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仕方ない。手を繋いであげましょう
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左右の木々が私を驚かせようと風と共に揺れ動く。
そればかりではなく、時々鳥の鳴き声や女性の悲鳴もコラボレーションし、私を追い込み嘲笑っている。
そんな闇に覆われた世界の中、精神状態がマックスを越えそうな私は、もうすでに入口から二・三歩進んだ時点で顔面土砂降り。汗と涙が混じり合い、悲惨な状態。真っ暗で良かった点は唯一そこだけだ。
少しでも恐怖をそらそうと、左側を歩いている大原の腕にしがみ付いている。
自分の腕なのに、まるで人形みたいに意思を持たなく硬直していた。
そのためきっと私の方からは離れる事はない。
「もう無理っ!」
「煩いですよ」
根を上げれば、矢のように刺さる小鬼の慈悲もない声。さすが血も涙もない鬼め。
ホラー恐怖症の人間が、丑三つ時に幽霊目撃情報多数の心霊スポットに挑んでいるのにその発言。
砂糖で出来ているくせに、甘さはないのか。
いつも取り込んでいる糖分を、少しは私に還元しても罰は当たらないというのに。
私達はこれから目的地である『背丈石』まで向かうのだけれども、ここから徒歩十五分コースを散歩しなければならない。しかも明かりは私達が持つ懐中電灯二つだけ。
城跡地に行けば街灯があるけど、駐車場からそこまでの森林道はなぜか灯がない。
おじいちゃん曰く、外観が損なわれるから設置しなかったらしい。
それに夜に来る連中は、肝試し目当てや心霊スポット探検の人々。
夜景を見に来る奴らは、いわくつきな場所にではなく他を回るだろうって。
「進んであんな所行く連中の気がしれない」と、おじいちゃんと一緒に笑っていた自分が酷く恨めしい。
「……ねぇ大原。絶対に何が起きても置いていかないでね」
「大丈夫。ちゃんと傍にいるよ」
「悟様。試しに置いて行ってみましょうよ」
「小鬼、そういうのは辞めなさい。月山は本当に怖がっているんだ。わかるだろ?」
「何が怖いんですかねぇ……僕としては、その小娘の方が怖いと思いますよ。すぐ人の頭掴むし、ココアは一日一杯までとか口うるさく怒鳴りますし」
そう言ってけらけらと笑う小鬼の頬を、マシュマロの如く挟んでやりたいが、生憎とあいつは人型に変化中。なんでもすぐに対応が出来るようにだそう。
正直、助かる。両脇に人が居た方が安心出来るからだ。贅沢を言えば前後にも人が欲しいけが。
「しかし、人間界は便利ですね。スイッチ一つで明かりがつく」
そう言って小鬼が前後に振っているのは、懐中電灯。
あいつは夜目がきく。そのため明かりは不必要なため、あいつに渡しているそれも遊び道具と化している。
天や地へと交互に照らしたかと思えば、今度はそれを木々へと照らし始めたりもしていた。
ピンポイントで照明道具により昼になるそれは、私にとって良い思考を連れて来ない。
もし懐中電灯を当てて、何か居たらどうすればいいのだろうか。
「小鬼。そこら辺を無闇に照らすのは辞めて」
「なぜです?」
「だって、木の影に居る変な者が見えたらどうするの? よくテレビであるじゃん。こっちを窺っている映像とか……」
「貴方は余計な所で想像力豊かですね。そんなの居ませんよ。この辺一帯は綺麗に掃除されているって言ったじゃないですか。あの猫、わざわざ結界まで張って僕達の行く道を作っていますよ」
「私、見えないからそういう実感がないんだってば。いい? 私の隣から離れないで。もし離れたら針千本飲んで貰うから」
「ほんと小鳥のように煩い小娘ですね。僕が何処を歩こうが貴方に関係がないでしょうに。まぁ、しょうがないですから、特別に貸してあげますよ。ほら」
そう言ってこちら側に差し出されたのは掌。
最初何がしたいのか理解出来なかった。だって、あいつ私には超毒舌だし。
「手、繋いでいいの?」
「必要ないならば、構いませんが」
「要る。どうしたの? 珍しく優しくて逆に怖い」
「僕も針千本なんて飲みたくないので。代わりにメロンソーダを飲みます。だから奢りなさい」
「いいわ。そんなのは安いものよ。その代わり絶対に手を離さないでね」
私は片腕を大原に絡ませたまま、もう片方を小鬼へと差し出す。
すると奴が嘆息を漏らし、「ほんと子供ですね」と言いながら手を握った。
「メロンソーダーか。懐かしい。あれ、最近飲まないな。小鬼はメロンソーダーが好きなのか?」
「いえ。それが残念ながら飲んだ事がないのですよ。だから楽しみなんです。あっ、小娘。ついでにメロンパンも!」
「それはいいけど……あのさ、ずっと言いたかったんだけれども、メロンパンってメロン入ってないよ」
「はぁ!? なんですって!?」
小鬼の足がぴたりと止まったせいで、私まで止まりそのついでに大原も引っ張られるようにして止まった。
――あぁ、やっぱりそうだったのか。メロンシリーズ始まったから、もしかしたらって思ったけれどもさ。
メロンが食べたいのかなぁって。
「あれ、メロンの味がしないよ」
「では何故メロンというネーミングなのですか?」
「メロンパンはあのクッキー生地がメロンの格子っぽいから。一応教えておくけれども、メロンソーダも入ってないから。あれも色が緑でメロンっぽいから」
「はぁ!?」
小鬼の絶叫が森の中に木霊した。
そんなにショックを受けるような内容だったのだろうか。でもこれが人間界の常識だ。
「なぜ人間はそのような紛らわしい事を!」
その端正な顔立ちからは想像出来ないその子供っぽいギャップのせいか、私は自然と笑いが零れた。
そのおかげかどうかは不明だけれども、それから少し気が楽になり、どこかに恐怖心が飛んでいってしまった。
そればかりではなく、時々鳥の鳴き声や女性の悲鳴もコラボレーションし、私を追い込み嘲笑っている。
そんな闇に覆われた世界の中、精神状態がマックスを越えそうな私は、もうすでに入口から二・三歩進んだ時点で顔面土砂降り。汗と涙が混じり合い、悲惨な状態。真っ暗で良かった点は唯一そこだけだ。
少しでも恐怖をそらそうと、左側を歩いている大原の腕にしがみ付いている。
自分の腕なのに、まるで人形みたいに意思を持たなく硬直していた。
そのためきっと私の方からは離れる事はない。
「もう無理っ!」
「煩いですよ」
根を上げれば、矢のように刺さる小鬼の慈悲もない声。さすが血も涙もない鬼め。
ホラー恐怖症の人間が、丑三つ時に幽霊目撃情報多数の心霊スポットに挑んでいるのにその発言。
砂糖で出来ているくせに、甘さはないのか。
いつも取り込んでいる糖分を、少しは私に還元しても罰は当たらないというのに。
私達はこれから目的地である『背丈石』まで向かうのだけれども、ここから徒歩十五分コースを散歩しなければならない。しかも明かりは私達が持つ懐中電灯二つだけ。
城跡地に行けば街灯があるけど、駐車場からそこまでの森林道はなぜか灯がない。
おじいちゃん曰く、外観が損なわれるから設置しなかったらしい。
それに夜に来る連中は、肝試し目当てや心霊スポット探検の人々。
夜景を見に来る奴らは、いわくつきな場所にではなく他を回るだろうって。
「進んであんな所行く連中の気がしれない」と、おじいちゃんと一緒に笑っていた自分が酷く恨めしい。
「……ねぇ大原。絶対に何が起きても置いていかないでね」
「大丈夫。ちゃんと傍にいるよ」
「悟様。試しに置いて行ってみましょうよ」
「小鬼、そういうのは辞めなさい。月山は本当に怖がっているんだ。わかるだろ?」
「何が怖いんですかねぇ……僕としては、その小娘の方が怖いと思いますよ。すぐ人の頭掴むし、ココアは一日一杯までとか口うるさく怒鳴りますし」
そう言ってけらけらと笑う小鬼の頬を、マシュマロの如く挟んでやりたいが、生憎とあいつは人型に変化中。なんでもすぐに対応が出来るようにだそう。
正直、助かる。両脇に人が居た方が安心出来るからだ。贅沢を言えば前後にも人が欲しいけが。
「しかし、人間界は便利ですね。スイッチ一つで明かりがつく」
そう言って小鬼が前後に振っているのは、懐中電灯。
あいつは夜目がきく。そのため明かりは不必要なため、あいつに渡しているそれも遊び道具と化している。
天や地へと交互に照らしたかと思えば、今度はそれを木々へと照らし始めたりもしていた。
ピンポイントで照明道具により昼になるそれは、私にとって良い思考を連れて来ない。
もし懐中電灯を当てて、何か居たらどうすればいいのだろうか。
「小鬼。そこら辺を無闇に照らすのは辞めて」
「なぜです?」
「だって、木の影に居る変な者が見えたらどうするの? よくテレビであるじゃん。こっちを窺っている映像とか……」
「貴方は余計な所で想像力豊かですね。そんなの居ませんよ。この辺一帯は綺麗に掃除されているって言ったじゃないですか。あの猫、わざわざ結界まで張って僕達の行く道を作っていますよ」
「私、見えないからそういう実感がないんだってば。いい? 私の隣から離れないで。もし離れたら針千本飲んで貰うから」
「ほんと小鳥のように煩い小娘ですね。僕が何処を歩こうが貴方に関係がないでしょうに。まぁ、しょうがないですから、特別に貸してあげますよ。ほら」
そう言ってこちら側に差し出されたのは掌。
最初何がしたいのか理解出来なかった。だって、あいつ私には超毒舌だし。
「手、繋いでいいの?」
「必要ないならば、構いませんが」
「要る。どうしたの? 珍しく優しくて逆に怖い」
「僕も針千本なんて飲みたくないので。代わりにメロンソーダを飲みます。だから奢りなさい」
「いいわ。そんなのは安いものよ。その代わり絶対に手を離さないでね」
私は片腕を大原に絡ませたまま、もう片方を小鬼へと差し出す。
すると奴が嘆息を漏らし、「ほんと子供ですね」と言いながら手を握った。
「メロンソーダーか。懐かしい。あれ、最近飲まないな。小鬼はメロンソーダーが好きなのか?」
「いえ。それが残念ながら飲んだ事がないのですよ。だから楽しみなんです。あっ、小娘。ついでにメロンパンも!」
「それはいいけど……あのさ、ずっと言いたかったんだけれども、メロンパンってメロン入ってないよ」
「はぁ!? なんですって!?」
小鬼の足がぴたりと止まったせいで、私まで止まりそのついでに大原も引っ張られるようにして止まった。
――あぁ、やっぱりそうだったのか。メロンシリーズ始まったから、もしかしたらって思ったけれどもさ。
メロンが食べたいのかなぁって。
「あれ、メロンの味がしないよ」
「では何故メロンというネーミングなのですか?」
「メロンパンはあのクッキー生地がメロンの格子っぽいから。一応教えておくけれども、メロンソーダも入ってないから。あれも色が緑でメロンっぽいから」
「はぁ!?」
小鬼の絶叫が森の中に木霊した。
そんなにショックを受けるような内容だったのだろうか。でもこれが人間界の常識だ。
「なぜ人間はそのような紛らわしい事を!」
その端正な顔立ちからは想像出来ないその子供っぽいギャップのせいか、私は自然と笑いが零れた。
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