血と踊る流動体

入江円

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第二章 与えられた自由

Twenty-five. Book

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魔女の国か。いい思い出はあまり無いな…
かといって旅行らしい旅行もしてないし…


「行くか。魔女の国」

「たしか、北の方でしたね」

なんでも、寒い方が燃えるからだったか?
建国理由。

「北か…」

寒いと馬も可哀想だからな。乗り継いで魔女の国を目指すか。

「コートとか、冬装備で行った方がいいですよね!」

「そうだな」

少年と冒険に行った後に出掛けるか。

「今のうちに冒険ギルド登録しておけ。装備も整えておくように」

「「はっ」」

私も念のためを用意しよう。
二人はそのまま外出し、私は邸に帰った。
ひと風呂浴びて仕立て屋へ出向き、女用に頼んでいたドレスを受け取りに行く。

お姉さんが一目を憚って目立たない袋にいれて持たせてくれた。ありがとうございます。

自室に戻って早速広げると、…三着?三着も作ったの?ほーん…
深く考えないように鞄に仕舞う。

そう言えば、封印、一つ解いてたな。
使う機会もないだろうからもう一度かけ直す。
弱くないと、気付かれてしまう。人の域を超えるものを人は嫌う。過去から学んだ事だ。

特にすることも無いから、ふらふらと街に出掛けた。普段入ることの無い路地を気の向くままに歩いていく。猫を見つけて、後をついていく。

路地を抜けて大通りに出ると、市場だった。
色鮮やかな食材や、日用品、骨董品。賑やかな場所に案内してくれたようだ。

骨董品店に足を運ぶと、なんでもありの店だった。

鉢植え、杖、壺、本、装飾品、宝石、骨、皮、様々な古めかしい物達が雑多に陳列している。

気になって本を手に取ってみる。
ギャンブルのイカサマ大事典、昔の料理本、魔女の美容健康本、なんでもありだな。

「隊長」

「あぁ、ユルゲンか」

「珍しいですね。何か、お探しですか?」

「いや、偶然ここに着いてね」

「そうですか。…面白い本はありましたか?」

見てたのか。店内を一瞥して鼻をならす。

「暇潰しにはなった。なぁ、ここらで大きい本屋を知らないか?」

「ご案内します」

ユルゲンの後をついて骨董屋を出て、横に並んで歩く。

「どんな本をお探しですか?」

「そうだな、魔術書を。最近の魔術書や昔の物もあれば、見てみたいな」

「先日あの少年に渡した魔術書は、隊長が書かれたんですよね?」

「あぁ。長いこと旅をしているからな。多国で見聞した出来事や魔術の危険性を書いていたら、いつの間にかあの厚さになってしまってね。読んだのか?」

「はい」

「どうだった?現役の魔術師から見て」

「素晴らしいものでした。隊長はやはり、人が好きなのですね」

人が好き、か。

「そうなのだろうか」

「でなければ、ナーラガスの時も生かしてはおかないでしょう。あなたは人を愛しておられる」

「闘技場で、殺そうとしたのにか?」

「結果、殺さなかったでしょう?貴方の本気はあんなもので済みません」

やけに確信めいて話すな。淡々と話すものだから少し不気味だ。根に持っているのだろうか。

「着きました」

いつの間にか本屋に着いていた。案内される時はどうも周囲を見ずに歩いてしまう。
市場に比べて人通りは落ち着いているが、それでも帝都なだけあって多い方だ。

「大きいな。三階まであるのか」

「魔術書だけをご覧になるのであれば、案内しましょうか」

「全部覚えているのか」

この本屋の配置を。

「昔から利用しているので、大したことではありません」

すいすいと進んで三階まで連れられる。

「解読したい魔術書があったんです。昔は帝都に住んでいたのでよく通いました」

「ユルゲンさん」 

本を整理していた足取りの軽やかなお爺さんが迎えてくれた。 

「こんにちは。こちら、俺の上司のリベル隊長です」

「これはこれは。初めまして、当本屋の主をしております、ワーターと申します。蔦の大魔術師様にお会いできるとは、長生きした甲斐がありますな」

「ウィン・リベルと申します。当主の方にわざわざ足を運んでいただき、光栄です」

「はは、いやいや。本日はどのような御用件でお越しでしょうか?」

「あぁ、いえ、魔術書を見に来ただけでして、大した用ではないんです。すみません」

「魔術書を!でしたらここに並ぶ本は貴方にはつまらないでしょう。実はまだお見せしてない場所があるんです。よければ、ご覧になりますかな?」

「是非」

本屋の主が茶目っ気たっぷりに誘うものだから、のるのが礼儀だろう。ユルゲンと一緒に後を着いて行く。
何やら、立ち入ってはいけないような通路を進み、頑丈な扉の前に立たれる。
大きな鍵を差し込み、杖で何度か叩く。

「さぁどうぞ。きっとお気に入られることでしょう」



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