王族の花嫁

いずみ

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両親への挨拶

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 俺と紅玉は朝ご飯を食べ終わると、それぞれの部屋に戻って着替えをする準備などに入った。紅玉は俺の婚約者として父上と母上に会おうとしているので服装などの身だしなみをキチンとしたいと言われたので俺も着替える事にしたのだ。紅玉の父親と母親に会うのは午後からになっている。先に紅玉が午前に父上と母上の時間を頂いたようなので、俺はそれに従う事にした。しかし、紅玉って今まで会っていた恰好でも綺麗だったのに、これ以上に整えてどうしようって言うんだ? 俺の父親と母親だぞ、なんというか外見何て気にしない王族ナンバーワンと言ってもいいのに、紅玉は気を使ってくれているのだろうか? 俺がまだ王族だと言う自覚が薄い事に、紅玉は罪悪感が消えないのかもしれない。俺がどうなるかは俺次第の所為だというのに、俺の婚約者様はお優しいのだから、困ったものだ。
「蒼様、こちらの御召し物はいかがですか?」
「鏡はどれがいいと思う?」
「全て、お似合いになると思います!」
 鏡は目をキラキラさせて俺と服などのアクセサリーを見ていた。
「それは、困ったな。俺の趣味で選んでいいのか? 紅玉の父親や母親に会うのに」
「大丈夫ですよ、お二方ともとてもお優しい王族ですので!」
 鏡にそう力説されるが、他の王族と息子の結婚相手とは態度は違う気がするのだが。
「そして、美しいんだよな」
「はい!」
「はははっ……」
 鏡のまたの強い返事に俺は渇いた笑いが出てしまった。
 大事な一人息子の紅玉を、こんな醜いアヒルの子に渡して大丈夫なのか?
 不安しかない。
 だって、俺は紅玉とは友達感覚しかないんだよな。それが婚約者。まぁ、結婚してないからまだ名乗っていられるが、いつかは撤回する予定なんだよな。これを紅玉に知られ様なら俺は全力で逃げないと捕まえられる気しかしない。いや、両方の親に挨拶なんて。もう、逃げられない可能性が高くなっているのだろうか? 俺は紅玉を振らないといけないのか。あの美しい紅玉をこの凡人代表な俺が振るとか、どれだけヤバい状況なんだよ!
「なぁ、鏡」
「はい、なんでしょうか?」
「紅玉には俺以外に婚約者候補はいなかったの?」
 俺は前から思っていた疑問を聞いてみた。あれほど美しい男だ、他の王族だって婚約者になって結婚したかったはずだ。結婚申し込みは俺がいなくなってチャンスとばかりに沢山来ていてもおかしくはないはず。
「いらっしゃいましたよ」
「え! その子達は今はどうしてるの?」
「他の王族と婚約してらっしゃるか、紅玉様の気持ちが変わらないかお待ちになっていますね。確か、年が近い方だけでも10人はいらっしゃるので、その中でも3人はお待ちになっています」
「ふぇー、3人も待っているんだ? なら、俺が婚約者辞めても紅玉は王様になるんだな」
 俺はほっと安心の息を吐いて安堵していると、鏡にその言葉を否定されてしまった。
「それはどうでしょう?」
「え?」
「紅玉様は蒼様だけを想っていました。蒼様が居なくなられてからの10年間ずっと、どんなに他の王族に蒼は死んだと言われても他の婚約者を作るのを頑なに拒みました。紅玉様は蒼様以外にと結婚は考えておられません。蒼様以外の事を考える事が紅玉様はありませんでしたし。何をするにも蒼様が一番大事だと思っているのです」
「そんなに、俺の事好きなのか?」
 俺は鏡の言葉を聞いて、自分の事ながら感心してしまった。
「もちろんだよ、蒼」
 俺の座っている椅子の後ろから紅玉が現われた。俺の椅子の上から俺を見てくる紅玉。
 紅玉の恰好は素晴らしく似合っていた。黒い髪はオールバックにし、赤を中心にした金の虎が描かれている服を着ている。前から美しい男だと思っていたが、今はとんでもない色気も感じた。21歳の大人の男を見た。
 俺はと言うと、黒い髪を一つ縛りにして赤い紐で括り、服は青を中心とした金の龍が昇る絵が描かれている服を着ている。18歳になったが、こんな紅玉みたいな色気は出ない。
「ふふ、可愛いな蒼は」
「それって、馬鹿にしている?」
「ううん、褒めているの」
「あっそ」
 俺は鏡に化粧を少しして貰って席から立ち上がった。
 紅玉がこちらを足の元から髪の先までジッと見てきて、笑顔を向けてくる。
「うん、似合っているよ。蒼」
「お前に言われても、馬子にも衣裳だって分かっているよ」
「ふふっ、そんな事ないのに」
 そう言って、紅玉は笑顔で手を俺に差し出してくる。俺はその手を取らないといけないと思い、手を差し出された手に置いた。廊下に出ると俺をリードする様に優しい優雅な立ち振る舞いに、紅玉は王族の中の王族なんだなと思った。ただ歩いているだけだが、俺との動作に差を感じたからだ。
 そんな婚約者が俺。本当に、紅玉の両親に挨拶して大丈夫なのだろうか?
 俺そんな疑問を持ちつつ、自分の両親がいる部屋に紅玉と向かった。
 部屋の前に立ち、二人で顔を見合わせた。
「心の準備はいい?」
「駄目って言ったら延期になる?」
「なりません」
 紅玉の綺麗な笑顔で辛辣な言葉を吐かれた。二人で息を吐いて、扉を叩いた。「どうぞ」と中からは懐かしい声が聞こえてきた。中に入るために扉を開くと、中は豪華な作りになっていた。広い。自分の部屋が狭く見えるほどに広い。部屋なのに、庭があり滝があり花が咲いている。その庭を二人の子供が遊んでいた。黒い髪と茶色の瞳の同じ年のような子達、だが顔は二人とも似ている顔をしていた。顔は整った顔をしている。
「いらっしゃい」
「おかえり、蒼」
「あ、はい……母上と父上」
 椅子に座っている二人の男性。一人は整った顔に金髪碧眼の美形の男性。もう一人は俺に似て凡人な顔をしている男性だった。だが、二人とも優しい顔を向けてくれる。俺の父親と母親だ。久しぶりの再会に何故か目頭が熱くなる。
「母上、父上っ!」
「あらら、泣いちゃって。可愛いな、蒼ちゃんは」
「本当だな、蒼は泣き虫になって」
 俺は母上の膝で泣いていた。すると、温かいが小さな手が頭を撫でてくれる。
「いたいの、いたいの、とんでけぇ~」
「えっ?」
 声のする方を見ると、先ほど庭に居た男の子の一人が立っていた。
「偉いね、蒼太(そうた)は、お兄ちゃんに優しく出来るなんて」
 母上がそう言って、褒めている。
「蒼太、そいつが俺らの兄だって俺は認めないぞ!」
 庭で遊んでいたもう一人の男の子がやってきた。
「蒼稀(そうき)は手厳しいな」
 父上がそう言って、苦笑している。
「蒼太はお兄ちゃんだって分かるよ。だって、母様と一緒のお顔だもん!」
「本当だ、よく見たら一緒だな? しょうがないから、認めてやるよ、お兄ちゃん!」
「……あの、母上。この子達は?」
 俺は疑問符を頭に乗せながら、母上を見た。
 これは一体どういう事でしょうか?
「紹介がまだだったね。こちらのぼんやりしているのが蒼太で、こちらのハキハキした子が蒼稀よ。貴方の弟で双子なの、宜しくね」
「あ、はい……ちょっと、ビックリしました。俺に弟が出来るなんて」
「蒼がもう帰って来ないと思って寂しく泣く母を父が慰めた結果だよ!」
「うん、父上、もう少し言葉を選んでくださいね」
「あ、はい」
 俺が黒い笑みでそう言うと父上は小さな声でこたえてくれた。
「俺も仲間に入れてくれると嬉しいな」
「あ、ごめん。紅玉、忘れていた」
 俺は涙を拭きながら、肩に手を置く紅玉を見ていった。その言葉が面白かったのか、父上と母上は笑い出す。
「あの、完璧冷徹王子様が俺の子にはこんな情けないなんて!」
「本当に、紅玉が素を見せるのは蒼の前だけなのね」
 二人はクスクスッと笑って、俺達二人を見てくる。
 完璧冷徹王子って誰の事だ? 
 俺はそっと、紅玉を見ると。俺に優しい笑顔を向けてくる。
 これが、冷徹王子? 
「なぁ、お前。他の奴の前だとどうなっているの?」
「うん、蒼が心配する事は何もないよ。完璧な対応している」
「へぇ~……完璧な対応」
 昔はよく人を避けていたのに、今では王座に一番近い男になっていたんだっけ?
 人は成長する生き物だけど、俺だけがなんだが成長が止まっている様に思う。
 俺は母上の膝から立ち上がり、父上と母上の前に立ち上がってから膝をついている紅玉を真似て、紅玉の横で同じ格好をして膝まづいた。
「本日は時間を取って下さりありがとうございます」
 紅玉がそう言って、話を始める。
「私と蒼の婚約を認めて頂きたく、足を運んだ次第でございます。そして、蒼を守れなかった謝罪も。本当に申し訳ありませんでした。今後このような事がないように、蒼は私が守りたいと思っています」
「蒼はどう思っている?」
「父上?」
「紅玉は婚約を始動して、結婚まで持って行くだろう。だが、お前は記憶が戻ったばかりだ。本当に、紅玉と結婚してもいいと思っているのか?」
「それは……」
 俺の想いは王族だから報われにくいと思っている。一般人のしかも女性を好きなってしまったのだ。その子と結婚を今は望んでいた。けれど、こんな美しい男に結婚を迫られていたら。
 心配そうな顔で俺を見てくる紅玉。
 あぁ、そんな顔をするなよ!
「俺も紅玉なら結婚してもいいと思っています」
 こんな美しい男に結婚を頼まれたら、断れないだろうが!
「蒼」
「何?」
「ありがとう、嬉しい」
 頬を赤く染めて、美しい男が花を背にして笑っている。
 無理だ。これを嫌いになれない。
「当たり前だろう。婚約者なんだからな」
 俺は照れ隠しで、機嫌を悪くしている演技の返事をした。
「ふふっ、二人とも。私は反対はしませんよ」
「俺も紅玉なら、蒼をやってもいい。鳥居の神様から奪ったんだ。幸せにしろよ!」
 母上と父上が祝福の言葉を送ってくれる。
 それに、紅玉が返事をした。
「はい、必ず幸せにします!」
「おや、もうそんなに話が進んでいるのか?」
 後ろから扉を開く音が聞こえてきた。視線を向けると櫻の民が部屋の両扉を開けて、膝まづいている。その扉からは短髪で金髪の男と黒髪の長い腰まである男が入ってきた。二人とも妖艶と言っていい美しさを持っていた。だが、この感じに俺は似ているのを見た事がある。俺は横にいる紅玉が立ち上がって、睨んでいるのを驚いてみていた。
「父上、母上、どうしてこちらに?」
 やはり、紅玉のご両親のようだ。
「いやいや、紅玉と蒼ちゃんに会いにかな?」
「部屋でお待ち下さいとお願いしましたが?」
 紅玉の父親の言葉に睨みながら言葉を発する紅玉。
こんなに、怒っている紅玉は初めて見る。
「待つのが嫌で来ちゃいましたよ、紅玉」
「父上、母上、待て位出来ないと困ります!」
「俺達は王族なんだから!」
「自由なのよ!」
 なんだか、キラキラしている二人に俺も押された。紅玉だけが、二人を睨んでいる。
「初めまして、紅玉のお母様とお父様」
 俺は二人に向かって膝まづいて、挨拶をした。
「蒼ちゃん、久しぶりだな」
「蒼が元気で嬉しいわ」
 紅玉の父親と母親から挨拶が帰って来た。美しい笑顔付きの返事に緊張する。
「優しい言葉、ありがとうございます」
 俺はそれに、なんとか返事を返した。
「うーん、様子を見に来て正解だったかな」
 紅玉の母上が扇子を弄りながら俺を見てきた。
「記憶が戻って間もない蒼を、王族のしかも王になる男の嫁にするなんて、紅玉本気?」
「どういう意味ですか?」
 俺も紅玉の母親の言葉が気にかかる。
「所作が王族ではなく、一般人のものになっている。昔の蒼にはあり得ない所作を今もしている。これでは王族としてはなんとかなっても、トップの嫁になっては困る事が多くて大変よ」
「それで、この部屋まで来た内容はなんですか?」
 紅玉が全力で睨んでいるのに、怖がるどころか自分のペースで話している、母親強し。
「蒼を私に預けないさい。一ヶ月で、紅玉に見合う人物かどうか判別するから」
「母上、私は蒼としか結婚しませんよ」
「はいはい、分かったわ。それじゃ、蒼。今からレッスンを始めるからついて来てね」
「え?」
 俺は櫻の民に両腕を二人に持たれて、紅玉の母上の後を追う形になって、そのまま両親の部屋を後にした。
 蒼の父が紅玉の父に礼を言う。
「悪いな、悪役を引き受けてもらって」
「いや、アイツがやりたいと言ってきたんだから大丈夫だよ」
 紅玉は蒼を追いたかったが、櫻の民5人に床に押さえつけられて、それは出来なかった。
「蒼は蒼のままで、いいじゃないですか!」
 抑え付けられながら叫ぶ紅玉。それを冷たい瞳で見てくる紅玉の父親。
「紅玉。お前がよくても、蒼が民から祝福されるためには王族としての立ち振る舞いなど必要なんだよ。しかも、お前は次期王として期待されている。尚更、身に着けた方がいい」
「蒼は記憶を思い出したばかりで、俺達にやっと近付いてきたばかりなのに、ゆっくりしていてもよいのではないですか!」
 紅玉の叫びは己の父親の声で散らされる。
「それでは蒼のためにならないと何故分からない」
「っ!」
「頭を冷やすんだな」
 そう言って、紅玉の父親は蒼の母親と父親に頭を下げると部屋から出て行った。
 紅玉は櫻の民から解放さらたが、ただ床に突っ伏しているだけだった。


 両親の部屋から連れ出されてからずっと廊下を歩いている。そして一つの部屋の前で止まった。
「あの、何処に連れていかれるんでしょうか?」
 俺は不安を言葉にする。
「あの子達がお手本を見せてくれるから、それを見て覚えてね」
「あの子達?」
 俺がそう紅玉の母親に聞き返すと、紅玉の母親は笑顔でこたえてくれた。
「さぁ、この子たちよ」
 扉を開けた部屋に入ると、広い部屋に畳がひいてある。その中央に綺麗な王族が三人立っていた。紅玉の母上から紹介を受ける。
「右から髪が金髪の腰まである子が黄姫(きひ)、中央の髪が短髪の黒目の子が黒孤(こくこ)、左の髪が緑で頭の上で括っている子が緑海(りょくかい)。どの子も紅玉の婚約者候補になっていた子よ」
この子達が、俺がいてもいなくても紅玉を諦めきれない子達?
「黄姫よ、宜しく、蒼」
「黒孤です。宜しくお願いします」
「緑海です」
「はい、こちらこそ宜しく」
 皆、綺麗なお辞儀をして俺に挨拶してくるが、目が殺気だっていた。
 紅玉! この美人たちを相手にしなかった理由を、あとで説明してくれよな!
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