追放ご令嬢は華麗に返り咲く

連載

じゃあ、行こう。ファルマへ１

　神殿裏の開発は順調に進んでいる。
　温泉保養施設は外観が完成し、今は内装を工事している最中だ。

　メディとセス様が手掛けてくれている商品開発も進んでいて、何度か試作品を会議にかけ皆で意見を出し合って話し合った。
　商品は試行錯誤を繰り返し、今から始まる会議でいよいよ最終的に決定する。

　会議が行われるのは商会の大会議室。
　室内の中央には大きな長方形のテーブルが置かれており、そこに椅子が十数脚ほど設置されている。
　椅子にはレイやお兄様など城の関係者から私を始めとした商会の関係者が座っていた。
　私達の傍には移動式の黒板があり、黒板の前にはメディとセス様の姿が。

　二人は黒板付近に配置しているテーブルへと足を進めると、腕を伸ばしてテーブル上に置いてある鞄から大小のガラス瓶を取り出していく。
　瓶の色はブルーとピンクの二種類あり、右側にある窓ガラスから差し込む光により瓶が反射してキラキラと輝いている。
　彼女は私達が座っている席へと来ると、ランダムに配り始めた。

「こちらが前回の会議で頂いた意見をもとに改良を重ねて新たに開発した化粧品です。従来のコンセプト通り、エタセル産のハーブや素材を使って作っているのは変わりありませんが、香りが強すぎるとの意見が多かったため、ほんのりと爽やかなハーブの香りにしました。それから、値段を考慮し高級ラインとノーマルラインの二種類に分けました。この他にも、ドライ肌やオイリー肌など肌質に合わせた化粧品なども準備してあります」
　メディとセス様は、クレンジング、化粧水、保湿クリーム、マッサージオイルなどの化粧品をエタセルのハーブを材料にして開発。

　ハーブによって様々な効能があるため、それを利用するそうだ。
　例えば、エルダーフラワー。肌を柔らかくしてくれるため、エタセルのハーブと共に化粧水に配合している。

　化粧品に関して当初は難色を示す人達が多かった。
　理由としては、リムス王国の存在だ。

　リムスでは美容をメインにして観光を推し進めているため、新参者のエタセルよりはあちらの方が認知度も知名度も高い。
　そのため、エタセルでは癒しと自然という分野から化粧品を推すことに。
　リムスは王族や貴族などをの富裕層を客層にしているが、エタセルは富裕層から庶民まで様々な客層を狙っている。

　保養施設もグレードが高めで一日一組限定の施設と、一人旅から家族連れまでも楽しめる施設の二か所建設。
　グレードが高めの方は少し離れた場所にあり、自然の中でゆっくりと時間を忘れて過ごせるようになっていた。

「前回はお土産用として入浴剤も販売をというお話が出ましたが、入浴剤は自分達で作るという方が面白いかなと思います。ですから、代わりにお土産として気軽に購入できるせっけんを数種類作ってみました。ドライハーブや花を入れたり、アロマオイルで香りづけしたりしてあります」
　セス様は手にしている籠から一個ずつ石鹸を取り出すと、私達へと配り始める。

「入浴剤を作るって、アロマオイルの販売ということですか……？」
「いいえ、ドライハーブを数種類用意してお客さんに自分の好みのハーブを選んで貰うんですよ。巾着型のガーゼを用意して、ドライハーブを詰めれば入浴剤の完成です。フレッシュハーブでも問題ないのですが、持ち帰りとなると鮮度が……」
「それ楽しそうですね！」
「いいな、それは。一人でも家族でも楽しめる。ハーブも季節によって変わるから、来るたびに違う種類になるだろうし」
「僕も作りたいなぁ。癒し効果があるやつ」
　私に続くようにレイとお兄様が賛同してくれた。

　商品も決まってきた。
　でも、強い話題性があり皆を惹きつけるには弱い。
　勿論、宣伝はちゃんとするけど、何かインパクトがある目玉が欲しい。どうすればいいのかしら？

「ティア、もしかして何か気になる事ある……？」
　聞こえてきたメディの台詞に対して、私は首を左右にする。
　問題なんてない。化粧品もハーブの入浴剤も賛成だ。

「強いインパクトがあるものが欲しいって思ったの。商会でも宣伝はするし。でも、強い話題性がないのよね」
「――じゃあ、君とメディがモデルになって宣伝ポスターでも作ればいいじゃん」
「「「え」」」
　突然場に響き渡ってきたのは、私とお兄様などの一部の人達には聞き慣れた声音。
　名前を呼ぶと現れるあの方だ。