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番外編―五人の年末

舞台は鳥照

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 人も街も浮かれる年末のある日のこと。日が暮れて少し経った時分、駅のロータリー近くに知哉と椎名の姿があった。何でも屋の忘年会の待ち合わせらしい。

知哉「もうそろそろ来ますかね?」

椎名「そうだね」

知哉「にしても、結局休みの日も椎名さんとゲームをやっちゃうとは」

椎名「三時からだから…… 五時間くらい? ずっとやってたもんね?」

知哉「こんなことじゃダメっすねぇ。ダメ人間ですよ」

椎名「まぁ、毎日のことじゃないし、準ダメ人間ってとこじゃない?」

 二人が笑いながら話していると、脇道を抜けてきた修と渡の姿が見えた。

渡「あ、知ちゃんと椎名さんあそこにいるよ?」

修「おっ、早いな二人とも」

 修と渡に気づいた知哉は大きく手を振ってみせた。

知哉「こっちこっちぃ!」

修「手なんか振らなくたってわかってんだよ、無駄にデカイんだから」

知哉「ひどーい!」

 女子中学生のような声を出して、渡の後ろに隠れる知哉。

修「いやだから、隠れられてねぇんだって、デカいんだからよ!」

知哉「まーだ、あんなこと言ってるぅ!」

渡「ちょっと謝んなよ知子にぃ!」

修「珍しくそのボケに乗るなよ教授さんよぉ! つーか知子ブスだな」

知哉「うるせぇよ!」

椎名「というか、重君は一緒じゃないの?」

渡「一緒じゃないですけど…… もう来るんじゃないんですか?」

重「そうだねぇ、来る頃だねぇ」

渡「うわっ!」

 いつの間にか横に立っていた重に渡は本気で驚いた。

渡「なんだよもう! 驚かすんじゃないよ!」

椎名「渡君、足踏んでる」

渡「えっ? あっ、すみません椎名さん!」

重「踏むかね普通。失礼きわまりないよ?」

渡「誰のせいだよ?」

修「……知哉?」

重「……そうだね」

椎名「それじゃちょっと謝罪をしてもらって……」

知哉「なんだってんだ!」

修「つーかよ、全員揃ったんだから早く案内してくれよ? 予約取ってくれたのは知哉なんだからよぉ」

知哉「わかったよ。じゃあこっちだから」

 知哉を先頭にして歩き出す一同は、大通りの小道へと入っていった。

重「そういえば、どんな店か聞いてないんだけど、普通の居酒屋?」

知哉「今回は焼き鳥屋でーす」

重「焼き鳥!? うーわ知ちゃんナイスタイミング!」

椎名「なんかあったの?」

重「昨日ですね、夜中に焼き鳥屋の特集を組んでるフザけた番組がありましてね?」

修「あぁアレか。観た観た俺も。マジで腹減るよな?」

重「もう本当にそう。それで食べたくてさぁ」

修「だから俺、すぐに知哉に電話して、店どこか聞いたもん」

渡「電話したの!?」

修「そう。んで焦って履歴から電話かけたもんだから椎名さんにかけちゃって……」

椎名「そうそう、夜中に叩き起こされて、というか鳴らし起こされてね」

知哉「何ですか『鳴らし起こされる』って」

修「いや、どうもすみませんでした、鳴らし起こしちゃって」

椎名「気にしないでよ。こんど僕も鳴らし起こすから」

修「気にしてるじゃないですか!」

 くだらない話を楽しみながら歩いていた五人は、忘年会の会場である焼き鳥屋についた。

知哉「はーい、ここでーす」

渡「ここ?」

知哉「そう。焼き鳥屋の『鳥照』でーす」

重「いい雰囲気の店じゃないの」

修「こんなとこ知ってんだ?」

知哉「いや、実家の常連さんが教えてくれてさぁ。ここで飲んだ後にウチでラーメン食ってんだって」

修「へぇー、そうなのか」

知哉「それじゃ入るか?」

 知哉が店の引き戸をカラカラ開けて中に入ると、そのあとに四人も続いた。

店員「いらっしゃいませ!」

 複数の店員の声が、騒がしい店内に響いた。

知哉「五人で予約した寺内ですけど……」

 でかい図体を気持ち縮ませて尋ねる知哉。

店員「はい、お待ちしておりました! 奥のお座敷になりますので、どうぞこちらへ!」

 元気な店員に案内された何でも屋たちは、店の一番奥の座敷に通された。

店員「お履物はこちらに閉まってください。あと、あちらにお手洗いがございますので」

 靴を脱ぎながら説明を聞く一同。

店員「こちらのテーブルになります」

知哉「あ、どうも」

 知哉がどの位置に座ろうかと思っていると、一番後ろを歩いていたはずの重がいつの間にか座っていた。しかも、最も勝手の利く奥の場所に座っていた。

知哉「自己中野郎がもう座ってんぞ?」

修「あぁ!? 後ろにいたんじゃねぇのか?」

重「ホラ、邪魔になるんだから早く座んなさいよ」

渡「ったく、そういとこあんだよなぁ大先生は」

 グチグチ言いながらも他の四人は空いているところへ座っていく。

修「だいたい、こういう時は年上の椎名さんが先だろ?」

重「あ、そうだった。すみません椎名さん」

椎名「いやいや、今日の重君は神出鬼没だね」

重「椎名さん、その通りなんですよ」

修「うるせぇよ」

店員「あの、ご注文のほうは?」

知哉「えーっと、じゃあ、椎名さんは何飲みます?」

椎名「うーん、生の…… 中にしようかな?」

知哉「生の中ですね? お前らは?」

渡「俺も生中で」

知哉「大先生と修はビール飲まないから、えー、生中を三つ」

店員「はい、生中を三つ……」

修「じゃあ、ジントニック一つ」

店員「当店はすべての飲み物に大中小あるんですが、サイズはどうしますか?」

修「あ、そうなんですか? それじゃ中で」

店員「はーい、ジントニックの中……」

渡「大先生は?」

重「空きっ腹だからねぇ、ウーロン茶の小もらえますか?」

店員「ウーロン茶の小ですね?」

修「肴は…… 最初は知哉がちょろちょろっと頼んでくれよ」

知哉「オッケー。それじゃですね……」

 知哉は品書きをめくりながら、数品を選んで店員に伝えた。

店員「かしこまりました。それでは失礼します」

 注文を取っていた店員が立ち上がると同時に、別の店員がお盆を持ってテーブルにやってきた。

店員「おしぼりとお通しになります」

知哉「ありがとうございます」

店員「こちらのお通しは無料でございますので」

修「いやー、わかってますね、ここのお店は!」

店員「ありがとうございます。あと、こちら、クーポンをご使用になって予約されたお客様へのサービスとなります」

 店員はテーブルの真ん中に皿を静に置いた。

店員「ササミ梅ジソ揚げです。お熱いのでお気をつけてください。それでは失礼します」

椎名「おいしそうだねぇ」

知哉「梅とシソってのがいいんだよな」

修「知哉は梅キライじゃなかったっけ?」

知哉「こういうのは大好きなんだよ。梅干しの…… なんつーの、まんまがダメなんだよ、酸っぱすぎて」

修「あぁ、なるほどな」

 二人が話していると、割り箸と小皿を手に重がモソモソと動いていた。

修「おい、だから椎名さんが先……」

 重は修が言い終える前に、小皿に取ったササミ梅ジソ揚げを椎名に渡していた。

修「あっ、椎名さんの分を取ってたのね……」

重「ひどーい!」

 女子中学生のような声を出す重。

重「気の利かない子だと思ったんでしょ!?」

修「もう、さっきやったんだよそれは!」

重「何がよ!? ひどいと思いません椎子先輩」

椎名「ほ、本当本当! ひどいよね!」

修「椎名さんにやらせんじゃねぇよ! 椎名さんもこんな奴に合わせてやることないんですから、ってか椎子って何だよ!? 源二なんだから源子だろ!?」

重「いやぁ、下の名前で呼び慣れてないからさぁ。それに失礼かなって」

渡「椎子先輩をやらせてる時点で失礼だろ! ねぇ椎子先輩?」

椎名「えぇもう本当そう! 失礼しちゃうわぁ!」

修「見ろ、二人がやらせるから二回目から迷いがねぇじゃねぇか!」

 普段と変わらないバカをやって笑い合っていると、店員が飲み物を持ってきた。

店員「お待たせいたしました!」

知哉「あ、どうも、ありがとうございます」

修「いいですよ、もらっちゃいますから」

店員「すみません、ありがとうございます。失礼します」

 店員が下がったのを確認すると、知哉はジョッキを手にした。

知哉「それじゃ、やっぱり何でも屋の代表つーことで、教授さんが乾杯の音頭を取るか?」

渡「いや、ここは最年長の椎名さんに挨拶もらおうよ」

重「そうだね、それがいい。社会人の先輩として一言もらいましょ」

椎名「え、僕かい?」

修「それじゃ、お願いします」

 椎名を促すようにして四人はジョッキを前に突き出した。椎名は変な緊張感のまま喋り始めた。

椎名「えー、まぁあの…… 何でも屋にとんでもない形で入社してから早半年、皆さんには本当に感謝しています。忘年会ということでしたが、私たちにとって忘れられない年となりました。えー、何でも屋の一層の繁栄を願いまして…… カンパーイ!」

修「カンパーイ!」
重「カンパーイ!」
渡「カンパーイ!」
知哉「カンパーイ!」

 五人は互いのジョッキで音を立てると、一口二口と喉を鳴らした。

知哉「はぁーっ! 効くなぁ!」

椎名「いやー、染み渡るよねぇ!」

渡「ビールもたまに飲むと美味しいねぇ」

知哉「おーい、たまにじゃなくてもウマいだろ?」

修「うおっ! ここのジントニックすごいな、ライムがガツンとくるわ」

重「うわっ、ここのウーロン茶はガツンと……」

知哉「くるわけねぇだろ! 飲んでられるかそんなウーロン茶!」

重「いいでしょ別に? ほら、おつまみ来たよ」

店員「お待たせしました! モモ・皮・カシラの塩です」

 店員が置いた大皿の上の香ばしい焼き鳥は、男五人の心をいとも簡単に奪った。

店員「こちらがつくねのタレです。それと、スティックサラダと枝豆になります」

知哉「ありがとうございます」

店員「それではごゆっくりどうぞ」

 さわやかな笑顔を見せた店員は、他のテーブルに呼ばれて下がっていった。

知哉「じゃ、焼きたて食べようぜ?」

 何でも屋たちは焼き鳥を頬張りながら、酒を飲んだ。

重「いやぁいやぁ、美味いねぇモモ! まぁモモ、まぁーモモ!」

修「モモ、モモうるせぇよ」

重「だって美味しいでしょ?」

修「そりゃ美味いけどさ……」

重「なら良いでしょうよ。どうですか椎名さんは?」

椎名「僕ねカシラを初めて食べたんだけど、美味しいねコレ!」

知哉「ウマいんですよぉカシラは。砂肝もウマいんですよ?」

椎名「そうなの? じゃ後で頼もうか」

知哉「そうですね」

渡「にしてもさぁ……」

 気持ちよさそうにビールを飲みながら渡が言った。

渡「UFO…… FYEだっけ? あれすごかったね」

修「とんでもなかったよな」

椎名「目撃するとかのレベルじゃなかったもんね? もう、なんだろ…… 体験したっていうのが正しいのかな?」

渡「そうですね。FYEが一気に近づいてきたときは、みんな連れていかれちゃうのかと思って、俺かなり焦りましたよ」

知哉「俺は全員のあの表情が焼き付いてるよ。ほら、俺の後ろにいるときの顔だよ?」

重「あのときは知ちゃんが、こう…… 牛がほら、ウィーンって…… 何って言ったっけ?」

修「キャトルミューティレーション?」

重「そうそう、それみたいにさ、FYEに連れて行かれちゃうんじゃないかと思って」

渡「キャトルっぽいしね?」

知哉「誰がキャトルっぽいんだよ! っていうかキャトルって何?」

渡「牛って意味だよ」

知哉「あ、そうなの? じゃねぇよ、誰が牛だ!」

重「いやぁ、でもなんか悔しいよ……」

 重はスティックサラダをパリポリ食べながら、ため息交じりに言った。

修「何が悔しいんだよ?」

重「今日はさ、定例会議に行ってきたもんだからさぁ」

椎名「定例会議?」

重「あれ、椎名さんに話してませんでしたっけ? あのー、若松市及び近辺に住む妖怪仲間が集まって二ヶ月に一度開く会議があるんですよ」

修「若松定例妖怪会議っていうマヌケが集まる会なんですよ」

重「はーい、僕がいただきまーす!」

 重は修が食べようとしていた皮の串を素早く取り上げ、一気に食べてしまった。

修「おい! なにすんだよ!」

 修は笑いをこらえながら文句を言った。

重「なにぃにゅうんじゃよにゃないんにゃにょ……」

 鳥皮を一気に口に入れてただで済むはずがない。

修「何言ってんのかわかんねぇんだよ! 一気に口入れるからしゃべれねぇんだよバカ!」

重「………んんっ、あぁ。誰がミムメモなんだよ!」

修「マヌケっつってんだよ! 何がミムメモなんだよ! いいから椎名さんに説明しろよ!」

重「そうそう! それで椎名さん」

椎名「もう、小ボケの応酬で話があんまり入ってこないけど、何?」

重「その妖怪会議の席でFYEの話をしたんですよ。そしたらもう皆ガックリきちゃって」

椎名「あれ、どうして? 妖怪が好きなんだから、UFOが見れなくてもいいでしょ?」

渡「そうですよね? なんでガックリなの?」

重「なんかこう、いろいろと先を越されちゃってガックリってことなんだよ。日本の妖怪は日本のUFOよりも深い歴史があるのに、UFOより目撃・体験談が少ないんだから」

渡「あぁそういうこと?」

重「何ていうのかなぁ、だから、FYEみたいな体験を妖怪でしてみたいなってことなんだよ」

修「でも、妖怪でそんな体験して大丈夫なのかよ?」

重「えっ?」

椎名「そうだよ。だって怖いというか、危ない妖怪もたくさんいるんでしょ?」

重「………こいつは重大な議題だなぁ」

知哉「はぁい、マヌケ決定。つーかミムメモ決定!」

渡「だね。ミムメモ大先生だね」

重「あ、どうぞヨロシク」

修「ヨロシクじゃねぇよ!」

重「なによ? あ、店員さん、すみません!」

 ウーロン茶を飲み終えた重は、近くにいた店員に声をかけた。

店員「はい、なんでしょう?」

重「ハイボールの小と山菜の天ぷらもらえますか?」

店員「はい、かしこまりました!」

 重は紙ナプキンで口を拭くと、眼鏡の位置をなおした。

重「そういえば、会議に行くときさ、駅前で社長に会ったよ」

渡「社長? あの社長?」

重「そう」

知哉「あれ、いま名古屋に居るんじゃないの?」

重「なんか実家に用があって帰ってきたんだってさ、新幹線に乗って」

知哉「大変だなぁ」

修「成人式のとき以来か? 会ってないもんな全然。変わってた?」

重「これっぽっちも変わってない」

修「あ、やっぱり?」

 話を聞いていた椎名はクスクスと笑い出した。

修「あれ、どうしました?」

椎名「いやぁ、教授に大先生に社長って、大物だらけだなって思って」

渡「ははっ、確かに言われてみたらそうですね」

知哉「でも椎名さんあれなんですよ? そのあだ名つけたの、ぜーんぶ修なんですよ」

椎名「そうなの?」

渡「そうなんですよぉ。で、大体のあだ名は役職なんですよ」

修「あぁ、確かに。だから教授に大先生に社長だろ? あとは監督‥」

重「監督は懐かしい! ヒロちゃんのことでしょ?」

修「そうそう。あと相談役」

椎名「もうトップじゃない!」

修「いやぁもう相談役ってのがピッタリで」

渡「まあね、神木君は風格があったよね」

修「そうなんだよ。んで相談役って呼んだ時だけ相談役をやってくれるのが優しいんだよ」

渡「バカに合わせてくれてんだよね?」

修「この件に関しては、もうその通り」

椎名「聞く度に思うんだけど、皆の学生時代は本当に楽しそうだねぇ」

知哉「そうですか? バカなだけでしたけどね、なぁ?」

修「その件に関しても、その通り」

 五人で笑い合っていると、店員が重の注文の品を持ってきた。

店員「お待たせいたしました! ハイボールの小と… えー、山菜の天ぷらになります!」

重「あ、どうも、ありがとうございまーす」

店員「では、ごゆっくりどうぞ!」

 重は届いたハイボールをグッと飲む。

重「かぁーっ! こりゃまた冷えてて美味しゅうございますねぇ。いや植木屋さん、いまあなたが日の下でお仕事を……」

修「いいよ、青菜は! 何でこのタイミングで古典落語なんだよ!」

重「いやぁ、ちょっと思い出したからさぁ」

渡「そういや中学生のときにもやってたよね、その件」

修「え? やったっけ?」

渡「修学旅行のときだよ。何か日本家屋のとこで、ウチは山の湧水を引いてるんですよって、おじさんが説明してくれて、その湧水を飲ませてもらったでしょ? そのときだよ」

修「あぁ、はいはい、やりました。そんときは俺が言って、大先生がツッコミいれたよな」

重「あ、そっかそっか、修がボケたんだ」

渡「まぁ椎名さん、ずっとこんな感じなんですよ」

椎名「そうなんだぁ…… あのー、皆のさ、出会いっていうのはどういう感じだったの?」

修「出会いですか? 出会い、あの…… 俺と大先生は幼稚園から一緒でして」

椎名「えっ!? そうなの!?」

修「はい。で、家もけっこう近かったんで、よく遊んでまして。それで小学校に入って、まぁ大先生と同じ一年一組になりましてね。そこで知哉とも一緒になったんですよ」

知哉「で、修と同じ班になりまして、そっからどんどん仲良くなっていった感じですかね」

重「それから一か月ちょい? そんぐらいだったよね?」

修「確かそう」

重「俺が駄菓子屋さんを見つけまして、三人で行こうって放課後に出掛けたんですよ。そしたら、前のほうにランドセル背負った同じくらいの子が歩いてて」

知哉「俺たちは一回家に帰って駄菓子屋に向かってましたから、あぁ、あの子はちょっと家が離れてるんだなぁって思ってたらハンカチを落としまして」

修「大先生が拾って声出そうとしたら知哉が横で大声出すもんですから、俺はもうびっくりしちゃって」

渡「後ろから聞こえてきた『ハンカチィー!!』の叫び声に振り返ったらこの三人がいたんですよ」

椎名「あっ、ハンカチ落としたのが渡君だったの!?」

渡「そうなんですよ」

修「それで、話したら同じ小学校の一年二組で。あのー、入学してすぐって学校に慣れるためにいろいろあるじゃないですか、クラス単位で。ですから二組の子とまだ接点がなくて、教授のことを知らなかったんですよ」

椎名「なるほどね」

知哉「それで、これから駄菓子屋に行って、そのあと公園で遊ぶんだけど一緒に遊ぼうよって誘ったんです。それから、教授さんの家まで一緒に行って、まぁ家というか屋敷のデカさに度肝を抜かれたあと駄菓子屋に行って、その小ささにまた度肝を抜かれて」

修「対比でな?」

知哉「そうそう」

修「そっからは学校でも遊ぶようになって、ていう感じですかねぇ」

椎名「じゃあ偶然なんだね渡君との出会いは」

渡「そうですよ。だから、あの時ね、ハンカチさえ落とさなきゃ……」

 眉間にシワを寄せて言う渡に、他の四人は笑った。

修「どういう意味だよ!」

重「本当だよ、失礼しちゃうね!」

 知哉は言い返すこともせず、椎名の肩を抱きながら大笑いしていた。

渡「何が? あそこでハンカチを落としてなかったら、今ごろ高級な落ち着いたバーでさ、きれいなおねえちゃんじゃなく、美しい女性とグラスを傾けてたって言ってんだよ!」

 渡は笑いをこらえながら何とか言い終えた。

修「何が落ち着いた女性と美しいバーを傾けるだよ!」

渡「何がしたいんだよそいつは! そんなこと言ってないだろ!」

重「ちょっと酒入るとさぁ、金持ちお坊ちゃんの嫌なとこ出すもんなぁ教授さん」

渡「うるさいよ!」

椎名「皆は本当に仲がいいねぇ」

知哉「なに他人行儀なこと言ってるんですか! 椎名さんは俺たちにとっちゃ、ちょっと遅れてやってきた親友なんですから! なぁ?」

修「そうですよぉ? 教授さんとの出会いなんて比にならないんですから!」

椎名「えぇ?」

渡「えぇ、じゃないですよぉ! 偶然にして衝撃的なあの出会い。どれだけヨーミニカエリー舞を舞ったと思ってるんですか!」

知哉「俺なんかあの後の掃除が大変だったんですからねぇ!」

重「それはニンニクをすりおろしてきた知ちゃんが悪いんでしょうよ!」

知哉「はぁ!? 木魚を平手でペチペチ叩いてた奴に言われたかねぇんだよ!」

修「そうそう、こないだの灰田さんの時も、眼鏡のレンズにくっついたゴミをUFOだぁなんだ言って大騒ぎしやがって」

重「ふーん、なるほどね。椎名さんね、この修って野郎はですね、中学生の夏休みに……」

修「ゴメンゴメンゴメン! ちょっとしたジョークなんだからさぁ、シゲちゃん、おシゲちゃーん」

 重にだらしなく寄りかかる修。

重「なんだよもう、おシゲちゃんってのヤメなさいよ、気持ち悪い!」

修「なにぃ、このモジャモジャ頭!」

重「椎名さんね、こいつはね、先輩の沙耶……」

修「ゴメンゴメンゴメンゴメンゴメンゴメンッ! ウソウソ、ウソだよ重君!」

椎名「気になるなぁ。重君が切り札に使ってるその話。いつも修君が止めちゃうからさぁ」

修「そりゃ止めますよぉ!」

椎名「渡君と知哉君は知ってるの?」

知哉「知ってはいるんですけど、大先生しか知らないことがどうやらあるようで……」

渡「ですから、一番重要な所はこの二人しか知らないんですよ。ただ言えるのは……」

椎名「うん」

渡「その一件から、修が女性恐怖症みたいな感じになりましたね」

椎名「えぇっ!? 何なのそれ、何があったの?!」

修「いやいや、これはもう墓まで持っていくって決めてますから!」

重「俺は持っていくつもりはないから!」

修「持ってけよ! ったく、あっ、もう酒がない」

渡「うわ、話を変えたよ」

修「うるせぇなぁ、皆もないじゃん」

渡「まぁ、そうだけどさぁ」

 片方の眉毛を上げた知哉は、いやらしく修を見る。

修「なんだよ、その目つきは! つーか、俺はコレおかわりするけど、なに頼むんだよ?」

渡「いや、あれだよ、修と一緒のジントニックにするよ」

修「あぁジントニックな? 椎名さんは…」

椎名「僕もそれ飲む」

修「何でそんな子供みたいな言い方なんですか? ジントニックですね? 知哉‥」

知哉「俺もそれで」

修「ジントデックね?」

知哉「無理やりデクノボウを入れてくんなよ!」

修「ははっ、んで大先生…… 大先生はまだハイボールあるからいいか?」

重「もないよ」

修「もないよ、じゃねぇよ。もう飲んだのかよ?」

重「だって小だもの!」

修「あぁ小だったか……」

椎名「うわっ! 修くーん、今のダジャレは見過ごせないよぉ?」

修「今のはダジャレじゃないですよ!」

 言われて気づいた知哉は、また椎名の肩を抱いて大笑い。

渡「ウソつけぇ! 言いましたよねぇ椎名さん。あれですよね、『そうだったか』と『小だったか』って、ねぇ?」

椎名「そうそうそうそう、それでちょっと雰囲気出してね?」

渡「そーなんですよ! その雰囲気がまたムカつくんですよぉ」

修「だから、今のはダジャレじゃねぇって! うるせぇ高学歴コンビだ、ったく。で? シゲは何飲むんだよ?」

重「俺もジントニックでいいよぉ」

修「やめろよぉ! なーんで皆一緒なんだよ! 店員さんに仲良しグループだと思われんだろぉ!」

知哉「仲良しじゃんなぁ?」

重「そーだよ! 新しい仲間の椎名さんを加えてぇ、より強固な布陣となってぇ、まさに今、若松市からお届けするぅ、楽しい日々を宣言…… あの……」

渡「なに言ってんだかわかんないんだよ! アルコールに強くないんだから、もっとペースを落として飲みなさいよ」

知哉「はーい」

修「お前が言われたんじゃねぇよ!」

椎名「店員さーん! すみませーん! ジントニックの中を五つお願いします!」

修「おいピエロ! 勝手に頼むなよ!」

 その後も何でも屋の忘年会は仲良しこよしで続いた。また、椎名は初めて親友と呼べる四人と過ごしながら、脱サラして大道芸人を目指して良かったと、しみじみ想うのであった。
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