【完結】本来は転校生と王子のラブストーリーだったはずだけど、とにかく推しを愛でたい

みちはる

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4.推し様に触れたい!!

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「…ホント、起きないんだから。もー!置いてくよ!!」

今日も可愛い声が微睡む世界から私を連れ戻してくれる。
薄く目を開ければペット脇に腰をかけてこちらを覗く推しの顔がすぐそこにあった。
ヤベェ…なんていい夢!!
手が届きますけども!
徐に手を伸ばして腰の辺りを掴む。
細い。とても華奢な腰だ。
きっと私の本体よりも細い…。羨ましいを通り越して崇拝するレベルだ。
「ちょ…!っ、あ、アル!!寝ぼけてないでちゃんと起きてって!」
腰を撫でてたらくすぐったそうに身を捩らせる反応が可愛い。
ちょっと顔が赤いのも反則だよね。
そのまま腰に腕を回して引き寄せれば、すっぽりと腕の中に収まってしまうのだから、羽根の様に軽い、なんて言葉ははーたんのためにあるんだと思う。
ジタバタ腕の中で動いてる姿すら可愛すぎるし。そんなに強く抱き止めてるわけじゃないのに逃げ出せないのか、逃げ出さないのか。
アル×ハーを推奨したい私は後者でありたいと願う。

「もう少しだけ」
少しだけ力を入れて抱き締め直すと推しの動きが止まる。
「…ダメ、かな?」
半分ダメ元で畳み掛けるそう甘く耳元で囁けば胸に埋めていた顔を上げて睨んでくる。
彼が押しに弱いのくらいは攻略法として頭に入ってるのだよ。ムフフ。
そんな気持ちが見透かされて睨まれているのは間違いないのだけれど
睨んでも煽るだけ、って何処かの攻め様が言ってたのは本当なんだなぁとぼんやり思う。
「………僕がアルのお願いを断れないの知ってるくせにズルい」
伏し目がちに逸らした瞳の長い睫毛が揺れながら、拗ねた唇に膨らませた頬。
…………あざと可愛いってこういう事を言うんだ!
鼻血でそう…っ!
ぎゅうぎゅうに抱き潰してしまいたいっ!
もちろん、むぎゅってしますけど!
夢だから何してもいいんじゃね?とかちょっと思ってるのよ。私。
大人しく腕の中に閉じ込められてるハーラルのサラリとながれる藍色の髪から真っ赤な耳が覗く。
ゾクリ、と甘美な感覚に囚われて誘われるままにぷっくりとした耳朶に唇を寄せた。


……その瞬間だった。


ガンッ!

と鈍い音を立てて強制的に腕が外れベットに深く深く沈んだ。

ハーラルが繰り出したアッパーが見事に顎に直撃したらしく
その後に続く顎に存在感を残した鈍い痛み。
…いま、何が……?

驚いて身体を起こすと、呆れ果てた顔の推しが見下す様な冷たい瞳で

「目、覚めた?」
「…………ハイ…」

やりすぎた…!!
完全におこですね。はい。
というか、夢じゃなかった。
そうだ、アルに転生してたんだっけ?
聖地巡礼ならぬ学園生活ライフを満喫して今日は休日だったわけで。
覚めない夢にもいい加減自覚が出てきたつもりなのに…

あぁ、やば…やらかしたかも?

謝罪しなくっちゃ!

ズキズキ痛む顎をさすりながら慌ててベットから立ち上がると、微妙に距離を取られた。
地味に傷付く、それ。
泣いちゃいそう…。

「ごめん、怖がらせるつもりじゃなかったんだ」
「別に~?怖がってなんかないよ。アルだしっ」
「それでも…ごめん」

アルだし??
えっえ?ええええぇえ?アリって事ですか?それはっ!!

…いやいや、落ち着け。

嫌われたら元も子もない。
このまま襲いかねない自分の行動に心から反省して肩を落としてると

「………痛い…?」

心配そうに上目遣いで見上げて、アッパーが炸裂して赤く腫れた箇所に触れてくるので顔を横に振って大丈夫だ、と伝えたのだが、ハーラルの指先に光が灯り癒し魔法を発動させようとした。
慌ててその細い指先を握って制止すれば彼は目をまん丸にして何か言いたげな顔をするので、握ったその指先を引き寄せてチュッと軽いリップ音を奏でて離せば火が出そうな程に顔を赤らめているハーラルに満面の笑みを向ける。

「痛みが消えたら反省にならないから、このままでいいんだ」
「…っ、言葉と行動があってないんですけど!!」

照れてるんだか拗ねてるんだか、動揺してる、が正しい表情に思わず頬が緩んでしまう。
「もう!なに笑ってるの?!」
「ハーラルが可愛くて」
「またそれなの?!もう毎日聞き飽きた」
「仕方ないよ。ハーラルは毎日可愛いから」
「…僕が可愛いのは当たり前じゃん。今更うれしくなんてないからっ」
「そうだね、制服じゃない姿も素敵だよ。大きめな襟も凄く似合ってるしターコイズのジャケットもアルの可愛さを引き立てて最高に可愛い」

ちょっとオタク調に早口になってしまったのは申し訳ない。
だがしかし!
推しへの愛を語るには時間という尺と熱い思いが必ずしもイコールではないのだよ。

もうSNSなんてものは無いから、心の中でしか叫べないので多少の奇行発言は目をつぶって頂きたい。

そんな想いは一切伝わってないのでハーラルは、ちょっとはにかんでお得意の少し口を尖らせて拗ねたポーズだ。
ハーラルはもともと攻略対象者のメンバーの中では可愛い担当だ。
もちろん、本人自覚の上での可愛いあざと系の行動が多い故、計算も含まれるのだけど、素直に褒められるのが実は苦手で、本当はシャイな性格もお気に入りポイントなのだ。

可愛いくて当たり前、作中のセリフも聞けた事だし、
可愛い可愛い我が推し様の髪がさっき押し倒した自分の行動のせいてボサボサのままなのは申し訳ない。

「ハーラル、おいで。ここ座って」
「…なーに?」
鏡台の椅子を引いておいでおいで、と手招きすると不安定そうなヒールを自由に履きこなしながら優雅に歩くその姿はまるで猫の様だ。
ぼーっと見惚れているといつの間にか彼は椅子に着席し、不思議そうに見上げている事に気付く。
ポンポンと頭を撫でた後、櫛でそのサラサラな髪を梳けば自然と彼の視線は鏡に映る自分に向き、あぁ、と小さく声を漏らした後、特に拒絶もされなかったのでそのまま髪を整えて、ワックス代わりに使っていた香油を毛先にだけ付けた。

…推しとCP相手が同じ匂いとか最高すぎるロマン!

「いい匂い…。何かつけた?」
「ジャスミンの香油だよ。髪に塗ると艶が出てまとまりやすいから使ってるんだけど、ハーラルも使うかい?」
「いいの?」
「もちろん、後で屋敷に届けさせるね」
「ありがとう!」
推しの笑顔が最高です…!
これからも最大限推し活します!!
そのために午前の公務は終わらせねば…!
働いて推し活する。これは今も前も変わらない。
「それから午後は視察も兼ねて街へ降りようと思うんだけど、デートして貰えません?俺のお…姫様」
一人称に気を取られすぎて、うっかり推し、って言いかけたのはバレてないはず?と焦りつつ相手の表情を見つめるとまんざらでもなさそう。
「…姫じゃないけど、喜んで。もちろん新しく出来たスイーツ店も回ってくれるんだよね?」
「仰せのままに」

よっしゃ!デートの確約ゲットぉおおお!!!!
倍速で仕事熟るような気がしてきた!!
その後、猪の様な働きっぷりを見せたのは言うまでもない。
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