血と踊る流動体

入江円

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第一章 戦争

Twenty. William donor

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日を跨いで未明、尿意を催して便所休憩した帰りにユルゲンと合流した。

「早くね?」

「急いだ。」

あ、そう。

「隊長はまだ覚めないか。」

「うん。…なんかさ、いつの間にか俺達、隊長大好きッ子になったな。」

「もう、会えなくなるんだろうか。」

うん。なんか寂しい。

「またどこか出会えるかなぁ。」

返事はなかった。その代わり、くしゃっと髪を撫でられた。
身長が高いやつはこれだから…

暢気に話していたら隊長付きの看護師が走って来る。

「男性が目を覚まされました!」

走って向かった。息を切らせるのも忘れて中に入ると、上半身を起こしてカップに口付けている隊長がいた。

「おはよう。…なかなかな味だな、これ。」

そう言っていつものように悪戯っ子のような、屈託の無いしかめっ面を見せる。
泣きそうになった。

「ご無事でなによりです…!」

隊長の傍に駆け寄り、無事を喜んだ。

「途中でいなくなってすまなかった。気を抜いて敵国に捕まってしまってね。…近況報告を頼むよ。」

「それについては私から話させて頂きたい。ナーラガス国からアーリア国国境に配属されたホゥ・メラタ司令官だ。」

後ろから声がした。司令官を中心に二人程後に控えている。

「アーリア国より冒険者から傭兵に志願したウィン・リベル遊撃隊長です。」

「すまないが、二人で話がしたい。席を外してくれ。」

渋々テントの外で終わるのを待つ。司令官付きの従者二人と待つ。
ナーラガス国とはずっと殺し合っていたんだ。今更話す気にもならない。
そう俺がそっぽを向いていると

「我々の隊長を助けてくれて感謝する。」

ユルゲンが先陣を切った。おいおい。

「…我々の命の恩人をみすみす死なせるわけにはいかない。お前達と仲良くするにはまだ時間がかかりそうだが、我々はあの人に大きな借りがある。」

今回のバンパイア騒ぎだろうか。

「彼は蔦の魔術師だろう?違うか。」

蔦の魔術師?

「蔦を使った魔術は隊長くらいしかいないと思うが…それがどうした。」

「全線で戦っていた兵士が何人も蔦に助けられている。だから、死なせるわけにはいかない。」

蔦に助けられた?よくわからないが、隊長は彼らに恩を売っていたらしい。なんだか、複雑な心境だ。

「間違えるなよ。俺達は、お前達を助けたんじゃない。あの人を助けたんだ。」

あっそ。
いい感じなのかよくわからないが、俺もお前らと仲良くする気は無いから、無問題だろう。


司令官が出てきた。隊長との話は終わったらしい。俺達の前で止まり、話しかけられた。

「馬車を用意してある。好きな時に帰るといい。」

それだけ言って去っていく。

「至れり尽くせり。」

殺し合っていたにしては優しい。

「蔦の魔術師様々だな。」





俺達は隊長と一緒に馬車に乗って帰還した。


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