上 下
9 / 12

09_姉上の婚約者はやっぱり王子だった。

しおりを挟む
アカデミーの北にある橋まで辿り着いた僕等は、早速、地層の確認をするため川縁の斜面を降りる。
こちらに向かう道すがら僕の考えはトール様に説明していたので、ズンズン進んで行く僕に着いてきてくれる。
先ほどの橋の方はそれほど水位が上がってなくても地盤が低いため、こちら側のように川辺に下れるところはないので詳しく確認する事は難しいけれど、推測が正しい事をある程度、証明する事ができれば…。

「あの辺りなら地層がはっきり見えるね。足場が悪いから俺が先に行くよ。さぁ、手を」
「ありがとうございます。でも僕なら大丈夫ですよ?」
「会話こそ聞こえないだろうけど、護衛の手前、婚約者をエスコートもしないような男に見られては困るからね」
「…色々と大変なんですねー」
差し伸べられた手に手を重ねれば、ぎゅっと握られる。
大丈夫、って言ってるのに。
心配性だなぁ。

「あ!ここ!!ここですここ。先ほどまでいた場所と同じ地層してます」
「なるほど…。高低差は10mほどになりそうだね。その上に埋め立てた土台は粘土質になってるとなれば、基礎工事からやり直さないと水害が起こった時に被害が大きくなってしまうって事でいい?」
「はい。2年前に姉様が領地の改良工事をした時と類似しているかと思いますので、領地からその時の地質調査の資料など取り寄せれば上手く進められるかも知れません」
「北西側に道を通すとはなかなか考えつかないよ。王城から貴族地区を通る道が北西にはないからね」
「それはそうですよ。我がアスター家の敷地に道を通そうなんて者が僕以外にいたら驚愕ですよ」
「エリザベートなら同じ事を言いそうだけどね」
「そうだと思います。なので姉様の名義で王都とアカデミーの発展を名目に寄付を致しますので」
「君じゃなくていいの?」
「僕にはアスター家という名誉が残ればそれ以上は望みません。それに北西の平民地区なら緑地も多いですし用地買収にも苦労しなくてすみますね?」
「…用地買収?」
「え?店や家を立ち退いて貰うために王都でその地を買い取ったりしないんですか?うちでは領地をアスター家が買い取って街の整備を行いましたけど、普通は違うんですか…?」
「王都では王命で立ち退いて貰い、謝礼を渡すだけかな」
「………それでよく暴動起きませんでしたね」
「はははははは」
「笑い事ではありませんよ。王家の求心力が無くなったのは“夜明けの空”依然の問題なのでは?」
「痛いところを突くね。でも何も反論出来ないかな、悲しい事に」
珍しくいつもの読めない笑顔が崩れて何もと言えない表情を浮かべて空を仰ぐ。
本当に痛いところを突いてしまったようだ。
「…そろそろ不敬罪に問われちゃいそうなんで帰りますか?」
「俺が?君を?そんなつもりなら君たちは結構な重罪だと思うけど」
曇った表情がすぐに笑顔に変わる。…よかった。
眉間に皺を寄せてケラケラと楽しそうに笑うトール様の方がずっといい。

でも…

「なんとかしたい、そう思っているから向き合おうとしてるんでしょ?」


「…………え?」

「貴族だけじゃなく、平民にもちゃんと向き合おうとされてるお姿がいつか届くといいですね。…こんな髪色一つで判断なんかされる世の中なんかじゃなくて」



「そう、だといいんだけどね。なかなか難しいよね」

「価値観はそう簡単に変えれませんから。少しずつ向き合っていきましょう。…僕もなるべくお手伝い致します」
「リューがいてくれたら無敵だね」
「できる事は、ですけどね」


「…いてくれるだけで、それだけで力になるんだよ」

ビューーーっと轟音が響き、慌ててスカートの裾を抑える。
川辺だし、夕方間近の風の強さは異常なくらいで
急に煽られた突風の風音に後半の部分が上手く聞きとれない。

「…何ですか?風であんまり聞こえなくて」
「なんでもない。それより陽が沈む前には君を屋敷まで送らないと。…風邪を引かせてしまってはアスター家の皆様に合わせる顔がないからね」
「はいはい、トール様もそんな薄着だと風邪ひきますよー。そしたら僕は国中に合わせる顔がないんでさっさと行きますよ」

今度は僕の方からトール様の手を握って馬を繋いである場所まで引っ張って歩く。
トール様は行きと同じように黙って僕についてくる。
そんな強い力で引いてるわけじゃないから、振り払おうと思えば簡単に振り払えると思うのにそうしないのはなんでだろ?

僕がちょっと楽しいな、って思えてる気持ちがトール様にも伝染してればいいなと思う。

たまの休日すら国の課題と向き合って、真摯に取り組まれてるんだから、ちょっとくらい楽しんだらいいのに。

そんな事をオレンジに染まった空を眺めながら思っていたら、あっと言う間に馬のところまで到着していた。
行きと同じように馬に跨って2人で元来た道を辿る。

たくさん遊んで王城から帰ったあの日みたいな寂しさが少しだけ胸に灯った。

「そう言えば来月のデビュタントだけど衣装は決まった?」

「……………あ、色々あったんで。母様も忘れてそう」
「あー…。エスコートはさせて貰うね。衣装のモチーフが決まったら教えて。俺の衣装にも取り入れるようにするから」




ほんのり寂しい気持ちが一気に吹き飛んで、僕の頭はまっしろになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

崩れる天球

辻河
BL
・高校時代から片思いし続けていた友人に実はずっと執着されていて、酔い潰れた拍子に分からせセックスされる話 ・長年片思いして来た攻め(星野涼/ほしのりょう)×攻めのことは好きだが引け目を感じている受け(三上聡/みかみさとる) ・♡喘ぎ、濁点喘ぎ、淫語等の要素が含まれます。

女の子が好きだけど、男の性奴隷を買いました

アキナヌカ
BL
俺、佐藤海斗(さとうかいと)黒髪に茶色い瞳の典型的な日本人だが先日異世界転移をした。それから二年間いろんなことがあったが今はお金も貯まった一人の街人だ、だが俺はそこで性欲もそこそこにたまっていることに気がついた。俺は女の子が好きだったが女の奴隷を買うと、妊娠という問題があることに気がついた。まだ家族を作るつもりの無かった俺は、そこで女の子が好きだけど、男の性奴隷を買いました。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

カイリの白馬の王子様

不遜な孫
BL
※『あなたを俺の嫁にしようと思う。』に登場するサブキャラ・朱雀とカイリの番外編です。  299X年。『女』という生き物はほぼ絶滅し、男とカントボーイしか居なくなった世界。  人間の繁殖は機械による人工培養が主流となり、人間ブリーダー業は一大産業と化した。  違法ブリーダーの元に生まれたカントボーイのカイリは、幼くして男との交配を強いられる。  交配相手のリクトはカイリに執着し、彼の束縛にカイリは萎縮し切っていた。  そんな境遇の中で、カイリの前に一人の少年が現れる。  人と関わろうとせず、誰にも名乗らない少年を、カイリは何故か放っておけなかった。  カイリに構われる少年を、当然リクトは気に入らない。  不安定なリクトとは裏腹に、少年は徐々にカイリに心を開き、胸の内を打ち明けるのであった。 注意点:八歳時点でのカイリの性描写 登場人物全員倫欠 読んでいて楽しい話ではない 一応これ単体でも読めるようにはしたいと思いますが、分かりにくい点があるかもです。

【完結】枕営業のはずが、重すぎるほど溺愛(執着)される話

メグル
BL
人気俳優が、「遊び慣れた金持ち社長」に枕営業を仕掛けたつもりが、実は「童貞のガチ恋ファン」だったために重すぎるほど溺愛される話。 人気俳優でいるためなら努力でも枕営業でもなんでもする、爽やかイケメン俳優の波崎アオ。特別ドラマの主役獲得のために、スポンサーである大手企業の社長に就任した伊月光一郎にいつものように枕営業を行うが、一見遊び慣れたモテ男の伊月は、実は童貞でアオのガチ恋ファンだった。一夜を共にし、童貞を奪ってしまったために思い切り執着され、スポンサー相手に強く出られないこともあって仕方なく恋人関係になるが…… 伊月の重すぎる愛情に恐怖を感じながらも、自分の求めていたものを全てくれる伊月にアオもだんだん心を開いていく、愛情激重の執着スパダリ社長(30歳)×根は真面目で寂しがりな枕営業俳優(23歳)の重すぎ恋愛ストーリーです。しっかりハッピーエンドです。 ※性描写は予告なく何度か入ります ※本編+番外編 完結まで毎日更新します

犯されないよう逃げるけど結局はヤラれる可哀想な受けの話

ダルるる
BL
ある日目が覚めると前世の記憶が戻っていた。 これは所謂異世界転生!?(ちょっと違うね) いやっほーい、となるはずだったのに…… 周りに男しかいないししかも色んなイケメンに狙われる!! なんで俺なんだぁぁぁ…… ーーーーーーー うまくにげても結局はヤられてしまう可哀想な受けの話 題名についた※ はR18です ストーリーが上手くまとまらず、ずっと続きが書けてません。すみません。 【注】アホエロ 考えたら負けです。 設定?ストーリー?ナニソレオイシイノ?状態です。 ただただ作者の欲望を描いてるだけ。 文才ないので読みにくかったらすみません┏○┓ 作者は単純なので感想くれたらめちゃくちゃやる気でます。(感想くださいお願いしやす“〇| ̄|_)

転生悪役令息、雌落ちエンドを回避したら溺愛された?!~執着系義兄は特に重症です~悪役令息脱出奮闘記

めがねあざらし
BL
BLゲーム『ノエル』。 美麗なスチルと演技力抜群な声優陣で人気のゲームである。 そしてなんの因果かそんなゲームの中に悪役令息リアムとして転生してしまった、主人公の『俺』。 右を向いても左を向いても行き着く先は雌落ちエンド。 果たしてこの絶望的なエンドフラグを回避できるのか──……?! ※タイトル変更(2024/11/15)

安易に異世界を選んだ結果、食われました。

野鳥
BL
気がつけば白い空間。目の前には金髪碧眼の美形が座っており、役所のような空間が広がっていた。 どうやら俺は死んだようだ。 天国に行きますか?地獄に行きますか?それとも異世界転生しますか? 俺は異世界に転生してみることにした。 そこは男女比が9対1の世界であった。 幼なじみ2人の美形男子に迫られる毎日。 流されるままに溺愛される主人公。 安易に異世界を選んだ俺は性的に即行食われました…。 ※不定期投稿です。気が向いたら投稿する形なので、話のストックはないです。 山もオチもないエロを書きたいだけのお話です。ただただ溺愛されるだけの主人公をお楽しみください。 ※すみませんまだ人物紹介上げる気無かったのに間違って投稿してました(笑) たいした情報無かったですが下げましたー( 人˘ω˘ )ごめんなさい

処理中です...