追放ご令嬢は華麗に返り咲く

歌月碧威

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元婚約者が君の心にいるってことだろ?2

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 メディとのお茶会が終わった後、私は彼女に留守番を頼みエタセル城へとやって来ていた。
 本当はメディを連れてレイやお兄様に紹介をするべきなのだろうけど、メディの状態を考えていきなり人の多い所へ連れ出さすのは難しいだろう。
 後で、ゆっくり紹介する方が良い。



 汚れ一つない渡り廊下を歩きながら、私はこの後のスケジュールを頭の中で組んでいた。
 一度商会に顔を出してメディ様の件を説明したり、私が留守中に起こった出来事を尋ねたい。


 ――夕食どうしよう。私が作るとなると、慣れてないから時間がかなりかかっちゃうんだよね。ライの家事能力は凄かった。あの短時間で料理もガーデニングも完璧。ライにもう少し居て欲しかったなぁ。料理を習いたい。



「ティアナ」
 前方から声がかけられたので、私が顔を上げればレイガルド様とコルタがこちらに向かって歩いて来ている途中だった。


「レイ、コルタ」
 私が名を呼べば、コルタが軽く手を上げレイが柔らかく微笑む。



「思ったよりも帰国が早かったな。ファルマ王の妹君は来てくれるって?」
「さっき引っ越し終わったばかり」
「もう連れて来たのか! もう少し時間が経ってから引っ越しだと思っていたぞ」
「うん。決意が鈍っちゃうからって。でさ、コルタ。ねこのしっぽって持ち帰り出来る? 私、料理が……」
「壊滅的だもんな。持ち帰りは普段はやってないけど、お前なら大丈夫だろ。常連だし、なんせエタセルのティアナ様だから。俺からも言っておく」
 エタセルでの私の地位は、本人が予想もしてないくらいに広がり確立されている。
 どうやら、ハーブの問題解決や商会の設立などの成果のお蔭らしい。


「ありがとう、助かる」
 私はコルタにお礼を告げた。



「レイ。メディの紹介なんですが、しばらくしてからでも構いませんか? 城は人が多いので……」
「勿論、メディ様の負担にならない方法で構わないよ。ただ、俺から挨拶には向かわせて欲しい。わざわざエタセルのために来て下さったのだから」
「俺も挨拶に行く。興味があるからな。薬草学の天才と呼ばれていたが、体調不調で姿を現さなかったあのライナス様の妹君」
「あっ、そうそう! ライといえば、これをレイへに預かったんです」
 私は手にしていた三つの手紙のうち、一つをレイへと渡す。
 差出人はライだ。あて先は、レイ、お兄様、お父様の三人。

 レイは「俺に?」と目を大きく見開くと、手を伸ばして受け取り、コルタから小型のナイフを借りて封蝋を剥がして便箋を取り出して読んでいく。


「メディ様のことに関することだな。メディ様をお預かりする身であるこちらから先に手紙を出さなければならなかったのに……すぐに返事の手紙を出すよ」
「マメだな」
「そりゃあ、ライも不安だよ。全く縁もゆかりもない国に妹を送り出すなんてさ。今度こっち方向に来ることがあったら、うちに立ち寄るって言っていたもん」
「どうしてティアナの家に……?」
「メディは私の家で同居することになったからです。物置部屋を整理してライが来たら泊る部屋にしておかないとなぁ。この間、ライが泊った部屋をメディの部屋にしたから」
「この間、ライナス様はティアナの家に泊まったのか?」
「泊りましたよ」
 私が返事をすれば、レイガルド様が眉間にぐっと皺を寄せると瞳を閉じた。
 掌をきつく握りしめ、唇を噛みしめている。


 ――もしかして怒っているのだろうか? やっぱり一国の王を民家はマズかったか。


「なぁ、その時ってリストも居たんじゃね? あの時、お前の家に向かうリストと会ったけど」
「勿論。お兄様もいらっしゃったわ」
「リストも居たから二人じゃねーってさ。あのシスコンがいるなら大丈夫だろ」
 コルタがレイの胸を軽く叩くと、彼は複雑そうな表情を浮かべながら、「そうだな」と口にした。



「ティアナ。少し聞いてもいいか?」
「どうぞ」
「君は元婚約者に関してまだ未練がある?」
「未練はないですよ。全くこれっぽっちも。ただ、復讐したいとは思っていますけど」
「もう元婚約者のことは忘れてくれ。ましてや復讐なんて。どんな形だろうと、元婚約者が君の心にいるってことだろ?」
「まぁ、そうですね。元婚約者だけじゃなくて、王女もですが」
「俺は耐えられないんだ」
 痛々しい顔をしたレイが手を伸ばして私の右頬に触れた。


 ――あれ? なんで触られたんだ? 


 と不思議がってレイの瞳を探るように見れば、さっと手を離されてしまう。



「すまない」
 レイはそう告げると、「じゃあ、また」と足を進めだしてしまった。





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