プラス・ウォーカー

鉄仮面

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No.11:気にかかる事

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 突然に振られた話に僕は一言だけ答えた。

 「ミラはミラじゃないかな?」

 ミラは僕の答えに不満だったのか「真面目に話してるのに」と、頬をふくらませた。

 「ごめん、ごめん」と、謝りながら僕は暗くなり、星の光が瞬く夜空を見上げる。

 「それは自分の外見をどう見られているのか、という疑問なのか、自分の価値がどんなものかという評価を気にしている意味が混同されているから、僕は最初に言ったとおりに『自分は自分だよ』と答えたんだ」

 「そうなんだ……えっと……じゃぁ、質問を変えるわ。私が捨てられた奴隷だと分かって、マルは……悪いことを考えたりする?」

 「何か悪逆的な事をしようと思っていたら僕は今頃、商人と結託してミラ達を捕まえてたんじゃないかな? そして、少量のお金を貰って喜んでた。自分で言ってて寒気がするけどね」

 「そうよね」と、ミラは小さく呟き顔を下げ、地面に目線を向ける。

 水が沸騰し始めると、僕は缶を取り出し、蓋を開けると、そこには茶色く変色した茶葉が入っており、フィルター袋に茶葉を袋に適量入れ、鍋をコンロからどかして茶葉の入った袋を鍋に投げ入れる。

 その間もずっとミラは、地面を見つめて無言の表情をする。自分の中で自問自答しているのかもしれない。

 地面を見つめながら「ねぇマル、あなたは……その……私の身体を……なんて言えばいいのか、あの獣のような重くて気持ちの悪い視線を向けないというか」

 「ん? ん――、欲情しないからじゃないかな?」

 僕は茶葉の入った袋を取り出すと、ミラは直立し、僕に身体を向けて、肩ひもに手をかけると服は身体をすり抜けるように落ち、ミラの肢体が焚火の光で照らされる。

 「……これでも、マルは欲情しない?」

 僕は静かにゆっくりと立ちあがり、無言でミラを抱きしめる。抱きしめられた瞬間、ミラはしゃっくりをした時のように身体を跳ねさせる。

 「今、ちょっと怖かったでしょ?」
 「……うん、怖かった……マルはそんな人じゃないと分かってたのに」

 このまま抱きしめ続け、力を込めると今にも壊れそうな脆いガラス細工の印象を受けた。頬はコケ、あらゆる個所の骨が浮き出て、あばら骨の形もハッキリと分かる。

 僕はミラを開放し、子供にズボンを穿かせるように脱いだ服を着せなおした。

 そんな様子にミラは僕の目を見つめ「マルの目は綺麗な色をしてる……」と、ミラは自分が想像していたものとは違う結果を知ると、また地面に腰を落とす。

 僕も座りなおすと、リュックからコップを取り出し、薄茶色に染まった鍋のお湯を注ぎ、ミラにコップを差し出した。

 「あったまるよ」
 「あ、ありがとう……」
 「なんていうかな、僕はミラも含めて皆を娘みたいに思っているところがあって、決してミラに魅力がないというわけではないんだ。健康になってくれれば、僕は嬉しいだけなわけで……ミラは十分に綺麗な顔だちをしてるし、その明るく輝いた金色の髪の毛だって美しいから」
 「え、ちょっと……そう言われると照れるというか、その……綺麗とか美しいとか言われた事ないし」

 ミラは目を泳がせ、照れ隠しをしているのかもしれないけど、バレバレといった雰囲気だ。

 「正直に答えただけだよ? 本当の事を言って、何か不満でもあったのかな?」
 「そんなこと!……そんなことないかもよ? だって誰にも買われなかったもの……」

 肩を縮め、脇をしめて肘を内側に寄せて、小声になりながら、コップのお茶を啜ると「ただの水なのにいい香りがする……それに、見た事もない器ね、マルの分は?」

 「はは、その一つしかないんだ。僕の事は気にしないで」
 「……うん」

 ミラはお茶を飲みながら、話を戻してくる。

 「その、私の裸を見てもマルは私達に群がって観ていた男達と違った。それは優しいとは違うの?」
 「うーん? 優しいかぁ……優しいのではなくて理性の問題かな?」
 「理性ってなに?」
 「物事にすぐに流されないこと、つまりはミラの裸を観てすぐに興奮したり、あわよくはなんて考えない事だね」
 「あわよく……?」
 「うん、そこは深く追求しないで……言葉の選択を誤ったみたいだね」

 その時だった――!

 茂みが葉をこすり合わせる音とともに揺れ動き、僕とミラは音のする先に顔を向かせて息を呑む……。

 そこにはリコテが立っており、こちらをじっと見つめる。

 「リコテ……いつからそこに?」
 『ミラの後を隠れてついていって、隠れてた』
 「あ、あんた! まさか……まさか、まさか、私とマルの話を聞いてたの!?」

 ミラは焦り、喜怒哀楽のどれにも当てはまりそうのない、形容しがたい形相で動揺していた。

 すると、リコテは突然に服を脱ぎ捨て『マルは裸では興奮しない』と、僕を試すように裸で近づいてくる。

 「だーかーらー! そんなにひょいひょいと裸を見せないの!!」
 『観て観て、嬉しい?』
 「逆に怖いよ!!」

 僕は急いで服を拾いに行き、リコテの頭から服を被せて、一息つく。

 「あれれ? マルは裸を見ても理性を保てるんじゃなかったの?」
 「そういう問題じゃないの! はぁー、どうしてこうなっちゃうのかな?」

 僕がうな垂れてる傍で、リコテはミラの横に座り何かを書き始め、ミラに何かを伝える。

 「ちょっと! そんなんじゃないわよ!!」
 「どうしたの?」
 「な、何でもない! 何でもないの――!」

 ミラは大きな声を上げて、リコテが伝えた事を否定し、僕に対しては何でもないと言うけれども、明らかな動揺している素振りに僕はリコテがなにか余計な事を伝えたのだなと思った。

 僕はリコテの横に座ると、リコテは僕のお腹に自分の頭を軽くあてる。

 「……な、何かな?」
 『私もミラが飲んでるものを飲んでみたい』
 「リコテが何か言ってきたの?」
 「うん、ミラが飲んでるものを自分にも欲しいって」

 するとミラは「ほら! まだあんまり飲んでないからあげるわよ!!」と、コップをリコテに刺すように突き出した。

 しかし、リコテは突き出されたコップに対して、露骨に嫌な表情を見せる。そして、またしても地面に何かを書く。それを見たミラは「リコテ――!!」と、夜空に吠える。

 (ここが荒地で人の目につかないところで良かった……これじゃ近所迷惑になってしまう)

 「マルに直接聞くわ! 私とリコテ、どっちの裸が魅力的だったの!!」
 「また……だからね、僕は今は魅力的とかどうとかでなくて、健康的になってくれたらそれだけで十分なんだ」
 『もう一回観る? そうしたらマルの理性は吹き飛んで、星々の煌めきの中の一つになり、夜空と同化するの』
 「なんか達観しちゃった人みたいになっちゃってるよ? じゃなくて、なんなのかなその物語みたいな一説は?」
 『本を読んでたら覚えた』
 「そう……なんだ……沢山覚えて偉いけど、変な使いまわしは止めようね」

 言葉を覚えてまだ一日と経ってないけど、二人の努力は着実に実を結んで花が咲こうとしている。僕はこの先の成長した皆の姿が観てみたいと思った。

 気になる事と言えば、リコテは最初にミラに何て伝えたのだろう? 疑問は残るところだけど……。

 「ところで、ミラとリコテはどうしてそんなに仲がいいの?」
 「それは、私とリコテは同じ商人買われて、ここに辿り着くまでずっと一緒だったからよ。その後は、捨てられて、道に迷ってここに辿り着いたらリコテも居たの」
 「そうなんだ、立派な友達同士だね」
 「うーん、友達……そうね、リコテとは友達かしら」

 するとリコテは地面に文字を書くと、それを見たミラは顔が赤面し「ちょっと! それは――!!」と、焦る。文面を見ると『ミラは初めて会った時は一日中泣いてた』と教えてくれる。

 「ミラは心細かったんだね。うんうん、その気持ちわかるよ」
 「分からなくていいの! リコテ――!!」
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