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返却も退却も、速やかに行いましょう①

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 イスリオの宿舎から救出(?)された私は、女官のラクロアさんと侍女さんたちに、日課のように湯殿でのピカピカに磨き上げられ、乳液やらオイルやらでグネグネとマッサージされて。
 ぐったりするけど、夢心地。
 王女宮に来る前は、モブらしく身なりにはそれほどかまわなかったから、モブ的に行き届いてないとこもあった。
 それが今は、全身ツルッツルのぷにぷに。
 ほんとお貴族サマみたい。
 でも、忘れてはいけないモブの立場。
 レリア王女の気が変われば、あっという間に元の魔法士寮に戻るわけで。
 メインキャラのひとりとの大、というか超というか、深々した接近も、一時の夢として楽しんじゃおうかな、なんて緩いことを考えてたモブ思考を粉々に粉砕したのは、一切の悪意のない女官のラクロアさんと侍女さん達だった。

 「アン様。サルファス殿下の御元に伺うためのお衣装が出来上がりましたの。
  ご覧くださいませ」
 珍しくラクロアさんがテンション高めにいう。
 「素材も意匠も、最上のものをご用意させていただきました」
 「どれもアン様にお似合いだと思ってしまって、わたくし共では決めきれなくて」
 「ぜひ、アン様のご意見もいただきたく」 

 …………、うわぁ。

 目の前には四つのトルソー胴体だけのマネキン
 これを作るために、採寸し直されたのかぁ、と現実逃避したくなるけど、現実ってモブにはそう簡単に逃避させてくれないの。

 とにかく共通してるのが、透け透けでぎりぎりの、あざとエロイってことっ。
 かつての記憶で、ネットでアダルトランジェリーなんか見たら、きっとこんな感じ。
 それならネタで、まさか本気で着る人なんかいないでしょ、で終わらせられるんだけど。
 目の前にあるのは、素材や縫いが高級なのが一目瞭然。
 質感も、冗談ジョークグッズなら、化繊のぺらい感じだろうけど、どう見てもシルクの光沢で、しなっとしているのに崩れていない。
 きっと触ったら、手に吸い付くんだろうねー。
 シルクの下着なんて、誰が着るんだろうって思ってたら、私が着るはめになりそうです。


 左から順に。
 その1 エロかわテイスト
  全体が上品な桃色。
  キャミの丈は足の付け根ぎりぎりくらいまでしかなくて、裾にふわふわしたモヘアがついてる。
  同じくモヘアの、実用性ゼロのリストバンド。
  可愛くしてあります、って感じなのに、胸元は大きく開いていて裾と同じくモヘアがあるから乳首が隠れてる、ってほど。
  あちこちふわふわさせて、少女っぽさを出しながらも、胸元も丈もきわどく攻めてる。
  パンティだって、正面はかろうじて布面積があるけど、お尻なんてTバックだしっ。
  しかもふわふわモヘアでっ。
 「女性の中の愛らしさを出してみましたっ。アン様の可愛らしさがあふれ出てしまいわすわっ」
 …………、いえ、それ、枯れ井戸です。

 その2 エロアダルティ路線
  色は黒。
  キャミは一番長くてすねくらいまである。
  だからといって、露出度が少ないわけじゃなく、ももの深いところから下まで大胆なスリット。
  きっと少し動くだけで、太ももからすべて丸見え。
  胸元も詰まっているように見せかけて、深いスリットが入ってる。
  同じくちょっと身じろいだだけで、隙間から胸が見えちゃう。
  そしてここが見どころ、と教えるように、スリットには深紅のバラの刺繍がしてあって、簡単に割れてしまうようになってる。
 「アン様の白いお肌と、大胆な妖艶さを引き出せる意匠にいたしましたっ」
 …………、いえ、その引き出しは空です。

 その3 エロ清楚系
  エロティックと清純って、両立することを教えてくれる意匠。
  色は淡い水色。
  今までの生足見せとは逆に、爪先から太ももまで、繊細なレースのストッキングをガーターで留める形。
  もちろん正しいガーターとして、ベルトはパンティの下。
  つまり。したまま、まぁ、いたせるわけです。
  その分他はシンプルなデザイン。
  ここでいう『シンプルなデザイン』っていうのは、ひたすらに透け感があって、布面積が少ないことを指すわけで。
 「アン様の高潔さと飾らないお人柄を表してみましたっ」
 …………、下半身に膨張色で攻めていい身分ではございません。

 その4 これは新婚用でしょ
  白。
  これでもかというくらいのレース。
  繊細に重なっていて、重ねられているのに重さは感じなくて、ひたすら繊細。
  この世界のレースってことは、全部職人さんたちが作った手縫いってことで。
  その素晴らしい技術が、私ごときの衣装になるなんて、なんだか申し訳なさすぎる。
  でも、これがいいか、な?
  なにより評価したいのは、キャミ、ブラ、パンティと3点セットなのこと。(他のは2点セット……ブラ、ないんだもん)
  ブラのトップのところや、パンティのセンターのところ。
  いたるところにリボンがついているんだけど、ひとつひとつは細くてシンプルな形。
 「これも、アン様の魅力を表しているものかとは思うのですが…………」
 なぜかラクロアさんも侍女さんたちも、あまり推してこない。
 確かに新婚初夜っぽいけど、総布面積はこれが一番あるし。
 「いろいろ用意してくれてありがとう。これにするわ」
 今回は『ちょっと声かけられたくらいで勘違いしてるイタイモブ』作戦でいくつもり。
 なら、これくらい意識しちゃってる系でいいでしょ。

 と、いうことで。
 レースたっぷりなのに着心地最高、っていうエロカワ新婚用だろっ、って下着を着こんで、サルファス王子の寝台に座ってるわけで。
 あぁ。
 平凡なモブへの道って険しいものなのね。
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