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番外編(書籍版)
ライからティアへのご褒美
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※書籍版のラストでティアがライにお願いしていたご褒美。
ラストのヘラオス達の演説後の話です。
「すごいな。まだ歓声がやまない」
「うん」
私とライはリムス城の廊下に立ちながら、つきあたりの扉を眺める。
その扉はつい先ほどまで新王・ヘラオス様と新宰相・お兄様が、群衆の前で演説を行っていたエントランスへと続く場所だ。
リムス王国は少し前に一部の貴族達が優遇されて、民が迫害される腐敗した政治だったが、現在は民に慕われた新王・ヘラオス様達によるクリアな政治へと舵がきられた。
新王と宰相は、リムスの人々の新しい希望なのだろう。
演説が終わって二人が去ったというのに、未だに熱は冷めていない。
ちなみに、お兄様達は記者会見のため、会見場所へと移動している。
「リスト達の演説も良かったけど、ティアの演説もすごく良かったよ。離れていてもリムスの事を考えているって伝わってきた。なぁ、コル」
「カァ!」
ライの言葉に彼の右肩に乗っていたコルが両羽を広げてバサバサと翼を動かしながら甲高く鳴く。
「ありがとう」
腕を伸ばしてコルを撫でれば、コルが目を細める。
「疲れただろ。部屋で休もう」
「うん。演説で喉が渇いちゃったから少し休みたいかも」
私は喉をさすりながら言えば、ライが「お疲れさま」と労いながら髪を梳くように撫でてくれた。
実はかなり疲れている。
人々の前に立つことが怖かったから。
冤罪で処刑されそうになった時を思い出して……
でも、ライとコルが見守ってくれているから、私は前に進めてお兄様やヘラオス様と一緒に演説が出来たのだ。
ライが傍にいてくれると勇気が出て大丈夫って思える。不思議。
「さぁ、部屋に戻ろうか」
ライが私の背に触れると促してくれたので、私は大きく頷いた。
+
+
+
ライと共にやって来たのは、ライがリムスに滞在している間に使用している部屋だった。
彼はファルマという大国の王なので要人。
そのため、リムス城でも一等の部屋を準備されている。
アイボリー色の毛足の長い絨毯が敷かれ、開放感のある広々とした室内だ。
壁にはリムスの名所の一つである湖を描いた絵画が飾られたり、腰壁に木材を使用した細かな細工が施されたりと、絢爛豪華な調度品が設置されている。
私とライはソファに座りながらテーブル越しに対面するようにして、お茶を飲んでいた。
コルはテーブルの上でカットされた果物を食べている。
お茶はメイドが準備してくれたのではなく、ライが準備してくれたもの。
紅茶と一緒に薔薇のジャムが添えられている。
私達は紅茶に砂糖や蜂蜜は入れずに、ジャムを溶かして飲んでいた。
「ほどよい甘さが落ち着くわ」
手にしている紅茶が入ったティーカップからは、華やかな薔薇の香りが漂っている。
「ライって、薔薇のジャム作るが得意だよね」
紅茶に入れたのはライが作って持参してくれた薔薇ジャム。
よくうちに来る時に持って来てくれるものだ。
「得意というか、ファルマの家庭ではよく作られるんだ。アポテカリーローズのジャム」
「アポテカリー?」
「そう。別名・薬屋のバラ。昔から料理や美容、治療に使われていたんだ。ビタミンCが豊富なんだよ」
「へー」
私は頷くと紅茶を見詰めた。
ビタミンCと言えばレモンが思い浮かぶけど、これにも入っているのかぁ。
ぼんやりとそんな事を思っていると、コンコンとガラスを叩く音が聞こえたので、ゆっくりと顔を上げて部屋の奥にある窓へと視線を向けた。
すると、そこには一羽のカラスが。
カラスは、窓辺に止まってじっとこちらを見ている。
一羽だけだと思っていたが、空には十数羽カラスの群れが空を飛んでいた。
「コルの友達かな……?」
窓を開けるために立ち上がろうとすれば、ライが「俺が開けてくるから、ティアは休んでいて」と言い残して窓際へ。
その後を追うようにコルが羽を羽ばたかせて着いて行く。
ライが窓を開ければ、コルが窓枠に乗り、外のカラスと「カァカァ」とおしゃべりを始める。
コルの友達が遊びに誘ってくれているのだろうか?
「コル、出かけるのか?」
とライがコルに訊ねれば、コルが「外出!」としゃべった。
それを聞いたライが、弾かれたように私へと顔を向ける。
「……ちょっと待って。ねぇ、ティア。コル、しゃべるようになったのか!?」
「最初聞くとびっくりするよね。九官鳥とかならしゃべっているのを聞いたことがあるけど、カラスってなかなか聞かないし。コル、おはようと外出はしゃべるんだよ。たぶん、私が外出? って、聞くから覚えたのかも」
「カラスは脳が大きいし、頭が良いのは知っていたけど、しゃべったのは初めて聞いたよ」
「お兄様に聞いたら、カラスに言葉を覚えさせていた人も世界中にちらほらいるんだって。中には声を真似するカラスもいるとか……」
私は立ち上がるとライ達の元に向かった。
「コル、気をつけてね」
私がコルに声をかければ、コルは軽く鳴き、友達と一緒に空へと飛び立っていく。
青々とした空を自由に飛ぶコル達を見送り、何気なく隣にいるライへと視線を向ける。
私と同じようにコルを見送っていた彼は、ちょっと寂しそうな表情を浮かべていた。
「ライ、どうしたの……?」
「ちょっと感傷的になってしまったようだ。俺は明日にはリムスを出国してファルマに戻れば、暫くティア達に会えなくなるなぁって。こんな風に穏やかな時間を過ごせるのは限られているから」
彼の台詞を聞き、私は咄嗟に手を伸ばしてライの腕に触れる。
「私もコルもファルマに会いに行くよ! 今度はメディも一緒に。それに、まだ明日まで時間があるわ。いっぱい楽しい時間を過ごそう。夕食はお兄様達も一緒に摂れるし」
「そうだな……一緒にいられない時間を嘆くよりも、一緒にいられる時間を楽しむ方が有意義に過ごせる」
そう言うとライはこちらに手を伸ばして、私を抱き締めた。
突然の出来事に私はびっくりして何度も瞬きを繰り返してしまう。
彼の大きな体に私はすっぽりと包まってしまっている。
私は、恥ずかしさと心地よさが混じり合った感情を抱いていた。
自分の鼓動がやたら大きく聞こえ、周りの雑音が聞こえなくなっていく。
「ティア。そういえば、ご褒美がまだだったよね?」
ライは私から身を離し、腕を伸ばして私の髪を梳くように撫でた。
かと思えば、一束優しく掴み口づけを落とす。
「えっと……そのまだです……」
ライが言っているご褒美というのは、新王と宰相の演説前に私がライへお願いしていたもの。
私はライからの告白の返事をまだしていなかったため、返事の代わりに演説が終わった後にご褒美としてキスして欲しいとお願いしたのだ。
ライの返事は戻ってきたらいっぱいご褒美をあげるだった。
突然出たご褒美の話に対して、私は気恥ずかしさのあまり両手で顔を覆う。
決して忘れていたわけじゃない。
改めて言われると、ご褒美の破棄力が強すぎたのだ。
「ティア、顔を見せて?」
「無理。絶対、顔が赤いもの」
「恥ずかしがるティアも可愛い。大胆なご褒美をお願いしたティアとは思えないな」
ライは喉で笑うと、私を軽く抱きよせ、こめかみや額など場所を変えて口づけを落としていく。
「ティア、好きだよ」
その言葉に私は覆っていた手を降ろし、彼を見た。
真剣な海色の瞳と交わったかと思えば、頬に彼の大きな手が触れる。
ライの顔が近づいてきたので、私は瞳をぎゅっと閉じた。
唇に優しく一瞬触れた温もりは、いとも簡単に私の鼓動を早くさせる。
「約束していたとおり、ご褒美いっぱいあげる」
そのライの宣言通り、キスの雨が私に降り注いだ。
ラストのヘラオス達の演説後の話です。
「すごいな。まだ歓声がやまない」
「うん」
私とライはリムス城の廊下に立ちながら、つきあたりの扉を眺める。
その扉はつい先ほどまで新王・ヘラオス様と新宰相・お兄様が、群衆の前で演説を行っていたエントランスへと続く場所だ。
リムス王国は少し前に一部の貴族達が優遇されて、民が迫害される腐敗した政治だったが、現在は民に慕われた新王・ヘラオス様達によるクリアな政治へと舵がきられた。
新王と宰相は、リムスの人々の新しい希望なのだろう。
演説が終わって二人が去ったというのに、未だに熱は冷めていない。
ちなみに、お兄様達は記者会見のため、会見場所へと移動している。
「リスト達の演説も良かったけど、ティアの演説もすごく良かったよ。離れていてもリムスの事を考えているって伝わってきた。なぁ、コル」
「カァ!」
ライの言葉に彼の右肩に乗っていたコルが両羽を広げてバサバサと翼を動かしながら甲高く鳴く。
「ありがとう」
腕を伸ばしてコルを撫でれば、コルが目を細める。
「疲れただろ。部屋で休もう」
「うん。演説で喉が渇いちゃったから少し休みたいかも」
私は喉をさすりながら言えば、ライが「お疲れさま」と労いながら髪を梳くように撫でてくれた。
実はかなり疲れている。
人々の前に立つことが怖かったから。
冤罪で処刑されそうになった時を思い出して……
でも、ライとコルが見守ってくれているから、私は前に進めてお兄様やヘラオス様と一緒に演説が出来たのだ。
ライが傍にいてくれると勇気が出て大丈夫って思える。不思議。
「さぁ、部屋に戻ろうか」
ライが私の背に触れると促してくれたので、私は大きく頷いた。
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ライと共にやって来たのは、ライがリムスに滞在している間に使用している部屋だった。
彼はファルマという大国の王なので要人。
そのため、リムス城でも一等の部屋を準備されている。
アイボリー色の毛足の長い絨毯が敷かれ、開放感のある広々とした室内だ。
壁にはリムスの名所の一つである湖を描いた絵画が飾られたり、腰壁に木材を使用した細かな細工が施されたりと、絢爛豪華な調度品が設置されている。
私とライはソファに座りながらテーブル越しに対面するようにして、お茶を飲んでいた。
コルはテーブルの上でカットされた果物を食べている。
お茶はメイドが準備してくれたのではなく、ライが準備してくれたもの。
紅茶と一緒に薔薇のジャムが添えられている。
私達は紅茶に砂糖や蜂蜜は入れずに、ジャムを溶かして飲んでいた。
「ほどよい甘さが落ち着くわ」
手にしている紅茶が入ったティーカップからは、華やかな薔薇の香りが漂っている。
「ライって、薔薇のジャム作るが得意だよね」
紅茶に入れたのはライが作って持参してくれた薔薇ジャム。
よくうちに来る時に持って来てくれるものだ。
「得意というか、ファルマの家庭ではよく作られるんだ。アポテカリーローズのジャム」
「アポテカリー?」
「そう。別名・薬屋のバラ。昔から料理や美容、治療に使われていたんだ。ビタミンCが豊富なんだよ」
「へー」
私は頷くと紅茶を見詰めた。
ビタミンCと言えばレモンが思い浮かぶけど、これにも入っているのかぁ。
ぼんやりとそんな事を思っていると、コンコンとガラスを叩く音が聞こえたので、ゆっくりと顔を上げて部屋の奥にある窓へと視線を向けた。
すると、そこには一羽のカラスが。
カラスは、窓辺に止まってじっとこちらを見ている。
一羽だけだと思っていたが、空には十数羽カラスの群れが空を飛んでいた。
「コルの友達かな……?」
窓を開けるために立ち上がろうとすれば、ライが「俺が開けてくるから、ティアは休んでいて」と言い残して窓際へ。
その後を追うようにコルが羽を羽ばたかせて着いて行く。
ライが窓を開ければ、コルが窓枠に乗り、外のカラスと「カァカァ」とおしゃべりを始める。
コルの友達が遊びに誘ってくれているのだろうか?
「コル、出かけるのか?」
とライがコルに訊ねれば、コルが「外出!」としゃべった。
それを聞いたライが、弾かれたように私へと顔を向ける。
「……ちょっと待って。ねぇ、ティア。コル、しゃべるようになったのか!?」
「最初聞くとびっくりするよね。九官鳥とかならしゃべっているのを聞いたことがあるけど、カラスってなかなか聞かないし。コル、おはようと外出はしゃべるんだよ。たぶん、私が外出? って、聞くから覚えたのかも」
「カラスは脳が大きいし、頭が良いのは知っていたけど、しゃべったのは初めて聞いたよ」
「お兄様に聞いたら、カラスに言葉を覚えさせていた人も世界中にちらほらいるんだって。中には声を真似するカラスもいるとか……」
私は立ち上がるとライ達の元に向かった。
「コル、気をつけてね」
私がコルに声をかければ、コルは軽く鳴き、友達と一緒に空へと飛び立っていく。
青々とした空を自由に飛ぶコル達を見送り、何気なく隣にいるライへと視線を向ける。
私と同じようにコルを見送っていた彼は、ちょっと寂しそうな表情を浮かべていた。
「ライ、どうしたの……?」
「ちょっと感傷的になってしまったようだ。俺は明日にはリムスを出国してファルマに戻れば、暫くティア達に会えなくなるなぁって。こんな風に穏やかな時間を過ごせるのは限られているから」
彼の台詞を聞き、私は咄嗟に手を伸ばしてライの腕に触れる。
「私もコルもファルマに会いに行くよ! 今度はメディも一緒に。それに、まだ明日まで時間があるわ。いっぱい楽しい時間を過ごそう。夕食はお兄様達も一緒に摂れるし」
「そうだな……一緒にいられない時間を嘆くよりも、一緒にいられる時間を楽しむ方が有意義に過ごせる」
そう言うとライはこちらに手を伸ばして、私を抱き締めた。
突然の出来事に私はびっくりして何度も瞬きを繰り返してしまう。
彼の大きな体に私はすっぽりと包まってしまっている。
私は、恥ずかしさと心地よさが混じり合った感情を抱いていた。
自分の鼓動がやたら大きく聞こえ、周りの雑音が聞こえなくなっていく。
「ティア。そういえば、ご褒美がまだだったよね?」
ライは私から身を離し、腕を伸ばして私の髪を梳くように撫でた。
かと思えば、一束優しく掴み口づけを落とす。
「えっと……そのまだです……」
ライが言っているご褒美というのは、新王と宰相の演説前に私がライへお願いしていたもの。
私はライからの告白の返事をまだしていなかったため、返事の代わりに演説が終わった後にご褒美としてキスして欲しいとお願いしたのだ。
ライの返事は戻ってきたらいっぱいご褒美をあげるだった。
突然出たご褒美の話に対して、私は気恥ずかしさのあまり両手で顔を覆う。
決して忘れていたわけじゃない。
改めて言われると、ご褒美の破棄力が強すぎたのだ。
「ティア、顔を見せて?」
「無理。絶対、顔が赤いもの」
「恥ずかしがるティアも可愛い。大胆なご褒美をお願いしたティアとは思えないな」
ライは喉で笑うと、私を軽く抱きよせ、こめかみや額など場所を変えて口づけを落としていく。
「ティア、好きだよ」
その言葉に私は覆っていた手を降ろし、彼を見た。
真剣な海色の瞳と交わったかと思えば、頬に彼の大きな手が触れる。
ライの顔が近づいてきたので、私は瞳をぎゅっと閉じた。
唇に優しく一瞬触れた温もりは、いとも簡単に私の鼓動を早くさせる。
「約束していたとおり、ご褒美いっぱいあげる」
そのライの宣言通り、キスの雨が私に降り注いだ。
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はじめまして。書籍のお祝いありがとうございます!
書籍版の方もお読みいただけて嬉しいです。
しかも、一気にレンタルして下さって。
はい。子孫に害は与えません。
子孫以外はどうでも良いと思っているフーザーです。
フーザーはきっとティアの子供達の事を見守っていると思います。
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さらっとおやつの時間に一緒にいたり…
確かに勝手に加護与えていそうですよね。
では、コメントありがとうございました!