何でも屋

ポテトバサー

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第二章:よそでイチャつけ!

ペラペラの日本語

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男「あの、すみません……何でも屋ってここですか?」

 振りかえった修と知哉の前には、リュックを背負った青年が傘を差し立っていた。小奇麗な身なりに知性が溢れる顔だち、それは学生時代の渡を思わせた。

青年「あ、どうもすみません」

修「えぇ、ここが何でも屋です。もしかしてご依頼ですか?」

青年「はい、そうなんです」

修「そうですか、それじゃ中へどうぞ」

 修と知哉は、火をつけようとしていたタバコを素早くしまうと、青年を中へと案内した。

修「知哉はお客さんを頼む。おい大先生! ここをちゃちゃっと片してくれ! 教授はあのーあれだ、用紙を持ってきてくれ!」

 修は事務所に入るなりすぐに指示をすると、控室にアイスコーヒーを取りに行った。その間に知哉は青年をソファーへと案内した。

知哉「どうぞ、お掛けになってください」

 高身長で体格の言い知哉に気を使われ、青年は変に緊張していた。

青年「ありがとうございます……」
 
 青年がソファーに座ると、重はコースターをローテーブルに置き、それにあわせて修がアイスコーヒーの入ったグラスを置いた。

修「どうぞ」

青年「あ、どうもすみません。いただきます」

 青年は一口アイスコーヒーを飲んだ。

渡「お待たせいたしました」

 渡が大きな青いファイルと用紙を持ち、向かいのソファーに腰を下ろす。重と知哉は事務イスに座り、修は離れた所に立ったままでいた。

渡「えーと、それでは……お名前とご職業を教えていただけますか?」

青年「杉田と言います。今は大学生です」

渡「あ、学生さんなんですか?」

杉田「あ、はい。千葉新国際フレキシブル大学に通ってます」

渡「奇遇ですね! 私、千葉新国際フレキシブル大学の卒業生なんですよ」

杉田「えっ、そうなんですか!? ということは僕の先輩なんですね!」

渡「そういうことになりますね。いや、何となくそうなんじゃないかと思っていたんですよ。知性があふれていましたから」

杉田「いえいえ、先輩のほうこそ、知性があふれてますよ!」

渡「え、そうですか?」

 楽しそうに話を続ける二人を、修は暇そうに眺めていた。

杉田「先輩、お名前は?」

渡「あぁ、そうでした。私は大塚渡と申します。あとついでにですね、背の大きいのが寺内、眼鏡をかけているのが水木、そして私たちを暇そうに見ているのがヒゲです」

修「なんで俺だけ『ヒゲ』なんだよ!」

 渡はあっさりと修を無視して杉田との話を続けた。

杉田「何か賑々にぎにぎしい感じで、楽しそうな職場ですね」

渡「そ、そうですか?」

 渡は照れ笑いを見せると、無駄にボールペンの芯をカチカチと出し入れさせた。

渡「それで杉田さん、どのようなご依頼で?」

 杉田は四人の顔を順にチラッと見ると、落ち着き無く体を動かし、恥ずかしそうな顔で口開いた。

杉田「あの、デ、デートコースを決めていただきたいんです……」

知哉「デートコース!?」

 デリカシーの無い声を出した知哉は、事務イスから立ち上がり、杉田の横へと座った。

知哉「なんだぁ、そういうお悩‥」

渡「寺内さん」

知哉「ん? なに?」

渡「寺内さん!」

知哉「あ……すみません、どうも……」

 口調だけで全てを悟った知哉は、渡の横に座り直した。その間、二人の顔を交互に見ていた杉田を見て、修は笑うのを我慢していた。

渡「……それで、デートコースということですけど、何かご自身で決められない理由があるんですか?」

杉田「実は僕、留学で大学に来ているんです」

 驚いた知哉は再び声を上げる。

知哉「えっ? 日本人じゃないの?」

渡「寺内さん」

知哉「す、すみません……」

杉田「一応は日本人です。父も母も日本人なので。ただアメリカ生まれのアメリカ育ちなので、国籍からいうとアメリカ人なんです」

知哉「あぁ、そういうことか! なるほどなるほど、日本でデートしたくてもデートスポットを知らないから‥」

渡「寺内さん」

知哉「ん? なに?」

渡「寺内!」

知哉「あ……はーい……」

 知哉は姿勢を正すと、静かになった。

渡「デートスポットを知らないがために、コースを決めてほしいと?」

杉田「はい、そういうわけなんです」

修「でも……」

 黙っていた修が口を開いた。

修「雑誌で調べたりすればいいんじゃないんですか?」

杉田「雑誌で良さそうなところを見つけても方向音痴なもんで……」

修「スマホのアプリとかでも……」

杉田「たまに道に迷ったときも彼女に助けてもらってまして……」

修「あ、そうなんですか……」

杉田「それにいま、大学では激烈講義の時季なんです……」

渡「あぁそうか、もうそんな時期かぁ」

知哉「なんだよ、その激烈講義って? すげぇバカみたいなネーミングだけどよ?」

渡「知ちゃんに分かりやすいように言うと『クソ忙しい』ってことだよ」

知哉「うわーすごく分かりやすいけどバカにされた気分!」

修「おうバカ、向こうに座ってろよ!」

知哉「わかったわかった静かにしてるから……」

渡「終わりました?」

知哉「はい、黙ってます」

重「………それで? 依頼受けてあげるの?」

 今まで黙っていた重が急に話した。

渡「えっ? あぁ、デートコースかぁ……」

修「後輩が困ってんだ、受けてやれよ」

知哉「ぐっ…………あっ…………」

 知哉は何か言いたそうにしていたが、自分で黙っていると言った以上、話すわけにはいかなかった。

渡「……よし! 杉田さん、そのお悩み当店で解決いたします」

杉田「本当ですか!? ありがとうございます!」

 嬉しそうな笑顔を見せる杉田に、渡の顔も自然と笑顔になっていた。
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