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番外編(web版)
蜂蜜とお兄様
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※以前ブログに掲載していた拍手用のSS転載です。六角関係を知った後のリスト視点。
僕の執務机の上には、手紙と一緒に大きな箱が置かれている。
僕の胃を心配したライが送ってくれたもので、中身は僕の大好きな蜂蜜キャンディーと胃に優しいハーブティー。
仕事が多忙なのにも関わらず、この気配りがすごい。
優しくて頼りになるライにティアを任せたいので、ティアにはライを推したい。
彼にならば僕は安心してティアを任せられるし、ティアはライに怒られるのがメンタルに来るらしいので本当に危険な時の暴走も抑えられる。
勿論、決めるのはティアだけど。
「……しかし、まさか六角関係だったなんて」
全員と僕は親しいし、関係者同士も親しい。
ティアとメディは友達だし、コルタとレイガルド様も親友同士。
ルナ様とコルタは幼なじみであり家族に近いという間柄だ。
身近で恋愛の矢印がこんがらかってしまっているから、僕は当事者じゃないのに胃が痛い。
みんながそれぞれの好きな人と結ばれて欲しいけど現実的には無理だ。
「誰にも傷ついて欲しくないんだけどなぁ」
僕はライが送ってくれたキャンディーの缶をあけると、中から一個取り出す。
包みをはずして口にキャンディーを放り込めば、優しい甘さが口内へ広がる。
――落ち着く。
僕は蜂蜜が大好物。
母の祖国がある西大陸では記念日などに各家庭で蜂蜜ケーキを作って食べるので、うちでも誕生日などは蜂蜜ケーキ。
その影響で蜂蜜が好きになったのだ。
「そういえば、ティアは小さい頃に蜂に刺されたっけ」
あれはティアが六歳くらいの頃だったか。
僕が熱を出して部屋で寝ていると、ティアの泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
慌てて飛び起きて声のした庭へと向かえば、使用人や両親に囲まれているティアの姿が。
どうやら蜂にさされたようで、手の甲が真っ赤に晴れ上がっていた。
「ティア、どうして蜂を捕まえようとしたの?」
母が傷口を水洗いしながら訪ねれば、
「お兄様に蜂蜜をあげたかったの……お兄様、蜂蜜が大好きだから……風邪よくなって欲しくて……蜂を捕まえて巣を探そうと……」
「ティア!」
こんな小さいのに僕のために!
感激した僕がティアを抱きしめたのはいわずもがな。
……まあ、今のティアなら「お兄様、天然の蜂の巣から蜂蜜を絞り取って来ましたわ!」と持参してくれそうなくらいに逞しくなったが。
ぼんやりとそんなことを思っていると、部屋をノックする音が届いたため、返事をすれば扉が開かれた。
「お兄様っ!」
扉が開かれると満面の笑みを浮かべているティアの姿があった。
手にはクロスのかけられた籠を持っている。
「お兄様の大好物の蜂蜜をお持ちしましたの。よかったら、食べてください」
「ありがとう」
「フーリアという花の蜜を集める蜂でエタセルでも希少価値の高い蜂なんですって」
ティアは部屋に入るとクロスをとり、蜂蜜を見せてくれた。
どう見ても蜂蜜ではなく巣そのものだったため、僕は目を大きく見開く。
「ティア、蜂蜜というかこれ蜂の巣……」
「巣蜜です。取ってきました。お兄様へ蜂蜜をプレゼントしようと思って、ゴアさん達にエタセルの蜂蜜店を聞いたら、養蜂場を紹介してもらったんです。代表の方がファナさんという女性の方なのですが、良かった巣蜜を直接取りに行ったらどうだい? と誘われまして」
「え、取って来た?」
「はい! そのまま食べられるようになっています。ですので、スプーンですくって食べて下さいね」
逞しくなった。
蜂に刺されて泣いていたティアが、蜂蜜を取って来てくれるなんて。
「お兄様。最近、体調があまり良くないようでしたから。少し落ち着くと良いのですが……」
ほほえんだティアは、あの頃のティアのままだ。
「ティアのおかげで元気になったよ、ありがとう」
逞しくなったけど、妹は相変わらず可愛い。
これはライに報告しなければ!
☆おまけ☆
リストからの手紙を読んでいるライナス「リストのためにティアが蜂の巣を取ってきてくれたそうだ。ん? 蜂の巣を取ってきた? 蜂の巣を取ってきた?」
マオスト「二度言いたくなるパワーワードだよな」
僕の執務机の上には、手紙と一緒に大きな箱が置かれている。
僕の胃を心配したライが送ってくれたもので、中身は僕の大好きな蜂蜜キャンディーと胃に優しいハーブティー。
仕事が多忙なのにも関わらず、この気配りがすごい。
優しくて頼りになるライにティアを任せたいので、ティアにはライを推したい。
彼にならば僕は安心してティアを任せられるし、ティアはライに怒られるのがメンタルに来るらしいので本当に危険な時の暴走も抑えられる。
勿論、決めるのはティアだけど。
「……しかし、まさか六角関係だったなんて」
全員と僕は親しいし、関係者同士も親しい。
ティアとメディは友達だし、コルタとレイガルド様も親友同士。
ルナ様とコルタは幼なじみであり家族に近いという間柄だ。
身近で恋愛の矢印がこんがらかってしまっているから、僕は当事者じゃないのに胃が痛い。
みんながそれぞれの好きな人と結ばれて欲しいけど現実的には無理だ。
「誰にも傷ついて欲しくないんだけどなぁ」
僕はライが送ってくれたキャンディーの缶をあけると、中から一個取り出す。
包みをはずして口にキャンディーを放り込めば、優しい甘さが口内へ広がる。
――落ち着く。
僕は蜂蜜が大好物。
母の祖国がある西大陸では記念日などに各家庭で蜂蜜ケーキを作って食べるので、うちでも誕生日などは蜂蜜ケーキ。
その影響で蜂蜜が好きになったのだ。
「そういえば、ティアは小さい頃に蜂に刺されたっけ」
あれはティアが六歳くらいの頃だったか。
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慌てて飛び起きて声のした庭へと向かえば、使用人や両親に囲まれているティアの姿が。
どうやら蜂にさされたようで、手の甲が真っ赤に晴れ上がっていた。
「ティア、どうして蜂を捕まえようとしたの?」
母が傷口を水洗いしながら訪ねれば、
「お兄様に蜂蜜をあげたかったの……お兄様、蜂蜜が大好きだから……風邪よくなって欲しくて……蜂を捕まえて巣を探そうと……」
「ティア!」
こんな小さいのに僕のために!
感激した僕がティアを抱きしめたのはいわずもがな。
……まあ、今のティアなら「お兄様、天然の蜂の巣から蜂蜜を絞り取って来ましたわ!」と持参してくれそうなくらいに逞しくなったが。
ぼんやりとそんなことを思っていると、部屋をノックする音が届いたため、返事をすれば扉が開かれた。
「お兄様っ!」
扉が開かれると満面の笑みを浮かべているティアの姿があった。
手にはクロスのかけられた籠を持っている。
「お兄様の大好物の蜂蜜をお持ちしましたの。よかったら、食べてください」
「ありがとう」
「フーリアという花の蜜を集める蜂でエタセルでも希少価値の高い蜂なんですって」
ティアは部屋に入るとクロスをとり、蜂蜜を見せてくれた。
どう見ても蜂蜜ではなく巣そのものだったため、僕は目を大きく見開く。
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