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追放ご令嬢は華麗に返り咲く1
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(リスト視点)
「ティア、きっとびっくりするよなぁ」
僕は真新しい本を二冊抱え、王都の町を歩いていた。
初めてティアと一緒にエタセルを訪れた時――六年前とは違って、今は活気溢れる町並みに。
灰色だった町並みが色づき、ティアが解決したハーブ問題や新規事業が身を結び、雇用も安定して皆が楽しそうに笑っている。
ティアの打ち出した商会や酒造工場などのおかげで税収もアップし、エタセルの名は世界に広がっていた。
相手にしてくれなかった国々が掌を返してきたのには、ちょっと都合が良いなぁって笑ってしまったけど。
勿論、トラブルもあった。
四年前のルルディナ様達によってティアが拉致された事件とか……
それも乗り越え、ティアは今のエタセルを作り上げて来たのだ。
エタセルは雇用が安定し人々の生活が落ち着いているので、今ティアが力を入れているのは教育。
良質なハーブが摂れる点に注目し、二年ほど前に植物学や商業に関する国立の学校を設立。
教師の中にはメディもいて、彼女は教え方が良いため生徒達に大人気だ。
「観光客を多く見かけるのも慣れたなぁ」
観光客や地元の人で賑やかな王都のメイン通りを過ぎ、僕が向かったのは森に覆われたサズナ教の神殿だった。
半年くらい前までは立ち入り禁止だったけれども、今はガイド付きならば立ち入りが許可されている。
ガイド達はセス様達によるガイド養成講座を二年間受け、迷路のような神殿図を覚えた。
さすがに観光客は全域の立ち入りは許可されていないが、入口付近などは観光可能だ。
他国から歴史学者や宗教学者が研究のためにやってきたり、観光客がやって来たり……神殿は新たな観光スポットとして人気になっている。
そのため、神殿側にはガイド達の案内所として真新しい木造の四角い建物が立っていた。
僕はその建物へと向かうと扉をノックして開ければ、テーブルで事務仕事をしているグローリィさんの姿が。
彼女の傍には、二~三人の女性の姿も見受けられた。
グローリィさんはルルディナ様とウェスターが起こした事件でティアを助けてくれた幽霊だ。
ルルディナ様とウェスターが起こした事件の後。
グローリィさんが神殿から出られない理由とセス様が神殿に近づけない原因を調査するために、ライがファルマから王宮魔術師団やリーフデ様を派遣してくれた。
彼らによって原因は神殿に張られた二重結界だと判明。一ヶ月掛けて結界を解いてくれ、二人は無事再会を果たし冥界に……とはいかず。
二人は今も現世に留まり、ティアの仕事を手伝ってくれている。
セス様もグローリィさんもあの頃のまま変わっていない。
……まぁ、幽霊だから当たり前と言えば当たり前だけど。
グローリィさんは僕を見ると、「リスト様、こんにちは!」と言って微笑み立ち上がった。
「こんにちは、グローリィさん。神殿にティアっている?」
「おりますよ。セス様とメディ様と共に。書庫にいるので、ご案内致しますか?」
「お願いしても良いですか」
「勿論です」
彼女はガイドと書かれた赤い腕章をつけた少女に声をかけると、僕の方へとやって来た。
「リスト様。ティア様に伺いましたよ。来年の秋にティア様がライナス様の元に嫁がれるって。寂しくなりますね」
「そうなんだよ……まだ一年以上あるけど寂しくてさ……ライの事を考えたら一日でも早い方が良いと思うんだけど……」
数年の月日が流れていく中で決断を下した人もいる。
実はメディがエタセルへの移住を決めたのだ。
ライはメディがいつかはファルマに戻ってくると思っていたらしく、メディから移住を打ち明けられたとき寂しそうだった。
ティアがファルマに行ったら彼の寂しさも薄らぐだろう。
メディも色々あった。レイガルド様が王妃や側室を迎えた時に不安定になったし。
メディならファルマの姫君だからファルマ側から縁談を持ちかければ王妃になれたと思う。でも、彼女はそれをしなかった。
「ティア様がファルマに嫁がれる時まで私は現世に居たいです。ティア様をお見送りしたい」
グローリィさんはそう言って笑う。
当たり前のようにしてこうして一緒にいるが、彼女とセス様はこの世に肉体はない人達。
いつ冥界に旅立つかわからない。
それが一分後かもしれないし、一年後かもしれないのだ。
グローリィさんと話をしながら、僕は神殿内部へと向かった。
時折、観光客とすれ違いながら神殿の廊下を歩き、立ち入り禁止と看板が設置されている扉の前に到着。
腕を伸ばして扉を開けて中へ入ると、天井から床までぎっしりと巻物が収納されている部屋が広がっていた。室内には等間隔に棚も設置されている。
二階建てになっていて、二階にも棚が設置されていた。
ここは神殿の書庫。稀少な巻物などが数多くあるため、限られた者以外立ち入りが禁止されている。
「ティア様達、私達に気付きませんね。かなり集中しているのかも」
グローリィさんの視線は真ん中付近へと向けられている。
そこには大きな円卓が設置されていて、ティア達は円卓を囲むようにしていた。
机の上には巻物や本が無造作に置かれ、机上に広げられている大判の紙を見ながら三人は何か話をしている。
「ティア!」
僕が妹の名を呼びながら片手を上げる。すると、ティアが僕に気づき、「お兄様」と満面の笑みを浮かべた。
あの頃は少女だったけれども、ティアもメディも今はもうすっかり大人の女性だ。
月日が経つのは本当に早いものだなぁって思う。
「休みの日なのに三人とも仕事の話でもしているのかい?」
「えぇ。私がライの元に向かうまで時間がありませんので。それより、お兄様どうなさったのですか? 神殿に来るのは珍しいですね」
「ティアに見せたいものがあったから急いで持ってきたんだ。きっと、ティアはびっくりするよ」
「びっくりですか……?」
「うん。ほら!」
僕は腕に抱えていた二冊の本を掲げるとティア達の視線が本へと集中した。
「教科書ですね。あとは、本ですか。『追放ご令嬢は華麗に返り咲く~エタセル再建記~』って書いてありますね」
「うん、そうだよ。どっちにもティアが載っているんだ」
「え?」
ティアが一瞬固まったので、僕は口元が緩んでいく。
やっぱり驚いているなぁ!
ティアが今までエタセルのために頑張ってくれたお蔭でここまで発展した。その功績がたたえられ、このたびティアが教科書に載る事になったのだ。
エタセルの人々は、ティアに感謝している。
国を救ってくれた恩人として――
ティアは自分一人だけの力じゃないって言っているけど、元々ティアが動かなければ解決しなったし物事は進まなかっただろう。
「教科書と一緒に持って来た本は、エタセル再建のために色々動いてくれたティアの物語だよ。エタセル再建までの道のりが物語になっているんだ」
「はいっ!?」
ティアは腕を伸ばして僕から本を取ると、じっと表紙を凝視。
「ティアの銅像を作って後世まで功績を残そうっていう案があったんだけど、ティアそういうのは嫌がりそうだし。だから、みんなが本にして後世に残そうって。教科書はリムスの歴史学のページに載るよ」
「ティア、すごいわ! 教科書に載るなんて」
「そうですよ。歴史上の人物じゃないですか。一冊ファルマにいるライナス様に送りましょうよ。しかも、偉人のように本になるとは!」
はしゃぐセス様とメディに挟まれ、ティアは呆然と手にしている本を見詰めている。
「後世に残すために銅像の方が良かった?」
「いや、銅像は……」
「僕に甥や姪が出来たら本を読んであげるね」
「お兄様、気が早いですわ。私が嫁ぐのは来年の秋ですし」
「きっとすぐだよ。だって、六年があっという間だったんだから」
僕はそう言って笑った。
「ティア、きっとびっくりするよなぁ」
僕は真新しい本を二冊抱え、王都の町を歩いていた。
初めてティアと一緒にエタセルを訪れた時――六年前とは違って、今は活気溢れる町並みに。
灰色だった町並みが色づき、ティアが解決したハーブ問題や新規事業が身を結び、雇用も安定して皆が楽しそうに笑っている。
ティアの打ち出した商会や酒造工場などのおかげで税収もアップし、エタセルの名は世界に広がっていた。
相手にしてくれなかった国々が掌を返してきたのには、ちょっと都合が良いなぁって笑ってしまったけど。
勿論、トラブルもあった。
四年前のルルディナ様達によってティアが拉致された事件とか……
それも乗り越え、ティアは今のエタセルを作り上げて来たのだ。
エタセルは雇用が安定し人々の生活が落ち着いているので、今ティアが力を入れているのは教育。
良質なハーブが摂れる点に注目し、二年ほど前に植物学や商業に関する国立の学校を設立。
教師の中にはメディもいて、彼女は教え方が良いため生徒達に大人気だ。
「観光客を多く見かけるのも慣れたなぁ」
観光客や地元の人で賑やかな王都のメイン通りを過ぎ、僕が向かったのは森に覆われたサズナ教の神殿だった。
半年くらい前までは立ち入り禁止だったけれども、今はガイド付きならば立ち入りが許可されている。
ガイド達はセス様達によるガイド養成講座を二年間受け、迷路のような神殿図を覚えた。
さすがに観光客は全域の立ち入りは許可されていないが、入口付近などは観光可能だ。
他国から歴史学者や宗教学者が研究のためにやってきたり、観光客がやって来たり……神殿は新たな観光スポットとして人気になっている。
そのため、神殿側にはガイド達の案内所として真新しい木造の四角い建物が立っていた。
僕はその建物へと向かうと扉をノックして開ければ、テーブルで事務仕事をしているグローリィさんの姿が。
彼女の傍には、二~三人の女性の姿も見受けられた。
グローリィさんはルルディナ様とウェスターが起こした事件でティアを助けてくれた幽霊だ。
ルルディナ様とウェスターが起こした事件の後。
グローリィさんが神殿から出られない理由とセス様が神殿に近づけない原因を調査するために、ライがファルマから王宮魔術師団やリーフデ様を派遣してくれた。
彼らによって原因は神殿に張られた二重結界だと判明。一ヶ月掛けて結界を解いてくれ、二人は無事再会を果たし冥界に……とはいかず。
二人は今も現世に留まり、ティアの仕事を手伝ってくれている。
セス様もグローリィさんもあの頃のまま変わっていない。
……まぁ、幽霊だから当たり前と言えば当たり前だけど。
グローリィさんは僕を見ると、「リスト様、こんにちは!」と言って微笑み立ち上がった。
「こんにちは、グローリィさん。神殿にティアっている?」
「おりますよ。セス様とメディ様と共に。書庫にいるので、ご案内致しますか?」
「お願いしても良いですか」
「勿論です」
彼女はガイドと書かれた赤い腕章をつけた少女に声をかけると、僕の方へとやって来た。
「リスト様。ティア様に伺いましたよ。来年の秋にティア様がライナス様の元に嫁がれるって。寂しくなりますね」
「そうなんだよ……まだ一年以上あるけど寂しくてさ……ライの事を考えたら一日でも早い方が良いと思うんだけど……」
数年の月日が流れていく中で決断を下した人もいる。
実はメディがエタセルへの移住を決めたのだ。
ライはメディがいつかはファルマに戻ってくると思っていたらしく、メディから移住を打ち明けられたとき寂しそうだった。
ティアがファルマに行ったら彼の寂しさも薄らぐだろう。
メディも色々あった。レイガルド様が王妃や側室を迎えた時に不安定になったし。
メディならファルマの姫君だからファルマ側から縁談を持ちかければ王妃になれたと思う。でも、彼女はそれをしなかった。
「ティア様がファルマに嫁がれる時まで私は現世に居たいです。ティア様をお見送りしたい」
グローリィさんはそう言って笑う。
当たり前のようにしてこうして一緒にいるが、彼女とセス様はこの世に肉体はない人達。
いつ冥界に旅立つかわからない。
それが一分後かもしれないし、一年後かもしれないのだ。
グローリィさんと話をしながら、僕は神殿内部へと向かった。
時折、観光客とすれ違いながら神殿の廊下を歩き、立ち入り禁止と看板が設置されている扉の前に到着。
腕を伸ばして扉を開けて中へ入ると、天井から床までぎっしりと巻物が収納されている部屋が広がっていた。室内には等間隔に棚も設置されている。
二階建てになっていて、二階にも棚が設置されていた。
ここは神殿の書庫。稀少な巻物などが数多くあるため、限られた者以外立ち入りが禁止されている。
「ティア様達、私達に気付きませんね。かなり集中しているのかも」
グローリィさんの視線は真ん中付近へと向けられている。
そこには大きな円卓が設置されていて、ティア達は円卓を囲むようにしていた。
机の上には巻物や本が無造作に置かれ、机上に広げられている大判の紙を見ながら三人は何か話をしている。
「ティア!」
僕が妹の名を呼びながら片手を上げる。すると、ティアが僕に気づき、「お兄様」と満面の笑みを浮かべた。
あの頃は少女だったけれども、ティアもメディも今はもうすっかり大人の女性だ。
月日が経つのは本当に早いものだなぁって思う。
「休みの日なのに三人とも仕事の話でもしているのかい?」
「えぇ。私がライの元に向かうまで時間がありませんので。それより、お兄様どうなさったのですか? 神殿に来るのは珍しいですね」
「ティアに見せたいものがあったから急いで持ってきたんだ。きっと、ティアはびっくりするよ」
「びっくりですか……?」
「うん。ほら!」
僕は腕に抱えていた二冊の本を掲げるとティア達の視線が本へと集中した。
「教科書ですね。あとは、本ですか。『追放ご令嬢は華麗に返り咲く~エタセル再建記~』って書いてありますね」
「うん、そうだよ。どっちにもティアが載っているんだ」
「え?」
ティアが一瞬固まったので、僕は口元が緩んでいく。
やっぱり驚いているなぁ!
ティアが今までエタセルのために頑張ってくれたお蔭でここまで発展した。その功績がたたえられ、このたびティアが教科書に載る事になったのだ。
エタセルの人々は、ティアに感謝している。
国を救ってくれた恩人として――
ティアは自分一人だけの力じゃないって言っているけど、元々ティアが動かなければ解決しなったし物事は進まなかっただろう。
「教科書と一緒に持って来た本は、エタセル再建のために色々動いてくれたティアの物語だよ。エタセル再建までの道のりが物語になっているんだ」
「はいっ!?」
ティアは腕を伸ばして僕から本を取ると、じっと表紙を凝視。
「ティアの銅像を作って後世まで功績を残そうっていう案があったんだけど、ティアそういうのは嫌がりそうだし。だから、みんなが本にして後世に残そうって。教科書はリムスの歴史学のページに載るよ」
「ティア、すごいわ! 教科書に載るなんて」
「そうですよ。歴史上の人物じゃないですか。一冊ファルマにいるライナス様に送りましょうよ。しかも、偉人のように本になるとは!」
はしゃぐセス様とメディに挟まれ、ティアは呆然と手にしている本を見詰めている。
「後世に残すために銅像の方が良かった?」
「いや、銅像は……」
「僕に甥や姪が出来たら本を読んであげるね」
「お兄様、気が早いですわ。私が嫁ぐのは来年の秋ですし」
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