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ピンチはチャンス? でもやっぱりピンチでしょっ!③

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 モブとして、状況全無視でアクシオ君にお水を作ってもらった。
 『拡大マグニフィクション』で量を増やして、まずは飲水確保。
 これでいくら叫んでも大丈夫だよー、ナジャ君たち。
 一部を空中で水球のまま保持。
 意識を集中する。
 拡大するのは『動きを止める』こと。
 残ってる前世のざっくり知識で、温度は分子の運動量だった、気がするの。
 ので、動きを止めるようにしていけば、冷たくなるはず。
 水球の水流を意識する。
 そこから水を小さくしていく。すごく小さく。
 小さく小さく認識していって、ぐるぐると動いている粒を止めようとしている力を『拡大』する。
 止めすぎると氷になってしまいそうなので、テキトーなところで止めておく。
 そのまま騎士さんたちが用意してくれている布の上に水球を動かし、ゆっくりと染み込ませていく。
 「冷た、い?」
 布を手にした、ややモブの騎士さんが驚いてる。
 上の方の数枚を他の騎士さんに渡すと、その人もびっくりしてる。
 モブ的リアクションが素敵です。
 「えぇ。アクシオ君に水を作ってもらったので、増やして冷やしてみました。
  騎士の方々にはお怪我が腫れてしまっている方もいらっしゃるようでしたので。
  応急処置ですが、患部を冷やしていただければと」
 ポーションも持ってきてるんだけど、数に限りがある。
 騎士さんたちって我慢強くて、普通に治りそうな怪我の時って、なかなか使おうとしないのよね。
 本当は、飲水の方も冷やしたほうがいいんだろうけど、そこまで集中が持ちません。
 モブなんで。
 最優先は、これまでの行程で捻挫とか脱臼とかして怪我を負った騎士さんたち。
 作った本人からすれば、びっくり箱くらいのモンなんだろうけど、遥かに魔力が弱い私達からしたら、結構な危険がたくさんあった。
 魔法士を優先して守るため、イスリオを始め、騎士さんたちは本当に体を張って、主人公たちを進ませてくれた。
 そして最終試練では、ひっそり後ろに控えている。
 もうほんとっ、そのモブ的動きに惚れそうっ。

 私は冷やした布を絞りながら、それぞれの騎士さんたちに渡したり、手伝ってもらいながら当て布として固定してもらったりした。
 さすが騎士さんたちは、手当も手慣れたもの。
 私がするのっていえば、布を絞って渡すだけなんで、ま、ボーッと突っ立ってるよりはマシ、程度。
 『ありがとうございます』
 『怪我を負うなど、不甲斐ない限りですが、痛みも引く思いです』
 なんて心のこもったテンプレ感謝なんかいただいてしまって、こっちが恐縮です。
 イスリオにも渡したら、なんか手を握られた。
 この人にはよく握られるなぁ。
 「こんなに冷たくしてしまって……我らのために……」
 「いえ。お気になさらず。
  ここまで導いてくださった騎士様方のご苦労を思えば、些細なことですわ」
 と、外向けふうに答えておく。
 モブによる舞台裏の役目ですから。
 お気になさらず。

 ひと通り渡し終えたら、布が余った。
 もったいないから、おしぼりにでも使ってもらおうかな。
 ここまで来るのに、みんな薄汚れているし。
 こういうときは、身分的にサルファス王子から使ってもらうのがいいかな…… 

 って振り向いたら…………
 え~、みなさま。
 なにに注目していらっしゃいます?
 私になにか、ご不審な点でも……?

 「……アンタ、なにやったの?」
 アクシオ君が聞いてくる。
 え?
 君の魔法を、ちょっといじらせてもらっただけだって。
 「俺、水の温度を変えることなんて、できないけど……」
 そ?
 できるようになるよ。
 「そうねぇ。
  イメージなんだけど、例えばナジャ君みたいによく動いてると、暑い感じがするじゃない?」
 コクリと頷くアクシオ君。
 後ろで、ヒデーッとか叫んでいるナジャ君。
 「だから動きを早めれば熱くできるの。
  逆に、動きを止めようとすれば、冷たくできるし。
  もっと動きを止めれば、氷にもできると思うわ」
 納得してないアクシオ君の顔。
 う~ん。
 分子のこととか、私もわかってないからなぁ。
 イメージイメージ。
 「例えば、砂って、いくら熱くなっても砂でしょ?(超高温になると溶けるらしいけど)
  その動きを止めれば土になるし、もっと止めれば岩になる。
  水もそんなイメージで操ってみたの」
 不思議顔の中に、ちょっと理解の光。
 あとはメインキャラの直感とか、ストーリー上の都合とかでがんばって。
 せっかく冷やしたのが常温になっちゃうともったいないので、とりあえずひえたおしぼりを配ります。
 いえいえ。
 みなさん、なにを固まっているの?
 ストーリー的には、
 『一回で当ててみろっていうのは、ひとり、一回ってことだろっ』
 とか、
 『いっそ全滅させちゃえばー。
  それで倒しちゃったら、それくらいのモンなんだろー』
 とか、
 『ちょっと待ちなさいよっ。
  なにか手があるはず。
  もっと真面目に考えなさいっ』
 とかとか。
 そんなわちゃわちゃしたトークが繰り広げられたはず。
 なのに、全員が私に注目。
 「アン。
  魔法で生み出した物質の形態変化は、超高位魔法なんだが……」
 え?
 そうなんですか?
 騎士さん側から、魔法士側に視線を移していくと、みんな揃ってびっくり顔。
 え~。
 やらかしましたね、私。
 モブとして。
 手先と一緒に、背中が冷たくなる。
 冷や汗って、どうして何回かいても慣れないものなのでしょうか?
 この状況をモブごときがどうやって動かせるのか……。
 『ほう。
  愉快なことになっているではないか』
 動かしたのは、やっぱりメインキャラ。
 一瞬の浮遊感に包まれた私は、初めて来たけど知っている。
 かの『いにしえの大魔導士』クラムド=クリシャの研究室に連れ込まれた。
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