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ルルディナとウェスター再び1
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王女が醜態を晒した結婚式から四か月後。私はいつもと変わらない日常を送っていた。
「……やばい。雨になりそう」
会議のために訪れていた保証施設の玄関から外に出れば、空はどんよりとした灰色の雲で覆われている。
今にも雨が降り出しそうな曇天のせいか、いつもは建物の外にも宿泊客や観光客の姿があるのだが今は見受けられない。
傘を借りて来た方が良いかな? と思ったが、この後の予定は商会に戻らずこのまま自宅に直帰。
まだ昼過ぎなのでいつもなら働いているけど、今日はライが婚約の打ち合わせにうちに来てくれているので早退するのだ。
メディが休みを取っているので、ライは今ごろメディと共に兄妹水入らずで過ごしているだろう。
「雨降る前に帰りたいから近道をしようかな」
私は舗装された歩きやすい道ではなく、神殿の方を通ることにした。
その方が時間を大幅に短縮出来る。
雨が降らないうちに帰ろう! と、私は足を速めることに。
保養施設前から神殿裏にある湖を通り、そのまま開かれた森の道を進み最初にセス様と会った謎のお墓の横を通り過ぎて神殿前へ。
いつもは観光客で賑わっているのに、今日は人一人おらずがらんとしている。
保養施設前同様、曇天なので誰もいないのだろう。
「……ん?」
私は視界の端に映し出されたものを見て足を止める。
神殿から森の出入り口まで通じている道は左右に木々が植えられているのだが、木の下にしゃがみ込んでいる女性の後ろ姿が見えたのだ。
こげ茶色の肩下くらいまである髪に、フリルが多めのワンピースを纏っている。
後ろ姿なので正確な判断が出来ないけれども、さっと見る限り地元の人ではない気がした。
ワンピースの生地も上質そうだし、裾部分などには細かな刺繍が施されている。
もしかしたら、観光にやって来た貴族かも。
「体調でも悪いのかしら……?」
心配になった私は彼女の方へと駆け寄り、「大丈夫ですか?」と声をかけた。
だが、反応が無い。
声も出せない程具合が悪いのかもしれないと思い、屈み込んで彼女の顔色などを確認しようとした時だった。
すぐ傍の茂みからガサガサという葉同士の擦れる音が聞こえて来たのは。
「え?」
反射的に立ち上がれば、茂みから屈強そうな男性が三人現れてしまう。
彼らの傍には、見覚えのある顔が一人いる。
元婚約者であるウェスター様だった。
あんな騒動を起こしてバッシングを受けたというのになんでここにいるのだろうか。
私なら暫く落ち込んで外に出られないのに。その鋼のメンタルだけは尊敬する。
「久しぶりだな、ティアナ」
「四ヶ月ぶりですわね、ウェスター様。メンタルどんだけ強いんですか?」
「僕は愛する者のために強くなる」
「……はぁ、そうですか」
「お前のせいで俺とルルディナ様が白い目で見られたんだぞ。諸外国のパーティーにも出入り禁止になってしまったし。毎日三流新聞社に叩かれる」
「明らかにご自分達のせいじゃないですか。逆恨みをやめて下さい」
ため息を吐き出そうとした瞬間、後方から伸びてきた手により、私の鼻と口を覆うように何か柔らかいものが押し当てられてしまう。
布からは薄荷のようなスーっとする香りを感じた。
「私のウェスター様に見とれないでくれるかしら?」
まさか、あの少女って――!
腕を大きく振り上げて後方にいる人を退け振り返れば、ルルディナ様の姿があった。茶色の肩までの長さをしている鬘を付けている。きっと変装なのだろう。
「まさか、二人してエタセ……なに、これ……力が……」
突然ぐらりと脳みそが揺れるような感覚に襲われ、私は唇が動かなくなってしまう。意識も真っ白いヴェールで包まれてしまったかのような状態だし、だんだん体に力が入らなくなって来てしまった。
そのため、私の体は地面へとそのまま崩れてしまう。
「ディワールの花から抽出した成分をハンカチに染み込ませたの」
ディワールの花は北大陸のみに生息している花だ。
見たことは無いが、名前くらいは私だって知っている。なぜ知っているかと問われれば、よくミステリー小説などに出てくるから。
物語の中では、あまり良い使い方はされていない。花から抽出した成分は人を失神させることが出来るせいで。
ハンカチなどに染み込ませ、それで相手を――つまり、今の私のような状態に陥れることが出来るのだ。
冗談じゃない……ここで意識が奪われたら確実に終わる……
意識をはっきりとさせたいけど、脳みそが揺れ動いているような妙な感覚がするため、視界までぐらつき始めてきた。
「しぶといわね。早く眠りなさいよ」
ルルディナ様のその言葉を合図に、私の意識はフェードアウトしてしまった。
+
+
+
「……ん」
ゆっくりと意識が浮遊する感覚と共に、己の肢体の感覚も戻り始め、背中などに硬い物質が当たっているのを感じた。
どうやら自分は仰向けの状態で身を休めているらしい。
手足の自由が効かないため、縛られているようだ。
伏せられている瞼を開ければ、見知らぬ天上が窺える。
石を組み合わせて作られた天上にはオレンジ色の石が埋め込まれ、それが蝋燭のような淡い光を放ち、部屋を照らしてくれていた。
壁は天井と同じように石で出来ているようで、何か模様が刻まれている。
「気がついたようね」
私のすぐ傍から聞こえてきた声に対して、私は首を動かして左側へと顔を向ける。するとそこには、ルルディナ様とウェスター様の姿が。
二人の後方には破落戸達の姿もある。
彼らの腰付近に私が横たわっているため、私は何か台のようなものに乗せられていると推測出来た。
――ここが何処かわからない。窓も無いようだから、時間の経過もわからないわ。
何かヒントになるようなものをと思ってさっと視線を彷徨わせれば、ルルディナ様達の後方に一軒家くらいの大きな岩で作られた像が見受けられる。
男性の姿をした像の周りには、金や銀それから宝石で作られた飾りがあった。
像の左右には燭台が置かれていて火が灯されている。
嫌な予感がして仕方がないのは私だけだろうか。
エタセルに神殿は一つだけある。ただし、中が迷宮のようになっているので、立ち入り禁止。
「……やばい。雨になりそう」
会議のために訪れていた保証施設の玄関から外に出れば、空はどんよりとした灰色の雲で覆われている。
今にも雨が降り出しそうな曇天のせいか、いつもは建物の外にも宿泊客や観光客の姿があるのだが今は見受けられない。
傘を借りて来た方が良いかな? と思ったが、この後の予定は商会に戻らずこのまま自宅に直帰。
まだ昼過ぎなのでいつもなら働いているけど、今日はライが婚約の打ち合わせにうちに来てくれているので早退するのだ。
メディが休みを取っているので、ライは今ごろメディと共に兄妹水入らずで過ごしているだろう。
「雨降る前に帰りたいから近道をしようかな」
私は舗装された歩きやすい道ではなく、神殿の方を通ることにした。
その方が時間を大幅に短縮出来る。
雨が降らないうちに帰ろう! と、私は足を速めることに。
保養施設前から神殿裏にある湖を通り、そのまま開かれた森の道を進み最初にセス様と会った謎のお墓の横を通り過ぎて神殿前へ。
いつもは観光客で賑わっているのに、今日は人一人おらずがらんとしている。
保養施設前同様、曇天なので誰もいないのだろう。
「……ん?」
私は視界の端に映し出されたものを見て足を止める。
神殿から森の出入り口まで通じている道は左右に木々が植えられているのだが、木の下にしゃがみ込んでいる女性の後ろ姿が見えたのだ。
こげ茶色の肩下くらいまである髪に、フリルが多めのワンピースを纏っている。
後ろ姿なので正確な判断が出来ないけれども、さっと見る限り地元の人ではない気がした。
ワンピースの生地も上質そうだし、裾部分などには細かな刺繍が施されている。
もしかしたら、観光にやって来た貴族かも。
「体調でも悪いのかしら……?」
心配になった私は彼女の方へと駆け寄り、「大丈夫ですか?」と声をかけた。
だが、反応が無い。
声も出せない程具合が悪いのかもしれないと思い、屈み込んで彼女の顔色などを確認しようとした時だった。
すぐ傍の茂みからガサガサという葉同士の擦れる音が聞こえて来たのは。
「え?」
反射的に立ち上がれば、茂みから屈強そうな男性が三人現れてしまう。
彼らの傍には、見覚えのある顔が一人いる。
元婚約者であるウェスター様だった。
あんな騒動を起こしてバッシングを受けたというのになんでここにいるのだろうか。
私なら暫く落ち込んで外に出られないのに。その鋼のメンタルだけは尊敬する。
「久しぶりだな、ティアナ」
「四ヶ月ぶりですわね、ウェスター様。メンタルどんだけ強いんですか?」
「僕は愛する者のために強くなる」
「……はぁ、そうですか」
「お前のせいで俺とルルディナ様が白い目で見られたんだぞ。諸外国のパーティーにも出入り禁止になってしまったし。毎日三流新聞社に叩かれる」
「明らかにご自分達のせいじゃないですか。逆恨みをやめて下さい」
ため息を吐き出そうとした瞬間、後方から伸びてきた手により、私の鼻と口を覆うように何か柔らかいものが押し当てられてしまう。
布からは薄荷のようなスーっとする香りを感じた。
「私のウェスター様に見とれないでくれるかしら?」
まさか、あの少女って――!
腕を大きく振り上げて後方にいる人を退け振り返れば、ルルディナ様の姿があった。茶色の肩までの長さをしている鬘を付けている。きっと変装なのだろう。
「まさか、二人してエタセ……なに、これ……力が……」
突然ぐらりと脳みそが揺れるような感覚に襲われ、私は唇が動かなくなってしまう。意識も真っ白いヴェールで包まれてしまったかのような状態だし、だんだん体に力が入らなくなって来てしまった。
そのため、私の体は地面へとそのまま崩れてしまう。
「ディワールの花から抽出した成分をハンカチに染み込ませたの」
ディワールの花は北大陸のみに生息している花だ。
見たことは無いが、名前くらいは私だって知っている。なぜ知っているかと問われれば、よくミステリー小説などに出てくるから。
物語の中では、あまり良い使い方はされていない。花から抽出した成分は人を失神させることが出来るせいで。
ハンカチなどに染み込ませ、それで相手を――つまり、今の私のような状態に陥れることが出来るのだ。
冗談じゃない……ここで意識が奪われたら確実に終わる……
意識をはっきりとさせたいけど、脳みそが揺れ動いているような妙な感覚がするため、視界までぐらつき始めてきた。
「しぶといわね。早く眠りなさいよ」
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+
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+
「……ん」
ゆっくりと意識が浮遊する感覚と共に、己の肢体の感覚も戻り始め、背中などに硬い物質が当たっているのを感じた。
どうやら自分は仰向けの状態で身を休めているらしい。
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伏せられている瞼を開ければ、見知らぬ天上が窺える。
石を組み合わせて作られた天上にはオレンジ色の石が埋め込まれ、それが蝋燭のような淡い光を放ち、部屋を照らしてくれていた。
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「気がついたようね」
私のすぐ傍から聞こえてきた声に対して、私は首を動かして左側へと顔を向ける。するとそこには、ルルディナ様とウェスター様の姿が。
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――ここが何処かわからない。窓も無いようだから、時間の経過もわからないわ。
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男性の姿をした像の周りには、金や銀それから宝石で作られた飾りがあった。
像の左右には燭台が置かれていて火が灯されている。
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