楽な片恋

藍川 東

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秋 1/3

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 秋といっても、暑い。
 来月には冬服に強制衣替えだけど、クーラー効かせて冬服ってのは、地球に優しくないんじゃないだろうか。
 こんなことをつらつら考えていられるのも、推薦組の特権で、受験組と混成クライスの教室では、休み時間も脇目も振らず、参考書に頭を突っ込んでる輩も多い。

「なんかなぁ、俺達も去年までは、あんな青春してたんだよなぁ」
 窓際から、体育の授業の準備をしている下級生を見ていると、そんな声が聞こえた。
 締め切った窓から声は聞こえないけれど、ジャージ姿でじゃれ合いながら、三々五々グラウンドに集まっているのが見える。
 もっとも、僕が見ているのは『下級生』じゃなくて『幼馴染優一朗』だけど。
 高2ともなれば、身長もそれなりで。
 その中でも優一朗は頭半分高い。
 ジャージの上着の前を開けているので、Tシャツから胸板がわかる。
 腰の高さも違う。
 手足も長くて、頭が小さい。
 三階の窓から、こんな下心丸出しの視線に晒さえれているとは、気づいてもいないだろう、爽やかな顔で笑っている。

 あぁ、アイドルのオフショットを見るファンって、こんな気持なんだろうなぁ。
 相手にとって自分がどんな存在か、なんて気にしなくてもいい。
 ただただ、心に栄養を取っていくだけ。
 彼がこの世界にいることと、その姿を見せていただいている幸せ。
 できれば動画で残したいところだけど、さすがに僕が終了しそうなので、ぐっとこらえている。
 その代わり、あの美しい存在を心ゆくまで愛でる。
 この世界に感謝しながら。
 彼の存在からもらう熱が、僕の指先にまで巡る。
 きっと今、僕の脳から幸福物質がどばどば出ているんだろうな。
 幸せだ。
 穏やかで、凪のような幸せ。
 これ以上を望まない、幸せ。

 もう休み時間も終わる、というときに、優一朗がふと視線を上げた。
 なにかあったのかな?
 視線が止まって、なんだか僕と、目があった気がする。
 これも、コンサートで、『絶対目が合った気がするーっ』なんだろうな。
 優一朗が突然、満面の笑みを浮かべて、腕を上げて大きく手を振った。
 同級生に比べても、大人びた容姿の優一朗からすると、ずいぶん子供っぽい仕草に見える。
 実際、彼の周りのクラスメートがきょとんとしている。
 僕もキョトンだ。
 思わず後ろを振り返る。
 でも、まわりでグラウンドを見下ろしている奴はいない。
 優一朗は手を振り続けている。
 見えもしないだろうけど、一応、僕は小さく自分を指さした。
 すると、優一朗も指をさして、うなづく。

 え、え。

 消化できないまま、優一朗は集合がかかったらしく他のクラスメートと一緒にグラウンドの中央に集まっていった。

 うわぁ。

 ラッキー。

 ファンサしてもらった。

 先生が入ってきた。
 「おーい。授業始めるぞー。ん? 蓮見。顔が赤いぞ。風邪か?」
 受験組が僕からざっと身を引く。
 「あー。ちょっと発熱したみたいです」
 「体調管理は気をつけろよー。クセにならないようになー」

 いえ、もう手遅れです、先生。
 
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