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昔
炎の魔術師
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冒険者をやってると、時たま変な奴に絡まれる。
火山に住むドラゴンに会ってみたくて照りついた最寄りの村まで馬車で揺られる。
「よぉ」
ドラゴンならあるいは私を焼き尽くしてくれるだろうか。
「そこの全身ローブ男」
私か?馬鹿にされてるあだ名だな。
馴れ馴れしく隣に座るな。
「俺、アゥフナってんだ。お前さん、一人だろ?こんな恐ろしい場所、ボッチで行こうなんてとんだ向こう見ずじゃないか。実は俺も一人でよ。な、俺と一緒に組まないか」
「一人で行ける。心配ありがとう」
「固いこと言うなよ。俺といるとお得だよ。ほら、俺の専門は炎なんだ」
そう言うと男は炎の耐性を試しにつけてくれた。
じわじわと暑い空気が見事に和らぐ。涼しい。
「炎は俺の専売特許だからな!いいだろ?連れてけよ」
何でこんな糞暑いダンジョンに炎の魔術師が出向くんだ。持ち味が相殺というか、生かせないだろ。お前らの持ち場に帰れ。
「まぁまぁ、仲良くしてやんよ?…勿論タダじゃないぜ?…俺はな、氷の心臓を捜してるんだ」
灼熱地獄に氷はないだろ。
「なんなんだ、その氷の心臓ってのは。」
「気になるだろ?…昔な、炎のドラゴンが氷のドラゴンと喧嘩して、戦いに勝ったらしいんだ。で、炎のドラゴンってのは火山に住んでるから、並大抵のモンじゃ持ち帰ることができねぇ。そこでだ、戦利品として焼いても焼いても炭にならなかった氷のドラゴンの心臓を、やつは持ち帰ったのさ。」
「…詳しいな?」
「ま、ま、ま。いいじゃねぇかそこんとこは。でもガゼネタじゃないんだこれが。しっかり古い古文書に記されててな?…おっと、…まぁ、そういうことだ。な、そそるだろ?」
「だが、その口ぶりだと最下層のドラゴンのところまで行かなければ行けないじゃないか」
「だーかーら、俺が要るんだよ。炎に耐性がないと、やってられないだろ?どうだ、一人で入ろうってくらい強いんだろ?な、一緒に行こうぜ?他の財宝は要らないからよ、な?」
まぁ、ドラゴンに用があるのは私も同じだからな…ふむん。
「いいだろう」
「だよな!よろしく頼むぜ?…名前はなんてぇんだ?」
「好きに呼べ。」
「つれないねぇ。ローブって呼ぶぞ。」
見たまんまか。センス無いな。
握手を交わして着いた村の酒場で作戦を練り合わす。
アゥフナは炎、私は何でも使えるが、氷でいくことにした。
氷の魔術師と聞いてアゥフナはたいそう喜んだ。
「さあさあさあさあさあさあ!やってやろうじゃん?頼むぜ兄弟!」
アツいな。属性に性格が引っ張られてるんじゃないか?
肩を組まれて一緒に歩く。
入山登録なんてものはなかった。死にやすい場所だと、したところで無用の長物。自己責任で入るものらしい。未成年や明らか弱い奴は入れないけれど。
第一階層から、火の玉やら魔物やらが多い。アゥフナに任せたところで毒にも薬にもならないから私が相手をする。あの野郎、上手いこと私を捕まえたな。
途中遺骨を見付けたり、魔物を集団で相手したりと、忙しかったがまぁ、楽しかった。
アゥフナも憎めない性格をしている。
火山上部に近付くにつれ、魔物の姿も少なくなっていた。心なしか、少し涼しいような気もする。
その理由は、すぐに分かった。
「……でかくね?」
でかいな。氷の心臓も、竜も。
私達の背丈以上はある赤黒いようで蒼い心臓。
キラキラと鱗の宝石みたいに輝いている。
心臓の傍らには竜が寝ている。
「あれが、欲しいのか?」
「ああ。なに、全部じゃない。欠片でいいんだ。」
アゥフナは手袋をはめ、ピックとトンカチを両手に持って慎重に近付く。
私はドラゴンと会ってみたかっただけだからな…今のままだとアゥフナもいるし…
大人しく作業を待つことにした。手伝ってやるもんか。私は道中頑張った。見張りくらいは、してやろう。
カッカッと竜の視線を遮るようにして心臓を砕くアゥフナ。どれくらいかかるやら。
音が止んだので視線を流すと、そろそろとアゥフナがこっちに帰ってくる。
「やったか?」
「ああ…!」
アゥフナの手には鋭利な結晶が握られていた。
私が触ろうとすると
「触るなッ!素手で触ると凍傷をおこしちまう!」
あ、そうなの。ごめん。
フー…フー……
………あれ?
おめめがぱっちり開いている。
アゥフナの肩を叩いて指を指す。
なんか、起きてない?
私達は同じスピードで逃げ出した。
後ろからドラゴンが迫ってくる。
足を止めたら死ぬかな。
帰りの魔物は行きよりも楽勝だった。ドラゴンを見た後だと、よっぽど雑魚に見える。
蹴散らして蹴散らして、勢いよく階層を下る。いつの間にか、入口を出る頃にはドラゴンは追ってきていなかった。
私とアゥフナは顔を見合わせてクスクスと、ガハガハと笑って抱き合った。
寂れた酒場で盛り上がったのは言うまでもない。
アゥフナとはそれきり。
なかなか、楽しい一時を過ごしたが、あいつとはそれきり会っていない。もう会うこともないだろう。
火山に住むドラゴンに会ってみたくて照りついた最寄りの村まで馬車で揺られる。
「よぉ」
ドラゴンならあるいは私を焼き尽くしてくれるだろうか。
「そこの全身ローブ男」
私か?馬鹿にされてるあだ名だな。
馴れ馴れしく隣に座るな。
「俺、アゥフナってんだ。お前さん、一人だろ?こんな恐ろしい場所、ボッチで行こうなんてとんだ向こう見ずじゃないか。実は俺も一人でよ。な、俺と一緒に組まないか」
「一人で行ける。心配ありがとう」
「固いこと言うなよ。俺といるとお得だよ。ほら、俺の専門は炎なんだ」
そう言うと男は炎の耐性を試しにつけてくれた。
じわじわと暑い空気が見事に和らぐ。涼しい。
「炎は俺の専売特許だからな!いいだろ?連れてけよ」
何でこんな糞暑いダンジョンに炎の魔術師が出向くんだ。持ち味が相殺というか、生かせないだろ。お前らの持ち場に帰れ。
「まぁまぁ、仲良くしてやんよ?…勿論タダじゃないぜ?…俺はな、氷の心臓を捜してるんだ」
灼熱地獄に氷はないだろ。
「なんなんだ、その氷の心臓ってのは。」
「気になるだろ?…昔な、炎のドラゴンが氷のドラゴンと喧嘩して、戦いに勝ったらしいんだ。で、炎のドラゴンってのは火山に住んでるから、並大抵のモンじゃ持ち帰ることができねぇ。そこでだ、戦利品として焼いても焼いても炭にならなかった氷のドラゴンの心臓を、やつは持ち帰ったのさ。」
「…詳しいな?」
「ま、ま、ま。いいじゃねぇかそこんとこは。でもガゼネタじゃないんだこれが。しっかり古い古文書に記されててな?…おっと、…まぁ、そういうことだ。な、そそるだろ?」
「だが、その口ぶりだと最下層のドラゴンのところまで行かなければ行けないじゃないか」
「だーかーら、俺が要るんだよ。炎に耐性がないと、やってられないだろ?どうだ、一人で入ろうってくらい強いんだろ?な、一緒に行こうぜ?他の財宝は要らないからよ、な?」
まぁ、ドラゴンに用があるのは私も同じだからな…ふむん。
「いいだろう」
「だよな!よろしく頼むぜ?…名前はなんてぇんだ?」
「好きに呼べ。」
「つれないねぇ。ローブって呼ぶぞ。」
見たまんまか。センス無いな。
握手を交わして着いた村の酒場で作戦を練り合わす。
アゥフナは炎、私は何でも使えるが、氷でいくことにした。
氷の魔術師と聞いてアゥフナはたいそう喜んだ。
「さあさあさあさあさあさあ!やってやろうじゃん?頼むぜ兄弟!」
アツいな。属性に性格が引っ張られてるんじゃないか?
肩を組まれて一緒に歩く。
入山登録なんてものはなかった。死にやすい場所だと、したところで無用の長物。自己責任で入るものらしい。未成年や明らか弱い奴は入れないけれど。
第一階層から、火の玉やら魔物やらが多い。アゥフナに任せたところで毒にも薬にもならないから私が相手をする。あの野郎、上手いこと私を捕まえたな。
途中遺骨を見付けたり、魔物を集団で相手したりと、忙しかったがまぁ、楽しかった。
アゥフナも憎めない性格をしている。
火山上部に近付くにつれ、魔物の姿も少なくなっていた。心なしか、少し涼しいような気もする。
その理由は、すぐに分かった。
「……でかくね?」
でかいな。氷の心臓も、竜も。
私達の背丈以上はある赤黒いようで蒼い心臓。
キラキラと鱗の宝石みたいに輝いている。
心臓の傍らには竜が寝ている。
「あれが、欲しいのか?」
「ああ。なに、全部じゃない。欠片でいいんだ。」
アゥフナは手袋をはめ、ピックとトンカチを両手に持って慎重に近付く。
私はドラゴンと会ってみたかっただけだからな…今のままだとアゥフナもいるし…
大人しく作業を待つことにした。手伝ってやるもんか。私は道中頑張った。見張りくらいは、してやろう。
カッカッと竜の視線を遮るようにして心臓を砕くアゥフナ。どれくらいかかるやら。
音が止んだので視線を流すと、そろそろとアゥフナがこっちに帰ってくる。
「やったか?」
「ああ…!」
アゥフナの手には鋭利な結晶が握られていた。
私が触ろうとすると
「触るなッ!素手で触ると凍傷をおこしちまう!」
あ、そうなの。ごめん。
フー…フー……
………あれ?
おめめがぱっちり開いている。
アゥフナの肩を叩いて指を指す。
なんか、起きてない?
私達は同じスピードで逃げ出した。
後ろからドラゴンが迫ってくる。
足を止めたら死ぬかな。
帰りの魔物は行きよりも楽勝だった。ドラゴンを見た後だと、よっぽど雑魚に見える。
蹴散らして蹴散らして、勢いよく階層を下る。いつの間にか、入口を出る頃にはドラゴンは追ってきていなかった。
私とアゥフナは顔を見合わせてクスクスと、ガハガハと笑って抱き合った。
寂れた酒場で盛り上がったのは言うまでもない。
アゥフナとはそれきり。
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