上 下
7 / 12

07.姉上の思い出のために僕は暗躍する

しおりを挟む
リンゴ飴にチョコバナナ、クレープにフルーツジュースに殿下のお気に入りの牛串、気がついたら両手いっぱいの食べ物を抱えて僕らは公園のベンチに腰をかける。

「その量、全部食べられる?」
「余ったら持って帰ります…」
「お腹とか壊さないでよ?エリザベートに俺が怒られかねないから」
「…姉様は今はいませんよ?」
「彼女の事だから、リューの話となれば何処からでも聞きつけて苦情を言いかねないところがあるからなぁ」
「それは否定できないですね」
殿下が苦悩しつつ頭を抱えている姿は滅多に見れないから、ちょっと面白い。
リンゴ飴のパリパリという飴の食感とりんごの歯触りを楽し見ながら殿下を眺めていると僕のリンゴ飴を取り上げて殿下が口に運ぶ。
そんなに年齢変わらない筈なのに何故か不釣り合いに見える様子に思わず笑ったら逆に不思議そうな顔をされてしまった。
「美味しいですか?」
「うーん…甘いね」
「トール様、甘いもの苦手でしょうに。なんで食べたんですか?」
「…リューが夢中になって食べてるから美味しいのかと思って」
「ははっ、それ昔もおんなじこと言ってましたよ」
「あの時も甘かった…。というか、これ甘さが増してない?」
「まさか、変わらずに美味しいですよ」
苦手な癖にいつも僕のを奪って半分食べてしまう殿下。
殿下が食べかけのリンゴ飴を奪い返して残りは僕が食べた。

実は僕のをいつも勝手に食べちゃう殿下に最初は怒っていたのだけれど、殿下のこの行動にも意味があって、全部は食べきれない僕がたくさんの種類を食べれるように手伝ってるんだ、と姉様から教えて貰ってから、あまり怒る気にもならなくなってしまった。

食べ終わったリンゴ飴の棒を空の袋に片付けて、次はチョコバナナを口にする。
殿下も食べるかな?と思って視線を向けると徐に視線が逸らされてしまった。
……何かあったのかな?

「王宮から郊外へ続く馬車通りはあちらの方に建設するんでしたっけ?」
「…へ?……あー、いや。さっき通ってきた屋台通りが連なる広場のあたりだな。そこから王城とアカデミーを結んで真っ直ぐに伸びた道路になる予定だよ」
「えぇっ?!じゃあの屋台ぜんぶ無くなっちゃうんですか?!」
「…予定ではそうなるね」
少し寂しそうに殿下は呟いた。

「僕は断固反対です!!!僕たちの思い出もぜんぶなくなっちゃうって事じゃないですか!!」
それはとても悲しい。
姉様との思い出も、殿下との思い出も全部全部大切なのに!
じわりの涙が浮かぶ。

姉様の大切な思い出と。
これから一国を担っていく責務がある殿下との思い出は
立場や役割が変われば今後は育む事ができないものなんだって僕だってちゃんと分かってる。

だから大切にしたいのに。

…トール様は違うの?


「…俺も同じ気持ちだよ。だから他にいい案はないかって思って視察も兼ねてリューをデートに誘ったんだよ」
堪えきれず溢れた涙をひとすくいしてトール様が僕の頬を撫でた。

「…じゃあ、僕も手伝います!!王都の地形には詳しくないけれど一緒に考える事はできますから」
「リューならそう言ってくれると思ってたよ。君の力を貸してもらえる?」
「もちろん!」
そうと決まればトール様の手を取って馬車へと向かう。
ちょっとお行儀悪いけど、買ったものは食べながら移動すればいい。
計画を地図に落とし込んだものを見せて貰いながら、実際の場所を通って貰った。

「うーん、平民地区はかなり生活圏にありますね。退いて貰うにしても、これから苦労するのでは?」
「そこが1番のネックでね。無理矢理、議会を通しても平民達の同意を得られないと進められないんだよ」
「…でしょうね。平民の生活なんて考えてる貴族なんて一握り…いや、砂金を探すほどかもね」
「相変わらず手厳しいな。でも実際その通りだから、この計画が議会を通ってしまったんだよね」
「ルートを変えるにしてもそれなりの説得力が必要ですし。それに平民を納得させるだけの案も用意しないとですよね」
「課題は山積みだから、まずはルート変更案から組み立ていくつもりだよ」
「…なるほど。一つ気になる点があるのでアカデミーに近い市街地の門の方に向かって頂いてもいいでしょうか?」
「仰せのままに。私のお姫様」

チュッ

──────…っ!!!!

今度は目尻のあたりにキスされた!!!
真っ赤になってるのが分かるくらい熱を持った頬を抑えてトール様から距離を取る。
口をはくはくとさせている僕に全く気にした様子もなく達者に指示を出す。
なんでもないような素振りのトール様にちょっとイラッとして

「僕はオヒメサマなんかじゃないし!男の子だし!!」

って負け惜しみ地味た口調でぽつりと呟けば、盛大に笑われた。


…悔しい。
トール様が見直しちゃうような凄い案を提案して揶揄ったこと謝らせてやるんだから!!

固い決意の元、計画図と地形を睨めっこしているうちに門に着いてしまっていた。
さっきまで睨めっこしていた大きな紙を二つ握り締めて僕は目的の場所へズンズンと足早に前へ進んだのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

賢者となって逆行したら「稀代のたらし」だと言われるようになりました。

かるぼん
BL
******************** ヴィンセント・ウィンバークの最悪の人生はやはり最悪の形で終わりを迎えた。 監禁され、牢獄の中で誰にも看取られず、ひとり悲しくこの生を終える。 もう一度、やり直せたなら… そう思いながら遠のく意識に身をゆだね…… 気が付くと「最悪」の始まりだった子ども時代に逆行していた。 逆行したヴィンセントは今回こそ、後悔のない人生を送ることを固く決意し二度目となる新たな人生を歩み始めた。 自分の最悪だった人生を回収していく過程で、逆行前には得られなかった多くの大事な人と出会う。 孤独だったヴィンセントにとって、とても貴重でありがたい存在。 しかし彼らは口をそろえてこう言うのだ 「君は稀代のたらしだね。」 ほのかにBLが漂う、逆行やり直し系ファンタジー! よろしくお願い致します!! ********************

王道学園なのに、王道じゃない!!

主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。 レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ‪‪.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~

沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。 巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。 予想だにしない事態が起きてしまう 巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。 ”召喚された美青年リーマン”  ”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”  じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”? 名前のない脇役にも居場所はあるのか。 捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。 「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」 ーーーーーー・ーーーーーー 小説家になろう!でも更新中! 早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!

【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

カイリの白馬の王子様

不遜な孫
BL
※『あなたを俺の嫁にしようと思う。』に登場するサブキャラ・朱雀とカイリの番外編です。  299X年。『女』という生き物はほぼ絶滅し、男とカントボーイしか居なくなった世界。  人間の繁殖は機械による人工培養が主流となり、人間ブリーダー業は一大産業と化した。  違法ブリーダーの元に生まれたカントボーイのカイリは、幼くして男との交配を強いられる。  交配相手のリクトはカイリに執着し、彼の束縛にカイリは萎縮し切っていた。  そんな境遇の中で、カイリの前に一人の少年が現れる。  人と関わろうとせず、誰にも名乗らない少年を、カイリは何故か放っておけなかった。  カイリに構われる少年を、当然リクトは気に入らない。  不安定なリクトとは裏腹に、少年は徐々にカイリに心を開き、胸の内を打ち明けるのであった。 注意点:八歳時点でのカイリの性描写 登場人物全員倫欠 読んでいて楽しい話ではない 一応これ単体でも読めるようにはしたいと思いますが、分かりにくい点があるかもです。

乙女ゲーの隠しキャラに転生したからメインストーリーとは関係なく平和に過ごそうと思う

ゆん
BL
乙女ゲーム「あなただけの光になる」は剣と魔法のファンタジー世界で舞台は貴族たちが主に通う魔法学園 魔法で男でも妊娠できるようになるので同性婚も一般的 生まれ持った属性の魔法しか使えない その中でも光、闇属性は珍しい世界__ そんなところに車に轢かれて今流行りの異世界転生しちゃったごく普通の男子高校生、佐倉真央。 そしてその転生先はすべてのエンドを回収しないと出てこず、攻略も激ムズな隠しキャラ、サフィラス・ローウェルだった!! サフィラスは間違った攻略をしてしまうと死亡エンドや闇堕ちエンドなど最悪なシナリオも多いという情報があるがサフィラスが攻略対象だとわかるまではただのモブだからメインストーリーとは関係なく平和に生きていこうと思う。 __________________ 誰と結ばれるかはまだ未定ですが、主人公受けは固定です! 初投稿で拙い文章ですが読んでもらえると嬉しいです。 誤字脱字など多いと思いますがコメントで教えて下さると大変助かります…!

処理中です...