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09_姉上の婚約者はやっぱり王子だった。
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アカデミーの北にある橋まで辿り着いた僕等は、早速、地層の確認をするため川縁の斜面を降りる。
こちらに向かう道すがら僕の考えはトール様に説明していたので、ズンズン進んで行く僕に着いてきてくれる。
先ほどの橋の方はそれほど水位が上がってなくても地盤が低いため、こちら側のように川辺に下れるところはないので詳しく確認する事は難しいけれど、推測が正しい事をある程度、証明する事ができれば…。
「あの辺りなら地層がはっきり見えるね。足場が悪いから俺が先に行くよ。さぁ、手を」
「ありがとうございます。でも僕なら大丈夫ですよ?」
「会話こそ聞こえないだろうけど、護衛の手前、婚約者をエスコートもしないような男に見られては困るからね」
「…色々と大変なんですねー」
差し伸べられた手に手を重ねれば、ぎゅっと握られる。
大丈夫、って言ってるのに。
心配性だなぁ。
「あ!ここ!!ここですここ。先ほどまでいた場所と同じ地層してます」
「なるほど…。高低差は10mほどになりそうだね。その上に埋め立てた土台は粘土質になってるとなれば、基礎工事からやり直さないと水害が起こった時に被害が大きくなってしまうって事でいい?」
「はい。2年前に姉様が領地の改良工事をした時と類似しているかと思いますので、領地からその時の地質調査の資料など取り寄せれば上手く進められるかも知れません」
「北西側に道を通すとはなかなか考えつかないよ。王城から貴族地区を通る道が北西にはないからね」
「それはそうですよ。我がアスター家の敷地に道を通そうなんて者が僕以外にいたら驚愕ですよ」
「エリザベートなら同じ事を言いそうだけどね」
「そうだと思います。なので姉様の名義で王都とアカデミーの発展を名目に寄付を致しますので」
「君じゃなくていいの?」
「僕にはアスター家という名誉が残ればそれ以上は望みません。それに北西の平民地区なら緑地も多いですし用地買収にも苦労しなくてすみますね?」
「…用地買収?」
「え?店や家を立ち退いて貰うために王都でその地を買い取ったりしないんですか?うちでは領地をアスター家が買い取って街の整備を行いましたけど、普通は違うんですか…?」
「王都では王命で立ち退いて貰い、謝礼を渡すだけかな」
「………それでよく暴動起きませんでしたね」
「はははははは」
「笑い事ではありませんよ。王家の求心力が無くなったのは“夜明けの空”依然の問題なのでは?」
「痛いところを突くね。でも何も反論出来ないかな、悲しい事に」
珍しくいつもの読めない笑顔が崩れて何もと言えない表情を浮かべて空を仰ぐ。
本当に痛いところを突いてしまったようだ。
「…そろそろ不敬罪に問われちゃいそうなんで帰りますか?」
「俺が?君を?そんなつもりなら君たちは結構な重罪だと思うけど」
曇った表情がすぐに笑顔に変わる。…よかった。
眉間に皺を寄せてケラケラと楽しそうに笑うトール様の方がずっといい。
でも…
「なんとかしたい、そう思っているから向き合おうとしてるんでしょ?」
「…………え?」
「貴族だけじゃなく、平民にもちゃんと向き合おうとされてるお姿がいつか届くといいですね。…こんな髪色一つで判断なんかされる世の中なんかじゃなくて」
「そう、だといいんだけどね。なかなか難しいよね」
「価値観はそう簡単に変えれませんから。少しずつ向き合っていきましょう。…僕もなるべくお手伝い致します」
「リューがいてくれたら無敵だね」
「できる事は、ですけどね」
「…いてくれるだけで、それだけで力になるんだよ」
ビューーーっと轟音が響き、慌ててスカートの裾を抑える。
川辺だし、夕方間近の風の強さは異常なくらいで
急に煽られた突風の風音に後半の部分が上手く聞きとれない。
「…何ですか?風であんまり聞こえなくて」
「なんでもない。それより陽が沈む前には君を屋敷まで送らないと。…風邪を引かせてしまってはアスター家の皆様に合わせる顔がないからね」
「はいはい、トール様もそんな薄着だと風邪ひきますよー。そしたら僕は国中に合わせる顔がないんでさっさと行きますよ」
今度は僕の方からトール様の手を握って馬を繋いである場所まで引っ張って歩く。
トール様は行きと同じように黙って僕についてくる。
そんな強い力で引いてるわけじゃないから、振り払おうと思えば簡単に振り払えると思うのにそうしないのはなんでだろ?
僕がちょっと楽しいな、って思えてる気持ちがトール様にも伝染してればいいなと思う。
たまの休日すら国の課題と向き合って、真摯に取り組まれてるんだから、ちょっとくらい楽しんだらいいのに。
そんな事をオレンジに染まった空を眺めながら思っていたら、あっと言う間に馬のところまで到着していた。
行きと同じように馬に跨って2人で元来た道を辿る。
たくさん遊んで王城から帰ったあの日みたいな寂しさが少しだけ胸に灯った。
「そう言えば来月のデビュタントだけど衣装は決まった?」
「……………あ、色々あったんで。母様も忘れてそう」
「あー…。エスコートはさせて貰うね。衣装のモチーフが決まったら教えて。俺の衣装にも取り入れるようにするから」
ほんのり寂しい気持ちが一気に吹き飛んで、僕の頭はまっしろになった。
こちらに向かう道すがら僕の考えはトール様に説明していたので、ズンズン進んで行く僕に着いてきてくれる。
先ほどの橋の方はそれほど水位が上がってなくても地盤が低いため、こちら側のように川辺に下れるところはないので詳しく確認する事は難しいけれど、推測が正しい事をある程度、証明する事ができれば…。
「あの辺りなら地層がはっきり見えるね。足場が悪いから俺が先に行くよ。さぁ、手を」
「ありがとうございます。でも僕なら大丈夫ですよ?」
「会話こそ聞こえないだろうけど、護衛の手前、婚約者をエスコートもしないような男に見られては困るからね」
「…色々と大変なんですねー」
差し伸べられた手に手を重ねれば、ぎゅっと握られる。
大丈夫、って言ってるのに。
心配性だなぁ。
「あ!ここ!!ここですここ。先ほどまでいた場所と同じ地層してます」
「なるほど…。高低差は10mほどになりそうだね。その上に埋め立てた土台は粘土質になってるとなれば、基礎工事からやり直さないと水害が起こった時に被害が大きくなってしまうって事でいい?」
「はい。2年前に姉様が領地の改良工事をした時と類似しているかと思いますので、領地からその時の地質調査の資料など取り寄せれば上手く進められるかも知れません」
「北西側に道を通すとはなかなか考えつかないよ。王城から貴族地区を通る道が北西にはないからね」
「それはそうですよ。我がアスター家の敷地に道を通そうなんて者が僕以外にいたら驚愕ですよ」
「エリザベートなら同じ事を言いそうだけどね」
「そうだと思います。なので姉様の名義で王都とアカデミーの発展を名目に寄付を致しますので」
「君じゃなくていいの?」
「僕にはアスター家という名誉が残ればそれ以上は望みません。それに北西の平民地区なら緑地も多いですし用地買収にも苦労しなくてすみますね?」
「…用地買収?」
「え?店や家を立ち退いて貰うために王都でその地を買い取ったりしないんですか?うちでは領地をアスター家が買い取って街の整備を行いましたけど、普通は違うんですか…?」
「王都では王命で立ち退いて貰い、謝礼を渡すだけかな」
「………それでよく暴動起きませんでしたね」
「はははははは」
「笑い事ではありませんよ。王家の求心力が無くなったのは“夜明けの空”依然の問題なのでは?」
「痛いところを突くね。でも何も反論出来ないかな、悲しい事に」
珍しくいつもの読めない笑顔が崩れて何もと言えない表情を浮かべて空を仰ぐ。
本当に痛いところを突いてしまったようだ。
「…そろそろ不敬罪に問われちゃいそうなんで帰りますか?」
「俺が?君を?そんなつもりなら君たちは結構な重罪だと思うけど」
曇った表情がすぐに笑顔に変わる。…よかった。
眉間に皺を寄せてケラケラと楽しそうに笑うトール様の方がずっといい。
でも…
「なんとかしたい、そう思っているから向き合おうとしてるんでしょ?」
「…………え?」
「貴族だけじゃなく、平民にもちゃんと向き合おうとされてるお姿がいつか届くといいですね。…こんな髪色一つで判断なんかされる世の中なんかじゃなくて」
「そう、だといいんだけどね。なかなか難しいよね」
「価値観はそう簡単に変えれませんから。少しずつ向き合っていきましょう。…僕もなるべくお手伝い致します」
「リューがいてくれたら無敵だね」
「できる事は、ですけどね」
「…いてくれるだけで、それだけで力になるんだよ」
ビューーーっと轟音が響き、慌ててスカートの裾を抑える。
川辺だし、夕方間近の風の強さは異常なくらいで
急に煽られた突風の風音に後半の部分が上手く聞きとれない。
「…何ですか?風であんまり聞こえなくて」
「なんでもない。それより陽が沈む前には君を屋敷まで送らないと。…風邪を引かせてしまってはアスター家の皆様に合わせる顔がないからね」
「はいはい、トール様もそんな薄着だと風邪ひきますよー。そしたら僕は国中に合わせる顔がないんでさっさと行きますよ」
今度は僕の方からトール様の手を握って馬を繋いである場所まで引っ張って歩く。
トール様は行きと同じように黙って僕についてくる。
そんな強い力で引いてるわけじゃないから、振り払おうと思えば簡単に振り払えると思うのにそうしないのはなんでだろ?
僕がちょっと楽しいな、って思えてる気持ちがトール様にも伝染してればいいなと思う。
たまの休日すら国の課題と向き合って、真摯に取り組まれてるんだから、ちょっとくらい楽しんだらいいのに。
そんな事をオレンジに染まった空を眺めながら思っていたら、あっと言う間に馬のところまで到着していた。
行きと同じように馬に跨って2人で元来た道を辿る。
たくさん遊んで王城から帰ったあの日みたいな寂しさが少しだけ胸に灯った。
「そう言えば来月のデビュタントだけど衣装は決まった?」
「……………あ、色々あったんで。母様も忘れてそう」
「あー…。エスコートはさせて貰うね。衣装のモチーフが決まったら教えて。俺の衣装にも取り入れるようにするから」
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