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4巻

4-2

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 辺境の屋敷に帰ると、早速シャオとロードに魔法エアコンを設置してもらった。

「おぉ、冷たい風が……」
「これで、ようやく一般家庭並みねぇ」

 マルクは感激し、シルビアはしみじみと呟いた。

「今時魔法エアコンがない家も珍しいですからね」

 ルイスは満足げだが、フレイディアはどうも物足りないようで「氷点下まで下げない?」なんて言っていた。
 冷えた部屋でビールを飲みながら夕食ができるのを待っていると、クレオとビビアンが気持ちよさそうに走り回っている。

「ビビ、クレオ! 静かにしなさい!」

 言っても聞かないのだが、一応注意する。
 こうして、クイズ大会は豪華な賞品をゲットして終わったのだった。


     ◇ ◇ ◇


 その日、スケジュールボードを書いた俺は、海へ向かった。
『釣り』のレベル12が解放されていたからだ。
 沖まで出て、『釣り』を発動しながら竿を振り、魚がヒットするのを待った。
 しかし、一時間っても、二時間経っても、釣れる気配はない。

「おかしいなぁ? 確かに『釣り』のスキルを発動しているのに……」

 いつもだったらすぐ釣れるはずである。
 しかし、俺は考えた。海釣りでは、既にマグロまで釣ってしまっている。
 ……海ではない?
 俺は船を運転して、屋敷に戻り、バケツと釣り竿を持って裏山から流れる川に向かった。
 海釣りじゃなければ、川釣りしかない!
 再び『釣り』を発動して、竿を振った。
 すると、すぐにメダカを大きくしたような淡水魚が釣れた。
 スキル『観察』を使って見ると、アブラハヤという魚らしい。
 俺はアブラハヤを五匹ほど釣って屋敷に下りていった。


 屋敷のキッチンに持っていくと、すぐに家事組が調理するというので魚を渡した。
 アブラハヤか……どんな味なんだろうなぁ?
 俺は夕食を楽しみにしながら、敷地を見て回る。
 クレオとビビアンの部屋、通称ワクワク子供部屋では、二人がアイスのトッピングされたかき氷を食べていた。

「ビビアン、クレオ、お勉強は終わったのか?」

 俺は目を光らせて尋ねる。

「ビビ、たしざんがんばったのだ!」

 ビビアンの答えを聞いていったん納得しかけたが……
 ん? 足し算?
 ハッとして言う。

「ビビアンは割り算の筆算まで進んでたろ! 今さら足し算してどうするんだ!」
「一足す一はエイシャルの鬼~!」

 ビビアンは意味のわからない事を言いながらカキ氷をかき込み、ミニミニミニドラゴンのリリアに乗って飛び去っていった。

「ビビアン~! 全く、しょうがないやつだな……監視役をつけなきゃダメかなぁ……? クレオは何したんだ?」
「九九の二のだんだぞ!」

 クレオはそう言ってスラスラと暗唱する。

「えらいなぁ、クレオは。お小遣いをあげよう、ほら」
「オレさまはえらいんだぞ。ありがとうだぞ」

 クレオはえらそうに俺が差し出した銅貨を受け取った。


 ビビアンの事はいったんあきらめて、俺は畑に向かった。ビッケルがナスとトマトを収穫している。

「ビッケル、どうだ?」
「あぁ、エイシャル殿。豊作ですよ。トマトは甘いし、ナスはみずみずしいし……しかし、そろそろ畑を拡大した方が良いでしょうなぁ」

 ビッケルがトマトをきながら答える。

「なるほど、そうだなぁ。じゃ、明日ルイスとマルクとラボルドに手伝わせよう。俺ももちろんやるよ」

 俺はビッケルに告げて、ラボルドの果樹園に足を向けた。
 果樹園では、コーヒーの木とチェリーの木をラボルドとゴーレムで収穫していた。

「ラボルド、どうだ?」
「いい感じであります! チェリーをメインに果物ジュースを作ってみようかと……」

 声をかけると、ラボルドは元気良く答えた。

「それは良い考えだなぁ。楽しみにしてるよ」

 次にモンスター牧場を回ろうとすると、ギルド組が帰ってきた。
 アイシス、ニーナ、サク、ヘスティアのグループだ。
 ヘスティアが金色の大きなモンスターの卵を抱えている。

「お疲れさん。モンスターの卵か?」
「ああ、エイシャル。今日は、天空の塔の百階を制覇したんだ。そんで、そこにあったのがこの卵ってわけ。きっと凄い強いモンスターが生まれるに違いないぜ!」

 アイシスは自信ありげに言う。

「へー。天空の塔をついに制覇したのか。しかし、一体何が生まれるんだろう……?」

 俺達がそんな話をしていると、モンスターの卵にヒビが入った。

「生まれるみたいっ!」

 ニーナが卵をのぞき込む。
 卵が完全に割れると隙間すきまから炎が上がり、黄金に輝く鳥が生まれた。

「不死鳥――フェニックスですね。どんな攻撃を受けてもよみがえり、敵を聖なる炎で燃やし尽くす神の鳥です。超レアモンスターですよ!」

 サクが興奮ぎみに言った。

「さすがは天空の塔の百階だなぁ。とりあえず、モンスター牧場に放とう」

 俺がフェニックスをモンスター牧場に連れていくと――

「フェニックスっすか⁉」

 マルクがめちゃくちゃ驚いていた。
 モンスター牧場に放つと、フェニックスは他のモンスターとじゃれあい始めた。
 うん、大丈夫そうだな。
 俺はそれを見届けて屋敷に戻った。

「エイシャル、お風呂は三つともギルド組が使ってるわよ」

 シルビアがリビングに顔を出して言った。
 うーん、お風呂も増設しないとかなぁ?


 風呂が空いて汗を流すと、キッチンから良い香りがしてきた。
 今日の夕食はアブラハヤの唐揚げ、小松菜とエノキの炒めもの、麻婆まーぼー茄子なすのようだ。
 小松菜の適度な苦味とエノキの甘さがマッチして炒めものはとても美味しかったし、アブラハヤの唐揚げもカリッと香ばしくて良かった。

「明日は畑を拡張するから、敷地組は手伝ってくれ」

 俺はラボルド達敷地組に告げて、残りのご飯をかき込んだ。


     ◇ ◇ ◇


 夏がやってきた。
 酷暑こくしょを乗り切るためにも、俺達は休日を利用して海水浴に行く事にした。
 女性陣は「水着どれが良い?」とか「日焼け対策どうする?」とか「逆にオイルで肌を焼きたい」とか、色々準備していて大変そうだ。
 みんなが水着や遊ぶものなどの準備を整えたところで、ガルディアのガルーガ海水浴場に向かった。


 ガルーガ海水浴場は、波の穏やかなエメラルドグリーンの海と広い砂浜のあるビーチで、夏になると各地から色んな人がやってきている人気スポットである。
 海水浴場に到着し、はしゃぐビビアンとクレオを落ち着かせながら、俺達はパラソルやビーチチェアを置き、レジャーシートを広げた。
 場所取りが終わり、焼けたくないというネレとフレイディアに荷物番を任せ、俺達は海に走る。
 照りつける太陽の熱の中、海中は最高に心地よかった。
 ふくらませた浮き輪でぷかぷか浮いて、海を満喫まんきつする。

「なんだかこうして浮かんでいると、日頃の嫌な事を忘れていくなぁ……」

 俺がふと、そう言うと……

「エイシャルに嫌な事なんてあったっけ?」

 そうサシャが言い、みんなが笑った。
 男どもは平泳ぎやクロールで対決して盛り上がっている。どうやらロードが強いみたいだ。
 へぇ、ロードって泳ぎが上手いのか。
 ぼーっとそんな光景を見つつ、俺は一人優雅に浮き輪で浮いていた。
 ジライアはカナヅチという事で、もっぱらビビアンとクレオのお世話係だ。
 お子様二人は貝殻かいがら集めに夢中になっている。

「あら綺麗きれいねぇ。ビビ、集めた貝殻でネックレス作ってあげるわよ」
「ネックレス! ビビ、がんばってあつめるのだ!」

 シルビアとビビアンが楽しそうに話している。
 そういえばアイシスの姿が見えない。砂浜を見回すと、彼は美女のナンパに忙しいようだった。
 リリーとダリアもいないな……と思って探すと、二人ともビーチチェアに寝そべり、肌を焼くのにご執心しゅうしんのようだ。
 あれでは、屋敷の庭と変わらないと思うのだが……
 しかし、二人を敵に回すのも怖いので、何も言わない事にした。


 海から上がると、ビビアンとクレオがお腹が空いたと言うので、出店で焼きとうもろこしと焼きそばを人数分買った。
 やっぱり海水浴と言えば焼きとうもろこしだよな!

「おっ、焼きとうもろこしですか? どれ、一つ……おぉ、美味い!」
「やっぱり夏の海水浴場と言えばコレよねぇ」

 ビッケルもダリアも満足そうだ。
 軽く昼食を済ませて、また海へ。
 今日は暑くて暑くて、水に入ってないと、すぐに干からびてしまうぞ。
 肌を焼き終えたダリアとリリーも昼食後からは浮き輪で浮かんでいた。


 海で遊び尽くしたあとは、ビーチボールをしようという話になった。

「俺、じゃあ審判ね」

 美女をナンパばかりしていたアイシスに審判を任せ、俺達はチームに分かれた。
 俺、サシャ、フレイディア、ラボルド、サク、ロード、マルク。
 もう一つはジライア、ルイス、ダリア、ニーナ、ヘスティア、シャオ、エルメスだ。
 砂浜に枠線わくせんを書いたコートで、試合開始だ。
 フレイディアが高く飛び上がり、スパイクを打つ。
 それをヘスティアがレシーブして、ニーナがトスを上げる。
 パーティの中では比較的、運動神経の良いメンバーでのビーチバレーは中々白熱した。
 その戦いぶりに、いつからかギャラリーができるほどだ。
 結果はジライア達の勝ち。だがまぁ楽しかったし、試合後は拍手をもらえたのでヨシとしよう。
 俺は休憩を兼ねて、アイスの載ったかき氷を買いに行った。
 マンゴー、バナナ、イチゴ、メロン、マスカット、アップルなど、色々な味がある。
 俺はマンゴーにミルクアイスをトッピングしたものにした。

「はぁ~。最高だなぁ」

 パラソルの下で、かき氷に舌鼓したつづみを打っていると、眠くなってきたな……


 いつの間にか、ビーチチェアで眠っており、目が覚めた時には夕方だった。
 危ない危ない……熱中症にならなくてよかった。
 ロードとシャオは砂の城作り対決をしている。
 お互いの大工のプライドにかけて、負けられないようだ。どちらもプロが作ったような立派な城ができていた。

「エイシャル~! 砂山くずしであそぶのだー!」

 ビビアンが俺を呼んで言った。
 みんな、童心に返ってヒヤヒヤしながら山から砂をちょっとずつ取る。砂山に刺した棒を倒してしまった人が全員にジュースをおごる事になっていた。
 結局ルイスの番で棒が倒れて、彼はみんなにジュースを奢った。


 海水浴を思う存分楽しんだ俺達は、最後にスイカ割りをする事にした。
 みんな、十回回ってから目隠しして棒を振るので、中々当たらない。
 次はクレオの番だ。

「クレオー! そこだ、そこー!」

 俺達は歓声を上げる。

「ここだぞ!」


 そう言ってクレオが振り下ろした棒は、見事にスイカを割った。
 日が傾きかける中、みんなでスイカを食べて帰路にいた。
 中々に楽しい海水浴だったな。


     ◇ ◇ ◇


 その日、俺はいつものようにスケジュールボードをかけた。
 みんながそれぞれの仕事に向かったのを見届け、俺はいつもさまざまなアイテムを作っている刀鍛冶の蔵に向かった。
『細工』スキルのレベル2が解放されていたからだ。
 俺は半日試行錯誤して、あるブレスレットを作った。
 名付けて力持ちブレスレットだ。
 どんな非力な女性でも、これをつければ十キログラムの重さのものを片手で軽々と持ててしまう。
 ギルド組にあげてもいいし、家事組、敷地組にも良いだろう。
 とりあえず、屋敷にいるメンバーに配りに行く事にした。

「おぉ、力持ちブレスレットとな! スイカは重いですからなぁ。力仕事には嬉しいですよ」
「え⁉ いただいちゃって良いんですか⁉ 魔法掃除機が重いので、助かります!」

 農作業をするビッケルや家事組のステイシーも大喜びだ。
 このブレスレット、意外と需要あるかもしれないな。
 そう思いながら、ラボルドやロードやシャオにも配った。


 そのあとは、久しぶりにセントルルアに足を運んだ。
 俺が開発したケル・コーヒーの豆を持って、ラーマさんのケル・カフェに向かう。
 ケル・カフェは先の戦いで魔竜に建物を破壊されていたが、ここ一ヵ月の修復作業で綺麗に直っていた。

「よぉ、エイシャル、久しぶりだな」
「ラーマさん、久しぶりです。これ、ケル・コーヒー豆です。営業再開したんですね」
「おぉ、サンキューな。そりゃあね、こっちは王様や貴族様と違って働かなきゃ三日で干上がっちまうからな」

 ラーマさんは冗談混じりにそう言った。

「ははは。ラーマさん、じゃ、ケル・コーヒーをアイスで」

 俺は注文を済ませ、待っている間ケル・カフェのラックに置いてあった新聞を読む。


  ●闇落ちパーティ、続々⁉
  闇落ちするパーティの数がまだまだおとろえる気配を見せません!
  死の悲しみの連鎖はどこまで続くのか⁉
  牙狼団や制王組が闇落ちしない事を祈るばかりです!


  ●新バイキングレストラン開店!
  アイスタシンの街に新しいバイキングレストランができたようです!
  デザートや飲み物の種類も豊富で食べ放題!


  ●セントルルア募金まだまだ!
  セントルルアの復興のための募金はまだまだ受け付けています。
  三日前に牙狼団から、金貨百枚が寄付されました。
  さてさて、ライバルとも言える、制王組からの寄付はないようですが……
  制王様はケチなのか⁉


 なんだこの新聞は! ケチ呼ばわりかよ!
 牙狼団といちいち比べるなよな。
 そう思いつつ、俺はその日のうちにセントルルアの市長に復興支援として、金貨百五十枚を寄付した。
 明日新聞買わなくちゃな。俺の寄付が載ってるかもだし。
 そんなこすい考えを抱きながら、辺境の屋敷に帰った。
 明日は休みにして、みんなでバイキングレストランにでも行くかな。


     ◇ ◇ ◇


 次の日――
 女性陣は朝からずっとファッションショーをやっている。
 レストランに出かけるのに、メイクだのバッグだのくつだのを、コレがいいアレがいいと話しており、男性陣はリビングでトランプを始める始末。

「なんであんなにきがえるんだ? オレさま、おなか空いたぞ!」
「うーん、置いていくか……」

 俺は半分本気でクレオに答えた。


 やっとみんなの準備が整い、馬車とドラゴンに分かれてアイスタシンへ。
 到着したのが昼の十一時半という事もあり、オープンしたてのバイキングレストランは満席。
 俺達は名前を書いて、順番を待った。
 お子様二人はもう既に腹ペコでしゃがみ込んでいる。
 ようやく名前を呼ばれて、中に入ると……
 豪華な料理が所狭ところせましと並べられていた。
 制限時間は二時間なので、時間との勝負だ。

「よしっ、それぞれ食べ物を取るぞっ! 高価なものから取るんだ! スープは腹にたまるから、あと回しだぞ!」

 俺がバイキングにおける戦略を告げると、みんなは皿を持って食べ物を取り始めた。

「ラムかぁ。よし、取ろう」
「エイシャルー。ビビのエビ取ってなのだー」

 ビビアンはエビを食べたいみたいだ。

「よし。エビだな?」
「オレさま、チーズドリアほしいぞ。とってくれ」

 クレオ、ドリアは腹に溜まるぞ……
 俺は肉類を一通りと野菜を少し取り、席に戻る。
 既に、テーブルの魔法鉄板の上では、ホタテ、カキ、カルビ、エビ、牛タンなどがジュウジュウと音を立てて焼かれていた。俺もラムを鉄板に載せる。
 ロードとシャオは早くもビールで乾杯していた。

「そういやさ……」

 アイシスが牛タンをひっくり返しながら、俺に言った。

「最近、闇落ちパーティ関連で妙な話を聞いたんだ。襲われたやつらが言うには、仮面を被った戦士が助けに来たとかなんとか……」
「へぇ……正義の味方ってわけか?」
「せいぎのみかたはオレさまだぞ!」

 クレオが俺達の話に割って入り、前に俺があげた魔法の変身ベルトで本当に変身しようとするので、慌てて止める。

「クレオ、これは大人の話なんだよ……」
「クレオはお子様なの!」

 ビビアンが言った。いや、お前もな……

「やだ、肉ばっかり焼いてるじゃない!」

 そこへ野菜を持ってきたシルビアが鉄板を見て言った。

「だって肉の方が高いだろ?」
「だからって、取りすぎよ! 野菜のスペースも作って!」

 シルビア様のご命令で肉をどけて野菜を焼き始めた。


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