
「あのね、アルはギリギリまで駄々捏ねてるだけで時間にはきっちり間に合わせてるの!」
「ぷっ…駄々って子供かよ…」
珍しくルイが笑ってる…。
アル以外には心開いているってゆーか、なんとゆーか。
「それハーくんが管理してるだけじゃん」
「…別に何かしてる訳じゃないし、基本的に勝手に動いてるだけなんだよ、アルは」
和やかな会話の中、積まれてくる書類に目を通しながら、先日作ったばかりの付箋と色付きのインクでめぼしい箇所に印をつけて書類の山を確実に崩していく。
それをハーラルが箇条書きにして一つの資料をまとめてくれる。
ハーラルは参考文献がどれなのか、どこに記載されているかもしっかり記してくれるので本当に有能なのだ。
コンラッドに連れられて戻ってきたカインの情報と纏めた資料を手に立ち上がると、ちょうど良いタイミングで準備の整ったアリーシャを連れたカロリング伯爵が登場したのだった。
「アリーシャ王女、とても似合ってらっしゃいます(孫にも衣装やな)」
「アルフリート陛下、色々とご助力頂きありがとうございます(小声聞こえてますって!)」
降ろされた髪を掬い、肩甲骨の辺りに浮かぶダリアの花のカタチをした聖痕を確認すると、後ろで控えてた者たちも小さく頷くのを確認して謁見の間へと足を進めた。
謁見の間に、入室するのも実は初めてなので私自身、ちょっと緊張する。
普段、父とのやり取りや公務は別の場所で行われるし、改まって話をする事はそうそう無い。
不安を払拭するように少し後ろを歩くハーラルを見遣れば、視線に気付いて唇の動きだけで
"がんばれ"と伝えてくれる。
それだけで…
きっと無敵になれる。
意を決して王座に腰を掛ける父に向き合うと、アリーシャを保護した経緯。
彼女に国として支援して欲しい旨を伝え、当然のように婚姻も進められたが、支援する事で生まれる国益と、支援する見返りとして彼女の父に要求する国交間で発生する軽減税率についての案を説明した。
その場で承認は得られなかったが議会で議題に挙げてくれる事になった。
でも自ら説明するという事が条件だが賛同はして貰える言質は取れたので、まぁ結果は悪くない。
なんせ、うちからしたらメリットしかないのだから。
投資額の損益分岐点は計算できてるし、後は議会での承認のみなのでまぁ、賞賛はある。
そもそもラーゼスは現世で言うとバチカン市国みたいなもので、アリーシャの父は法王のような存在なのだ。
その為、聖魔法の有無が大変重要になってくるのだ。
聖都市としての機能があるため他国介入が難しい点と教会を通しての寄付金で成り立っている国のため資源が乏しい。
…と言われてる。
本当は資源の宝庫なのだが資金力の問題故に開発が進んでないのもある。
それを宗教的な理由を隠れ蓑に貧困さを露見させないようにしているからタチが悪いのだ。
そこら辺は共同開発に留めて、後の改革はアリーシャに頑張って貰うとして外堀だけは埋めておかないとなぁ。
などと考えを色々巡らせていると温かい眼差しを向けていた父と目が合う。
「…どうかされましたか?」
「アルフリートは後で私の執務室にくるように。他の者は戻ってよい」
皆が退室するのを見送り、護衛以外の2人だけになるのを確認して
「一旦、着替えに戻っても?」
「よい、食事はまだだっただろう?食べながら話そう」
「わかりました。では後ほど」
面倒ごとを増やされそうな予感しかない。
さてどうしたものかと考えを巡らせながら謁見の間を出ると扉の横でハーラルが待機しているのが見えた。
「ハーラル!帰ってなかったんだね」
「帰って欲しかったの?」
「ううん、居てくれて嬉しいよ。ありがとう」
抱きしめたいのを堪えて頭をそっと撫でる。
今日も超絶気持ち良い手触りに指を滑らせてると、その手を掴まれる。
「こんな事してる場合じゃないでしょ?」
「そうだった…。この後、着替えて父上と食事を取る予定だったんだ」
自室に向かいながら話を続ける事にしよう。
長い廊下を少々足速に足を進めながら、ちらりと横を向けば並んで歩く頭一つ分低い高さにある深海の色した肩まで伸びた髪がサラサラと揺れる。
その様子を見つめていたら、目線が不意に重なって、桜色の唇が開く。
「了解。湯浴みの準備はして貰ってるから部屋に戻ろう。服は準備しておくからそのままお風呂に向かっちゃっていいよ」
「いつも助かるよ」
「いつもの事だからね」
得意げに鼻を鳴らしてご機嫌な顔してる彼の顔を見るのがとても好きだ。
勝ち気な目がキラキラと輝くから、それがとても綺麗だと思う。
こうして他愛もない会話をしてる時間が1番楽しい。ハーラルとの時間を楽しむために、きっと今が踏ん張り時なのだろう。
自室にの扉をハーラルが開き、中に入る。最初は推しにこんな事させてる事も慣れなかったけど、人間わりと適応力があるようで慣れてしまうもんなんだな、と思う。
部屋に入り制服のジャケットとネクタイを外すとハーラルが当たり前のように受け取り
「あとアリーシャ王女は一度カロリング家に戻るって」
「そう。今はそれで問題ないかな。議会で話す前には城で保護しておいた方がいいかもしれないね。レベリングもしたいし」
「レベリング…?」
片付けの手を止めてハーラルはこちらを振り返る。
「うん、今はハイヒールが使えるくらいのレベルしかないから、王位継承の正当性をアピールするには聖女くらいの魔法使えた方がいい。こちらも支持しやすいし」
「ハイヒールでも凄いと思うけど?」
「エクストラヒールくらいは使えるようになって貰わないとね」
「あぁ、それで呪いの森…」
「あの3人がついてれば内乱の鎮圧も出来そうだけどね」
「…そうだね。でもそれは本末転倒かな。制圧に結果的になってしまいかねないから」
「介入は難しそうだもんね、あの国」
「そういうこと。婚姻とかでも無ければなかなかね」
「アリーシャ王女の事、気に入ってるなら娶ればいいだけの話じゃないの?」
何食わぬ顔して言われたその言葉にズキリ、と鈍く胸が痛んだ。
「………そう、なのかもね」
あまり推しの口から聞きたくないセリフだな。
それがアルフリートに向けたものでも。
自分に向けたものでも。
それ以上に返す言葉が見当たらなくて、そのまま浴室の扉を閉めた。
「………アル、なんて顔してんの」
ハーラルが呟いた言葉は扉に遮られて届く事なく空に消えていった。
12
お気に入りに追加
223
あなたにおすすめの小説

使命を全うするために俺は死にます。
あぎ
BL
とあることで目覚めた主人公、「マリア」は悪役というスペックの人間だったことを思い出せ。そして悲しい過去を持っていた。
とあることで家族が殺され、とあることで婚約破棄をされ、その婚約破棄を言い出した男に殺された。
だが、この男が大好きだったこともしかり、その横にいた女も好きだった
なら、昔からの使命である、彼らを幸せにするという使命を全うする。
それが、みなに忘れられても_

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?
ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。
ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。
そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。
柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。
そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。
すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。
「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」
そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。
魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。
甘々ハピエン。

総長の彼氏が俺にだけ優しい
桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、
関東で最強の暴走族の総長。
みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。
そんな日常を描いた話である。

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる