追放ご令嬢は華麗に返り咲く

歌月碧威

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ルルディナとウェスター再び2

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「もしかして、神殿内部……? だったら最悪なんだけど」
「何を一人でぶつぶつ言っているのかしら?」
「なんでもないです。それより、私に何の用ですか?」
「よくも私達の結婚式を邪魔して恥をかかせてくれたわね! あれから私達がお父様にどれほど怒られたかわかっているの!?」
「私のせいにされても困るんですけど」
 完全な逆恨みのせいで私は攫われたのか。本当にこの二人は自分の事を客観的に見られない自己中心的な人達だなぁって思う。


「君は俺とルルディナ様の邪魔になるから消えて貰う。ここは立ち入り禁止なので誰も来ないらしいからな」
 やっぱりそうなのか。
 ウェスター様の言葉は、私の疑問に答えてくれた。
 ここは保養施設近くにあるサズナ教の神殿だ。

「ウェスター様達。どうして神殿が立ち入り禁止になっていると思う?」
「遺跡保護だろ」
 私は頭を抱えたくなった。だが、手を縛られているため抱えられず。

「神殿が立ち入り禁止になっているのは、中が迷路のようになっているから。どうするつもりなの? 私だけじゃなくて貴方達も出られないのよ」
「なんだって!? 冗談じゃない。そんな話聞いてないぞ!」
 いかにも破落戸という見た目の男達は、ウェスター様達に向かって吠えた。
 ウェスター様は両耳を手で押させ「煩いなぁ」と告げると、懐から巾着を取り出して男達へと投げる。
 突然巾着を投げつけられたため男達は受け取ることが出来ず巾着が地面へ。
 硬質なもの同士がぶつかり合う音が聞こえたかと思えば、男達が慌ててしゃがみ込む。

 ――中身はお金っぽいわね。

「俺達はもう帰る。女を連れ去って運ぶだけだったからな」
 男達は手に巾着を持つと、逃げるように立ち去った。
 王女はそんな彼らを見ながら、「むさ苦しいのがやっと居なくなった」と言ってウェスター様に凭れかかる。彼は甘える王女の肩を抱くと愛しそうな表情を浮かべた。
 はっきり言っていちゃつくならどっかでやって欲しい!

「ねぇ、私達も早く帰りましょう。ここ、埃っぽくて嫌だわ」
「そうですね。俺も早くルルディナ様と二人きりの時間を過ごしたいですし」
「ふふっ」
 この二人は状況がわかっているのだろうか。
 神殿は迷宮状態になっているから、自分達も外に出られるかわからないというのに。

「さぁ、行きましょう。ルルディナ様」
「えぇ。じゃあね、ティアナ。一人で寂しくここで最後の時を迎えて」
 王女は私に向かって手を振るとこちらに背を向け、ウェスター様と手を繋いで離れていく。
 そんな彼女達の後ろ姿を見詰めながら、私はあいつらメンタル強いなと思った。
 あのメンタルだけは見習いたい。

 誰も来ない神殿に私を放置してそのまま……という筋書きなのだろう。

「帰宅時間が遅かったらライとメディが気づいてくれると思うんだけど」
 私はため息混じりの声を上げながら上半身を起こす。
 幸いな事に私の体は台に縄で括られるような事はなかったため、手足を縛られている意外は比較的自由が効く。
 足首付近も縛られているので歩くことは無理だが、ジャンプしてならば移動が出来る。

「ここ祭壇かしら?」
 台から降りて自分が今まで寝ていた場所を見れば、なんとなくそれっぽかった。
 大きな一枚石で出来ていて、正面には文字が刻まれている。

「ナイフがあれば縄を切れるんだけど。まぁ、あったとしてもあの二人が隠しているわよね。仕方ない。最後の手段を使うか」
 私は像の近くに設置されている燭台へとジャンプで進むと、縄を火に近づける。
 小さな蝋燭の火だが思いのほか熱いため、私はつい火から離れたくなってしまう。

 焦げ臭い匂いを感じながら熱さと戦っていると、だんだん手を縛っていた縄が緩んでいき、やがて完全に縄が解け私の手は自由に。
 晴れて自由になった両手だが、代償として火傷してしまったようだ。
 手首がひりひりして痛い。

「あの二人、ずっとここで彷徨っていれば良いのに」
 私は屈み込むと両足を自由にするために縄を解く。

 ここは迷いやすいとセス様が以前言っていたが、どれくらいのレベルで迷路のようなのだろうか。
 リムスに居た時にバラ園の迷路にお兄様と行ったことがあるけど、結構短時間で脱出できた。
 もしかしたら、いけるかも?
 だが、彷徨っているうちにウェスター様達と遭遇したら、また面倒な事になる。
 隠れながら出口を探さないと。

「あっ、そう言えばセス様からおまじない教えて貰ったっけ」
 私はふと前にセス様に商会で教えて貰ったおまじないを思い出す。神殿内部に間違えて入ってしまった時に大声で唱える呪文を。
 私は息を大きく吸いこんで教えて貰った彼女の名を叫ぶ。

「グローリィ、出口を教えて!」
 私の声が室内に響き渡ったかと思えばすぐに「はい」という細い返事が届き、私は目を大きく見開いてしまう。

「え?」
 声は左手から聞こえてきたためそちらに顔を向ければ、見覚えのある少女がぽっかりと開いている祭壇部屋の出入り口から顔を覗かせている。
 彼女に関して私は見覚えがあった。以前ライと神殿に星を見に来た時に遭遇した子だ。
 肩につくかつかないかの髪を持つ彼女は、以前会った時と同じく白のワンピースを纏っている。今はあんな薄着では寒いくらいなのに。

「あの……どうしてここに人がいるんですか? それに、どうして私の名を知っているの?」
 彼女は首を傾げると、私へと近づいて来た。




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