血と踊る流動体

入江円

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第二章 与えられた自由

Twenty-seven. Tired

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一人で延々とこっちの魔術書はどうだ、この魔術書のここにある日記がどうの、と止まらないユルゲンに、つまらないお茶会というのはこんな気持ちだろうか、と嫌々連れてこられた令嬢よろしく相づちを打つ。

終わらない。飽きた。

「帰ろう。な?」

「まだいいではありませんか」

「ウィリアム待ってるし、帰ろう!」

「待たせておけばよろしい」

「お前の手料理が食べたいな!」

じと、と視線を流して、やれやれ仕方がないな言わんばかりの仕草を気取る。
お前は私の彼女か?

入り口で待ってくれていたワーターさんにお礼を伝えて、本屋を後にする。もうすっかり夜じゃないか。失礼をしてしまったな。

「よければ、また一緒に行きましょう」

ううん、お前とは二度と行かない。もういい。
私は固く心の中で誓った。

邸までの道程をユルゲンの冷めきらぬ魔術書を書いた異端への疑問や考察を、到着するまで聞かされた。

よく動く口から逃げるように扉を開けてローブを脱ぎ掛ける。

「お帰りなさい。遅かったですね」

「んん、ユルゲンに捕まってしまってな。魔術書の話を延々聞いたよ」

ウィリアムが顔を覗かせる。
外着を解いて自室に戻り、部屋着に着替える。直ぐに下に降りて、皆と一緒に食卓に着く。

市場の食材で作ったというウィリアムお手製のご飯は新鮮なものだった。


自室に戻って鍵を掛け、ベッドに倒れる。こんな気疲れしたのは久し振りだ。

ノモスか…
誰だっけな…人間の名前なんてそうそう覚えていない。魔術書なんて書いたところで一時期の熱が冷めてしまえば読み返すこともしない。
まさか一部屋に集められているとは…
ふと、ユルゲンの言っていた言葉が頭のなかで引っ掛かった。
出生の違う本の番人たち。彼等が番人なり得る条件とはなんなのだろうか。
聞いてみたいが、踏み込みたくない領域である。私は無関係だ。そうだ。

ともすると、今私が書いている日記に対策が必要になるということか?
魔術書らしく、呪文でも書き入れた方がいいだろうか。廃れた過去の言葉で書いた方がいいだろうか。いや、いや。おそらく執念で解読するだろう。それは書き手の私としては面白くない。
どうにか出し抜く方法に考えを巡らせる。

いっそ、読めなくしてしまえばどうか?
そうだ。読まれるから面倒くさいのだ。

馬鹿にしか読めない魔術書。それがいい。
馬鹿の定義をどう落とし込むか。私は新たな課題を生み出し、机に向かった。



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