姉の代わりに悪役令嬢になる事にしたので大人しく婚約破棄を言い渡されたい。

みちはる

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11_姉上の婚約者様はお疲れ気味

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「おはよう。今日の髪型も似合ってるね」
「ありがとうございます。トール様も今日も素敵ですわ」

殿下の手を取り馬車へエスコートされるのも、朝わざわざ我が家へ迎えにこられるのも、トール様が毎回何かしら褒めて下さるのも、もう大分慣れてきて自然な所作で対応してしまえる。

馬車へ乗り込むと砕けた感じの話し方になるのも、またいつもの事で。

「昨日は寝れた?しっかり休憩する事は大切だよ」
「そうおっしゃるトール様の方が何倍も疲れた顔をしてますけど大丈夫です?寝ました?」
綺麗な瞳の下にくっきりとクマが出来ていて、顔色も少し良くない。

「あれから君の案を検証するための対策チームを作ってね。早速、今日から地質調査は開始される事になったよ」
「…早いですね」
「民意を取り入れる気がない訳ではなかったからね。ただ、民の視点に立てていないまま計画が進もうとしていたから、そこは俺の意図するところじゃなかったんだよね。そこをリューのおかげで軌道修正出来たのは良かったかな」
「僕は口しか今のところ出してませんから。あ、そうだ。屋敷の一部を寄付する件は父様から許可頂いてます。こちらがその書類です」
「リューも相変わらず仕事が早いね」
「名目上、姉様からの寄付という事になっていて父様は同意者としてのサインとなってます。いちよー確認ですけど姉様からの提案、って事にしてますよね?」
「いや、そこはリューからの提案。寄付はエリザベートとしてあるよ」
「僕は何もしてないですよ。提案だって元々姉様が領地改革で進めた案がベースですし」
「………リューは知らないの?」


「…なにを?」

何か嫌な予感がした。

「君の領地での改革の指揮は神童の君が天才的で斬新な提案し、指揮した事になってる。社交界でも一時話題になっていたから耳にしてるとは思ってたけど」
「知らないです!姉様と母様の仕業ですね!!もうっ帰ったら抗議しないと!」
「あながち嘘ではないんじゃない?提案したのはエリザベートでも検証して新しい技術を開発して実行したのは君だと聞いているよ」
「姉様の意見がなかったら僕は何もしてないですよ」
「相変わらずエリザベートが大好きだねぇ」
「家族ですから」
「兄弟ってそんなにいいもの?」
「…トール様の場合は争いの火種にしかならなそうだけど、うちは仲がいいので姉様がいて良かったと思う事の方が多いです」
「ハッキリ言うね~。まぁ、それはそれで変えが効かないって意味ではプレッシャーなんだけどね」
「トール様なら大丈夫でしょう。クマ作るくらい頑張ってますから」
「こら、笑うな」
「だって似合わな…」
笑い出したらなかなか止まらないものでクスクスと笑っているとトール様不貞腐れたように窓の外を見た。
同じように視線を向ければ馬車がたくさん行き交う通りの近くて幼い子供が遊んでいて、たくさんの荷物を抱えた行商も行き交う。
国が豊かゆえに商業が盛んな事は良い事ではあるが、馬車が多く通る道に人も多く歩いているのはとても危ない事なのを僕たちは知っていた。
馬はデリケートな生き物だから、どれだけ躾けられていても暴走する事はあるし、飛び出してくる人々を簡単に避けたり出来ない。
そういった事で事故が多発しているのも国としての課題で、そこを見据えての今回の計画なんだろうな。
それに取り組もうとされているトール様はとても優しい人なんだと思う。

視線をトール様に戻すといつの間にかうたた寝を初めてしまったようで、瞼が重そうに閉じられていた。
綺麗な顔だからか余計に目立つクマがちょっと痛々しい。
無意識に労わるようにそのクマを指先で撫でると、その手をあっさり捉えられてしまった。

「寝込みを襲うのは良くないよ」
「そ、そんなつもりじゃ…」
弁明を述べる前に手を引かれてトール様の胸元に顔がぶつかり、あっという間に両腕に囚われてしまった。
「ちょ…!離して下さい」
「ダメ。君には無防備な姿でいると危険って事をちゃんと理解して貰わないと」
俺の身が持たない、と耳元で囁かれたけど耳元がもそもそそしてくすぐったくて何を言われてるか理解出来ていなかった。
「別にトール様の前ならいいじゃないですか、無防備でも」
「うわー…これだからピュアって怖いなー」
「バカにしてます?!」
ハーフアップに纏めていた僕の髪が耳にかかっていたのが邪魔だったのかトール様はさらりと払い、僕の頬にリップ音を立ててキスをした。それだけでも恥ずかしいのに、先ほどまでトール様が耳の近くで話すから変にくすぐったくて意識してしまって真っ赤になった耳朶に噛み付いてきた。
「…ッ…や…ッ!!」
「バカにしてはないよ。忠告してるだけ。リューが可愛すぎるのがよくない」
恥ずかしい過ぎて腕の中で身じろいでいるとさらに抱き止めている腕の力が強くなるのがわかった。

「罰としてアカデミーまでこのまま膝の上にいること」
「えっ、やだ、むり…」
「ヤダでも無理でもききませーん」

本当にトール様はアカデミーに着くまで離してくれなかった。

その日一日、僕の脳が機能停止して全然使えなかった事だけ鮮明に覚えている。
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