追放ご令嬢は華麗に返り咲く

歌月碧威

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神殿でパニック!?2

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「……なんか、強い視線が」
 私とメディはファルマ城から徒歩で神殿へと向かっているんだけれども、往来の人々から強い視線を感じてしまっていた。
 みんな幽霊でも見ているかのように、目を大きく見開き私達を見詰め、私達が歩く先をさーっと左右に分かれ避けてくれている。


「みんな、ティアのことを知っているからかもしれないわ。ティア、新聞などでも顔が知られている有名人だもの」
「いや、私は別に何も……」
 ライみたいに変装でもしてくればよかったのか? いやでも私は普通にエタセルの町も歩いているし。
 この状況では、たぶんメディの方が可能性高いような。自国だし。
 現に男性はメディに対して魂を奪われてしまったかのような表情で見ている。


 ――どうしよう。近いから徒歩でと思ったが、馬車借りてくればよかったかな?


 と思っている間に神殿と城は近場なため、あっという間に到着してしまう。


 噴水広場では噴水にコインを投げている人々の姿があり、私は以前ライと一緒に来た時のことを思い出す。
 あの時、ライは恋愛も結婚も諦めているって言っていたから、ライに良い相手が巡り合いますようにってお祈りをしたのだ。


「ティア、スーちゃんはいますか?」
「えっと……」
 私が辺りを見回せば、ちょうど花屋さんの前でこちらを見詰めている小さな女の子の姿があった。
 女の子は目をこれ以上開けないだろうというくらいに開いたかと思えば、こちらに向かって駆け寄って来る。


「メディさまっ!」
 スーちゃんはメディのスカートに両手でしがみ付く。
 彼女は、メディのことを離さないようにぎゅっと掴んでいた。


「ティア、この子が……?」
 私が頷けば、メディは瞳を潤ませて屈み込んだ。


「女神様に私の体調が回復するようにお願いしてくれていると伺いました。スーちゃん、ありがとう」
「よかった。メディさま、げんきになって」
 にこにことしているスーちゃんに対して、メディも微笑んだ。


「本当にメディ様ですか……?」
 スーちゃんのお母さんが口元に手を当て、信じられないという表情をしている。
 メディが頷けば、お母さんは慌ててスーちゃんに「スー、メディ様に失礼になるから」スーちゃんに注意をした。


「構いません。長らくご心配をかけました。スーちゃんがお祈りをして下さっていたそうで……」
「いいえ! とんでもありません。メディ様が回復なさってくれたら何よりです。覚えていらっしゃらないかもしれませんが、スーが怪我をした時に助けて頂きました。あの時から、メディ様はスーの憧れの人なんです。薬草師になりたいって」
「スーね、メディ様みたいになりたいの」
「ありがとう」
 メディがスーちゃんの頭を撫でれば、「やっぱりメディ様だ!」という声があちこちから飛び交う。
 あの視線はやはりメディへと注がれていたようだ。


「ティアナ様もメディ様も護衛の方は……?」
「護衛はいません。二人でふらっと来ました」
「えっ!? 大丈夫なんですか?」
 どうしてそんな質問されたのかなと思っていると「やっぱりお二人は本物だ!」という声と共に、人々が殺到してしまう。
 どうやら私とメディは他人のそら似と思われていたらしく、あの視線の意味は本物なのだろうかという意味だったらしい。


「こういう事っ!?」
 私の叫びが広場に広がる中、どんどん周りから声を掛けれてしまう。


「ティアナ様とメディ様はご友人なんですか?」
「メディ様、体調良くなられたようで良かったです」
 あまり人が集まってしまうと怪我人が出てしまう恐れもあるため、私は一端戻ろうか? それとも神殿に向かった方が良いのか? と、迷い出した時だった。
 少し離れた所から、私の名を呼ぶ可愛らしい声が届いたのは。


「ティアナ様! メディ様」
 それはリーフデ様に肩車をされたアールの姿だった。


「「え、可愛い」」
 ここだよ! と必死になりながら手を振るアールが可愛いくて、私とメディの声が綺麗に重なる。


「二人共、早いね。到着予定時間よりも早くない?」
 人々の間からリーフデ様が現れ、私達の前に立った。


「早く到着しちゃったんです。ライの会議が終わるまで時間があるので、神殿に行こうかなぁと。それよりもリーフデ様、どうしてここに?」
「ん? 城に行く途中やたら噴水広場前が賑やかだったから、誰か可愛い子でも来ているのかなって。予想通り可愛い二人に出会えたよ。これからお茶しない? ライナスに内緒で」
「駄目ですよ。主!」
 ポンポンとアールに軽く肉球で頭を叩かれているリーフデ様。

 二人は相変わらずのようだ。


「ごめんね、メディ」
「いいえ。ティアのせいじゃないですよ。私も初めてで……前は普通に城下町を一人で動けたのですが……」
「そりゃあ、二人とも目立つからね。諸外国にも名を広げているティアナ嬢に我が国の薬草姫であるメディ嬢。そんな二人が一緒にいるんだもん。二人共、すごく可愛いし。とにかく、一端城に戻ろうか。そこに馬車を止めているから」
「すみません。ご迷惑を」
「迷惑じゃないよー。お礼は二人との楽しいひとときが良いなぁ。美味しいスイーツ屋さんを知っているんだ。一緒に行こうよ。二人共、暫くファルマに滞在するんだよね。なら、僕の別荘とかどうかな?」
「……隙あらば、すぐ口説くよな」
 突然、氷のように冷たい声が辺りに届き、リーフデ様が固まってしまう。


 ――この声って。


「ライ!」
「お兄様!」
 人々が道を譲る様に左右に分かれ通路を切り開いてくれた場所から、護衛を引き連れたライが姿を現す。
 久しぶりのライだが、眉間に皺を寄せて不機嫌そうだ。


「え、なんでライナスがっ!?」
「会議終わったから飛んできたんだよ。ティアとメディが二人だけで城下町に行ったって聞いたから」
 ライの視線が私に向かったので、鼓動が大きく跳ねる。


「本当にティアから目が離せないよ」
「えっと……ごめん」
「とにかく、ティアもメディも無事ファルマに到着したみたいで何よりだ」
 そう言ってライが私の頭を撫でれば、周辺から黄色い声が上がった。
 なぜ周りから黄色い声が上がったのかわからず、私は首を傾げる。
 だが、すぐにライがカッコイイからかなという答えに辿り着く。

 国王様だし。


「ライナス。いいのかい? 明日の新聞に掲載されるかもよ」
「構わないよ。牽制の意味もあるし。まぁ、ただ純粋にティアの頭を撫でたかったっていうのもあるけど。さぁ、行こう」
 ライはそう言うと、私のメディの背に軽く振れ促した。







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