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大団円、からの人生設計ーー序章ーー
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え、なに。
今日って、赤点確実なテストが返ってくる日?
それとも、社外でやらかして、降格&減給処分でもいわれる日?
そのくらいの日なんですけど。
いや。
私、モブなんですけどっ。
モブがいくら祈ったところで、時間は過ぎていくし、誰も記憶喪失にならなかった。
と、いうわけで、本日は魔王討伐を果たした英雄方のご帰還の日であります。
パチパチパチ。
魔王討伐の報が空間魔法でもたらされた時は、もうなんか、嬉しい、というよりホッした。
知らせは当然王様に一番に来た訳で、同席していたレリア王女殿下の後ろにモブとして控えていた私も、一番早い知らせに接することができた。
そして次に、討伐隊の全員が生きていること。
もちろん大中小の怪我はあるとのことだけど、全員、生きていること。
その知らせを聞いたとき、王族方の前で不敬ながら、その場でしゃがみ込みたくなった。
モブの願いを聞いてくれる神様なんていないけど、何百何千の祈りとなれば、神様もちょっとは聞いてくれたわけで。
もちろん、ちょっと聞いてくれただけで、大部分は主人公たちの血と汗と涙と友情と、モブ達のささやかな支援によるものだけど。
とにかく、みんな生きててくれてよかった。
本当に、よかった。
王城から知らせが出され、王都に、国中にいきわたる。
王都帰還の道筋の町々から、続々と、
『いま、我が村を通られましたっ』
『本日は、光栄にも当町にご宿泊ですっ』
なんて速報が伝令魔法で次々届く。
英雄たちの王都到着に合わせて、王都では様々な準備がされる。
総指揮はレリア王女殿下。
と、その後ろで微笑んでいるラクロア女官長殿。
当然王女殿下付きの魔法士である私も、いろいろ手伝った。モブ的に。
王都の門から王城までの道すがら、英雄たちに振りまくための花びらを各家に配って回ったり。
(花びらを常備している家なんて、ないと思うの。)
街を飾る布自体は手作業のものだけど、着色は魔法でできるので、それを『拡大』してみたり。
(普段からあんな布ひらひらさせてたら、洗濯物干せないし。)
振る舞いの料理を『保温』する魔法があるので、それを『拡大』して、道沿いや王城の広間一杯の料理を食べごろにキープしたり。
(作ってる間にも、残念ながら出来上がってる料理が冷めていってしまうのが、料理の定めなのよね。)
私がモブ的に地味ぃ~なことをしている間に、ややメインな方たちが広間を整えたり、お祝いに駆け付けた貴族、名士、外国の大使なんかをさばいていったりしている(気配だけ感じた。詳細はわからないもん。モブだから)。
で。
で。
ストーリーの大団円。
道中で怪我も治った英雄たちが、美々しい衣装で王城の大広間に集まる。
国王陛下がなんかご苦労的なことおっしゃってるけど、それはスル―。
大きな試練を潜り抜けてきた主人公たちには、俗世の栄誉よりも大きな、仲間たちの絆が………
までは、オッケー。
いいお話です。
そこでと止めておきたかった。
でもっ。
これは現実なのでっ。
英雄たちをもてなすという名の、『今後のために、英雄たちに自分売り込む』パーティー開催中なのっ。
今ここっ。
モブなりに頑張って用意した料理も、本当ならナジャ君とかにがっついてもらいたいのに、なんかお貴族様方に囲まれて、目を白黒させてる。
当然食べる暇も、テーブルに近づく隙すらない。
さすがのサルファス殿下やイスリオ騎士団長は、笑顔でさばいてるけど、そろそろ背後に黒い『いい加減にしろ』オーラが見え始めてる。
モブからも見えるくらいって、相当。
それでもそばから離れない宮廷のみなさま方って、実は英雄級の心臓の持ち主では。
アクシオ君というと、え~、控えめな表現をすると、『自分が魅力的だと思っている部分をとても強調した装いをなさっている老若を問わない淑女方』にがっつり取り囲まれてる。
その中心で、彫像のように動かず無反応。
周囲の方々が勝手にお互いにマウンティングを取り合ってらっしゃって、もう絵にも描けない、言葉にもしたくない状況になってる。
ちなみに、討伐隊女性陣には、当然男性が群がってるわけで。
一応。
ちょっとは。
たぶん。
名前ぐらいは覚えてもらっているはずのモブとしては、『生きて帰ってきてくれて、嬉しい』っていうのを、人垣の外からでも伝えたかったんだけどなぁ。
あの幾重にも折り重なった人の輪を潜り抜けることは、モブの私にはできないので。
広間の端。
灯りの途切れた柱の陰から思う。
帰ってきてくれて、ありがとう。
…………って。
どうしてここで終われないかなっ、私のモブ力っっ。
今日って、赤点確実なテストが返ってくる日?
それとも、社外でやらかして、降格&減給処分でもいわれる日?
そのくらいの日なんですけど。
いや。
私、モブなんですけどっ。
モブがいくら祈ったところで、時間は過ぎていくし、誰も記憶喪失にならなかった。
と、いうわけで、本日は魔王討伐を果たした英雄方のご帰還の日であります。
パチパチパチ。
魔王討伐の報が空間魔法でもたらされた時は、もうなんか、嬉しい、というよりホッした。
知らせは当然王様に一番に来た訳で、同席していたレリア王女殿下の後ろにモブとして控えていた私も、一番早い知らせに接することができた。
そして次に、討伐隊の全員が生きていること。
もちろん大中小の怪我はあるとのことだけど、全員、生きていること。
その知らせを聞いたとき、王族方の前で不敬ながら、その場でしゃがみ込みたくなった。
モブの願いを聞いてくれる神様なんていないけど、何百何千の祈りとなれば、神様もちょっとは聞いてくれたわけで。
もちろん、ちょっと聞いてくれただけで、大部分は主人公たちの血と汗と涙と友情と、モブ達のささやかな支援によるものだけど。
とにかく、みんな生きててくれてよかった。
本当に、よかった。
王城から知らせが出され、王都に、国中にいきわたる。
王都帰還の道筋の町々から、続々と、
『いま、我が村を通られましたっ』
『本日は、光栄にも当町にご宿泊ですっ』
なんて速報が伝令魔法で次々届く。
英雄たちの王都到着に合わせて、王都では様々な準備がされる。
総指揮はレリア王女殿下。
と、その後ろで微笑んでいるラクロア女官長殿。
当然王女殿下付きの魔法士である私も、いろいろ手伝った。モブ的に。
王都の門から王城までの道すがら、英雄たちに振りまくための花びらを各家に配って回ったり。
(花びらを常備している家なんて、ないと思うの。)
街を飾る布自体は手作業のものだけど、着色は魔法でできるので、それを『拡大』してみたり。
(普段からあんな布ひらひらさせてたら、洗濯物干せないし。)
振る舞いの料理を『保温』する魔法があるので、それを『拡大』して、道沿いや王城の広間一杯の料理を食べごろにキープしたり。
(作ってる間にも、残念ながら出来上がってる料理が冷めていってしまうのが、料理の定めなのよね。)
私がモブ的に地味ぃ~なことをしている間に、ややメインな方たちが広間を整えたり、お祝いに駆け付けた貴族、名士、外国の大使なんかをさばいていったりしている(気配だけ感じた。詳細はわからないもん。モブだから)。
で。
で。
ストーリーの大団円。
道中で怪我も治った英雄たちが、美々しい衣装で王城の大広間に集まる。
国王陛下がなんかご苦労的なことおっしゃってるけど、それはスル―。
大きな試練を潜り抜けてきた主人公たちには、俗世の栄誉よりも大きな、仲間たちの絆が………
までは、オッケー。
いいお話です。
そこでと止めておきたかった。
でもっ。
これは現実なのでっ。
英雄たちをもてなすという名の、『今後のために、英雄たちに自分売り込む』パーティー開催中なのっ。
今ここっ。
モブなりに頑張って用意した料理も、本当ならナジャ君とかにがっついてもらいたいのに、なんかお貴族様方に囲まれて、目を白黒させてる。
当然食べる暇も、テーブルに近づく隙すらない。
さすがのサルファス殿下やイスリオ騎士団長は、笑顔でさばいてるけど、そろそろ背後に黒い『いい加減にしろ』オーラが見え始めてる。
モブからも見えるくらいって、相当。
それでもそばから離れない宮廷のみなさま方って、実は英雄級の心臓の持ち主では。
アクシオ君というと、え~、控えめな表現をすると、『自分が魅力的だと思っている部分をとても強調した装いをなさっている老若を問わない淑女方』にがっつり取り囲まれてる。
その中心で、彫像のように動かず無反応。
周囲の方々が勝手にお互いにマウンティングを取り合ってらっしゃって、もう絵にも描けない、言葉にもしたくない状況になってる。
ちなみに、討伐隊女性陣には、当然男性が群がってるわけで。
一応。
ちょっとは。
たぶん。
名前ぐらいは覚えてもらっているはずのモブとしては、『生きて帰ってきてくれて、嬉しい』っていうのを、人垣の外からでも伝えたかったんだけどなぁ。
あの幾重にも折り重なった人の輪を潜り抜けることは、モブの私にはできないので。
広間の端。
灯りの途切れた柱の陰から思う。
帰ってきてくれて、ありがとう。
…………って。
どうしてここで終われないかなっ、私のモブ力っっ。
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