5 / 12
5.スイーツより推しの方が甘い
しおりを挟む
早々に公務を終わらせて、推しを堪能するために護衛には少し離れた場所に配置させる根回しはもちろん忘れない。
暗部組の3人は学校に居る時は護衛も兼ねてるが本来は諜報活動などもあるため別行動も多いのは基本データとして頭に入れてあるので、そこからの邪魔は入らない。
推しの可愛さを堪能するために整えた準備に満足しつつ向かいに座り、キャンディボックスを手に次の飴を選んでいるハーラルを見つめる。
「ずっと気になってた事があるんだけど…聞いてもいい?」
「なぁに?あ、いちご味にしよっと」
私の質問よりキャンディを選ぶ事が優先される現実にちょっと涙が出そうなんですけど、はーたん。
いや、むしろそのツンすら寧ろウマウマ?
「ハーラルはどうしていつも向かいに座っているの?隣に座ってもいいのに」
「何言ってんの。それは僕がアルの家臣だからだよ」
「家臣と言っても従兄弟だろ?」
「あのね~!僕が公爵家で君は王族なの!そこでもう格差があるの!…同じ馬車に乗るだけでも問題なんだからね?つまりは全部アルのワガママ!」
「じゃ我儘ついでに、きてよ。ここ」
膝をポンポンと叩いてニヤニヤしてると、フンと鼻を鳴らして半眼の目で蔑むような視線。…たまらん。
「なんで隣から膝の上になってるわけ?そもそも恋人でもないのにそんな事するわけないでしょ?」
「恋人ならいい…?」
「恋人なら、ね。そもそも王太子のくせして婚約者すら作らないアルにできるかは謎なんだけど?」
「うーん…痛いところを突かれたね。でもヴィステーリア家は恋愛結婚推奨だから。運命の相手以外とは結婚するつもりもないかな」
これは作中のアルフリートの台詞だ。
「………まだ初恋、引き摺ってんの?」
「やだなぁ、俺の初恋はハーラルだよ?」
「…っ!!そっちじゃなくて!」
「5歳の時、ハーラルが女の子の格好して参加したお茶会が今でも忘れられないんだけどなぁ」
「もういいから!」
「可愛かったのに…。あの時、誰よりも俺の心を奪ったのはハーラルなのに」
そう、あのドレス姿に心を奪われたのは私だけじゃないはず。
髪色に合わせた紺色のドレスは袖に繊細なレース。
ふわりと揺れるスカートの裾から見えるたっぷりのモスリン。
カミツレの花を模した髪飾り。
どれを取ってもハーラルの可愛さを引き立てるセンスの良い着こなしを穴が開くほど見つめてたため、そのレース模様すら描けそうな勢いだ。残念ながら画力がないので再現は不可能ですけども。
話せば長くなる特殊な事情があって女装した推しがマジ天使だった事。思い出すだけで心が熱くなる。
「今の僕は…?」
「へ…?」
「今の僕は可愛くないの?」
え?可愛いしかないんですけど??
「…そんなの決まってるよ。ハーラルはいつでも可愛い。どんなハーラルでも素敵だよ。散策用の変装姿も可愛すぎてどうしようかなと思ってるぐらいで」
「…あっそ、ならいい。ほら、もう着いたよ。今日は話題のパフェ奢って貰うんだから!」
馬車の扉が開くと身軽にひょいっと飛び降りて、早く来いと言わんばかりに手招きする。
しまった、過去の回想に浸ってたら膝の上に座るハーラルを堪能する時間が!
やれやれ、とアル風に溜息を溢して馬車を降りれば、外装にやたらと拘りのありそうな白壁にロイヤルブルーの看板。
パルテノン神殿みたいな柱が特徴的な上流階級向けのカフェテリアだ。
ゲームのデート先としても定番中の定番。
マジマジと外装とハーラルの姿を眺めていたら、何かに弾かれたような音に気付いて後ろを振り返る。
きっとハーラルの魔法防御壁にでもぶつかったんだろう。防御壁自体に殺傷能力はないので傷付ける事はないと思うけど、ぶつかった衝撃で尻もちをついて転んでしまった女の子がいる。
「も…っ!申し訳ございません!!!」
「こちらこそ申し訳ない。大丈夫でしたか?」
手を貸そうと女性に手を差し伸べると、ハーラルが首を振って制止する。
…不用意に接点を持つな、という事か。立場的に王族は気を遣わないといけない事が沢山多すぎるんだよね。
アルフリートの大変さ少しはわかった気がした。
仕方なく手を下ろすと代わりにハーラルが手を貸そうと身を屈めると
女性はそれを察したのか慌てて自ら立ち上がり
「だっ!大丈夫です!お気遣い感謝します!!」
彼女が顔を上げて目が合う。……何処かで見覚えが。
「アル!っ…フリート殿下…」
今、愛称で呼ばれましたよね?慌てて後ろつけましたよね?
声が震えてるからそう聞こえるのかな?
震える瞳のブルーもコーラルピンクの髪色もハーフアップの髪型すら何処かで見覚えがあるんだけども。
「そんなに萎縮しないで。怪我はないかい?」
「はっはい!大丈夫です!!すみません、失礼しました!!」
こちらが申し訳なくなるくらい平謝りして大慌てでその場を走り去る、いや、あれは淑女がやらないレベルの猛ダッシュだ。
それくらいの走りを見せて人混みに消えていく姿を見送ってハーラルに視線を戻す。
「さっきはありがとう」
「当然でしょ。僕が着いてるのに素性が分からない人間を近付けるわけないじゃない」
「さすがはハーラル。ご褒美にたくさんご馳走するよ」
「…ダメだよ。血税を無駄使うのは良くないと思う」
「ハーラルのそういうところ好きだよ。心配しなくても俺の個人資産を使うつもりだから気にしないで」
エスコートする様に腰の辺りに手を置くとピクっとハーラルが反応を見せてくれるのがなんとも愛おしい。
横髪から覗く頬が真っ赤なハーラルをチラ見しながら店内に進むと、まぁ当然ながら2階に設けられた個室へと案内された。
個室にはテラス席も併設されており、そこでお茶を楽しめるそうなので、街の雰囲気が楽しみたいとテラスに運んでもらうよう伝える。
「個室も完備されてる分、客層も幅広く使えそうだよね。ここ」
「いまさら何言ってんの。だからこそ色んな情報が耳に入り易いってカインが言ってたじゃん」
「そう…だったかな?」
テラス席の椅子を引いて腰を掛けると、そこからは行き交う人々や馬車が石畳を駆けていく様子が一望できる。
「そうだよ、だからここに良く来てるんじゃない」
確かにここに来ている様子は何度もストーリー中の描写にもあった。
ヒロインとのデート先だってここだし。
ただし、ヒロインとのスチルは一階にある大広間のスペースで、大抵はそこで攻略対象と会うのだ。
確か、好感度1位と2位の鉢合わせイベントもあった。
ハーラルとアルを並ばせたくて調整に苦労したっけ。
………ん?
ヒロイン?
海のようなマリンブルーの瞳に、コーラルピンクの髪をハーフアップにして大きな赤色のリボン。
…………さっきのあの子!!
「…どうしたの?急に黙っちゃって」
「あぁ、さっきの転んじゃった子、何処かで見た気がするんだけど学校で会った事があるような気がして」
「同じ年齢くらいだからね。…気になるの?」
はーたん、めっちゃ悪い顔してる。
気になるっちゃ気になるけど正直メインストーリー進めたいわけじゃないしな。
別の攻略対象とイチャコラして頂きたいので、そっとスルーしよう。うん。
むしろ優先すべきはハーラルなのである。
なので
「可愛い子だったね」
わざと煽るような言葉をチョイスして発言した。
ちょっとぐらい妬いて欲しいという願望を優先してしまう事を許して頂きたい。
「僕よりも…?」
上目遣いで小首傾げて見上げるとかあざとレベル上級者かよ!!
ドッドッドッと興奮気味な心臓と鼻血出しかねないレベルの動揺を運ばれてきたコーヒーを一口含んで流し込む。
「ハーラルが1番が可愛い」
にっこりと微笑んでテーブルに並んだいちごパフェのてっぺんに飾られた一際大きいな苺をフォークで刺して、ハーラルの唇の手前まで運ぶ。
答えに満足したのか、苺に満足したのか、どちらかは分からないけれど嬉しそうに笑ってその唇が苺を捕らえるのを、ちょっと唇がエロくないか?とか、形のいい唇が動く様をついつい最後まで見守ってしまう。
「食べないの?いらないなら僕が食べちゃうけどー?」
と茶化されてしまったが、見惚れてたって言ったら怒るかな、とかちょっと思ってしまって笑って誤魔化す事にした。
揶揄いすぎて雰囲気を悪くしたいわけでもないし、そこまでやりすぎたらキャラを一脱してしまいかねない。
「いいよ、好きなだけどうぞ。ハーラルの食べてるところ見る方が楽しいからね」
元々甘党ではないし、アルフリートも甘党という設定はなかった。私、一個人の趣味趣向として言うなれば、酒の肴になりそうなものが好きなのでスイーツ革命とか女子力発揮した転生スキルは期待しないで頂きたい。
なんなら糖分は推しのから摂取する方向で!
「そんなに食べたら太りますー」
「もう少しお肉つけてもハーラルはいいと思うよ。抱き心地的に」
そう言ってぷるぷるのほっぺたを軽く摘む。
…ま、マシュマロや…。猫の肉球レベルの触り心地!!!
「アルの好みなんてどーでもいいよ。頬摘むのもやめて!」
「気持ちいいのに…」
本当にウザそうな顔してる。…めっちゃ可愛い。
名残惜しくて唇の端に触れてみると頬よりももっと柔らかでしっとりとした感覚に心臓の高鳴りが止まらない。
もっと触ってたいけど、セクハラで捕まりたくないしこの辺でやめとこう。
「え?なんかついてた?」
触れられたところを気にして自分の口を触りながら問いかける視線がこちらを向いた時、思わず先程までその唇に触れていた自分の指に舌を這わせ
「うん、(はーたんの唇が)甘いね…」
と見つめ返せば、口をぱくぱくさせて目を見張る姿に思わず笑ってしまうと、真っ赤な顔した彼の吊り目がキュッと上がって、赤らめた頬を一層赤くして
「もぅ…!バカ!変態!!」
と抗議の言葉を口にする。
ちょっと涙目なところがまた素晴らしく可愛い!と打ち震えてしまう。
そんな可愛いはーたんを堪能していたいのに、そうは問屋が卸さねぇわけで。
「ふぉおぉおおおおぉおおお!!!!」
と雄叫びにも似た奇声。
うん?
この世界観でそれはないだろ?と奇声の方へ目を向けると例のヒロインが何故か赤ら顔で、二階の私たちのいるテラスを凝視しているではないか…。
うん、見なかった事にしよう。
牽制も込めて営業スマイルをヒロインちゃんに向けたら、物凄い勢いで走り去っていくのが見えた。
いや、だから、お前、残念ヒロインかよ。
…そんな設定だったっけ?
とのんびり構えてるとハーラルが立ち上がり、いつの間にか臨戦体制なのだ。
「追う?普通の令嬢くらいなら捕まえられると思うけど」
やめて、追跡魔法の詠唱始めないでw
「いや、追わなくていい。まだ何もされた訳じゃないからね」
その言葉に従うように詠唱をやめて椅子に腰掛けるハーラルはやっぱり不満そうだ。
「紅茶が冷めてしまうよ?せっかくの休日なんだから楽しもうよ」
「……わかった」
まだ納得が行ってない様子だったが、スプーンを手にしたところを見るともう大丈夫だろう。
クリームを口につけてくれたら、舐めとりたいな、くらいの気持ちで見つめていたけれど、はーたんはそんなうっかりキャラでもないのでやってくれる訳ではなく、楽しい楽しい休日はあっという間に終わってしまった。
ヒロイン対策も考えないと行けないけど
まぁ、それはまた今度で。
───────────────
公開遅くなってすみませんでした(;´д`)
その分、本日は長めにお送りしております。何卒。
暗部組の3人は学校に居る時は護衛も兼ねてるが本来は諜報活動などもあるため別行動も多いのは基本データとして頭に入れてあるので、そこからの邪魔は入らない。
推しの可愛さを堪能するために整えた準備に満足しつつ向かいに座り、キャンディボックスを手に次の飴を選んでいるハーラルを見つめる。
「ずっと気になってた事があるんだけど…聞いてもいい?」
「なぁに?あ、いちご味にしよっと」
私の質問よりキャンディを選ぶ事が優先される現実にちょっと涙が出そうなんですけど、はーたん。
いや、むしろそのツンすら寧ろウマウマ?
「ハーラルはどうしていつも向かいに座っているの?隣に座ってもいいのに」
「何言ってんの。それは僕がアルの家臣だからだよ」
「家臣と言っても従兄弟だろ?」
「あのね~!僕が公爵家で君は王族なの!そこでもう格差があるの!…同じ馬車に乗るだけでも問題なんだからね?つまりは全部アルのワガママ!」
「じゃ我儘ついでに、きてよ。ここ」
膝をポンポンと叩いてニヤニヤしてると、フンと鼻を鳴らして半眼の目で蔑むような視線。…たまらん。
「なんで隣から膝の上になってるわけ?そもそも恋人でもないのにそんな事するわけないでしょ?」
「恋人ならいい…?」
「恋人なら、ね。そもそも王太子のくせして婚約者すら作らないアルにできるかは謎なんだけど?」
「うーん…痛いところを突かれたね。でもヴィステーリア家は恋愛結婚推奨だから。運命の相手以外とは結婚するつもりもないかな」
これは作中のアルフリートの台詞だ。
「………まだ初恋、引き摺ってんの?」
「やだなぁ、俺の初恋はハーラルだよ?」
「…っ!!そっちじゃなくて!」
「5歳の時、ハーラルが女の子の格好して参加したお茶会が今でも忘れられないんだけどなぁ」
「もういいから!」
「可愛かったのに…。あの時、誰よりも俺の心を奪ったのはハーラルなのに」
そう、あのドレス姿に心を奪われたのは私だけじゃないはず。
髪色に合わせた紺色のドレスは袖に繊細なレース。
ふわりと揺れるスカートの裾から見えるたっぷりのモスリン。
カミツレの花を模した髪飾り。
どれを取ってもハーラルの可愛さを引き立てるセンスの良い着こなしを穴が開くほど見つめてたため、そのレース模様すら描けそうな勢いだ。残念ながら画力がないので再現は不可能ですけども。
話せば長くなる特殊な事情があって女装した推しがマジ天使だった事。思い出すだけで心が熱くなる。
「今の僕は…?」
「へ…?」
「今の僕は可愛くないの?」
え?可愛いしかないんですけど??
「…そんなの決まってるよ。ハーラルはいつでも可愛い。どんなハーラルでも素敵だよ。散策用の変装姿も可愛すぎてどうしようかなと思ってるぐらいで」
「…あっそ、ならいい。ほら、もう着いたよ。今日は話題のパフェ奢って貰うんだから!」
馬車の扉が開くと身軽にひょいっと飛び降りて、早く来いと言わんばかりに手招きする。
しまった、過去の回想に浸ってたら膝の上に座るハーラルを堪能する時間が!
やれやれ、とアル風に溜息を溢して馬車を降りれば、外装にやたらと拘りのありそうな白壁にロイヤルブルーの看板。
パルテノン神殿みたいな柱が特徴的な上流階級向けのカフェテリアだ。
ゲームのデート先としても定番中の定番。
マジマジと外装とハーラルの姿を眺めていたら、何かに弾かれたような音に気付いて後ろを振り返る。
きっとハーラルの魔法防御壁にでもぶつかったんだろう。防御壁自体に殺傷能力はないので傷付ける事はないと思うけど、ぶつかった衝撃で尻もちをついて転んでしまった女の子がいる。
「も…っ!申し訳ございません!!!」
「こちらこそ申し訳ない。大丈夫でしたか?」
手を貸そうと女性に手を差し伸べると、ハーラルが首を振って制止する。
…不用意に接点を持つな、という事か。立場的に王族は気を遣わないといけない事が沢山多すぎるんだよね。
アルフリートの大変さ少しはわかった気がした。
仕方なく手を下ろすと代わりにハーラルが手を貸そうと身を屈めると
女性はそれを察したのか慌てて自ら立ち上がり
「だっ!大丈夫です!お気遣い感謝します!!」
彼女が顔を上げて目が合う。……何処かで見覚えが。
「アル!っ…フリート殿下…」
今、愛称で呼ばれましたよね?慌てて後ろつけましたよね?
声が震えてるからそう聞こえるのかな?
震える瞳のブルーもコーラルピンクの髪色もハーフアップの髪型すら何処かで見覚えがあるんだけども。
「そんなに萎縮しないで。怪我はないかい?」
「はっはい!大丈夫です!!すみません、失礼しました!!」
こちらが申し訳なくなるくらい平謝りして大慌てでその場を走り去る、いや、あれは淑女がやらないレベルの猛ダッシュだ。
それくらいの走りを見せて人混みに消えていく姿を見送ってハーラルに視線を戻す。
「さっきはありがとう」
「当然でしょ。僕が着いてるのに素性が分からない人間を近付けるわけないじゃない」
「さすがはハーラル。ご褒美にたくさんご馳走するよ」
「…ダメだよ。血税を無駄使うのは良くないと思う」
「ハーラルのそういうところ好きだよ。心配しなくても俺の個人資産を使うつもりだから気にしないで」
エスコートする様に腰の辺りに手を置くとピクっとハーラルが反応を見せてくれるのがなんとも愛おしい。
横髪から覗く頬が真っ赤なハーラルをチラ見しながら店内に進むと、まぁ当然ながら2階に設けられた個室へと案内された。
個室にはテラス席も併設されており、そこでお茶を楽しめるそうなので、街の雰囲気が楽しみたいとテラスに運んでもらうよう伝える。
「個室も完備されてる分、客層も幅広く使えそうだよね。ここ」
「いまさら何言ってんの。だからこそ色んな情報が耳に入り易いってカインが言ってたじゃん」
「そう…だったかな?」
テラス席の椅子を引いて腰を掛けると、そこからは行き交う人々や馬車が石畳を駆けていく様子が一望できる。
「そうだよ、だからここに良く来てるんじゃない」
確かにここに来ている様子は何度もストーリー中の描写にもあった。
ヒロインとのデート先だってここだし。
ただし、ヒロインとのスチルは一階にある大広間のスペースで、大抵はそこで攻略対象と会うのだ。
確か、好感度1位と2位の鉢合わせイベントもあった。
ハーラルとアルを並ばせたくて調整に苦労したっけ。
………ん?
ヒロイン?
海のようなマリンブルーの瞳に、コーラルピンクの髪をハーフアップにして大きな赤色のリボン。
…………さっきのあの子!!
「…どうしたの?急に黙っちゃって」
「あぁ、さっきの転んじゃった子、何処かで見た気がするんだけど学校で会った事があるような気がして」
「同じ年齢くらいだからね。…気になるの?」
はーたん、めっちゃ悪い顔してる。
気になるっちゃ気になるけど正直メインストーリー進めたいわけじゃないしな。
別の攻略対象とイチャコラして頂きたいので、そっとスルーしよう。うん。
むしろ優先すべきはハーラルなのである。
なので
「可愛い子だったね」
わざと煽るような言葉をチョイスして発言した。
ちょっとぐらい妬いて欲しいという願望を優先してしまう事を許して頂きたい。
「僕よりも…?」
上目遣いで小首傾げて見上げるとかあざとレベル上級者かよ!!
ドッドッドッと興奮気味な心臓と鼻血出しかねないレベルの動揺を運ばれてきたコーヒーを一口含んで流し込む。
「ハーラルが1番が可愛い」
にっこりと微笑んでテーブルに並んだいちごパフェのてっぺんに飾られた一際大きいな苺をフォークで刺して、ハーラルの唇の手前まで運ぶ。
答えに満足したのか、苺に満足したのか、どちらかは分からないけれど嬉しそうに笑ってその唇が苺を捕らえるのを、ちょっと唇がエロくないか?とか、形のいい唇が動く様をついつい最後まで見守ってしまう。
「食べないの?いらないなら僕が食べちゃうけどー?」
と茶化されてしまったが、見惚れてたって言ったら怒るかな、とかちょっと思ってしまって笑って誤魔化す事にした。
揶揄いすぎて雰囲気を悪くしたいわけでもないし、そこまでやりすぎたらキャラを一脱してしまいかねない。
「いいよ、好きなだけどうぞ。ハーラルの食べてるところ見る方が楽しいからね」
元々甘党ではないし、アルフリートも甘党という設定はなかった。私、一個人の趣味趣向として言うなれば、酒の肴になりそうなものが好きなのでスイーツ革命とか女子力発揮した転生スキルは期待しないで頂きたい。
なんなら糖分は推しのから摂取する方向で!
「そんなに食べたら太りますー」
「もう少しお肉つけてもハーラルはいいと思うよ。抱き心地的に」
そう言ってぷるぷるのほっぺたを軽く摘む。
…ま、マシュマロや…。猫の肉球レベルの触り心地!!!
「アルの好みなんてどーでもいいよ。頬摘むのもやめて!」
「気持ちいいのに…」
本当にウザそうな顔してる。…めっちゃ可愛い。
名残惜しくて唇の端に触れてみると頬よりももっと柔らかでしっとりとした感覚に心臓の高鳴りが止まらない。
もっと触ってたいけど、セクハラで捕まりたくないしこの辺でやめとこう。
「え?なんかついてた?」
触れられたところを気にして自分の口を触りながら問いかける視線がこちらを向いた時、思わず先程までその唇に触れていた自分の指に舌を這わせ
「うん、(はーたんの唇が)甘いね…」
と見つめ返せば、口をぱくぱくさせて目を見張る姿に思わず笑ってしまうと、真っ赤な顔した彼の吊り目がキュッと上がって、赤らめた頬を一層赤くして
「もぅ…!バカ!変態!!」
と抗議の言葉を口にする。
ちょっと涙目なところがまた素晴らしく可愛い!と打ち震えてしまう。
そんな可愛いはーたんを堪能していたいのに、そうは問屋が卸さねぇわけで。
「ふぉおぉおおおおぉおおお!!!!」
と雄叫びにも似た奇声。
うん?
この世界観でそれはないだろ?と奇声の方へ目を向けると例のヒロインが何故か赤ら顔で、二階の私たちのいるテラスを凝視しているではないか…。
うん、見なかった事にしよう。
牽制も込めて営業スマイルをヒロインちゃんに向けたら、物凄い勢いで走り去っていくのが見えた。
いや、だから、お前、残念ヒロインかよ。
…そんな設定だったっけ?
とのんびり構えてるとハーラルが立ち上がり、いつの間にか臨戦体制なのだ。
「追う?普通の令嬢くらいなら捕まえられると思うけど」
やめて、追跡魔法の詠唱始めないでw
「いや、追わなくていい。まだ何もされた訳じゃないからね」
その言葉に従うように詠唱をやめて椅子に腰掛けるハーラルはやっぱり不満そうだ。
「紅茶が冷めてしまうよ?せっかくの休日なんだから楽しもうよ」
「……わかった」
まだ納得が行ってない様子だったが、スプーンを手にしたところを見るともう大丈夫だろう。
クリームを口につけてくれたら、舐めとりたいな、くらいの気持ちで見つめていたけれど、はーたんはそんなうっかりキャラでもないのでやってくれる訳ではなく、楽しい楽しい休日はあっという間に終わってしまった。
ヒロイン対策も考えないと行けないけど
まぁ、それはまた今度で。
───────────────
公開遅くなってすみませんでした(;´д`)
その分、本日は長めにお送りしております。何卒。
20
お気に入りに追加
220
あなたにおすすめの小説
今日も武器屋は閑古鳥
桜羽根ねね
BL
凡庸な町人、アルジュは武器屋の店主である。
代わり映えのない毎日を送っていた、そんなある日、艶やかな紅い髪に金色の瞳を持つ貴族が現れて──。
謎の美形貴族×平凡町人がメインで、脇カプも多数あります。
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
幽閉された美しきナズナ
不来方しい
BL
控えめで目立たない准教授と生徒が恋に落ちます。
連れ子として華道の家に入ったのは、大学生の藤裔なずな(ふじすえなずな)。慣れない生活の中、母と新しい父との間に子供ができ、ますます居場所を失っていく。
居場所を求めて始めたアルバイトは、狭い和室で自由恋愛を楽しむという、一風変わったアルバイトだった。
客人としてやってきたのは、挙動不審で恋愛が不慣れな男性。諏訪京介と名乗った。触れようとすれば逃げ、ろくに話もしなかったのに、また来ますと告げて消えた彼。二度と会わないだろうと思っていた矢先、新しく大学の研究グループに加わると紹介されたのは、なずなを買ったあの男性だった。
呆然とする諏訪京介を前に、なずなは知らないふりを貫き通す──。
捨て猫はエリート騎士に溺愛される
135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。
目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。
お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。
京也は総受け。
キスから始まる主従契約
毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。
ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。
しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。
◯
それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。
(全48話・毎日12時に更新)
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
前世である母国の召喚に巻き込まれた俺
るい
BL
国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる