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5巻
5-3
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◇ ◇ ◇
休日はあっという間に終わり、仕事の日がやってきた。
俺はスケジュールボードをかける。
みんなはそれぞれの仕事に向かい、俺もハーブ園に足を向ける。
さて、今日はどんなハーブが生えるのかな?
と、思って土の上に手を置いた。
スキル、発動!
……何も起こらない。
あれ? おかしいぞ。
気を取り直してもう一度!
えいっ!
……何も起こらない。
どういう事だ!?
ス、スキルが……使えない!?
そんなバカなと思い、『栽培』や『刀鍛冶』、『細工』や『採石』を試すも、全く発動しない。
なんで……?
まさか――
血呪いの魔法……!
ダルマスの言っていた『生き地獄』とは、こういう事か……!
俺はやっと思い至った。
その日のうちに家族会議が開かれた。
俺は仕事が終わったみんなを集めて、スキルが使えなくなってしまった事を伝えた。
「そんな!? エイシャルさんがスキルを使えなくなってしまったら……僕達だってどうすれば良いか……」
サクが悲痛な声で言った。
「そう言うなよ、サク。エイシャルが一番苦しんでいるんだからさ」
アイシスがフォローする。
「だけどぉ。サイコとの最終戦も控えてるのに、どぉするのぉ?」
ダリアがもっともな意見を言う。
「俺は諦めないよ。なんとかしてこの呪いを断ち切る方法を考えるつもりだ」
「だけど、エイシャルさん。その呪いを解くにはやはり、ダルマスさんを倒すしかないんじゃありませんの?」
リリーがそう尋ねると、ジライアが口を挟む。
「いや、リリーさん。元々はサイコの魔法でしょうからね。サイコを倒さないとダメなんじゃないですか?」
「えーと、で、でも、エイシャルさんの力はサイコを倒すために必要であって……でも、そのサイコを倒さないと力は戻ってこない……って事ですよね? すみません、間違ってたら……」
ステイシーが控えめに言う。
「いや、その通りなんだよ、ステイシー。なんとか、この呪いを解く他の方法があれば良いんだけど。まぁ、ないよね……」
俺は落胆しながらそう言った。
「まぁ、そう落ち込んでても仕方ないじゃない? しばらくはエイシャルにはのんびりしてもらって、みんなで力を合わせて頑張りましょう! スキルがなくてもできる事は山ほどあるわ」
シルビアが俺を元気づける。
「そだねっ、エイシャル、元気出してねっ!」
ニーナも励ましてくれた。
「しかし、やはり呪いを解くにはまずはダルマスの居場所ですかな?」
ビッケルが言うと、ネレもぽつりとこぼした。
「どこにいるの……?」
「魔王大陸……」
ロードも同じようにぼそっと呟いた。
『いや、スキルがない状態では魔王大陸に行くのは危険だぞ』
ヘスティアが言うと、ラボルドがため息をついた。
「なんだか、いたちごっこみたいでありますね……」
そうなのだ、サイコを倒すためにはスキルが必要。でもサイコを倒さないとスキルは得られない。
まるで、いたちごっこだ。
とにかく話し合っても中々結論は出なかったので、しばらく俺は仕事を休ませてもらう事にした。
と言っても畑作業や果樹園くらいは手伝えるだろう。
そうして、しんみりした雰囲気の中、夕飯を食べて、その日の家族会議は終わった。
俺は寝る前にふと考えた。
スキルがない事がこんなにも大変で辛い事だとは思っていなかった。
いや、前にも一度スキルを失った事はあるが……
今度は終わりの見えない戦いだ。
そんな事をもんもんと考えながら眠りについた。
◇ ◇ ◇
以降、俺はスキルがないながらも、敷地の仕事を積極的に手伝った。
水撒きや、除草作業、牧場の片付けまで、なんでもやった。
だから、それなりに忙しく変わらない日々を送っていた。
ただ、『飼育』スキルを持たない俺はウォルル達には乗れないし、ハーブ園もキノコ栽培所も整備できないので枯れはじめていた。
そんな中、みんなでチャリティー市に行く事になった。
チャリティー市とは、何か?
それは世界の恵まれない子供達に寄付をするために、ものを売るという市場だ。
以前のバザーではいらないものを売ったが、今度は一円でも多く寄付するために、売れそうなものを選ばなければならない。
ちなみに、新品未使用の方が高く売れる傾向にあるそうだ。
俺はこの日のために以前『刀鍛冶』で作っておいた、炎の赤槍を売りに出す事にした。
きっと高く売れるに違いない。
俺達はそれぞれ、売れそうなものを持ってセントルルアの町のチャリティー市に向かった。
受付に売るものを預けて、説明を受けた。
「ようこそ、チャリティー市へ。エイシャル様ですね? エイシャル様は、炎の赤槍をチャリティーに出されるとの事、誠にありがとうございます。さて、これから、市場内に炎の赤槍を展示いたします。そして、その展示の前にこのような四角い箱を置きます。投票口のついたこの箱は、特殊な魔法機械を使わないと開きません。その箱にお客様がご自分の出せる額の値札を投票します。そして、値段が一番高かったお客様の落札です。なお、その額は全て世界の恵まれない子供達に回っていきますので、エイシャル様に儲けはありません。ここまで、よろしいですか?」
案内の女性に、俺は頷いて答える。
「はい、大丈夫です」
「では、次に買う場合について。欲しいものがあり、買いたいと思ったら、先ほども申し上げた通りに、投票をしなくてはなりません。もちろん、他のお客様の金額はわからないわけですから、欲しいと強く思った場合、高値をつけて投票する事をお勧めします。お客様方には、五枚の投票券を差し上げております。投票券にはエイシャル様の個人番号が記載されており、最高額を記入された場合、その商品を後日お送りいたします。その時にお支払いもされてください。説明は以上になりますが、何かご不明な点はありますでしょうか?」
「いいえ、ありません。ありがとうございます」
俺はそう答えて投票券を五枚受け取り、チャリティー市に臨んだ。
しかし、チャリティー市の仕組みは少し複雑だな。
アイシスやジライアはちゃんと聞いてるのか、説明を。
そんな事を思いながら、チャリティー市の入り口付近でみんなが揃うのを待った。
そういえば、みんな何を出品したんだろうか?
あれこれ想像していると、みんなが集まったので、俺は何を出したのか聞いてみる事にした。
「私は魔法仕切りフライパンよ。もちろん、新品だわ」
シルビアが自信ありげに言う。
「俺……高性能魔法ノコギリ……」
ロードは今は使っていない仕事道具を選んだらしい。
みんな、それぞれ大切なものを出したようだ。
展示品を見て回ると、色々売っている。
ある場所は人だかりになっており、覗いてみるとそこには魔法自動車なるものが売っていた。
魔法自動車って一体何なんだろう?
展示品の説明欄には、ドラゴンとも渡り合えるスピードの乗り物、とだけ書いてある。
魔法金属で作られ、馬車の車輪をゴツくしたようなものが四つついている。
窓もあり、画期的な見た目だ。
これを落札するのはどんな人なんだろうなぁ?
そんな事を思いながら、俺はオペラのチケットに番号の入った札を入れた。
それほど欲しいわけではなかったので、銀貨三枚という値段を書いておいた。
投票の時間が終わり、結果発表のため隣の広場に設置してある椅子に座って待つ。
俺達が囲む丸テーブルには『エイシャル様御一行』という立て札が置かれており、そんな八人がけのテーブル席を三つ占領した。
「ねぇねぇ、みんな何に投票した? 私は高級ネイルセットに結構奮発したわ!」
サシャは自信があるようだ。
「ネレ、卓球ラケット……」
「僕はモンスター辞典の最新版ですね。僕以上に出した人はいないと思います」
ネレとサクが話に乗る。
「私はダイヤモンドのブレスレットですわ。でも、あの額じゃ落とせませんわよねぇ。はぁ」
リリーはアクセサリーが欲しいようだが、お財布事情は厳しいようだ。
「ビビね、お子ちゃまメイクアップセットなのだー!」
「あら、ビビアンもお化粧なんてする年なのねぇ」
シルビアが感慨深げに言う。
「ビビにはまだ早いだろう?」
俺がお父さんにでもなったように言うと、ビビアンはべー、と舌を出した。
「早くないもーん!」
……まぁいっか。
お子ちゃまメイクアップセットだし。
「ルイス、さっきから黙ってるけど、お前は一体何に投票したんだ?」
「えぇ、僕は……」
ルイスが言いかけた時、発表の太鼓が鳴った。
『さて、チャリティー市にお越しくださり誠にありがとうございます! 皆様の善意によって恵まれない子供達の衣類や食べ物、はたまた学校などを建てる事に使えるお金ができれば……と思っております。たくさんの投票ありがとうございました! では、一番高額だったものから発表したいと思います! それは……魔法自動車です!!!』
司会者が発表すると、広場のみんながどよめいた。
『最高額はな、なんと! 金貨四百五十枚!!!』
さらにみんなから歓声が上がる。
金貨四百五十枚かぁ。
金持ちがいるもんだなぁ。
俺は感心する。
『魔法自動車を金貨四百五十枚で落札したのは……ルイスさんです!』
ル……イス?
それを聞いて俺の時間は止まった。
「おいっ! ルイス! まさか、お前じゃないよな!?」
「いえ、僕ですよ?」
ルイスはサラリと答える。
「お、お前っ! 金貨四百五十枚も金持ってねーだろ!」
「え? 金額を当てた人が商品をもらえるんじゃないんですか!? まさか……僕が金貨四百五十枚払うんですかぁ!?」
ルイスは驚いた様子で言った。
いや、驚いてるのはこっちだ!
「当たり前だろ! チャリティー市だが、オークションみたいなもんなんだから! 誰がタダで商品をくれるんだよ! こっちが払うんだよ!」
俺は怒ってルイスを責め立てる。
「ちょっとエイシャルっ。そんな事言ってる場合じゃないよっ。ほら、インタビューが……」
ニーナが言い終える前に、司会者がやってきてルイスに魔法マイクを差し向けた。
『いやぁ、ルイスさん! 落札おめでとうございます!』
「ははははは……」
苦笑いするルイス。
広場の人々からは金貨四百五十枚の高値をつけたルイスに拍手喝采が起こっている。
それに、手を振るルイス。
やーめーろー!
そんな事したら、本当に買わなくちゃいけなくなるだろ!
『この金貨四百五十枚で、学校が建ちますよ! ルイスさん、素晴らしい人ですね! 皆さん、もう一度大きな拍手を!!!』
「いいぞ、ルイスさん!」
「よっ!」
「素敵ぃぃー!」
「金持ちは違うなぁ!」
そんな声までが飛び交い始め、もうあとに引けなくなってしまった。
「エ、エイシャルさん……」
ルイスが捨てられた子犬のような表情で俺を見る。
「……わかったよ。その代わりルイスは当分給料なしだぞ!」
「エイシャルさぁん! ありがとうございます!」
俺が腕組みして言うと、ルイスは鼻を垂らして泣く。
「えっ、金貨四百五十枚払うのっ?」
ニーナが驚いたように尋ねてくるので、俺はため息をついた。
「仕方ないだろ? もう、いいよ。はぁ……」
まぁ、今はかなり貯蓄があるので、別に払えない額じゃない。
顔が真っ青になり飲み物も喉を通らないという感じのルイスに呆れているうちに、チャリティー市はあっという間に終わっていった。
「いいじゃねーか、エイシャル。俺、魔法自動車乗ってみたかったんだよ」
アイシスがルイスをフォローする。
「カッコいいぞ……」
ロードも魔法自動車に乗れる事が嬉しそうだ。
「お前らなぁ……いくら魔法自動車だからって、金貨四百五十枚は高すぎだろう……」
予想外の大出費で俺はあまり嬉しくはない。
というわけで、ルイスのアホのせいで、俺達は魔法自動車をゲットした。
しかし、これが意外と活躍した。
雨風、雷の日でも走れるし、魔力が原動力になっており、燃費もいい。
アイシスやジライア、ロードなどは、運転も上手く、後部座席ではすやすやと眠れる。
うーん、これは便利だ!
そんなこんなで、チャリティー市は終わったのだった。
◇ ◇ ◇
その日、畑や果樹園の収穫などが一段落し、俺はある人物のところに行く決心をした。
それは……ゲオだ。
『スキルコピー師』という職業のアイツなら、俺の呪いを解く方法を知っているかもしれない。
そう思ったからだ。
俺は馬でゲオの牙狼団の訓練所に向かった。
「よっ、ゲオ!」
「なんだ、お前か……お前が来ると、ろくな事がないからな……」
到着した俺が挨拶すると、ゲオはすでになんらかを察知したようにそう言った。
「ちょっとケル・カフェに行かないか? もちろん、奢るからさ」
そう言って誘うと、ゲオは渋々頷いた。
「あぁ。別に良いが……」
そうして、ケル・カフェに場所を移す。
店に入り注文を済ませると、俺は話を切り出した。
「遠回しに言っても仕方ないから、単刀直入に言う。俺はスキルが使えなくなった」
それを聞いてゲオは水を噴き出した。
「はぁ!? またあの、恋をすると魔法とスキルが使えなくなる病、か?」
まあ、そう考えるのが妥当だよな。
しかし、俺は首を横に振る。
「いいや、それが違うんだ。あの病は収束したし、ポーションもあるだろ? 俺さ、ダルマスの奴に呪いをかけられたらしいんだ……」
「ダルマス……確かサイコに下って闇落ちした、お前の元家族だよな?」
ゲオは確認するように尋ねてきた。
「そうなんだ……俺の事を相当恨んでるらしくてさ。生き地獄を味わえ、って捨て台詞を吐いて呪いをかけて逃げていったよ」
「……そうか」
ゲオは神妙な面持ちでそれだけ言った。
「なぁ、お前のスキルで、俺のスキルを復活させられないか!?」
俺は藁にも縋る思いで聞いてみる。
「そうしてやりたいところだが、その呪いを解くようなスキルは持ち合わせていない……」
「そうか……」
俺はがっかりして肩を落とした。
「だが、もしも、それが本当に呪いのせいなら、解く方法がある」
「え!? 本当か!?」
ゲオの言葉を聞き、身を乗り出す。
「呪いは愛が強まった時に解けるのさ」
「愛……? なんだよ、ふざけてるのか?」
「ふざけてるんじゃない。呪いは愛の力に弱いんだ」
ゲオは真剣な表情を浮かべて俺に言う。
確かに御伽噺では王子様の愛で呪いが解ける事などがあるが……
「そう簡単に愛って言われても……愛にも色々あるだろ? 家族愛とか夫婦愛とか……」
「それは自分で考えるんだな。とにかく俺が言える事はそれだけだ」
ゲオは勘定を俺に押しつけると去っていった。
「愛、ねぇ……?」
そう言われてもどうすればいいのか、ピンと来ない。
シルビアから愛されれば呪いは解けるのか?
俺はそんな事を考えながら、辺境の敷地に帰っていった。
休日はあっという間に終わり、仕事の日がやってきた。
俺はスケジュールボードをかける。
みんなはそれぞれの仕事に向かい、俺もハーブ園に足を向ける。
さて、今日はどんなハーブが生えるのかな?
と、思って土の上に手を置いた。
スキル、発動!
……何も起こらない。
あれ? おかしいぞ。
気を取り直してもう一度!
えいっ!
……何も起こらない。
どういう事だ!?
ス、スキルが……使えない!?
そんなバカなと思い、『栽培』や『刀鍛冶』、『細工』や『採石』を試すも、全く発動しない。
なんで……?
まさか――
血呪いの魔法……!
ダルマスの言っていた『生き地獄』とは、こういう事か……!
俺はやっと思い至った。
その日のうちに家族会議が開かれた。
俺は仕事が終わったみんなを集めて、スキルが使えなくなってしまった事を伝えた。
「そんな!? エイシャルさんがスキルを使えなくなってしまったら……僕達だってどうすれば良いか……」
サクが悲痛な声で言った。
「そう言うなよ、サク。エイシャルが一番苦しんでいるんだからさ」
アイシスがフォローする。
「だけどぉ。サイコとの最終戦も控えてるのに、どぉするのぉ?」
ダリアがもっともな意見を言う。
「俺は諦めないよ。なんとかしてこの呪いを断ち切る方法を考えるつもりだ」
「だけど、エイシャルさん。その呪いを解くにはやはり、ダルマスさんを倒すしかないんじゃありませんの?」
リリーがそう尋ねると、ジライアが口を挟む。
「いや、リリーさん。元々はサイコの魔法でしょうからね。サイコを倒さないとダメなんじゃないですか?」
「えーと、で、でも、エイシャルさんの力はサイコを倒すために必要であって……でも、そのサイコを倒さないと力は戻ってこない……って事ですよね? すみません、間違ってたら……」
ステイシーが控えめに言う。
「いや、その通りなんだよ、ステイシー。なんとか、この呪いを解く他の方法があれば良いんだけど。まぁ、ないよね……」
俺は落胆しながらそう言った。
「まぁ、そう落ち込んでても仕方ないじゃない? しばらくはエイシャルにはのんびりしてもらって、みんなで力を合わせて頑張りましょう! スキルがなくてもできる事は山ほどあるわ」
シルビアが俺を元気づける。
「そだねっ、エイシャル、元気出してねっ!」
ニーナも励ましてくれた。
「しかし、やはり呪いを解くにはまずはダルマスの居場所ですかな?」
ビッケルが言うと、ネレもぽつりとこぼした。
「どこにいるの……?」
「魔王大陸……」
ロードも同じようにぼそっと呟いた。
『いや、スキルがない状態では魔王大陸に行くのは危険だぞ』
ヘスティアが言うと、ラボルドがため息をついた。
「なんだか、いたちごっこみたいでありますね……」
そうなのだ、サイコを倒すためにはスキルが必要。でもサイコを倒さないとスキルは得られない。
まるで、いたちごっこだ。
とにかく話し合っても中々結論は出なかったので、しばらく俺は仕事を休ませてもらう事にした。
と言っても畑作業や果樹園くらいは手伝えるだろう。
そうして、しんみりした雰囲気の中、夕飯を食べて、その日の家族会議は終わった。
俺は寝る前にふと考えた。
スキルがない事がこんなにも大変で辛い事だとは思っていなかった。
いや、前にも一度スキルを失った事はあるが……
今度は終わりの見えない戦いだ。
そんな事をもんもんと考えながら眠りについた。
◇ ◇ ◇
以降、俺はスキルがないながらも、敷地の仕事を積極的に手伝った。
水撒きや、除草作業、牧場の片付けまで、なんでもやった。
だから、それなりに忙しく変わらない日々を送っていた。
ただ、『飼育』スキルを持たない俺はウォルル達には乗れないし、ハーブ園もキノコ栽培所も整備できないので枯れはじめていた。
そんな中、みんなでチャリティー市に行く事になった。
チャリティー市とは、何か?
それは世界の恵まれない子供達に寄付をするために、ものを売るという市場だ。
以前のバザーではいらないものを売ったが、今度は一円でも多く寄付するために、売れそうなものを選ばなければならない。
ちなみに、新品未使用の方が高く売れる傾向にあるそうだ。
俺はこの日のために以前『刀鍛冶』で作っておいた、炎の赤槍を売りに出す事にした。
きっと高く売れるに違いない。
俺達はそれぞれ、売れそうなものを持ってセントルルアの町のチャリティー市に向かった。
受付に売るものを預けて、説明を受けた。
「ようこそ、チャリティー市へ。エイシャル様ですね? エイシャル様は、炎の赤槍をチャリティーに出されるとの事、誠にありがとうございます。さて、これから、市場内に炎の赤槍を展示いたします。そして、その展示の前にこのような四角い箱を置きます。投票口のついたこの箱は、特殊な魔法機械を使わないと開きません。その箱にお客様がご自分の出せる額の値札を投票します。そして、値段が一番高かったお客様の落札です。なお、その額は全て世界の恵まれない子供達に回っていきますので、エイシャル様に儲けはありません。ここまで、よろしいですか?」
案内の女性に、俺は頷いて答える。
「はい、大丈夫です」
「では、次に買う場合について。欲しいものがあり、買いたいと思ったら、先ほども申し上げた通りに、投票をしなくてはなりません。もちろん、他のお客様の金額はわからないわけですから、欲しいと強く思った場合、高値をつけて投票する事をお勧めします。お客様方には、五枚の投票券を差し上げております。投票券にはエイシャル様の個人番号が記載されており、最高額を記入された場合、その商品を後日お送りいたします。その時にお支払いもされてください。説明は以上になりますが、何かご不明な点はありますでしょうか?」
「いいえ、ありません。ありがとうございます」
俺はそう答えて投票券を五枚受け取り、チャリティー市に臨んだ。
しかし、チャリティー市の仕組みは少し複雑だな。
アイシスやジライアはちゃんと聞いてるのか、説明を。
そんな事を思いながら、チャリティー市の入り口付近でみんなが揃うのを待った。
そういえば、みんな何を出品したんだろうか?
あれこれ想像していると、みんなが集まったので、俺は何を出したのか聞いてみる事にした。
「私は魔法仕切りフライパンよ。もちろん、新品だわ」
シルビアが自信ありげに言う。
「俺……高性能魔法ノコギリ……」
ロードは今は使っていない仕事道具を選んだらしい。
みんな、それぞれ大切なものを出したようだ。
展示品を見て回ると、色々売っている。
ある場所は人だかりになっており、覗いてみるとそこには魔法自動車なるものが売っていた。
魔法自動車って一体何なんだろう?
展示品の説明欄には、ドラゴンとも渡り合えるスピードの乗り物、とだけ書いてある。
魔法金属で作られ、馬車の車輪をゴツくしたようなものが四つついている。
窓もあり、画期的な見た目だ。
これを落札するのはどんな人なんだろうなぁ?
そんな事を思いながら、俺はオペラのチケットに番号の入った札を入れた。
それほど欲しいわけではなかったので、銀貨三枚という値段を書いておいた。
投票の時間が終わり、結果発表のため隣の広場に設置してある椅子に座って待つ。
俺達が囲む丸テーブルには『エイシャル様御一行』という立て札が置かれており、そんな八人がけのテーブル席を三つ占領した。
「ねぇねぇ、みんな何に投票した? 私は高級ネイルセットに結構奮発したわ!」
サシャは自信があるようだ。
「ネレ、卓球ラケット……」
「僕はモンスター辞典の最新版ですね。僕以上に出した人はいないと思います」
ネレとサクが話に乗る。
「私はダイヤモンドのブレスレットですわ。でも、あの額じゃ落とせませんわよねぇ。はぁ」
リリーはアクセサリーが欲しいようだが、お財布事情は厳しいようだ。
「ビビね、お子ちゃまメイクアップセットなのだー!」
「あら、ビビアンもお化粧なんてする年なのねぇ」
シルビアが感慨深げに言う。
「ビビにはまだ早いだろう?」
俺がお父さんにでもなったように言うと、ビビアンはべー、と舌を出した。
「早くないもーん!」
……まぁいっか。
お子ちゃまメイクアップセットだし。
「ルイス、さっきから黙ってるけど、お前は一体何に投票したんだ?」
「えぇ、僕は……」
ルイスが言いかけた時、発表の太鼓が鳴った。
『さて、チャリティー市にお越しくださり誠にありがとうございます! 皆様の善意によって恵まれない子供達の衣類や食べ物、はたまた学校などを建てる事に使えるお金ができれば……と思っております。たくさんの投票ありがとうございました! では、一番高額だったものから発表したいと思います! それは……魔法自動車です!!!』
司会者が発表すると、広場のみんながどよめいた。
『最高額はな、なんと! 金貨四百五十枚!!!』
さらにみんなから歓声が上がる。
金貨四百五十枚かぁ。
金持ちがいるもんだなぁ。
俺は感心する。
『魔法自動車を金貨四百五十枚で落札したのは……ルイスさんです!』
ル……イス?
それを聞いて俺の時間は止まった。
「おいっ! ルイス! まさか、お前じゃないよな!?」
「いえ、僕ですよ?」
ルイスはサラリと答える。
「お、お前っ! 金貨四百五十枚も金持ってねーだろ!」
「え? 金額を当てた人が商品をもらえるんじゃないんですか!? まさか……僕が金貨四百五十枚払うんですかぁ!?」
ルイスは驚いた様子で言った。
いや、驚いてるのはこっちだ!
「当たり前だろ! チャリティー市だが、オークションみたいなもんなんだから! 誰がタダで商品をくれるんだよ! こっちが払うんだよ!」
俺は怒ってルイスを責め立てる。
「ちょっとエイシャルっ。そんな事言ってる場合じゃないよっ。ほら、インタビューが……」
ニーナが言い終える前に、司会者がやってきてルイスに魔法マイクを差し向けた。
『いやぁ、ルイスさん! 落札おめでとうございます!』
「ははははは……」
苦笑いするルイス。
広場の人々からは金貨四百五十枚の高値をつけたルイスに拍手喝采が起こっている。
それに、手を振るルイス。
やーめーろー!
そんな事したら、本当に買わなくちゃいけなくなるだろ!
『この金貨四百五十枚で、学校が建ちますよ! ルイスさん、素晴らしい人ですね! 皆さん、もう一度大きな拍手を!!!』
「いいぞ、ルイスさん!」
「よっ!」
「素敵ぃぃー!」
「金持ちは違うなぁ!」
そんな声までが飛び交い始め、もうあとに引けなくなってしまった。
「エ、エイシャルさん……」
ルイスが捨てられた子犬のような表情で俺を見る。
「……わかったよ。その代わりルイスは当分給料なしだぞ!」
「エイシャルさぁん! ありがとうございます!」
俺が腕組みして言うと、ルイスは鼻を垂らして泣く。
「えっ、金貨四百五十枚払うのっ?」
ニーナが驚いたように尋ねてくるので、俺はため息をついた。
「仕方ないだろ? もう、いいよ。はぁ……」
まぁ、今はかなり貯蓄があるので、別に払えない額じゃない。
顔が真っ青になり飲み物も喉を通らないという感じのルイスに呆れているうちに、チャリティー市はあっという間に終わっていった。
「いいじゃねーか、エイシャル。俺、魔法自動車乗ってみたかったんだよ」
アイシスがルイスをフォローする。
「カッコいいぞ……」
ロードも魔法自動車に乗れる事が嬉しそうだ。
「お前らなぁ……いくら魔法自動車だからって、金貨四百五十枚は高すぎだろう……」
予想外の大出費で俺はあまり嬉しくはない。
というわけで、ルイスのアホのせいで、俺達は魔法自動車をゲットした。
しかし、これが意外と活躍した。
雨風、雷の日でも走れるし、魔力が原動力になっており、燃費もいい。
アイシスやジライア、ロードなどは、運転も上手く、後部座席ではすやすやと眠れる。
うーん、これは便利だ!
そんなこんなで、チャリティー市は終わったのだった。
◇ ◇ ◇
その日、畑や果樹園の収穫などが一段落し、俺はある人物のところに行く決心をした。
それは……ゲオだ。
『スキルコピー師』という職業のアイツなら、俺の呪いを解く方法を知っているかもしれない。
そう思ったからだ。
俺は馬でゲオの牙狼団の訓練所に向かった。
「よっ、ゲオ!」
「なんだ、お前か……お前が来ると、ろくな事がないからな……」
到着した俺が挨拶すると、ゲオはすでになんらかを察知したようにそう言った。
「ちょっとケル・カフェに行かないか? もちろん、奢るからさ」
そう言って誘うと、ゲオは渋々頷いた。
「あぁ。別に良いが……」
そうして、ケル・カフェに場所を移す。
店に入り注文を済ませると、俺は話を切り出した。
「遠回しに言っても仕方ないから、単刀直入に言う。俺はスキルが使えなくなった」
それを聞いてゲオは水を噴き出した。
「はぁ!? またあの、恋をすると魔法とスキルが使えなくなる病、か?」
まあ、そう考えるのが妥当だよな。
しかし、俺は首を横に振る。
「いいや、それが違うんだ。あの病は収束したし、ポーションもあるだろ? 俺さ、ダルマスの奴に呪いをかけられたらしいんだ……」
「ダルマス……確かサイコに下って闇落ちした、お前の元家族だよな?」
ゲオは確認するように尋ねてきた。
「そうなんだ……俺の事を相当恨んでるらしくてさ。生き地獄を味わえ、って捨て台詞を吐いて呪いをかけて逃げていったよ」
「……そうか」
ゲオは神妙な面持ちでそれだけ言った。
「なぁ、お前のスキルで、俺のスキルを復活させられないか!?」
俺は藁にも縋る思いで聞いてみる。
「そうしてやりたいところだが、その呪いを解くようなスキルは持ち合わせていない……」
「そうか……」
俺はがっかりして肩を落とした。
「だが、もしも、それが本当に呪いのせいなら、解く方法がある」
「え!? 本当か!?」
ゲオの言葉を聞き、身を乗り出す。
「呪いは愛が強まった時に解けるのさ」
「愛……? なんだよ、ふざけてるのか?」
「ふざけてるんじゃない。呪いは愛の力に弱いんだ」
ゲオは真剣な表情を浮かべて俺に言う。
確かに御伽噺では王子様の愛で呪いが解ける事などがあるが……
「そう簡単に愛って言われても……愛にも色々あるだろ? 家族愛とか夫婦愛とか……」
「それは自分で考えるんだな。とにかく俺が言える事はそれだけだ」
ゲオは勘定を俺に押しつけると去っていった。
「愛、ねぇ……?」
そう言われてもどうすればいいのか、ピンと来ない。
シルビアから愛されれば呪いは解けるのか?
俺はそんな事を考えながら、辺境の敷地に帰っていった。
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今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
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