追放ご令嬢は華麗に返り咲く

歌月碧威

文字の大きさ
上 下
82 / 134
連載

俺だってティアの力になりたいんだ1

しおりを挟む
 商会が大きくなってエタセルの雇用が増えたけど、それだけでは全然足りないため、私は神殿裏の開発を行い、新たな雇用と『エタセルの推し』を作ることに。
 神殿裏は国が管理している土地のため、国から開発の許可を貰い、町の人達の同意も得て神殿の調査を終えた。


 そのため、いよいよ開発実行するにあたって私が考えた開発案をレイ達へ説明しなければならない。
 エタセル城の会議室には、招集されたレイガルド様やお父様を始めとした国の重鎮達が円卓に座っている。
 みんな真剣な眼差しをしたまま手にしている書類を食い入るように視線で追っていた。


 彼等が見ているのは、私が作成した神殿裏の開発に関する案だ。
 ライの誕生日パーティーの時にファルマに赴いた時に、彼に第一案を見て貰ってアドバイスして貰って改良してある。


 私が考えているのは、神殿裏にある温泉から『塩』を採取し、自然豊かな立地条件を利用して保養施設を作ることだ。
 神官様から温泉がしょっぱいと言っていたのを聞いた時から、もしかしたら塩が作れるかもと考え、メディに分析をして貰った。
 結果は予想通り。


 でも、塩だけでは限界がある。
 なんせ、温泉の塩だ。国外に売るには、海水や湖から取れる量と比較するとどうしても山塩なので量が少ない。
 岩塩が取れる洞窟でも見つかればまた話が別だが。

 塩だけでは国起こしは出来ないと判断し、もう一つ考えたのはファルマ最大の売りであるハーブを利用して何か商品を作り上げること。
 私がハーブに詳しくないため、サポートして貰うためにスカウトしてきたメディと薬草学に詳しい神官様が主体となり絶賛開発中だ。


「あの……如何でしょうか?」
 私は無言のまま資料を見ている人達へと声をかければ、お兄様が顔を上げて私を見た。


「ティア。すごいよ! 温泉保養施設はいいかもしれない。温泉の成分によっては、湯治にも使えるし」
「エタセルの特産品の開発。しかも、ハーブを利用したもの。これは素晴らしい案だ。ティアナ様に賛成する」
「温泉から塩を採取という案も良いな」
 読み終わったお兄様が肯定的な意見を言ってくれているので、私はほっと胸をなで下ろす。


「神殿裏の開発もそうだが、柔軟な発想力がすごいな。温泉から塩がとれるなんて考えたことがなかったよ。保養施設も良いアイディアだ。全くの素人だったのに、ここまで案を出してくれるティアは美しさと聡明さを兼ね備えているな」
「温泉から塩を摂っている国があるのを思い出したんです。案もライに相談して具体的準備が出来るまで進められました」
「ライナス様に相談か……」
 レイガルド様がわずかに声のトーンを落としてライの名を口にしたため、私はおろおろとしてしまう。
 だが、私以上に動揺をしてしまっていたのは他にいた。


 カタカタカタと硬質なもの同士がぶつかり合う音が聞こえたため、私は音の発生源へと顔を向ければお兄様だった。
 顔色を土色にしながら、ティーソーサーの上にあるティーカップを持ちあげようとしているんだけど、手が震え過ぎていて震動がカップに伝わってしまっているのだ。
 そのため、ソーサーとカップがぶつかり合っている。


「リスト、リスト」
 お兄様の隣に座っていたお父様がお兄様の手からカップを降ろす。

「君が気にしても仕方がないんだ」
「わかっているのですが……」
「飴でも舐めて落ち着きなさい」
「そうですね……」
 お兄様は飴を常用しているらしく、胸ポケットからキャンディーを取り出すと紙を外して口に含む。
 すると、ほんの少し顔が緩んだ。


 ――お兄様、ごめんなさい! なるべく早く答えを出してお兄様にご迷惑をかけないようにします。


「ティア。問題は開発資金だ。エタセルも持ち直してきているが、正直そんなに資金は注げない」
 お父様の堅い問いに、私は唇を開く。


「大問題の開発資金なんですが、なんとかなりそうです。商会の全員で話し合った結果、全員一致で商会からも資金を出そうということになりました」
「ティアナ様。そんなことをして商会は大丈夫なのかい?」
「勿論です。失敗して商会潰したら従業員も困りますし、まず国が沈みますので……」
 商会はエタセルに莫大な税を納めているため、商会が潰れてしまったらエタセルが終焉を迎えてしまう。
 エタセルが持ち直してきたのは、レイガルド様やお父様達の力もあるけど安定した税収入という部分も大きい。
 だから、私達も何度も話し合いをして資金の捻出を考えた。


「他大陸へと進出のために資金を貯めていたものを使うつもりです。六割が商会からの出資、そして三割がエタセル国からです」
「残りの一割は?」
「匿名の方の個人資産からの出資です。研究器具類は、無償で国立製薬研究所から最新器具を提供して頂きました。こちらに関してはメディが纏めているアルツナ薬学辞典のデータの共有が条件です。メディが書籍にして世に出すにはかなり時間がかかりまので、その前に少しずつで良いからメディがまとめたものを資料として欲しいとのこと。新薬開発に役立つ可能性があるそうですわ」
「ティアの案に賛成ですが、皆さんは如何でしょうか? 賛成の方は挙手を」
 お父様が円卓に座っている人を見回して声を掛ければ、全員一斉に挙手してくれたため胸をなで下ろす。



 ――これで着工できるわ。

 






しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる

佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます 「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」 なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。 彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。 私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。 それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。 そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。 ただ。 婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。 切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。 彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。 「どうか、私と結婚してください」 「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」 私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。 彼のことはよく知っている。 彼もまた、私のことをよく知っている。 でも彼は『それ』が私だとは知らない。 まったくの別人に見えているはずなのだから。 なのに、何故私にプロポーズを? しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。 どういうこと? ============ 「番外編 相変わらずな日常」 いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。   ※転載・複写はお断りいたします。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。