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第一章 戦争
Two. William donor
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…聞き慣れた音がする。目を覚ますと薄黄色の天井が目にはいった。まだ生きている。
少し絶望した。
「おはようございます。ご自分の名前は言えますか」
「…ウィリアム・ドナー」
「はい。起きられますか」
襲い来るだろう痛みを覚悟して体を動かした。
「…痛くない。」
「ここに運ばれた時、全身血塗れでしたけどかすり傷すらついてませんでしたよ。重度の疲労で見間違えたんでしょうね。」
あいつは冥土の住人じゃなかったのか。
確かに刺されたであろう箇所には傷跡こそあったが完治していた。運び込まれた時には治っていた?
意味がわからない。なんなんだ。
もしかして、回復魔法を使ったのか?
何で回復魔法が使えるんだ。何でそんなやつが前線にいるんだ。
腑に落ちない感情と疑惑が俺のなかに残る。
「彼は不動の魔術師ですからね」
「不動の、魔術師?」
「知りませんか?彼、まだここに運び込まれたこと無いんですよね。なんで無傷でいられるのか、ついたあだ名が不動の魔術師。
今回だって、何人も死んでいる捜索を一人出掛けて味方を次々担いで戻ってきた。
夜は捜索、昼間は戦争、よく持ちますよ。
この前だって、ナーラガスの召還士が呼んだ魔獣を一人で押さえつけたってこっちまで噂になってました。」
「………そんなやつに助けられたのか」
「幸運でしたね。」
……幸運、なんだろうか、
わからない
なにか違和感が残る
「今日はこのまま休んで貰って構いません。目が覚められたので、明日には自分のベッドに移ってもらいます。」
手際よく検診を済ませて次の患者のもとへ向かう。周囲を見渡すと、重傷者はいるものの確かに運び込まれる人間が少なくなったような気がする。
前ここに来たときはベッドでなんて寝かせて貰えなかった。
…変わりつつある。
外の様子が気になってそろそろとベッドを抜け出す。
以前はもっと殺伐としていたような。雰囲気が落ち着いたように感じる。
「ウィーリア~ム!」
「あぁ、生きてたのか。」
「こっちのセリフだよ!
聞いたぞ、不動の魔術師のおかげらしいな?生きててくれて嬉しいよ!」
「そんなに、有名なのか?」
「有名っちゃ、有名かな。なにせ誰かとつるんでるところなんてみたこと無いし、全身マントだし?なんか、取っ付きにくい感じがさ。」
「名前、知らないか?」
「あん?」
「そいつの、不動の魔術師のさ、」
「あぁ~、…なんだっけな、覚えてないや。」
「そう…」
「珍しいじゃん。」
「え?」
「いつも死にに行くみたいに誰も気にかけなかったお前がさ、ほら、言ってみろよ、俺の名前。」
「………ジム?」
「マーシャスだよ、馬鹿野郎」
「……………」
「いいんじゃない?気になるんだったら、調べてやるよ。また今度、一緒にメシ食べようぜ!」
「おぅ、ありがとう、頑張れよ。」
爽やかな奴だな。マーシャス…
少し絶望した。
「おはようございます。ご自分の名前は言えますか」
「…ウィリアム・ドナー」
「はい。起きられますか」
襲い来るだろう痛みを覚悟して体を動かした。
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「ここに運ばれた時、全身血塗れでしたけどかすり傷すらついてませんでしたよ。重度の疲労で見間違えたんでしょうね。」
あいつは冥土の住人じゃなかったのか。
確かに刺されたであろう箇所には傷跡こそあったが完治していた。運び込まれた時には治っていた?
意味がわからない。なんなんだ。
もしかして、回復魔法を使ったのか?
何で回復魔法が使えるんだ。何でそんなやつが前線にいるんだ。
腑に落ちない感情と疑惑が俺のなかに残る。
「彼は不動の魔術師ですからね」
「不動の、魔術師?」
「知りませんか?彼、まだここに運び込まれたこと無いんですよね。なんで無傷でいられるのか、ついたあだ名が不動の魔術師。
今回だって、何人も死んでいる捜索を一人出掛けて味方を次々担いで戻ってきた。
夜は捜索、昼間は戦争、よく持ちますよ。
この前だって、ナーラガスの召還士が呼んだ魔獣を一人で押さえつけたってこっちまで噂になってました。」
「………そんなやつに助けられたのか」
「幸運でしたね。」
……幸運、なんだろうか、
わからない
なにか違和感が残る
「今日はこのまま休んで貰って構いません。目が覚められたので、明日には自分のベッドに移ってもらいます。」
手際よく検診を済ませて次の患者のもとへ向かう。周囲を見渡すと、重傷者はいるものの確かに運び込まれる人間が少なくなったような気がする。
前ここに来たときはベッドでなんて寝かせて貰えなかった。
…変わりつつある。
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以前はもっと殺伐としていたような。雰囲気が落ち着いたように感じる。
「ウィーリア~ム!」
「あぁ、生きてたのか。」
「こっちのセリフだよ!
聞いたぞ、不動の魔術師のおかげらしいな?生きててくれて嬉しいよ!」
「そんなに、有名なのか?」
「有名っちゃ、有名かな。なにせ誰かとつるんでるところなんてみたこと無いし、全身マントだし?なんか、取っ付きにくい感じがさ。」
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「あん?」
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「あぁ~、…なんだっけな、覚えてないや。」
「そう…」
「珍しいじゃん。」
「え?」
「いつも死にに行くみたいに誰も気にかけなかったお前がさ、ほら、言ってみろよ、俺の名前。」
「………ジム?」
「マーシャスだよ、馬鹿野郎」
「……………」
「いいんじゃない?気になるんだったら、調べてやるよ。また今度、一緒にメシ食べようぜ!」
「おぅ、ありがとう、頑張れよ。」
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