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第一章 戦争
Eighteen. William donor
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黙々と歩み進める。迂回して隠れるように行動しているのでまだ先は長そうだ。ここまで来たことがないからユルゲンに全て任せる。
一応いつでも獲物を抜けるようにはしている。
「ところでさ、俺ってどのくらい寝てたの?」
「二日だ。」
「えっ、そんなに?」
「その間向こうの出方を見ていた。が、特に変わった動きはなかったな。」
「そんなに寝てたのか…。」
「しっかり寝たおかげで傷が治って良かったじゃないか。結果としてはいい気がする。」
そうかな…確かに、体はスッキリしている。今迄にないくらい、晴れやかだ。
静まり返った山道を確実に進んでいく。
目の前が開けて敵陣が見えてきた。
「……?」
「なにか…変だな。」
「明るすぎる…松明にしたってあんなに燃えないだろう。」
「火事か…?」
まさか、隊長が?
急ぎ足で慎重に歩を進める。暗闇に乗じて何かが逃げ出していく。…人間のようだ。敵か?いや、今はそれよりも隊長の安否が優先だ。
こっそりと敵陣に乗り込む。
なんだ?死体がやけに転がっているな。
それに人気が無い。何があったんだ。
俺達はその答えをすぐに見ることになった。
「なんだ、あれは………」
俺達は信じられないものを目撃した。
吸い込まれるようにアンデッドやバンパイアが何かめがけて駆けていく。
凄まじい慟哭がビリビリと肌をかける。
途端、橫薙ぎに影のもの達の塊が消滅した。その空間から見えた、隊長。
隊長だ。隊長が、中心にいる。
俺達にはなにもできない。なにもしてはいけない。ただ、見ることしか赦されなかった。
すぐに開いた空間が別の影達に埋め尽くされ、隊長の刃を振るう姿が揉み消された。でも確かに感じる。隊長は戦っている。独りで戦っている。
炎を操るバンパイアと、その群れを相手に戦っている。
人間じゃない。あんなの、ニンゲンじゃない。
影達の出現が減り、残るは炎のバンパイアだけとなっていた。
「く、そがぁぁあアァアァア!!!!!!」
激しい慟哭と共に一番の魔方陣を展開させた。
隊長はそれをもろともせず突っ込んでいく。
激しく燃え盛ったかと思えば、その激しさはゆっくりと消えていき、中から隊長だけが出てきた。
俺達は呆然と、隊長をただただ見ていた。
突然、隊長がこちらを向いた。鋭い殺気を受け、反応に困る。狼狽える俺達をみて、少し驚いていたような気がした。
「隊長……ご無事で何よりです。」
殴り飛ばされるかもしれない言葉を伝えたが、呆れたように見る隊長を見てほっとした。
ユルゲンが持っている杖に手を伸ばす。
周囲を一瞥したかと思うと、隊長を囲むように得体の知れない模様が浮かび上がる。
俺達は思わず後退る。
「彼方で仔を想うものよ
聴こえるか、この叫びが。
感じるか、荒れ果てた大地を。
未だ縋るものがある。
助けを求める聲がある。
我を頼りに此方へ参れ
我は求める。其方を求める
万物の母よ。生みの祖よ
我等を満たせ 」
途端、何処からか風が湧いた。透明な、可視化できない何かが俺達の中を吹き通る。
何か、満ち充ちるように生きる力が沸いてくる。
荒れて焼けた地面から植物が芽吹く。
周囲を見渡すと、ここだけではない。彼方まで緑が萌えていた。
ドサッと何かが倒れる音の方向を見ると、隊長が倒れていた。
「隊長!………隊長?」
いつか見た女の子だ。前と違うのは、無数の傷痕に酷い火傷の痕。
焼けた服の隙間からも無惨な痕が伺える。
ユルゲンがいち早く自分のローブを隊長に被せ、果物を齧らせようとする。
「隊長、隊長…!」
そこかしこで気配がした。倒れて死にそうだった者達が起き上がっている。
まずい、ここから逃げねば。俺は剣を抜きそいつらに構える。
「待ってくれ、争う気はない…。俺達の、恩人だろう…?」
俺達と敵対する気がない様子を見せるナーラガスの兵達。
だがそう簡単には信じる気はない。
ちら、と隊長の方を見るといつもの隊長の姿に戻っていた。ユルゲンが片手に杖を構えて警戒している。
「本当だ、落ち着いて欲しい。俺達から影を引き付けてくれたその人を無体に扱うつもりはない、信じてくれ。」
「倒れてても、見ていたんだ。その人が俺達を助けてくれたんだろう…。頼む、そこまで俺達は非道じゃない。今度は俺達に助けさせて欲しい。」
どうにも敵意は感じないし、斬りかかる雰囲気でもない。少し困惑しながらユルゲンをちら、と見る。
「魔力が著しく不足している!助けてくれるか!」
腹は決まったらしい。
「わかった!魔力だな!?直ぐにポーションを用意する!」
隊長を助ける為に動き出す。俺も、剣を納め、ユルゲン達の元に侍る。
「…大丈夫だよな?」
「…彼らを信じよう。」
隊長だけは、死なせてはいけない。何であっても、そう、胸に刻んだ。
一応いつでも獲物を抜けるようにはしている。
「ところでさ、俺ってどのくらい寝てたの?」
「二日だ。」
「えっ、そんなに?」
「その間向こうの出方を見ていた。が、特に変わった動きはなかったな。」
「そんなに寝てたのか…。」
「しっかり寝たおかげで傷が治って良かったじゃないか。結果としてはいい気がする。」
そうかな…確かに、体はスッキリしている。今迄にないくらい、晴れやかだ。
静まり返った山道を確実に進んでいく。
目の前が開けて敵陣が見えてきた。
「……?」
「なにか…変だな。」
「明るすぎる…松明にしたってあんなに燃えないだろう。」
「火事か…?」
まさか、隊長が?
急ぎ足で慎重に歩を進める。暗闇に乗じて何かが逃げ出していく。…人間のようだ。敵か?いや、今はそれよりも隊長の安否が優先だ。
こっそりと敵陣に乗り込む。
なんだ?死体がやけに転がっているな。
それに人気が無い。何があったんだ。
俺達はその答えをすぐに見ることになった。
「なんだ、あれは………」
俺達は信じられないものを目撃した。
吸い込まれるようにアンデッドやバンパイアが何かめがけて駆けていく。
凄まじい慟哭がビリビリと肌をかける。
途端、橫薙ぎに影のもの達の塊が消滅した。その空間から見えた、隊長。
隊長だ。隊長が、中心にいる。
俺達にはなにもできない。なにもしてはいけない。ただ、見ることしか赦されなかった。
すぐに開いた空間が別の影達に埋め尽くされ、隊長の刃を振るう姿が揉み消された。でも確かに感じる。隊長は戦っている。独りで戦っている。
炎を操るバンパイアと、その群れを相手に戦っている。
人間じゃない。あんなの、ニンゲンじゃない。
影達の出現が減り、残るは炎のバンパイアだけとなっていた。
「く、そがぁぁあアァアァア!!!!!!」
激しい慟哭と共に一番の魔方陣を展開させた。
隊長はそれをもろともせず突っ込んでいく。
激しく燃え盛ったかと思えば、その激しさはゆっくりと消えていき、中から隊長だけが出てきた。
俺達は呆然と、隊長をただただ見ていた。
突然、隊長がこちらを向いた。鋭い殺気を受け、反応に困る。狼狽える俺達をみて、少し驚いていたような気がした。
「隊長……ご無事で何よりです。」
殴り飛ばされるかもしれない言葉を伝えたが、呆れたように見る隊長を見てほっとした。
ユルゲンが持っている杖に手を伸ばす。
周囲を一瞥したかと思うと、隊長を囲むように得体の知れない模様が浮かび上がる。
俺達は思わず後退る。
「彼方で仔を想うものよ
聴こえるか、この叫びが。
感じるか、荒れ果てた大地を。
未だ縋るものがある。
助けを求める聲がある。
我を頼りに此方へ参れ
我は求める。其方を求める
万物の母よ。生みの祖よ
我等を満たせ 」
途端、何処からか風が湧いた。透明な、可視化できない何かが俺達の中を吹き通る。
何か、満ち充ちるように生きる力が沸いてくる。
荒れて焼けた地面から植物が芽吹く。
周囲を見渡すと、ここだけではない。彼方まで緑が萌えていた。
ドサッと何かが倒れる音の方向を見ると、隊長が倒れていた。
「隊長!………隊長?」
いつか見た女の子だ。前と違うのは、無数の傷痕に酷い火傷の痕。
焼けた服の隙間からも無惨な痕が伺える。
ユルゲンがいち早く自分のローブを隊長に被せ、果物を齧らせようとする。
「隊長、隊長…!」
そこかしこで気配がした。倒れて死にそうだった者達が起き上がっている。
まずい、ここから逃げねば。俺は剣を抜きそいつらに構える。
「待ってくれ、争う気はない…。俺達の、恩人だろう…?」
俺達と敵対する気がない様子を見せるナーラガスの兵達。
だがそう簡単には信じる気はない。
ちら、と隊長の方を見るといつもの隊長の姿に戻っていた。ユルゲンが片手に杖を構えて警戒している。
「本当だ、落ち着いて欲しい。俺達から影を引き付けてくれたその人を無体に扱うつもりはない、信じてくれ。」
「倒れてても、見ていたんだ。その人が俺達を助けてくれたんだろう…。頼む、そこまで俺達は非道じゃない。今度は俺達に助けさせて欲しい。」
どうにも敵意は感じないし、斬りかかる雰囲気でもない。少し困惑しながらユルゲンをちら、と見る。
「魔力が著しく不足している!助けてくれるか!」
腹は決まったらしい。
「わかった!魔力だな!?直ぐにポーションを用意する!」
隊長を助ける為に動き出す。俺も、剣を納め、ユルゲン達の元に侍る。
「…大丈夫だよな?」
「…彼らを信じよう。」
隊長だけは、死なせてはいけない。何であっても、そう、胸に刻んだ。
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